ムアッリム外相がラブロフ露外相との会談後に一部の県から軍部隊を撤退させたと明言するなか、民主的諸勢力国民調整委員会が中央評議会において新執行部を選出(2012年4月10日)

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国内の暴力・反体制運動

シリア政府によるアナン特使の和平案履行期限の4月10日、軍・治安部隊と反体制武装集団はヒムス県、ハマー県、ダルアー県などで戦闘を続け、『ハヤート』(4月11日付)によると、少なくとも52人が死亡、数十人が負傷した。

死者の内訳は、民間人28人、軍・治安部隊兵士19人、離反兵5人。

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ダルアー県では、アブー・フィラースを名のる活動家によると、「軍・治安部隊は依然としてダルアー市内に結集し、検問所がダルアー・バラド地区各所を分断し続け」、市街地からの軍・治安部隊の撤退が完了していないと証言する一方、自由シリア軍の戦闘員が作戦を実行したとの直接の報告は受けていないと主張した。

またシリア人権監視団によると、ムザイリーブ地方で軍・治安部隊と離反兵が交戦した。

一方、地元調整諸委員会によると、タファス市で軍・治安部隊と離反兵が交戦した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、対シリア国境のムルカダー市の検問所2カ所が襲撃され、軍・治安部隊兵士6人が殺害された。

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Kull-na Shuraka’, April 10, 2012

 

ヒムス県では、シリア人権監視団などによると、ヒムス市ハーリディーヤ地区、バイヤーダ地区に対して軍・治安部隊が砲撃を加え、26人が死亡した。

地元調整諸委員会によると、軍・治安部隊がラスタン市、タッルカラフ市に対して砲撃を加えた。

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ハマー県では、マンハル・アブー・バクルを名のる活動家によると、ヒムス市で軍・治安部隊が戦車による砲撃を続けた。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によるとマーリア市、フール・ナフル村に対して、軍・治安部隊が夜間、砲撃を加えた。

同監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長(ロンドン在住)は、軍がヘリコプターでマーリア市上空を旋回していると述べた。

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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、マスアダ村とマルカダ町で、武装した何ものかの攻撃で軍・治安部隊の兵士6人が死亡した。

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シリア人権監視団は、「シリア軍が現地で移動、展開したいかなる記録もない」と断じた。

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Kull-na Shuraka’, April 10, 2012

ダマスカス郊外県・ダマスカス県では、SNN(4月10日付)などによると、カタナー市、ジャウバル区、マイダーン地区で、反体制デモが行われ、アサド政権による停戦期限無視を「嘘つき」と非難した。

『クッルナー・シュラカー』(4月10日付)は、9日に続き、若者がダマスカス県の人民議会議事堂前で「殺戮を止めろ」という赤いプラカードを掲げて抗議行動を行い、複数の目撃者によると、数名が身柄を拘束された。

これに先立ち、ダマスカス県の裁判所前で「殺戮を止めろ」と書かれたプラカードを若者らが掲げ、フサーム・ズィヤード・ダフナ氏とアリー・アンマール・ザイン氏が逮捕された、と報じた。

一方、『クッルナー・シュラカー』(4月10日付)によると、カフルスーサ区で反体制デモを指導したイマーム3人が治安当局に逮捕された。http://www.youtube.com/watch?v=Na97zb3DGBc

その他の国内での動き

『クッルナー・シュラカー』(4月10日付)はタルトゥース県ドゥライキーシュ市を訪れた複数の人々の話として、同地でフランス委任統治時代のアラウィー国の国旗が掲揚されている、と報じた。

アサド政権の動き

SANA, April 10, 2012

ロシア訪問中のワリード・ムアッリム外務大臣は、セルゲイ・ラブロフ外務大臣と会談し、シリア軍がアナン特使の和平案に従って一部の県から軍の部隊を撤退させたことを明らかにした。

会談後の共同記者会見で、ムアッリム外務大臣はまた、シリアには「シリアの主権の枠組みのもとで活動する国際監視団を人選する国を選択するうえで意見がある」とする一方、アナン特使に対して「武装集団およびそれを支援する国々と接触」するよう求め、「停戦は監視団の到着と合わせて行われねばならない」と述べ、一方的な暴力停止には応じない姿勢を示した。

さらに「武装テロ集団は活動をエスカレートさせ、複数の県に展開範囲を拡げた」と付言し、軍・治安部隊による掃討作戦を正当化し、反体制勢力、サウジアラビア、カタール、トルコに文書での停戦受諾誓約を求めたことに関して、「アナン特使に武装集団からの保障を求めたのではなく、反体制勢力およびそれを支援する国々と接触し結果を得られ得たことを保障する書簡を求めた」と述べた。

しかしトルコに関しては、「問題の一部を構成するに至っている。なぜなら同国はテロリストの避難所となっており、その教練や、武器・戦闘員の越境潜入を支援しているからだ」と厳しく非難し、「トルコこそ、シリアの主権を尊重しているアナン特使の和平案を誓約すると宣言しなければならない」と述べた。

なお近く予定されている民主的変革諸勢力国民調整委員会の使節団のロシア訪問に関しては、「政府は、対話とアナン特使の和平案を受諾したすべての反体制勢力との対話の準備がある」と述べた。

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これに対して、ラブロフ外務大臣は、シリア側が「誓約を遵守し、都市部からの軍撤退の実施を開始したとの確認を受けた」と述べつつも、シリア政府に対して「さらに活発かつ断固たる」姿勢でアナン氏の停戦案に応じるよう求めた。

しかし「アナン特使の提案は、シリア国民評議会を含む反体制勢力の大多数の合意を得られなかった」と強調し、西側諸国、湾岸アラブ諸国、トルコが後押しする反体制勢力の停戦に向けた消極的姿勢を非難した。

さらに、安保理はシリア政府に停戦を要求しているのではなく、「シリア政府を含むすべての当事者に停戦を呼びかけている」と強調した。

そのうえで、アナン特使の停戦案が失敗した場合、安保理は「脅迫や警告に依らない次のステップ」を議論するだろう、と述べ、依然として西側諸国の強硬姿勢に反対する意思を示した。

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Kull-na Shuraka’, April 10, 2012

『クッルナー・シュラカー』(4月10日付)は、第10期人民議会選挙(5月7日投票日)に向けて、候補者が選挙ポスターなどを貼り、活動を始動したと報じた。

国内の反体制勢力の動き

自由シリア軍のカースィム・サアドッディーン大佐(国内で活動)はAFP(4月10日付)に対して、アサド政権が発砲停止・都市部からの軍撤退の猶予期間である4月12日の朝6時まで「48時間の猶予」を与えると述べた。

サアドッディーン大佐は、「我々は体制を信用していないし、兵を撤退させ、殺戮を停止するとは期待していない…。しかし我々は48時間待ち、防衛地点にただとどまることにする。もし砲撃が止まず、兵が撤退しないなら、我々は軍事作戦を激化させ、攻撃を実行する」と述べた。

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『クッルナー・シュラカー』(4月10日付)によると、民主的諸勢力国民調整委員会は、中央評議会会合を開催し、新執行部を選出した。

運営委員会のメンバーは以下の通り。

総合調整役:ハサン・アブドゥルアズィーム
総合調整役筆頭補佐:アーリフ・ダリーラ
総合調整役補佐:サーリフ・ムスリム・ムハンマド、ハイサム・マンナーア(在外)、マイス・クライディー
書記:ラジャー・ナースィル
副書記:アクラム・アクラミー
会計:バッサーム・マリク

また各部局の代表者は以下の通り。

渉外局:アブドゥルアズィーズ・ハイイル(局長)、ムニール・ビータール(次長)
内務局:アブドゥルマジード・マンジューナ(局長)、バッサーム・マリク(次長)
広報局:ムンズィル・ハッダーム(局長)、バッサーム・アイサミー(次長)
研究局:ムハンマド・サイイド・ラッサース(局長)、リヤード・ダッラール(次長)
運動・青年・救援局:マフムード・マルイー(局長)、キファーフ・アリーディーブ(次長)
組織局:マンスール・アタースィー(局長)、アフマド・アスラーウィー(次長)
財務局:バッサーム・マリク(局長)、ナースィル・ハムウ(次長)

このほか、ロシアへの使節団をアブドゥルアズィーム、ダリーラ、ムハンマド、マンナーア、ハイイル、ターリク・アブールハサンの6人とすることなどを決定した。

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国内で反体制活動を行うマルワーン・ハバシュ前人民議会議員は、AKI(4月10日付)に対して、アサド政権がアナン特使の停戦案に沿った戦闘停止・都市部からの軍撤退を実施しないことで、シリアをめぐる問題が国連憲章第7章に依拠したかたちでの国際社会の介入を招く危険があると述べ、懸念を示した。

国外の反体制勢力の動き

シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長はイスタンブールで記者会見を開き、国際社会に対して「殺戮を即時停止させるための必要な措置」を講じ、アサド政権に誓約を履行させるよう求め、反体制勢力の暴力停止に関しては言及しなかった。

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シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、アサド政権が発砲停止・都市部からの撤退に応じなかったと非難、国際社会に「シリア国民を絶望で包まない」よう求めた。

アナン特使の動き

al-Hayat, April 11, 2012

コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使は、シリア軍の発砲停止、都市部からの撤退の期限である4月10日、シリア政府に「抜本的路線転換実行の機会を活かす」よう呼びかけ、「6項目停戦案に沿って、全国で政府軍の軍事行動を即時・抜本的に転換する具体的兆候を48時間で示す必要がある」と強調した。

シリア人避難民キャンプ視察のため訪問中のトルコのハタイ県ヤイラダーイ市(シリア領アレキサンドレッタ地方)で述べた。

また国際社会、とりわけ安保理に対して「この重要な段階において、シリア政府による誓約の即時履行をめぐって重大な懸念を表明し、すべての当事者に4月12日の停戦期限を遵守することが重要であることを強調すべきだと考えている…。あらゆる暴力の停止は、新たな条件を提示することで遅らせてはならない第1のステップだ」と述べた。

一方、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣がシリアのワリード・ムアッリム外務大臣との会談後、「シリアが書面による保障に固執していないが、私(アナン特使)にすべての当事者と各国政府が停戦を受諾すると誓約したことを書面で保障するよう求めていると伝えてきた」ことを明かした。

しかし「シリアが示した新たな条件は、6項目停戦案の1部をなすものではない」と述べ、シリア側の要求を拒否した。

そのうえで、「4月10日にいたるまでの日々は、シリア政府が和平に向けた強いメッセージを示すチャンスとならねばならなかったが、過去5日間にそのような政治的メッセージは示されなかった…。一部の兵士や重火器は別の地点に撤退したが、それ以外の重火器などは、再展開し、都市部に駐留を続けている…。また都市部の新たな複数の地点に重火器が配置されただけ」と非難した。

反体制勢力に関しては、「さまざまな反体制勢力と接触し、そのメンバーは、都市部からシリア軍が撤退した後にあらゆる暴力を停止する用意があると(アナン特使に)直接、そして公式に伝えてきた」と述べた。

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『クッルナー・シュラカー』(4月10日付)は、アサド政権と民主統一党(PKKのクルド民族主義政党)が反体制デモ弾圧などで交わしたとされる文書を公開した。

レバノンの動き

ナハールネット(4月10日付)など各紙は、レバノン軍当局がシリアへの武器密輸容疑でレバノン人男性2人、パレスチナ女性1人をレバノン山地県アレイ市で逮捕し、大量の武器弾薬を押収したと報じた。

逮捕されたのは、アフマド・ムハンマド・M.氏、フサイン・カーミル・A.氏、そしてパレスチナ人のザイナブ・サーフィー・Gh.氏で、このほか2人が事情聴取を受けている。

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『アフバール』(4月10日付)は、複数のレバノン人兵士がレバノン国軍の武器庫から武器を盗み、シリアに密輸しようとして摘発されたと報じた。

逮捕されたのは、ベカーア県バアルベック地方アルサール出身で第8旅団所属のKh.H.容疑者ら。

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自由国民潮流代表のミシェル・アウン元国軍司令官は、シリア軍によるジャディード・チャンネルのカメラマン殺害に関して、非難の意を示す一方、調査によって真相が明らかになる前に対応を決するべきでないとの姿勢を示した。

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ムスタクバル潮流は会合を開き、シリア軍によるジャディード・チャンネルのカメラマン殺害を強く非難し、アリー・アブドゥルカリーム在レバノン・シリア大使を呼び出し喚問するようナジーブ・ミーカーティー内閣に求めた。

諸外国の動き

スーザン・ライス米国連代表大使は、シリア軍・治安部隊による弾圧継続を受け、「安保理は、48時間以内にシリア政府が軍の活動を変革するチャンスを活かし、4月12日までに暴力を停止する必要があるという点で意見が一致している」と述べた。

ジェイ・カーニー米ホワイトハウス報道官は、「アサド政権が誓約を尊重しなかったとアナン特使が報告すれば、安保理でシリア情勢を評価することを望んでいる」と述べ、「次のステップ」に向かって行動すべきだとの立場を示した。

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ジョン・マケイン米上院議員(共和党)はトルコ領内のシリア人避難民キャンプを視察し、国際社会は「シリア国民を見捨てようとしている。弾圧を停止させるため反体制勢力に武器を供与しなければならない」と述べた。

視察にはジョゼフ・リーバーマン上院議員(無所属)も同行した。

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メフル通信(4月10日付)によると、イランのイスラーム諮問評議会(国会)のホセイン・シェイフルエスラーム内務担当議長顧問は、アナン特使の和平案への指示を表明する一方、西側のイニシアチブによって任命されたアナン特使の活動の行き詰まりが、レジスタンスを弱体化させようとする米国、イスラエル、そして「地域の王政二カ国」の試みの失敗を意味すると指摘した。

また「イランはシリア国内の様々な勢力に影響力を持っており、その一部を満足させる能力がある。またこの国の問題の正常化に影響を及ぼすべく、一部の勢力と接触した」と付言した。

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フランス外務省報道官は、アサド政権による弾圧継続に関して、「見え透いた嘘の新たな表現で受け入れられない」と非難した。

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トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、訪問中の中国で、12日にサウジアラビアを訪問し、シリア情勢について同国高官と協議する、と述べた。

AFP, April 10, 2012、al-Akhbar, April 10, 2012、Akhbar al-Sharq, April 10, 2012, April 11, 2012、AKI, April
10, 2012、al-Hayat, April 11, 2012、Kull-na Shuraka’, April 10, 2012、Naharnet.com, April 10, 2012、Reuters, April 10, 2012、SANA, April 10, 2012、SNN, April 10, 2012などをもとに作成。

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