シリア、イラン、ロシアはともにハティーブ議長によるアサド政権との対話の意思について歓迎の意を示す、一方トルコやカタールなどは不快感をあらわに(2013年2月3日)

Contents

国内の動き(シリア政府の動き)

アサド大統領はシリアを訪問中のイランのサイード・ジャリーリー国家安全保障最高会議書記と会談し、イスラエル軍によるシリアへの越境空爆などについて協議した。

SANA, February 3, 2013

SANA(2月3日付)によると、アサド大統領は会談で、越境空爆によって、イスラエルが敵対的な外国勢力とともにシリアに対して行っていることの真の役割が、シリアの不安定化と弱体化にあることが暴露された、と述べた。

一方、ジャリーリー国家安全保障最高会議書記は、越境空爆に対して、シリア政府が英知をもって対処すると信頼していると応えるとともに、イランがシオニストという敵に対してレジスタンスを続けるシリア国民を全面支援し、外国の陰謀や計略に立ち向かうために引き続きシリアと調整を行うと述べた。

またシリア国内の混乱に関しては、アサド大統領が提示した危機解決政治プログラムを高く評価し、国民対話実施に向けてイランが全面支援を行う用意があることを改めて伝えた。

なおジャリーリー国家安全保障最高会議書記はアサド大統領との会談に先立ち、記者団に対して「イランはシリアに対して、イスラエルの攻撃に対する応えを期待している」と述べた。

**

ワリード・ムアッリム外務在外居住大臣は、イランのサイード・ジャリーリー国家安全保障最高会議書記と会談し、「イスラエルのシリアに対する残忍な攻撃は、シリアのインフラ、開発施設を破壊するために武装テロ集団と直接関係を持っていることを示すもので、イスラエルと武装テロ組織の役割は調和している」と述べた。

**

アリー・ハイダル国民和解問題担当国務大臣は、シリア革命反体制勢力国民連立のムアーッズ・アフマド・ハティーブ議長が条件付きで政府との対話の意思を示したことに関して、「対話の扉は、それを望むすべての者に例外なく開かれている…。対話には暴力を拒否するという基礎があるが、これは条件ではなく、対話を成功させる要素だ」と述べた。

またハティーブ議長が条件として提示した、在外シリア人のパスポート延長については、ハルキー内閣の危機解決政治プログラム実施閣僚委員会が法的追求の停止、在外活動家受け入れのための文書発行の保証を進めていると述べた。

さらに、逮捕者16万人の釈放については、シリア革命反体制勢力国民連立に逮捕者リストの提示を求めたいとの意向を示した。

ダマス・ポスト(2月3日付)が報じた。

**

AFP(2月3日付)は、非欧米諸国のNGOがイラクからトルコ経由でシリア北西部の4つの避難民キャンプに、人道支援の一環として燃料ストーブ2,000台を提供したと報じた。

国内の暴力

アレッポ県では、アレッポ市アンサーリー地区で軍の空爆により女性1人、子供5人を含む11人が死亡したとシリア人権監視団が発表した。

活動家によるとアンサーリー地区は反体制勢力の制圧下にはない、という。

また同監視団などは、アレッポ市で、イブラーヒーム・アッズーズ元人民議会議員が、妻と娘2人とともに「反体制武装勢力の手で殺された」と発表した。

一方、SANA(2月3日付)によると、アレッポ市シャイフ・サイード地区で、大量の武器を持ち込もうとした反体制武装勢力を軍が攻撃し、戦闘員を殲滅、武器弾薬を押収した。

**

ダイル・ザウル県では、ダイル・ザウル市でイスラーム主義の反体制武装勢力が「結球し、大きく前進した」とシリア人権監視団が発表した。

**

ダマスカス郊外県では、SANA(2月3日付)によると、タッル・クルディー町、ドゥーマー市郊外、ハラスター市、ザバダーニー市で、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、ハムザ大隊、アカバ・ブン・ナーフィウ大隊、イスラーム旅団、殉教大隊メンバーを含む多数の戦闘員を殺傷、装備・拠点を破壊した。

**

イドリブ県では、SANA(2月3日付)によると、アリーハー市、アブー・ズフール市、タッル・サラムー村、ウンム・ジャリーン村、ハミーディーヤ村、ブサンクール村、ラーミー村などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷、拠点を破壊した。

**

ヒムス県では、SANA(2月3日付)によると、タッルカラフ市郊外のザーラ市、カルアト・ヒスン市などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷、拠点を破壊した。

**

ラッカ県では、シャームの民のヌスラ戦線とタブカ自由人大隊が、軍との戦闘の末、ラッカ市とタブカ市の間に位置するバアス・ダムと周辺の農村を制圧したとシリア人権監視団が発表した。

反体制勢力の動き

シリア革命反体制勢力国民連立のムアーッズ・アフマド・ハティーブ議長は、フェイスブック(2月3日付)でミュンヘンでの各国外相らとの会談での自身の発言の要旨を発表した。

それによると発言の主な内容は以下の通り:

1. 国際社会はシリア国内でのアサド政権による虐殺に充分対処していない。
2. 化学兵器をめぐる言説は、イラクの大量破壊兵器問題のウソに似た奇異な問題ではあるが、アサド政権はすでにあらゆる兵器を用いて国民を虐殺している。
3. 革命家たちの銃は、シリア国民が自由を得るまで下ろされることはない。
4. 「我々の軍」は現地で大きな成功と成果を収めているが、善意として政府との対話の意思を表明し、平和的な政権退陣もめざす。

**

シリア革命反体制勢力国民連立の政治委員会メンバーの一人は、ムアーッズ・アフマド・ハティーブ議長とイランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣と会談に関して、「政治的な嵐を巻き起こした。イラン外相との会談はまったく不必要だ。なぜなら無駄だからだ。イランはアサドを全面支援している。このままだと彼はシリア外相とも会談してしまうだろう」と厳しく非難した。

**

シリア革命反体制勢力国民連立のワリード・ブンニー報道官は、「ボールはロシア・サイドにある…。ロシアは国民への殺戮を行う者ではなくシリア国民の公正な要求を支持しなければならない…」と述べ、ロシアがアサド政権に圧力をかけることへの期待を寄せた。

クルド民族主義勢力の動き

シリア・クルド民主党(アル・パールティ)のアブドゥルハキーム・バッシャール書記長は、『サフィール』で民主統一党サーリフ・ムスリム共同党首がイラク・クルディスタン地域のマスウード・バールザーニー大統領を批判したことを受け、フェイスブック(2月3日付)で「ムスリムはシリア政府と関係がある。それは純粋に治安に関わるもので、中級士官から情報発信というかたちをとっている」と述べた。

また「民主統一党がクルド人地域を支配しているというのは正しくない。シリアの治安機関が依然として決定を行い、支配を続けている」と暴露した。

そのうえで「ムスリムと彼の党は、シリアのクルド人の民族的権利を獲得したいとは考えておらず、現体制の地方自治…に関する自治を得たいと考えているだけだ」と非難した。

レバノンの動き

NNA(2月3日付)は、イスラエル軍戦闘機がナバティーヤ県上空のレバノン領空を侵犯したと報じた。

諸外国の動き

イランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣は、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長との会談に関して、「とても光栄だ」と述べ、「引き続き連絡を取り合うことを決めた」ことを明らかにした。

また「反体制勢力と政府が対話のテーブルを囲んで座る余地を与えねばならない…。ハティーブ氏に私はこう言った。集って、国際社会の監視下での大統領選挙の実施を調整しなさい…。流血を止めたいのなら、非難の応酬を続けていてはならない」と述べ、ハティーブ議長が条件付きでアサド政権と対話を行う意思を表明したことに歓迎の意を示した。

**

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長が条件付きでアサド政権と対話を行う意思を表明したことに関して、「非常に重要なステップだ。なぜなら連立は政権とのいかなる対話も全否定していたからだ」と高く評価した。

**

トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は滞在先のミュンヘンで、「シリア政府と反体制勢力の間で対話が行われねばならないと言う者がいる。しかしそれは間違った道だ。それは解決策でない」と述べた。

また「もし明日、アサド政権下で選挙が行われたら、反体制勢力の指導者たちは立候補できるのか?」と自問し、アサド大統領が「シリアでの虐殺の責任をまずとるべきだ」と付言した。

トルコ政府は、シャームの民のヌスラ戦線など外国人サラフィー主義者のシリアへの潜入・テロ活動、自由シリア軍によるクルド人地域への侵攻を支援している。

**

『ハヤート』(2月4日付)は、カタールのハマド・ブン・ジャースィム首相兼外務大臣が滞在先のミュンヘンで、シリア革命反体制勢力国民連立のムアーッズ・アフマド・ハティーブ議長とロシア・イラン外相とミュンヘンでの会談に関して、国際社会がシリアの紛争に介入することを躊躇していると不快感を示し、国連安保理に対してシリアでの虐殺に対して責任ある行動を求めたと報じた。

**

イスラエルのエフド・バラク国防大臣は滞在先のミュンヘンで、イスラエル軍戦闘機によるシリアへの越境空爆に関して、「数日前の事件に関してあなた方が新聞で読んだことに、私は何も言うことはできない…。しかし率直に言うと…、レバノンに高度な武器システムが持ち込まれることが許されてよいとは考えていないと述べてきた」と述べ、越境空爆を事実上認めた。

**

『ニューヨーク・タイムズ』(2月3日付)は、匿名高官の話として、2012年夏にヒラリー・クリントン国務長官(当時)とデヴィッド・ペトレイアスCIA長官が、シリアの紛争に米国が巻き込まれることを懸念し、シリアの反体制武装勢力への武器供与、軍事教練計画を却下していたと報じた。

同計画は、武装勢力の評価と、一部近隣諸国の支援のもとでの武器供与を求めており、米大統領選挙後に再検討されるかに思われたが、ペトレイアスCIA長官の辞任によってお蔵入りとなったという。

**

『サンデー・タイムズ』(2月3日付)は、イスラエルが、シリアからの原理主義過激派の攻撃を抑止するために、シリア領内の対イスラエル国境沿いに幅10キロの緩衝地帯を設置することを検討していると報じた。

この計画はイスラエル軍によって作成され、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に提出されたという。

AFP, February 3, 2013、Akhbar al-Sharq, February 3, 2013、DamasPost, February 3, 2013、Facebook, February 3, 2013、al-Hayat, February 4, 2013, February 5, 2013、Kull-na Shuraka’, February 3, 2013、al-Kurdiya
News, February 3, 2013、Naharnet, February 3, 2013、The New York Times, February 3, 2013、NNA, February 3, 2013、Reuters, February 3, 2013、SANA, February 3, 2013、The Sunday Times, February 3, 2013などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.

SyriaArabSpring

Recent Posts