『ガーディアン』は、昨年12月の政権崩壊でシリアを脱出したバッシャール・アサド前大統領の家族についての記事を掲載した。
記事によると、現在もアサド前大統領の家族と連絡を取り続けている友人は以下の通り語っている。
彼(アサド前大統領はロシア語を勉強し、再び眼科の知識を磨いている。それは、彼にとって情熱の対象だ。言うまでもなく、彼は金銭を必要としているわけではない。シリアで戦争が始まる以前から、彼はダマスカスで定期的に眼科医として診療を行っていた。
記事によると、アサド前大統領の家族は、ロシアの首都モスクワとアラブ首長国連邦(UAE)で、外部と隔絶されたなか、静かな贅沢な生活を送っているという。
2人の消息筋は、彼らがモスクワの高級住宅地ルブリョフカに居住している可能性が高いと指摘している。
アサド前大統領は、シリアでの「アラブの春」に対する弾圧によって欧米諸国から金融制裁を科されて以降、資産の多くをモスクワに移していた。
だが、前大統領を含む家族は、シリアやロシアの支配層エリートとの人脈からは切り離されており、亡命を受け入れたロシアは、前大統領が前政権の高官らと接触することを禁じているという。
アサド前大統領の家族は次のようにも語っている。
非常に穏やかな生活だ。
彼(アサド前大統領)は、外の世界との接触が皆無ではないが、ほとんどない。連絡を取っているのは、マンスール・アッザーム(大統領府担当国務大臣)やヤースィル・イブラーヒーム(側近の1人の経済ブレーン)など、かつて大統領宮殿にいたごく少数の人物だけだ。
クレムリンに近い情報筋も以下のように語っている。
(ヴラジーミル・プーチン大統領やロシアの政治エリートとは)ほぼ無関係な存在になっている。
プーチン大統領は権力を失った指導者に対して忍耐強く接することはない。アサド前大統領は影響力を持つ人物とも、夕食に招く価値のある興味深い客ともみなされていない。
一方、アサド前大統領の弟のマーヒル・アサド准将(第4機甲師団司令官)の友人で、前政権の大統領府の関係者を多く知る人物は次のように語っている。
マーヒルは何日もバッシャールに電話をかけ続けていたが、彼は応答しなかった。最後の瞬間まで大統領府にとどまり、反体制派が侵入してきた時、彼のシーシャはまだ温かかった。ほかの人々の脱出を助けたのはバッシャールではなくマーヒルだった。バッシャールは自分のことしか考えていなかった。
アサド前大統領の叔父であるリフアト・アサド元副大統領の顧問弁護士のイーリー・ハーティム氏は、政権崩壊時を次のように回想している。
彼らがフマイミーム航空基地基地に到着した際、自分たちはアサド家の人間だとロシア兵に伝えたが、ロシア兵は英語もアラビア語も解さなかった。そのため、8人(リフ跡・アサド元副大統領ら)は基地の前で車中泊を余儀なくされた。
ハーティム弁護士によると、彼らはその後、ロシア高官の介入を経て、オマーンに逃れることができたという。
アサド前大統領の家族は、政権崩壊後、モスクワに身を寄せ、白血病を患い、同地で治療を受けていたアスマー・アフラス氏の看病にあたっているという。
アスマー氏の健康状態の詳細を知る関係者によれば、彼女は、ロシアの治安機関の監督下で行われた治療により回復しているという。
アサド前大統領は、アスマー氏の回復を受けて、自身の見解を世に発信する意向を強めているという。
彼はロシア国営のRTや、米国の人気右派系ポッドキャスターとのインタビューを準備しているが、メディア出演についてはロシア当局の承認を待っている段階だという。
しかし、ロシアは、アサド前大統領が公的な場に再登場するのを阻止している模様だとう。
エルブルス・クトラシェフ駐イラク・ロシア大使は11月に行われたイラク・メディアによるインタビューの中で次のように述べている。
アサド氏はここ(モスクワ)に住むことはできるが、政治活動に従事することはできない。彼には、いかなるメディア活動や政治活動を行う権利もない。彼から何か聞いたことがあるだろうか。ないはずだ。なぜなら、許されていないからだ。しかし、彼は安全に暮らしている。
アサド前大統領の子供たちと数ヵ月前に子どもたちの一部と会ったという家族の友人は、次のように語っている。
彼らは少し茫然としているようだった。まだ多少のショック状態にあるのだと思う。「ファースト・ファミリー」ではない生活に、ようやく慣れ始めているところだ。
家族が公の場で一緒に姿を見せたのは、6月30日に行われた娘のザインの卒業式だけである。
彼女は、モスクワ国際関係大学(MGIMO)で、国際関係学の学位を取得した。
MGIMOの公式サイトに掲載された写真には、ザイン氏(22歳)が、他の卒業生たちと並んで立つ姿が写っている。
また、SNSで拡散された別の動画には、卒業式の会場にアスマー夫人、長男のハーフィズ氏(24歳)とカリーム氏(21歳)の姿が確認できる。
式典に出席していたザイン氏の2人の同級生によると、アサド前大統領の家族が会場にいたことを認めたが、非常に目立たない行動を取っていたという。
また、元同級生の1人は、匿名を条件にこのように語っている。
一家は長くは滞在せず、他の家族のように舞台上でザインと写真を撮ることもなかった。
長男のハーフィズ氏は、2月にテレグラムで動画を投稿して以降、公の場からほぼ姿を消しているが、流出データによると、彼は自身のSNAのアカウントの大半を閉鎖し、代わりに、読字障害を持つ少年探偵を描いた米国の児童向けシリーズに由来する仮名を用いてアカウントを登録しているという。
家族に近い情報筋によると、アスマー夫人と子どもたちは、買い物に多くの時間を費やし、新たなロシアの住居を高級品で満たしているという。
子供たちはまた、政権崩壊以前には、UAEを頻繁に訪れており、アスマー夫人も少なくとも一度は同行しており、そのこともあり、当初はUAEに移住することを望んでいたという。
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ハサカ県では、ANHAによると…