シリア情勢をめぐってアラブ連盟緊急外相会議が開催、シリア政府と国民対話開始のための連絡調整を行うことが決定される(2011年10月16日)

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反体制運動掃討

AFP(9月16日付)は、2ヵ月前から軍・治安部隊は反体制活動家を第1の標的として、反体制運動を掃討しようとしおり、活動家数千人が逮捕、数十人が殺害、数十人が失踪している、と報じた。

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ダマスカス郊外県では、複数の活動家によると、ザバダーニー市で治安部隊による大規模な逮捕・捜索活動が行われ、少なくとも100人が逮捕された。また同市からレバノン国境地帯にかけて戦車、装甲車などに支援された兵士数千人が展開した。

マダーヤー町でも治安部隊が検問所を数十カ所設置し、逃走する軍離反者などの摘発を強化した。シリア革命総合委員会によると、同市では複数の兵士が離反したという。

また地元調整諸委員会によると、軍・治安部隊はザバダーニー市、マダーヤー町の入り口などに検問所を設置し、往来を禁じ、無差別逮捕、無差別発砲、家屋の破壊を行ったという。

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ヒムス県では、シリア人権監視団などによると、ティールマアッラ村、ガントゥー市で軍・治安部隊が無差別発砲を行った。同監視団によると、ヒムス市内での逮捕者数は923人に上ったという。

SANA(10月17日付)は、ヒムス県内で関係当局が車2台に積まれていた密輸武器・弾薬を応酬したと報じた。

Kull-na Shurakā’, October 16, 2011

Kull-na Shurakā’, October 16, 2011

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イドリブ県では、シリア人権監視団などによると、ムサイフラ町に軍・治安部隊が突入した。

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ダルアー県では、地元調整諸委員会によると、ダーイル町でゼネストが行われた。ゼネストは15日から続けられているという。

SANA(10月17日付)は、ダルアー県の街道の一部を武装テロ集団が封鎖して、市民の往来を妨害していると報じた。

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ダイル・ザウル県では、複数の活動家によると、ダイル・ザウル市のダウワール・サイユーフで離反兵と軍・治安部隊が衝突し、大きな爆発音が聞こえた。

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SANA(10月17日付)は、ハマー市のジャラージマ地区で武装テロ集団が治安維持部隊を要撃、部隊兵士2人が戦士したと報じた。

また武装テロ集団はハマー市郊外のカルナーズでムーサー・アシーシュ元警部を誘拐した。

このほかハマー市のガーブ水資源センターの警備員の1人が武装集団に襲撃されて死亡した。

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ダマスカス第2刑事裁判所は、シリア人民民主党幹部で5月28日に逮捕されたマーズィン・ウダイ氏の釈放を決定した。ウダイ氏は30,000シリア・ポンドの保釈金を支払っていた。

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ダマスカス県マイダーン地区で反体制デモと治安当局の衝突の巻き添えとなって死亡したパレスチナ人のアラー・サフリー氏の葬儀が行われた。

葬儀は、治安当局による厳戒態勢のもとで行われ、反体制活動家の参列は阻止された。

反体制勢力の動き

『ザマーン・ワスル』(10月16日付)は、国民民主諸勢力国民調整委員会の指導的メンバーであるハーズィム・ナハール氏、ファーイズ・サーラ氏、ミシェル・キールー氏が同委員会を脱退したと報じた。

同報道によると、サーラ氏はフェイスブックで自身がもはや同委員会のメンバーでないことを明らかにしたという。

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アラブ連盟外相会議開始に先だって、シリア国民法議会はカイロで声明を出し、アラブ連盟に対して、アサド政権が危機解消に向けたアラブ諸国のイニシアチブに応じない場合、「激しい」措置をとるよう呼びかけ、アラブ連盟におけるシリアのメンバーシップ凍結、民間人保護のための国際的な努力の呼びかけ、シリア国民の正当な代表としてのシリア国民評議会の承認を求めた。

声明全文はhttp://international.daralhayat.com/internationalarticle/319296を参照。

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在ベイルート・シリア大使館前でシリアのクルド人反体制活動家がデモを断行、大使館の警備員ともみ合いになり、1人が負傷。

イラク・クルディスタン・テレビのベイルート特派員によると、デモには約50人が参加し、ミシュアル・タンムー氏の暗殺などに抗議した。

アサド政権の動き

『クッルナー・シュラカー』(10月17日付)は、アブドゥルハイ・サイイド氏が10月16日付で、シリア・アラブ共和国憲法草案作成国民委員会のマズハル・アンバリー委員長に辞表を提出したと報じた。

辞任の理由は明らかにされなかったが、辞表では「私は法律家として、理想的な憲法草案が制憲委員会での対話を通じた起草去れるものと信じており…、これを踏まえ、委員会活動への参加を辞退します」と書かれていた。

諸外国の動き

SANA, October 16, 2011

SANA, October 16, 2011

アラブ連盟緊急外相会議において、閣僚委員会のシリアへの派遣、シリア政府と反対勢力の会合開催、アラブ連盟本部(カイロ)での対話会合を求めることで合意した。

また、発砲・流血の停止、暴力的デモの停止、政治犯の釈放、平和的政権移譲を含む改革実施のための行程の確定を改めて呼びかけた。

ハマド・ブン・ジャースィム・アール・サーニー首相兼外務大臣が読み上げた閉幕声明では、「本決定発行から15日以内に、アラブ連盟の支援のもと、連盟本部でシリア政府とすべての反体制勢力による包括的国民対話大会を実施するための必要な調整を行う」と明記された。

またカタール、アルジェリア、スーダン、オマーン、エジプト各国外相とアラブ連盟事務局長からなる閣僚委員会を設置し、アサド政権による暴力・殺戮停止、軍事デモの停止、国民対話開始のための連絡調整をシリア政府と行うことが決定された。

同委員会の委員長はカタール外務大臣が務めるという。

またハマド外務大臣は同決定がシリア以外のすべての加盟国外相によって合意されたと付言した。

この合意に対して、ユースフ・アフマド大使は拒否(保留)するとともに、シリアが主権国家である点を強調、アラブ連盟本部(カイロ)での反体制勢力との対話実施が認められないとの意思を示した。またシリアでの反体制抗議行動の扇動にカタールが偏向した消極的役割を担っていると強く非難した。

この緊急外相会議は、GCCの呼びかけにより開催された。

なお『ハヤート』(10月17日付)は、アラブ連盟の複数の消息筋の話として、16日にカイロで始まった外相会議で、危機打開のために平和的な対応や反体制勢力との対話をアサド政権が行わなかった場合に連盟のメンバーシップを凍結するという方向で調整していたと報じた。

同消息筋によると、これは、アサド政権へのさらなる圧力をめざす国々(GCC諸国)とシリアのメンバーシップ凍結に反対する国々(レバノン、スーダン、イエメン、アルジェリア)の主張の間をとった妥協案だという。

ワリード・ムアッリム外務大臣は本会合を欠席しており、シリアの代表はアフマド在カイロ・アラブ連盟大使が務めた。

AFP, October 16, 2011、Akhbar al-Sharq, October 17, 2011、al-Hayat, October 17, 2011、Kull-na Shuraka’, October 16, 2011, October 17, 2011、Reuters,
October 16, 2011、SANA, October 17, 2011、al-Sharq al-Awsat, October 17, 2011、Zaman al-Wasl, October 16, 2011などをもとに作成。

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