ハマー市、ダイル・ザウル市などに対する軍治安部隊の弾圧が続くなか、各地では市民が3日も弾圧に抗議する夜間デモを断行した。またハマーやヒムスの刑務所で反乱が発生したが、軍治安部隊、シャッビーハによって弾圧された。
一方、国連ではシリアを非難する安保理声明が採択された。ロシア、中国などの反対により、非難決議採択は断念されたが、3月半ば以降のシリア・アラブの春に対するバッシャール・アサド政権の弾圧に対して、国連が態度を明示したのはこれが初めてとなる。
**
シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長によると、各都市で5人が、晩には3人が殺害された。同所長によると、ラッカ市で約1万人がデモを行ったが、治安部隊によって排除され、その際2人が死亡、8歳の少年1人を含む10人が負傷した。
またジャブラ市でもデモで1人が死亡した。ムウダミーヤト・シャーム市では夜の礼拝後にデモが発生し、治安部隊が排除、数十人が負傷、ハマー市、ダイル・ザウル市でも夜の礼拝後にデモが発生、治安部隊は実弾を用いて排除を試みた。
一方、当局は逮捕後に死亡したドゥーマー市住民一人の遺体を遺族に引き渡し、約5万人がドゥーマー市で火曜日の葬儀に参列した。
シリア人権連盟のアブドゥルカリーム・リーハーウィー所長によると、ダイル・ザウル市で夜の礼拝後に複数のモスクから約4万人が街頭に出て、抗議行動を行った。
またダマスカス県マイダーン地区の3カ所でもデモが発生し、アブー・ヒブル地区に集結したが、治安部隊が強制排除した。またダマスカス県ムハージリーン区でも初めてデモが発生した。
このデモには約800人が参加し、ハマー市とダイル・ザウル市の救済が叫ばれた。ダマスカス県ルクンッディーン区でも小規模なデモが発生。ダマスカス郊外県のドゥーマーの三つのモスクから市民が街頭に出て、カビール・モスク前でカダム区の数千人が集結。
ダマスカス郊外県では、このほかにもキスワ、アルトゥーズ、マダーヤー、ザバダーニー、クドスィーヤー、タッル、サクバー、ハラスターでもデモが発生した。
市民は軍・治安部隊が包囲するアラバインに迫ったが、阻止された。ハマー市では約1000人がデモを行った。ヒムスでもデモが発生した。ラタキア市ラムル地区では約4000人がデモを行った。
ダルアーでは約5000人が、イドリブでは約1000人がデモを行った。カーミシュリー市でもデモが発生し、1000人以上が参加。ラッカ市では数百人がデモに参加した。アレッポ市でもマイサルーン地区、フザイファ・モスク周辺など複数カ所でデモが発生した。
デモではハマー、ダイル・ザウル救済と体制打倒が叫ばれた。デモは強制排除された。
『ハヤート』によると、ハマー市住民の一人は衛星電話で「すべての通信が遮断され、体制は、ハマーでの任務が終わるまでメディアで、フスニー・ムバーラクの広範を集中的に放送しようとしている」と述べた。
またハマー市内のハーディル地区への砲撃も集中した。別の活動家らによると、ハマー市内に展開する軍部隊が市内二カ所を迫撃し、複数カ所で黒煙があがっているのが目撃された。
複数の活動家によると、ハマー市、ダイル・ザウル市に戦車数百輌が展開。シリア人権委員会によると、ハマー市の人権状況は悪化。
またシリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市に戦車が約200輌が展開、また100輌以上の戦車がヒムス、ハーン・シャイフーンなどから、兵員輸送車輌とともにハマー市に向かった。
ハマー市ではライフラインが遮断し、ルバーイー地区、ハミーディーヤ地区、アレッポ街道沿い、バアス地区に攻撃が集中したという。またヒムス・ラスタン街道、およびラスタン市周辺にも戦車が多数展開した。
ロイター通信が住民の話として伝えたところによると、シリア軍戦車が、ハマー市中心のアースィー広場に進入。アースィー広場は6月以来、反体制デモの中心地となっていた場所。
シリア人権委員会が複数の目撃者の話として伝えたところによると、ハマー中央刑務所北部棟が破壊され、収監者13人が殺害された。また刑務所周辺の地区から数十体の遺体が搬出された、という。
またロイター通信が住民の話として報じたところによると、火曜日未明にハマー中央刑務所で反乱があり、シャッビーハを乗せたバス2台が夜間に刑務所に派遣された。移動中のシャッビーハは「アッラー、シリア、バッシャールのみ」と連呼していたという。
信頼できる消息筋によると、ヒムス中央刑務所でも火曜日、抗議の座り込みが行われ、警官隊が刑務所を閉鎖し、座り込みを排除した。
これにより9人が負傷し、複数名が重体。フェイスブックによると、負傷者のなかには反体制活動家のムハンマド・ナジャーティー・タイヤーラ、バッシャーム・サフユーニー、マフムード・ダアブール、ムハンナド・カルクーズ、アイユーブ・ハルバー、ナージー・ザイン、イマード・アンマール、ワリード・マンスールらが含まれている。
ジャマール・アタースィー民主的対話会議代表のスハイル・アタースィー女史はAKIの取材に応じ、シリアの現状が「インティファーダ」を越えた「革命」と評したうえで、アサド政権が保身のための「焦土政策」行っていると批判。またラザーン・ザイトゥーナ女史もAKIに対して、シリア人には「革命の勝利か、弾圧の王国への逆行」以外に選択肢はないと述べた。
ロイター通信は、シリアの元国家治安局高官、反体制活動家、専門家などの証言をもとに、シリア軍に大きな分裂や離反の動きは見られず、またそれが困難だと指摘。しかし、抗議行動が拡大するなか、各地に充分な兵員を配置できないのではないかと疑問視。マーヒル・アサド大佐が率いる共和国護衛隊と第4師団は、体制への忠誠心がもっとも強く、その兵員は約10000人で、戦車などの兵器で武装しているほか、秘密警察、シャッビーハなどを擁する。
ちなみに、AFPが英国の国際戦略問題研究所の情報として明らかにしたところによると、シリア国防費は2009年の推計で1,870,000,000ドル(GDPは53,300,000,000ドル)。兵員数は約325,000人(民兵、憲兵など約10万人、予備役約314,000人を含まず)、7機甲師団、3歩兵師団、特殊部隊(師団)、共和国護衛隊(師団)から編成されている。
シリア人権監視団のアブドゥッラフマーン所長によると、3日晩の夜の礼拝後のデモでダマスカス、ダルアー郊外、タドムルで、子供1人を含む7人が少なくとも軍・治安部隊によって殺害。内訳はダルアー郊外で3人、タドムル市で1人、ダマスカス県マイダーン地区で1人、ほか2人。
シリア・ウラマー連盟がラマダーン月3日(8月3日)付で声明を発表し、アサド政権の弾圧を非難。
**
ユースフ・アフマド在エジプト・シリア大使は、家族とともにカイロを離れ、ダマスカスへ向かった。カイロのシリア大使館前でエジプト人とシリア人約数千人がデモを行ったことを受けた動き。
シリア・アラブ・テレビは、ダイル・ザウル市での武装集団が破壊行為を行ったと報じる一方、治安当局が武器、爆弾などを搭載した車をとりおさえたことを明らかにした。また武装集団が、対イラク国境近くのフラート石油会社の現地本部を襲撃、油田の警備員3人を誘拐し、その武器を奪ったと報じた。またハマー市警察の旅客バス発着センター課長、ダルアー市民による武装集団の破壊行為に関する証言を放映した。
**
国連安保理で、アサド政権による市民弾圧について審議。レバノンの国連代表は、決議がシリアでの危機収束に資さないとし、採決に反対。しかし、安保理は議長声明を採択した。
同声明では、シリアの当局に対して、人権尊重、国際法遵守、暴力行使の責任者の制裁、国連人権高等弁務官への「完全なる協力」を求めるとともに、アサド大統領による改革の約束についても言及、改革実施に進展がみられないことに遺憾の意を表明するとともに、約束の履行を呼びかけている。
以下、議長声明本文。
Statement by the President of the Security Council (August 3, 2011)
The Security Council expresses its grave concern at the deteriorating situation in Syria, and expresses profound regret at the death of many hundreds of people.
The Security Council condemns the widespread violations of human rights and the use of force against civilians by the Syrian authorities.
The Security Council calls for an immediate end to all violence and urges all sides to act with utmost restraint, and to refrain from reprisals, including attacks against state institutions.
The Security Council calls on the Syrian authorities to fully respect human rights and to comply with their obligations under applicable international law. Those responsible for the violence should be held accountable.
The Security Council notes the announced commitments by the Syrian authorities to reform, and regrets the lack of progress in implementation, and calls upon the Syrian Government to implement its commitments.
The Security Council reaffirms its strong commitment to the sovereignty, independence, and territorial integrity of Syria. It stresses that the only solution to the current crisis in Syria is through an inclusive and Syrian-led political process, with the aim of effectively addressing the legitimate aspirations and concerns of the population which will allow the full exercise of fundamental freedoms for its entire population, including that of expression and peaceful assembly.
The Security Council calls on the Syrian authorities to alleviate the humanitarian situation in crisis areas by ceasing the use of force against affected towns, to allow expeditious and unhindered access for international humanitarian agencies and workers, and cooperate fully with the Office of the High Commissioner for Human Rights.
The Security Council requests the secretary general to update the Security Council on the situation in Syria within seven days.
ロバート・フォード在シリア米大使は米議会公聴会で、「ポスト・アサド段階を考慮する時が来た」、「デモは止まらない」と証言。これを受け、ジェイ・カーニーホワイトハウス報道官は、米政権が民間人への暴力行使を停止させるためにさらなる圧力を科し、アサド大統領の責任を追及すると述べるとともに、「シリアはアサド大統領がいなければ、よりよいくにとなるだろう」、「アサド大統領は退任の途上にある」、「我々はシリアの安定のため、彼がとどまることを望んでいない。我々は彼がシリアの安定を奪う要因だとみなしている」と述べた。
しかし一部の専門家によると、米政権はアサド大統領に直接退任を迫ることが「シリア国内の宗派対立、内戦を助長することを懸念」。
ロシアのセルゲイ・メドヴェージェフ大統領はロシア・メディアの取材に応じ、シリアでの惨状に「大いなる懸念」を表明、アサド大統領に、改革が実施されず、反体制勢力と若いがなされない場合、「悲しい運命が待っている」と警告した。
ドイツのヴェルナー・ホイヤー外務大臣は「ダマスカスに対する軍事作戦を行うという議論はなされていない。なぜなら、シリアの反体制勢力は、我々がそのようにしないことを求めているから」と述べる。
レバノンの3月14日勢力事務局は水曜(3日)、シリア国民への虐殺を停止させるため、国際社会が必要な措置を講じるよう求め、アラブ連盟に緊急会合開催を呼びかけるとともに、国連安保理非常任理事国であるレバノンが国連において、自由と尊厳へのシリア国民の要求実現に向けた行動をとるべきと主張。
夜、レバノン北部県トリポリ市内アビー・サムラ地区で夜の礼拝の後、約300人がアサド政権に反対するデモ行進を行った。デモはサラフィー主義者、イスラーム集団、イスラーム解放党が中心となって行い、「イスラーム的な色彩」が強かったという。
エジプトのムスリム同胞団が声明を発表し、「シリアの体制は国民の権利を侵害する野蛮な虐殺」を行っている、とバッシャール・アサド政権の弾圧を非難。
AFP, August 3, 2011、Akhbar al-Sharq, August 3, 2011, August 7, 2011、AKI,
August 3, 2011, August 4, 2011、al-Hayat, August 4, 2011、Kull-na Shuraqa’ Suriya, August 3, 2011、Naharnet.com,
August 3, 2011, August 4, 2011、Reuters, August 4, 2011、SANA, August 4,
2011、UPI, August 3, 2011などをもとに作成。
(C)青山弘之All rights reserved.
ナハールネット(11月21日付…
イドリブ県では、テレグラムの「…