前政権下の強制失踪者の家族や市民団体などが刑務所や治安施設内でのドラマの撮影を停止するよう求める声明を発表(2025年3月4日)

イナブ・バラディーは、前政権下の強制失踪者の家族や市民団体などが、刑務所や治安施設内でのドラマの撮影を停止するよう求める声明を発表し、署名活動を行っていると伝えた。

声明は「ドラマ制作者ならびにシリアおよびアラブ世界の視聴者へ」と題され、刑務所で撮影が行われていることを「犯罪現場が軽視され、冒涜されている」としたうえで、「愛する人々が拷問を受け、多くの人が消息を絶ったその場所が、ドラマの撮影に使われることを決して容認できない」と非難した。

そのうえで、政府の関係機関に対して、刑務所や公式・非公式の治安施設を使用することを直ちに停止するよう求めた。

声明ではまた、以下の通り表明し、アサド政権に反対の声を上げなかったアーティストを批判した。

我々は芸術の力を信じている。芸術は美を称えるだけでなく、人々に影響を与え、動かす力を持ち、癒しと正義の手段にもなり得る。 芸術が、社会の共通の痛みや喜びを正しく伝えるためには、アーティストが社会の苦しみに対して無関心であってはならない。そのため、我々は、アサド体制の監獄における拘束者の物語を記録し、伝える作品を高く評価する。 だが、その一方で、ドラマ制作者が起用した俳優のなかには、アサド体制による我々への弾圧を半世紀以上にわたって黙認し、さらには体制のプロパガンダを支持し、現実を歪め、我々や愛する人々の苦しみを否定してきた者たちがいる。 アサド体制崩壊後も、自らの誤った立場を明確に謝罪しようとしない者たちもいる。そうした人々に、我々の物語を語る資格はない。 芸術とその創作者が、我々の痛みを世界に伝える最良の使者となり得ることを、我々は認めている。しかし、だからこそ、我々はその使者を慎重に選びたい。
我々の革命の歴史には、権力の暴虐に対して一歩も引かず、個人的な栄光を捨て、自らの安全や家族の安寧を犠牲にしてまで、不正義に沈黙することを拒否した多くの芸術家がいる。
彼らは逮捕され、追われ、亡命を余儀なくされた。それでも彼らは、アサド体制の恐るべき犯罪を見過ごすことはなかった。
我々は、自分たちの物語を、弾圧した側にいた人間が語ることを許さない。 最後に、私たちは、自由と尊厳のための革命に参加し、芸術の力で闘ったシリアのクリエイターたちを改めて称える。
彼らのなかには、拷問の果てに命を奪われた者もいれば、政権の銃弾に倒れた者、あるいは、祖国の苦しみを抱えたまま世を去った者もいる。また、いまだに刑務所に閉じ込められ、その行方が分からない者もいる。 彼らの才能を奪われた我々だが、彼らの名はシリアの空に輝き続けることだろう。

声明の発起人は以下の通り:

  • ミー・スカーフ(女優)
  • ファドワー・スライマーン(女優)
  • ザキー・クールディールー(俳優)
  • ガッサーン・ジャバーイー(映画監督・作家)
  • アーミル・スバイイー(俳優)
  • バースィル・シャハーダ(映画監督)
  • アドナーン・ズィラーイー(作家・俳優)
  • ワーイル・カストゥーン(彫刻家)
  • アクラム・ラスラーン(画家)
  • ターミル・アワーム(映画監督)
  • ミフヤール・クールディーッルー(美術学生)
  • ザーヒル・タッバーフ(芸術家)
  • バースィル・タッバーフ(美術学生)
  • ハッサーン・ハッサーン(映画監督)
  • マアムーン・ヌーファル(映画監督)
  • ムハンマド・ディーブ・マフムード・アブー・ルッズ(芸術家)

また、以下の団体のほか、逮捕者家族、生還者らが署名をしている。

  • 自由のための家族運動
  • シーザー犠牲者連盟
  • シリアのためのキャンペーン
  • シリア逮捕者委員会(SCD)
  • 私の正義機構
  • シリア情勢ネットワーク
  • キール機構
  • 失踪者連盟シリアの希望
  • シリア革命逮捕者連盟機構

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トルコを拠点とするシリア・テレビなどによると、シリアでは、「シーザー」と題されたテレビ・ドラマの撮影が行われていた。

ドラマは、サイドナーヤー刑務所で起きた出来事を題材としたもので、パワー・プロダクション社制作、サフワーン・ムスタファー・ナウム・ナアムー監督、ナジーブ・ナスィール、アドナーン・アウダ、ズハイル・ムッラー、ムアイイド・ナーブルスィー、ルアイ・ヌーリーらが脚本、ガッサーン・マスウード、ダーナー・マールディーニーが主演の全30話で構成され、刑務所内の人間ドラマに焦点を当てた作品として制作が開始された。

だが、ドラマの制作が明らかになると、SNS上では、拘束者たちの悲劇が商業的に利用されているといった批判や、アサド政権を支持する立場を撮っていたガッサーン・マスウードの主演を問題視する声が相次いだ。

事態を受けけ、国立ドラマ委員会は2月27日に撮影を一時中止したと発表した。

(C)青山弘之 All rights reserved.

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