「武装集団」がタドムル・ヒムス間でアサド政権軍士官らに対する暗殺作戦を断行、アラブ連盟閣僚委員会が開催されシリアが求めていた議定書修正提案の却下を決定(2011年11月24日)

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反体制勢力の動き

SANA(11月25日付)は、「武装テロ集団が暗殺作戦を断行し、パイロット6人、士官4人、空軍基地に勤務する士官クラスの技術者3人を殺害した」と報じた。

同報道によると、暗殺は「タドムル・ヒムス間」で24日午後に行われ、「このテロ作戦に複数の外国機関が関与し、勇敢な我らの武装部隊の戦闘能力を弱化させようとしていることを確認した」と断じた。

自由シリア軍もインターネットで声明を出し、ファールーク大隊が(24日)午後3時に、ヒムス・タドムル間のフルクルス町を走行中のタイムール空港の複数のパイロット士官が乗ったバスを攻撃し、その結果、アッラーのおかげで少なくともパイロット士官7人を殺害、そのなかには大佐1人、バスに登場していた軍曹2人、バスの運転手の曹長1人が含まれていると発表した。

しかしこの犯行声明をめぐっては情報が錯綜した。

すなわちヒムス県の活動家は「部族の武装集団」が攻撃を行ったと述べ、その後、自由シリア軍は犯行への関与を否定した。

なお同様の情報の錯綜は、ダマスカス県のバアス党支部への攻撃に関しても見られ、自由シリア軍は一度犯行声明を出したが、その後否定し、シリア政府がそのイメージを貶めようとして行った自作自演と非難した。

複数の活動家によると、自由シリア軍は、数千人がトルコに避難している一方、シリア国内で活動している離反兵もおり、必ずしも統率がとれた組織ではないという。

トルコ南部に潜伏する自由シリア軍司令官のリヤード・アスアド大佐は、AFP(11月24日付)の電話取材に応え、レバノンのヒズブッラーが反体制運動弾圧のために「傭兵」をシリアに派遣している、と断じた。

またアスアド大佐は、アサド政権の打倒を加速するため「戦略的標的」への外国軍の空爆を求めた。

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ヨルダンのアンムーン通信社(11月24日付)は、国内で反体制活動を指導してきた女性活動家のスハイル・アタースィー氏がヨルダンのシリア人避難民キャンプに非難したと報じた。

Akhbar al-Sharq, November 24, 2011

ジャマール・アタースィー民主的対話会議(市民社会運動体)の代表を務め、3月15日の内務省前での抗議行動(政治犯釈放を求める家族の座り込み)を主導したアタースィー氏は、治安当局の追跡を受け長らく国内に潜伏していたとされる。

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サウジアラビアの日刊紙『ワタン』(11月24日付)がフェイスブックから得た情報として、ヒムス市で殺害され、埋葬されたサウジアラビア人フサイン・ブン・バンダル・ブン・ハルフ・アンズィー氏の遺体が掘り出され、持ち去られたと報じた。

在ダマスカス・サウジアラビア大使館高官によると、フサイン氏の遺体は遺族に返還され、サウジアラビア国内で改めて埋葬されることになっていた。

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シリア救済委員会は声明を出し、アブドゥッラッザーク・イード政治局長、ウマル・ファールーク・ダンダシー執行部副議長、ウサーマ・マルーヒー顧問委員会委員長、アブドゥルガニー・ハマドゥー顧問委員会副委員長、ムスタファー・ハーニー・イドリース執行部長、アブドゥッラー・キナーン・ハーティム情報総合関係委員会委員長、ハリール・ミクダード革命委員会議長が、シリア国民評議会への参加を申請すると発表した。

アサド政権の動き

Kull-na Shuraka’, November 24, 2011

「アフバール・シャルク」(11月24日付)は、西側諸国の経済制裁により物資、とりわけ灯油不足が懸念されるなか、スイスに本社がある貿易会社AOTは海路でシリア国内に灯油を搬入し続けている、と報じた。

同社による灯油の搬入は、EUの経済制裁が人道目的での物資搬入を禁止していないために可能だという。

シリア国内の灯油不足は、とりわけ軍・治安部隊と離反兵との戦闘が激しいヒムス県において深刻である。その原因に関して、一部の専門家は、民間人弾圧に投入されている戦車、軍用車輌の燃料としているためだと指摘している。しかしアサド政権の支持者らは西側の経済制裁が灯油不足をもたらしていると非難している。

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ムハンマド・ニダール・シャッアール経済大臣は、AFP(11月24日付)の取材に対して、シリア経済が「決して容易でない危機である」と述べた。

シャッアール経済大臣はまた「我々の歴史において最悪の危機だと思う。なぜならそれは国民、商人や工場主、そして労働環境に直接及ぶからだ。万人が被害を被っている。これはまったく公正でない」と述べた。

さらに「もしこのような状況が続けば、事態は悲惨なものになる…。確実にシリア全体に害をもたらし、他のアラブ諸国にも波及するだろう」と述べた。

一方、アラブ連盟による対シリア経済制裁の可能性に関して、「一部の国が同意しないのはほぼ確実だ」と述べた。

そのうえで対応については、「自給自足、資源配分、生産、工場運営といった問題により活発に対処せねばならない」と述べた。

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SANA, November 24, 2011

SANA, November 24, 2011

 

SANA, November 24, 2011

ダマスカス県旧市街のバーブ・トゥーマ広場で、女性数千人がアラブ連盟の対シリア決議反対、アサド政権の改革支持を訴える集会を開いた。

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『クドス・アラビー』(11月24日付)は、いわゆる「危機管理チーム」議長を務めてきたバアス党シリア地域指導部のムハンマド・サイード・バヒーターン副書記長が議長職を解任され、代わってハサン・トゥルクマーニー副大統領補が後任に任命された、と報じた。

同チームは、政治、経済、外交、社会といった分野を専門とする大学教授らから構成されているという。

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インターネット紙『ハキーカ』(http://www.syriatruth.org、11月24日付)は、イマード・ムスタファー在米シリア大使の国内への異動に関して、アサド政権がワリード・ムアッリム外務大臣とブサイナ・シャアバーン大統領府情報顧問の政治的パフォーマンスやメディアでの活動に「激しいフラストレーション」を募らせていたことが背景にあると報じた。

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『トゥデーズ・ザマーン』(11月24日付)は、最近アサド大統領と会談した人々から意見聴取したロンドン在住の研究者(Ziya Meral)のレポートを掲載した。

同レポートによると、アサド大統領の発言は以下の4点を特徴としているという。

1. 米国政府はシリア政府高官に制裁を科すことで米国民を欺いているが、バラク・オバマ大統領をはじめ、同国政府高官は、アサド大統領が米国内に資産を持っていないことを知っている。
2. イスラエルはアサド政権の存続を望んでおり、アサド政権に対するいかなる強硬な動きも支持しない。
3. トルコの圧力は限定的で、AKPのパフォーマンスは世論向けに過ぎない。
4. アサド大統領はエジプトや湾岸諸国に不信感を抱いている。エジプトについては、中東の国と言うよりは北アフリカの国で実質的な影響力を持っていないとみなしている。サウジアラビアについては、過激派を延々と支援する最大の脅威だとみなしている。カタールについては、実質を伴わない野望を抱いているに過ぎないとみなしている。ヨルダンに関しては米国の操り人形に過ぎないとみなしている、という。

http://www.todayszaman.com/newsDetail_getNewsById.action?newsId=263835

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『クッルナー・シュラカー』(11月24日付)は、アサド政権の支持者は、ダマスカス県およびダマスカス郊外県でスンナ派との対決に備えて、アラウィー派が多く住む地域を支援するためのリスト作りを進めていると報じた。

同報道によると、バルザ区、アッシュ・ウルール地区、クドスィーヤー市、マッザ86地区などでは、アラウィー派に武器の配布が始まっているという。

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『クッルナー・シュラカー』(11月24日付)は、国営セクターで革命に同情的は職員350人以上が解雇されたと報じた。

アラブ連盟の動き

シリア情勢を審議するためのアラブ連盟閣僚委員会がカイロの連盟本部で開催され、アラブ監視団派遣などに関する議定書に対してシリア政府が求めていた修正提案を却下することを確認し、シリア政府に対して11月25日正午まで猶予を与え、それまでに同議定書を受諾するよう求めた。

また議定書に合意しなかった場合、連盟の経済社会会議を26日に招集し、シリアへの経済制裁を承認しすること、そして同会議の議事を27日に連盟閣僚会議で審議・承認することを決定した。

加えて、連盟外相会議は、シリア政府と反体制勢力に対して、連盟のイニシアチブに沿って国民対話会合を開き、過渡期を運営する挙行一致政府の樹立に関して合意するよう求めた。

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同決定の審議に際して、アルジェリアのムラード・マドリスィー外務大臣は対シリア制裁を支持する動きを緩和するよう求めたが、採決では賛成した。

イラクのホシャル・ゼバリ外務大臣は、アサド政権がアラブ監視団の派遣に合意しているが、連盟閣僚委員会での審議を踏まえて最終決定をする意向だと述べ、アサド政権を擁護、採決を棄権した。

レバノンのアドナーン・マンスール外務大臣は連盟外相会議が始まる前にレバノンに帰国し、同国の代表が代わりに出席、外相会議の決定を却下するとの意思を伝えた。

エジプトのムハンマド・カーミル・アムル外務大臣は、連盟のあらゆる決定においてコンセンサスが必要だと述べ、戦略物資であるガス(エジプトがシリアに輸出している)、食糧、医薬品を制裁対象から外すよう求めた。

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一方、サウジアラビアのサウード・ファイサル外務大臣は、リヤードでのGCC閣僚会合で、「シリアの危機解決のためにアラブ諸国が合意に達しなければ、問題は国際化し、国連に付託されるだろう…。我々は問題の国際化を望んでいない」と述べた。

反体制運動掃討

軍・治安部隊はヒムス県、イドリブ県各地で離反兵と交戦する一方、活動家弾圧を続け、1人が死亡、数十人が負傷した。

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ヒムス県ではラスタン市周辺の農地に軍の戦車、装甲車約50台が展開し、離反兵の拠点を攻撃した。シリア人権監視団によるとこれによって、離反兵2人が戦死、13人が負傷した。

シリア人権監視団によると、ヒムス市のバイヤーダ地区とカラム・ザイトゥーン地区で治安部隊が4人の「市民」を殺害した。

また同監視団は、フーラ地方で、軍・治安部隊と離反兵が交戦し、前者に11人がでたと発表した。

これに対して、SANA(11月24日付)は、タッルドゥー市で治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、武装テロ集団メンバー3人を殺害、武器を押収したと報じた。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ザーウィヤ山一帯のバーラ村、イフスィム村が軍・治安部隊の攻撃に曝された。

またイブリーン村、アブディーター村でも大きな爆発音が聞こえたという。

これに対して、SANA(11月24日付)は、マアッラト・ヌウマーン市で武装テロ集団が教員を暗殺未遂したと報じた。

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ダルアー県では、SANA(11月24日付)によると、当局がダルアー市郊外で武装テロ集団を追跡中に大量の武器を押収した。

諸外国の動き

Naharnet.com, November 24, 2011

SANA(11月24日付)は、ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカがシリア内政への外国の不干渉を改めて求めたと報じた。

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フランスのニコラ・サルコジ大統領はレバノンのサアド・ハリーリー前首相と会談し、シリアの体制は遅かれ早かれなくなるだろう、と述べた。

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フランス外務省のベルナール・ヴァレロ報道官は、レバノンのオレンジ・TV(11月24日付)の取材に対して、フランス治安機関が自由シリア軍を軍事教練するため、トルコとレバノンの国境地帯に派遣されたとの一部報道を「根拠がない」と否定した。

治安機関(外務治安総局)派遣は『ル・カナール』誌(11月23日付)が報じていた。

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レバノンのアドナーン・マンスール外務大臣は「レバノンの声」ラジオ(11月24日付)とのインタビューで、「レバノンはアラブ連盟が科すであろう対シリア制裁を承認しない」と明言した。

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『アフバール・ヤウム』(11月24日付)は、レバノンの3月14日勢力が、シリアでのアサド政権崩壊後にレバノンにおけるヒズブッラーの影響力排除をめざすための文書を準備していると報じた。

AFP, November 24, 2011、Akhbar al-Sharq, November 24, 2011、Akhbar al-Yawm, November 24, 2011、al-Hayat, November 25, 2011、al-Haqiqa, November 24, 2011、Kull-na Shuraka’, November 24, 2011, November 25, 2011、Naharnet.com, November 24, 2011、al-Quds al-Arabi, November 24, 2011、Reuters, November 24, 2011、SANA, November 24, 2011,
November 25, 2011、Todayszaman, November 24, 2011、al-Watan (Riyad), November 24, 2011などをもとに作成。

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