ヒムス県内でファタハ・イスラームの指導者ジャウハル容疑者が死亡、UNSMIS先遣隊の視察が続くなか各地で暴力が活発化(2012年4月24日)

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ファタハ・イスラーム戦闘員殺害

レバノン内外のメディアによると、シリアの反体制武装集団の拠点の一つであるクサイル市(ヒムス県)で、ファタハ・イスラームの指導者の一人アブドゥルガニー・ジャウハル(アブー・アリー)容疑者が死亡した。

new-lebanese.com

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ファタハ・イスラームの戦闘員が『タイム』(4月24日付)に語ったところによると、ジャウハル容疑者は、シリア軍に対する攻撃で使用される爆弾を準備していた際に爆発物が爆発、即死した、という。

同戦闘員は「彼の遺体をレバノンに持ち帰りたかったが、ばらばらで無理だった」と述べた。

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しかし『アフバール』(4月24日付)は、ジャウハル容疑者がシリア軍との戦闘で殺害されたと報じた。

同紙によると、ジャウハル容疑者は、約2週間前にアイン・フルワ・パレスチナ難民キャンプからクサイル市に潜入した、という。

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一方、ジャディード・チャンネル(4月24日付)は、自由シリア軍がファタハ・イスラームのワリード・ブスターニーなる戦闘員を殺害したと報じた。

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ファタハ・イスラームは2007年にトリポリ市郊外のナフル・バーリド・パレスチナ難民キャンプを占拠し、レバノン国軍と交戦したほか、2005年以降のレバノン国内での要人暗殺に関わっているとされる。

その背後にはシリアのムハーバラートがいるとの説、反シリア・親サウジアラビアのサアド・ハリーリー前首相が支援しているとの説などがある。

国内の暴力

国連シリア停戦監視団(UNSMIS)先遣隊の視察が続くなか、各地で暴力が再び激しさを増してきた。

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ダマスカス県では、SANA(4月25日付)を含む各国メディアによると、バルザ区で爆弾が爆発し、ムハーバラート士官3人が暗殺された。

SANA, April 24, 2012

SANA, April 24, 2012

シリア人権監視団によると、この爆発に先立って、同地区では離反兵が軍・治安部隊と交戦していた、という。

イフバーリーヤ・チャンネル(4月24日付)およびSANA(4月24日付)によると、県内中心部に位置するマルジャ地区でも、武装テロ集団が車に仕掛けられた爆弾が爆発し、3人が負傷した。

イランのファルス通信(4月24日付)はこの爆発に関して、同地区にあるイラン文化センター前で発生した、と報じた。

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ダマスカス郊外県では、SANA(4月24日付)によると、ダマスカス郊外県ジュダイダト・ファドル町地方で、武装テロ集団が退役大佐とその弟を自宅店舗で襲撃、暗殺した。

また同通信社によると、ドゥーマー市で、武装テロ集団が治安維持部隊と市民に向けてRPG弾で攻撃し、警部補1人が死亡、3人が負傷した。

さらに同市の別の場所でも武装テロ集団の攻撃で治安維持部隊兵士複数が負傷した。

一方、シリア人権監視団によると、ドゥーマー市で軍・治安部隊の発砲で市民が1人殺害された。

ダマスカス県・郊外県調整報道官のアブー・ウマルを名のる活動家は国連停戦「監視団は政府と協調している。攻撃に曝されていたドゥーマー市を彼らが訪問した際、政府は彼らの到着に先立って装備を撤収した。先遣隊は街道を進んだが何も目撃することはなく、発砲現場や破壊された家に活動家とともに行くことを拒否している」と非難した。

また「我々はどこに戦車があるか…、どこに検問所があるかを知っている。彼らの任務は失敗した。なぜなら現地の人々と協調しないからだ」と付言した。

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ハマー県では、UNSMIS先遣隊訪問後にハマー市で発生した戦闘(23日)に関して、複数の反体制消息筋は、「先遣隊が治安機関やムハーバラートの要員を随行して視察を行ったことで、当局は先遣隊と会って苦情を申し立てた住民を監視できるようになり、先遣隊が去った後、治安部隊が住民を追跡、逮捕、殺害した」と非難した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、クサイル市で軍・治安部隊の砲撃で一家3人が死亡した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、軍・治安部隊がインヒル市で23人を逮捕、ブスラー・シャーム市では銃声が聞こえた。

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このほか、シリア人権監視団によると、ダマスカス郊外県カフルバトナー町、アイン・タルマー村、ハマー市、アレッポ市、ダマスカス県カーブーン区などで反体制デモが発生し、UNSMISの任務の遅れを非難するシュプレヒコールなどが連呼された。

またデモ参加者がダマスカス・ダルアー街道(国際幹線道路)、ダマスカス・クドスィーヤー街道、旧ダマスカス・ベイルート街道で石油製品を燃やし、道路閉鎖を行った、という。

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UNSMIS先遣隊は、ヒムス市、ラスタン市、ドゥーマー市を視察した。

『ハヤート』4月25日付)によると、23日までの現場と異なり、両市への視察は軍・治安部隊と反体制武装集団による交戦のさなかで行われた。

アサド政権の動き

SANA(4月24日付)は、シリアのファイサル・ミクダード外務次官が、「シリア政府はアナン特使の和平案を完全に遵守している」と述べたと報じた。

反体制勢力の動き

シリア人権連盟は声明を出し、ハマー市で23日に軍が「UNSMIS先遣隊と面談した活動家9人を「戦場処刑」したと非難した。

またハマー市に対する軍・治安部隊の攻撃で45人以上が死亡、150人が負傷したと発表した。

なおシリア人権監視団は、ハマー市での死者数を31人と発表している。

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シリア法律研究センター所長のアンワル・ブンニー弁護士は、パレスチナ人思想家・活動家(共産主義者)のサラーマ・カイラ氏がダマスカスの自宅で逮捕された、と発表された。

国連の動き

コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使は滞在先のジュネーブから国連安保理に対して安保理決議第2024号および2043号の進捗状況の報告を行った。

アフマド・ファウズィー報道官が『ハヤート』(4月25日付)に対して明らかにしたところによると、安保理の非公式会合でアナン特使は、衛星写真や文書を通じて、シリア軍が重火器を都市部・住宅地区から撤退したとのワリード・ムアッリム外務大臣の「言葉が今のところまだ実現されてない」と報告、現地での停戦違反に対して「受け入れられない」と激しい懸念を示した。

そのうえで、シリア国内での政治的対話を開始するための前提条件として、政府側からの暴力停止を実現し、これまで寄せられた報告の信憑性を調査するための早急なUNSMISの展開の必要を強調した。

一方、UNSMIS先遣隊の視察後に大規模な戦闘があったハマー市の情勢に関して、ファウズィー報道官は、「おそらく監視団と会った複数のシリア人が監視団の去った後に殺害された」と述べた。

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国連は声明で、数週間以内に、50万人分の食糧支援をシリアに行うと発表する一方、避難民を支援するための義援金が不充分だと警鐘を鳴らした。

AFP, April 24, 2012、al-Akhbar, April 24, 2012、Akhbar al-Sharq, April 24, 2012、al-Hayat, April 25, 2012、Naharnet.com, April 24, 2012、Reuters, April 24, 2012、SANA, April 24, 2012、The Time, April 24, 2012などをもとに作成。

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