シャルア暫定大統領はビデオ演説で沿岸地域での事件の真相究明のための独立調査国民委員会と沿岸地域の住民を支援するための社会平和維持高等委員会の設置を発表(2025年3月9日)

シリア・アラブ共和国大統領府によると、アフマド・シャルア暫定大統領は、3月6日に沿岸地域で発生した事件について調査するための独立調査国民委員会を設置するとの大統領令を発出した。

委員会は、ジュムア・ダビース・アンズィー裁判官、ハーリド・アドワーン・フルウ裁判官、アリー・ナアサーン裁判官、アラーッディーン・ユースフ・ラティーフ裁判官、ハンナーディー・アブー・アラブ裁判官、アワド・アフマド・アリー准将、ヤースィル・ファルハーン弁護士から構成される。

委員会は、民間人に対する違反行為、公共機関、内務省総合治安局要員、国防省部隊兵士への攻撃について調査し、責任者を特定したうえで、犯罪行為に関与した者を司法に送致することを任務とする。

イナブ・バラディーによると、委員の略歴は以下の通り。

  • アブー・アラブ:1976年、ダマスカス県生まれ。国際刑事法の博士号取得。イスラエルの占領に反対する活動を続けてきた法律家。2003年から13年まで、首相府の政務顧問委員会の委員、簡易裁判官、主任簡易裁判官を務める。2012年から13年には、自由シリア軍諸派の一つダマスカス軍事評議会の法務局メンバーを務める。制憲委員会にシリア交渉委員会法務局メンバーとして参加。自由シリア法廷、SY24、シリア女性ネットワークなどで法律研修官の顧問を務める。
  • アンズィー:1970年、ラッカ市出身。アレッポ大学で法学の学位を取得。2012年8月に司法機構を離反し、サウジアラビアに滞在。ラッカ市政治機構の総合調整官となり、2012年10月に自由シリア法廷を創設。アムネスティ・インターナショナルのメンバー。シリア革命反体制勢力国民連立の法務顧問チームのメンバー。ジャズィーラ・ユーフラテスアラブ評議会大会に参加。
  • フルウ:ハサカ県出身。移行期正義調整グループ調整官、制憲委員会メンバー。シリア暫定内閣の法務大臣補を務める。国民対話大会に参加。
  • アリー:ダマスカスの刑事治安長を務めていたが、2012年9月に離反。トルコに滞在。2013年初めに自由シリア軍諸派の一つ旗の盾旅団を結成。2021年までシリア交渉委員会に参加。
  • ファルハーン:1971年、ハサカ県生まれ。アレッポ大学で法学の学位を、シリア仮想大学で経営学の学位を取得。シリア革命反体制勢力国民連立、シリア国民連合の元メンバー。逮捕者失踪者擁護国民委員会の代表。制憲委員会にシリア交渉委員会の法律顧問として参加。2013年から15年にかけてシリア自由弁護士連合の事務局メンバー。
  • ラティーフ、ナアサーン:経歴不明

**

シャルア暫定大統領はまたこれに合わせて、シリア沿岸地域の情勢の進捗について、国民に向けてビデオ演説を行った。

演説の内容は以下の通り。

慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。
万世の主であるアッラーに称賛を捧げ、誠実なる使徒とその一族、そしてすべての教友たちに祝福と平安があらんことを。
親愛なる市民諸君
我が国は、過去数年間にわたり、苦難と困難な試練を乗り越えてきた。そしてついに自由を勝ち取り、国民の革命はその目標を達成した。しかし、最近になって、国の安定を揺るがし、混乱の渦へと引きずり込もうとする多くの試みがなされてきた。
今日、我々はこの決定的な瞬間に立っている、自らが新たな脅威に直面していることを見出している。それは、新たな内乱の火種を生み出し、我が国を内戦に誘導しようとする旧体制の残党とその背後にいる外部勢力の企てである。彼らの狙いは、国家を分裂させ、その統一と安定を破壊することにある。
我々は、この目の前にある危機が、単なる一過性の脅威ではなく、混乱を長引かせ、我が祖国の残されたものさえも破壊しようとする勢力による露骨な策略の結果であることを十分に理解している。おそらく、一部沿岸地域で現在起こっている出来事は、こうした試みの最も明白な例である。これが初めてではなく、約1ヵ月半前にも同様の事態が発生したが、我々はアッラーの加護のもとでそれを鎮圧した。
我々は、崩壊した旧体制が、その統治の下で深い傷を残したという現実を直視しなければならない。パレスチナ課、サイダナーヤー、治安機関、強姦、化学兵器、強制移住、そして住民の頭上で家を破壊する行為。これらすべてが、簡単には癒えない深い傷を残した。その結果として、昨日の出来事が引き起こされたのだ。国家は、勝利の最初の瞬間からこうした起きることを阻止してきたにもかかわらずである。
最初の瞬間から、我々は地域の治安維持部隊を強化し、社会平和を守り、報復行為の発生を防ぐために対応した。これらの部隊は攻撃を受け、多くの隊員が殺害され、焼かれ、さらに住民への暴力も行われた。この卑劣な犯罪を行った者たちは、過去14年間にわたりシリア国民に対して残虐な行為を繰り返してきた者たちと同じ勢力である。
彼らは、自らの行為によって社会平和を守る壁を壊してしまったことに気づいていない。これにより、「行き過ぎ」が発生し、我々全員が目の当たりにした混乱が広がることとなった。それゆえ、我々は冷静さを保ち、強い意志を持って、宗派間の亀裂や敵対を生み出そうする者たちに立ち向かわなければならない。
シリア国民、そして我が国の未来を案じるすべての人々に対して確認しておきたい。我々は、アサドの残党が我々の軍や国家機関に対して犯罪を行い、病院を襲撃し、罪のない民間人を殺害し、安全な地域に混乱をもたらしたことを決して容認しない。彼らに残された道はただ一つだ。直ちに法のもとに自らの身柄を差し出すことである。
我々は断固として、断固として、そしていかなる寛容も示すことなく、民間人の血を流した者、我々の国民を傷つけた者、国家の権限から逸脱した者、あるいは権力を私利私欲のために利用した者を追及することを確認する。法の上に立つ者は誰一人として存在しない。シリア国民の血で手を汚した者は、遅かれ早かれ必ず正義に直面することになる。
我々は、我が国の内政への干渉を促すいかなる呼びかけや、分裂や混乱を煽る扇動を厳しく非難する。そのような主張が我々の間に居場所を持つことは決して許されない。シリアは、そのあらゆる構成要素とともに、国民の強い意志と軍の力によって統一を維持し続ける。我々は、いかなる勢力であろうと、国家の一体性を損ない、社会平和を脅かすことを断じて許さない。
以上を踏まえ、我々は、沿岸地域での出来事を調査し、関与した者を裁判にかけ、シリア国民の前で真実を明らかにするために、真相究明委員会の設立を正式に発表した。これに、皆がこの混乱と陰謀の責任を負うべきかを知ることができる。
また、我々は社会平和維持高等委員会の設立を発表する。この委員会は、大統領府によって任命され、シリア沿岸地域の住民と直接対話を行い、彼らの声に耳を傾け、必要な支援を提供する任務を担う。これにより、この重要な時期において、彼らの安全と安定が保障され、国民統合が強化される。
最後に、我々は、地域および世界のすべての国々に対し、この歴史的な瞬間においてシリアとともに立ち、シリアの統一と主権を完全に尊重することを求める。
シリアはこれからも持ちこたえる。我々は、いかなる外国勢力や国内の派閥によっても、国家が混乱や内戦へと引きずり込まれることを決して許さない。我々は、誓いを守り続け、偉大な国民にふさわしい未来へと、揺るぎない決意をもって前進し続ける。
万世界の主であるアッラーに称賛を捧げる。そして皆に平安と慈悲、そしてアッラーの祝福があらんことを。

**

シャルア暫定大統領は演説後、社会平和維持高等委員会を設置する大統領令を発出した。

委員会は、ハサン・スーファーン・シャーム、アナス・アイルート、ハーリド・アフマドの3人より構成され、沿岸地域の住民に意見聴取を行い、その安全と安定を維持するために必要な支援を行い、国民統合を強化することが任務。

イナブ・バラディーによると、各委員の略歴は以下の通り。

  • スーファーン:1977年、ラタキア市生まれ。別名アブー・バラー、シャーディー・マフディー。ティシュリーン大学(現在のラタキア大学)で経済学、サウジアラビアのアブドゥルアズィーズ国王大学でイスラーム法学を学ぶ。2004年にアル=カーイダと連絡をとっていたとしてサウジアラビアで1年投獄され、その後シリアに帰国。2008年に逮捕され、サイドナーヤー刑務所に収監される。2015年12月に捕虜交換の一貫として釈放され、シャーム自由イスラーム運動に参加。2017年8月に同運動の総司令官に就任。2017年2月に同運動とヌールッディーン・ザンキー運動が合併して結成されたシリア解放戦線の総司令官も務める。2018年2月まで両組織の総司令官を務める。シャーム解放機構との関係を深め、ジャービル・アリー・バーシャーの派閥との対立。
  • アイルート:1971年、バーニヤース市出身。ダマスカス大学シャリーア学部卒。レバノンでイスラーム経済の博士号を取得。バーニヤース市のモスクのイマームを務め、2011年から12年にかけて反体制運動を主導、治安当局に追われて国外に脱出。バーニヤース革命指導評議会議長を経て、シリア国民評議会に国民ブロック、革命運動ブロックの代表として参加。その後、シリア・イスラーム戦線に参加し、幹部となり、シリア革命反体制勢力国民連立にも参加。シリア救国内閣では法務省再審裁判所の裁判長を務める。2018年7月12日にダーイシュ(イスラーム国)による即席爆弾の攻撃で負傷。2024年12月8日にシリアに帰国し、バーニヤース市郊外に戻る。
  • アフマド:2012年から18年にかけてアサド前大統領の顧問を務めていたハーリド・アスアドと同一人物と目されるが、暫定内閣は事実確認については明らかにせず。大統領顧問だったアスアドは、当初は治安・政務担当、その後外務担当となり、米国や国連の高官らと「テロとの戦い」の連携などをめぐる秘密特使を務める。2021年夏にイドリブ県を訪れ、幼少期からの知り合いだったアブー・ムハンマド・ジャウラーニー(シャルア暫定大統領)と会談。また、トルコの仲介でジャウラーニーとの関係修復を求める。

**

ムラースィルーン(Syrian Reporters)によると、アフマド・シャルア暫定大統領は、首都ダマスカスのマッザ区のモスクで夜明け前の礼拝を行い、住民らと言葉を交わした。

このなかで、シャルア暫定大統領は以下のように述べた。

現下のシリア情勢について、想定していた課題の範囲内だ。
革命は、道徳を教え育んできたこれらのモスクから生まれた。それゆえ、シリアへの恐怖はない。 我々は、国民統合と社会平和を守らなければならない。我々にはともに生きる力がある。 シリアについては安心して欲しい。この国は、生き残るための資源と力を備えている。

(C)青山弘之 All rights reserved.

SyriaArabSpring

Recent Posts