トルコからの越境(クロスボーダー)人道支援や、政府支配地からの境界経由(クロスライン)の人道支援、早期復旧プログラムの推進などを定めた国連安保理決議第2672号(2023年1月9日採択、7月10日執行)を延長するための会合が国連安保理で開かれた。
会合では、スイスとブラジルが提出した決議案と、ロシアが提出した決議案の採決が行われた。
いずれの決議案もイドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所経由での越境での支援の期間の延長を定めたもの。
スイス・ブラジル案は当初、延長期間を12ヵ月(2024年7月10日)としていたが、9ヵ月(2023年4月10日)に短縮して採決が行われた。
一方、ロシア案は、延長期間を6ヵ月(2023年1月10日)と定めていた。
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決議に先立って、スイス・ブラジル案を提出したブラジルのセルジオ・フランカ・ダネーゼ大使は、期間短縮した決議案について、多くの国の立場を反映した妥協案だとして、共通点を模索し続けたいとの決意を表明した。
また、日本の志野光子大使、モザンビークのペドロ・コミサリオ・アフォンソ大使も、長期間での更新が好ましいとしつつも、この妥協案への支持を表明した。
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以上の発言などを受け、スイス・ブラジル案の採決が行われ、常任理事国の英米仏と非常任理事国10ヵ国が賛成票を投じたが、中国が棄権、ロシアが拒否権を発動し、廃案となった。
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スイス・ブラジル案の否決を受けて、米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド大使は、ロシアの拒否権発動について、「シリア国民と本理事会にとって悲しい瞬間だ」としたうえで、国際社会とシリア国民に対して「不当なことを正当化した」ことについて答えねばならないと指弾した。
一方、ロシアのワシーリー・ネヴェンジャ国連大使は、西側諸国が提出した決議案について、シリア国民の利益を無視したもので、越境での支援の仕組みを利用して、イドリブ県のテロリストへの支援拡充を狙ったものだと非難、越境での人道支援がなくても、シリア政府との調整を通じて支援は可能だと主張した。
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以上の発言などを経て、ロシア案の採決が行われ、ロシアと中国が賛成、米英仏が反対、非常任理事国10ヵ国は棄権し、同じく廃案となった。
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ロシア案の否決を受けて、中国の張軍大使は、越境での支援があくまでも暫定的な措置だとしつつ、決議案が否決されたことに遺憾の意を示した。
フランスのニコラス・デ=リヴィエール大使は、ロシアの決議案が定める6ヵ月という期間延長が、冬季の支援を不確実なものにすると異論を唱え、英仏もこれに呼応した。
シリアのバッサーム・サッバーグ国連代表は、境界経由(クロスライン)での支援と早期復旧プロジェクトの推進の必要を強調するとともに、米国とEUの一方的な制裁が人道支援を阻害していると非難した。
そのうえで、6ヵ月の期間延長によって支援のあり方にかかる評価プロセスが可能になるとしたうえで、スイスとブラジルが提出した決議案が、シリア国民の希望を反映しておらず、越境での支援によって政治的圧力が生じ、シリアを脅迫するために利用されていると非難した。
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国連のアントニオ・グテーレス事務総長は声明(SG/SM/21871)を出し、決議案が否決されたことに失望の意を示した。
AFP, July 11, 2023、ANHA, July 11, 2023、al-Durar al-Shamiya, July 11, 2023、‘Inab Baladi, July 11, 2023、Reuters, July 11, 2023、RIA Novosti, July 11, 2023、SANA, July 11, 2023、SOHR, July 11, 2023などをもとに作成。
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