安保理はシャルア暫定大統領とハッターブ内務大臣への制裁除外を定めた決議第2799号を採択:シリア国内の外国人戦闘員の存在を懸念する中国は棄権(2025年11月6日)


国連(公式サイト)によると、安保理は、第10036回会合を開催し、シリアのアフマド・シャルア暫定大統領とアナス・ハッターブ内務大臣を、「ISIL(ダーイシュ)およびアル=カーイダ制裁リスト(決議第1267/1989/2253号)」から除外することを定めた決議案の採決を行った。

決議案は、米国の提案によるもので、理事会の15ヵ国中14ヵ国が賛成し、中国が棄権し、採択(国連安保理決議第2799号(S/RES/2799(2025))された。

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SANAによると、決議採択後、シリア国連常駐代表のイブラーヒーム・アラビー大使は、以下のように述べ、採択を歓迎した。

・新しいシリアは、紛争や報復の場ではなく、平和と協力の国家となることを目指し、実際にその実現に取り組んでいる。
・対外的にも、新しいシリアは、平和と協調の場としての姿勢を堅持し、対立や清算の場ではなく、発展と繁栄のための拠点となるよう努める。
・シリア人は、何世紀にもわたって、学問・文学・芸術・農業・産業・商業の分野において最も美しい文明の姿を世界に示してきた。今日、我々は、シリアを再び「東洋の真珠」として、世界が知る文明の中心として甦らせるために働いている。
・ダマスカスは、全世界の国々に手を差し伸べ、協力と成功、ビジネスと投資の関係を求め、東西を結ぶ交差点として、発展と繁栄の名のもとに再び結束の場となることを志している。
・新しいシリアは、前向きな関与と建設的協力こそが国際関係における最善の道であることを証明する、成功と成長の物語、輝かしい模範となるだろう。
・我々は、シリア国民の願いとこの数か月で達成した成果を支える安保理の一致した立場が、今後も継続されることを確信している。

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国連ニュースは決議採択に関して、シャーム解放機構への制裁解除に踏み切った米国や英国といった複数の加盟国による一連の単独措置を追認するかたちでの採択だったと伝えた。


国連(公式サイト)によると、決議案の提案国である米国のマイク・ウォルツ国連大使は、この決議を「シリアが新たな時代に入ったことを示す強い政治的シグナル」、「シリア政府政府はテロや麻薬への対策、化学兵器の残存除去、地域の安全と安定、そして包摂的でシリア主導・シリア所有の政治プロセスの推進に全力を尽くしている」と発言した。

唯一棄権した中国の傅聡(フー・ツォン)国連大使は、「決議は安保理のテロ対策の原則を再確認しているが、米国はすべての理事国の意見を十分に考慮せず、重大な意見の相違がある中で、自らの政治的目的のために採択を強行した」と述べた。

また、シリア国内の外国人テロ戦闘員(FTF)問題への懸念を表明、「シリアは依然として不安定な状態にあり、東トルキスタン・イスラーム運動(ETIM)のメンバーを含む多くの外国人戦闘員が国内の安全と安定を脅かしている」と警告し、新政府が国際社会の信頼を得る努力を続けるよう求めた。

英国のジェームズ・カリウキ代理大使は、「シリア政府は政治的移行の進展やテロ・化学兵器問題への前向きな措置を進めており、今回の決議が国際社会とのより深い関与を促し、シリア国民の復興と経済発展の努力を支援することを期待する」と述べた。

ロシアのヴァシリー・ネベンジア国連大使も、移行期におけるシリア経済の回復と発展を促進する必要性を認め、この決議は「シリア国民の利益と希望を反映している」と述べる一方、イスラエルによるゴラン高原占領とテロの脅威が長期的安定を妨げていると指摘した。

フランスのジェローム・ボナフォン国連大使は、「中東におけるダーイシュとの戦いは終わっておらず、その再興の危険を過小評価すべきではない」と述べ、今回の採択を「主権的で統一された和解後のシリア再建への重要な一歩」と評価した。

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外務在外居住者省はフェイスブックを通じて以下の通り歓迎の意を示した。

外務在外居住者省は、国連安保理会がシリアに関して採択した決議を歓迎する。この決議は旧体制崩壊後における初めての安保理決議であり、シリアの安定、領土の一体性、主権および政治的独立を支持する国際的立場の一致を反映するものである。
同決議は、シリア政府の建設的かつ積極的な役割、および国民の利益に資する地域の安全と安定を強化し、復興と持続可能な発展に向けた環境を整えるための不断の努力を高く評価している。
また、シリアは、同決議がシャルア暫定大統領閣下およびハッターブ内務大臣の両名を、かつて課されていた制裁リストから削除する内容を含んでいることを歓迎する。これは、シャルア暫定大統領の指導に対する国際社会の信頼の高まりを示すものでもある。
外務在外居住者省は、今回の制裁解除が、シリア国家が人権を擁護し、国内の和解と国際平和・安全の確立、麻薬取引の撲滅およびテロとの闘いを重視するという確固たる方針を、法的かつ政治的に裏付けるものであると強調した。
同省はまた、長年にわたりシリアに関する決議を採択してこなかった安保理が今回初めて決議を通過させたことに言及し、これは国際社会が再びシリア政府の努力を支持し、新たな安全・安定・繁栄の段階へと導くものであると述べた。これはまた、シリア外交がその国際的地位と地域における中心的役割の回復に成功したことを示す外交的勝利であるとも評価した。
シリアは、安保理加盟国の一致した立場に深い感謝を表明するとともに、国際社会と緊密に協力し、平和、発展、復興、そして新しいシリアの建設というシリア国民の願いを実現するため、全面的に尽力することを改めて表明する。

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中・西部シリア政治評議会(PCCWS)は、決議採択に先立って、フェイスブックで声明を発表した。

声明の内容は以下の通り。

本日、国連安保理は、アブー・ムハンマド・ジャウラーニーおよびアナス・ハッターブの両名をテロリスト指定リストから削除することを目的とした決議案に対する採決を行う予定である。この決議案は、国連憲章第7章に基づいて設置された決議第1267号委員会の作業に準じて提出されたものである。
我々中・西部シリア政治評議会は、これら2名の名前を削除することへの賛成票は、極めて危険な前例となると見なす。
その理由は以下の通りである:
・テロの助長: 世界中のすべてのテロリストに対し、殺人や市場・学校の爆破、国家基盤の破壊といった犯罪を行うことへの新たな動機を与えるものとなり、将来的に同様の寛大な扱いを受けるという期待を抱かせることになる。
・過激主義の助長: 若者たちがダーイシュ(イスラーム国)やアル=カーイダ、その他のジハード主義組織に参加するよう駆り立てることにつながる。
また、このような決議が採択されれば、人権体系全体への致命的な打撃となり、国際人権法および国際人道法、さらには諸原則、諸法令、条約、議定書、国際慣習のすべてを損なうものとなる。
我々は、良心と理性の中にまだ残る法の支配への敬意を呼び起こし、国際人権機関および安全保障理事会加盟国に次のように訴える:
・人間と法のために。
・学校の生徒、誘拐された女性、そして家で惨殺された罪なき民間人犠牲者の遺族のために。
・これらの組織に立ち向かい、戦いの中で息子を失った家族のために。
我々は呼びかける:
政治の名のもとに殺人者を祝福しないでほしい。犯罪に加担しないでほしい。罪なき者たちと誠実な者たちの怒りを招き、彼らを自らの手で正義を求める行動へと追いやらないでほしい。
国連がこのような形で犯罪者を擁護するような提案を行うこと自体が、もはや国連機構の構造的改革と信頼回復の必要性を強く示すものである。
中・西部シリア政治評議会

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安保理レポートによると、シャーム解放機構は、制裁リスト上ではシャームの民のヌスラ戦線の別名として記載されており、2014年5月14日にアル=カーイダ関連組織として登録された。

登録内容には、シャーム解放機構がイラク・アル=カーイダやレバノンのウスバト・アンサールなどの戦闘員をシリアに導入し、ゲリラ活動を展開したことが記されている。

シャルア暫定大統領は2013年7月24日に「組織の指導者」としてリストに加えられ、ハッターブ内務大臣は2014年9月23日に「行政官(アミール)」として登録された。

通常、制裁解除の申請は決議第1267/1989/2253号制裁委員会が審議し、全会一致の合意をもってのみ承認されるが、今回は安保理決議の採択というかたちで解除がなされた。

米国は10月9日に最初の草案を回覧し、その後、書面による意見交換と会合を経て10月27日に第2稿を提示した。

続いて、11月4日に第3稿を「黙認採択手続き」に付したが、中国が疑義を呈し、またギリシャと英国が追加意見を提出した。

これを受けて、米国は11月5日に第4稿を回付し、6日の採決を要求した。

交渉はやや難航したとされた。

特に、第1・第2稿で含まれていた、制裁にかかる二つの例外規定(①復興資金に限って資産凍結を適用除外とすること、②爆発物除去や兵器処理支援のための武器提供を制裁違反とみなさないこと)をめぐって、一部の国から文言が国家制裁を示唆するような誤解を招くとの懸念が示された。

このため、米国はこの規定を3稿において全面削除した。

また、国際法・説明責任・外国人戦闘員(FTF)・暫定政府の約束履行に関する文言が不足しているとの指摘もあり、米国は第2稿で一部修正を行った。

米国による迅速な対応は、11月10日にシャルア暫定大統領とドナルド・トランプ米大統領がホワイトハウスで会談することに合わせた政治判断との見方も出ている。

中国は、シリアに対して、シリア軍に統合されたとされる一部外国人戦闘員(FTF)の排除を求める立場を明確にし、中国がテロ組織とみなし、決議第1267/1989/2253委員会の制裁リストとにも記載されている東トルキスタン・イスラーム運動(ETIM、トルキスタン・イスラーム党)への警戒を強調した。

中国はまた、シャルア暫定大統領とハッターブ内務大臣の除外措置を期限付きとし、一定期間後に再検討するよう提案、ロシアもこれに支持を表明した。

一方、ギリシャは国際法の明記を強化することを要求し、英国は「シリア政府が国連制裁の対象ではない」との明確な文言を復活させるよう求めた。

米国は第4稿に外国人戦闘員(FTF)に関する追記と技術的修正を加え、決議案を正式に提出した。

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