ロシアを公式訪問中のアサド大統領はRT(3月16日付)の単独インタビューにも応じた。
インタビューは15日に通訳を介してアラビア語で行われ、27分にわたるその全文はSANA(https://www.sana.sy/?p=1859579)に掲載された。
インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り。
今日の(ヴラジーミル・プーチン大統領との会談)を象徴するものがあるかと言えばなく、訪問の意義があるかと言えば、それはある…。ダマスカスは世界の一部であり、そこでの変化に影響されるし、影響を与えている。この世界において生じなかった変化については、過去数年にわたって、新型コロナウイルスの発生によって、あらゆる生活様式、政治や経済のスタイル、国益が変化した。概念も変化させた。ウクライナでの戦争が発生し、さらなる変化が起きた。事実、我々は今日、さらなる変化を経験している世界のなかにある。今回の訪問の意義は、我々が日々影響を受け、影響を与えるこの新たな世界に対するロシアとシリアの新たな共通のイメージを作り出すことにあった。
政治的な側面から言うと、一連の出来事(トルコ・シリア大地震の被害や影響)は待ってくれない。対話、イメージづくり、さらには実施計画策定に遅れれば、一連の出来事は、我々を追い越し、我々は自分たち、さらにはロシアの国益を高いレベルで損失することになろう。経済的な側面から言うと、戦争、封鎖、さらには地震について話すとき、経済活動がこれまでにも増して必要となっている。災害時の経済について話題にすることは、他のいかなる話題にも増して意義がある。それゆえ、今回の訪問を通じて、定期された経済関連の問題は、かつてないほど広範で、包括的であり、明確なものだった。プロジェクトについて具体的な話合いが行われた。今回の訪問のタイミングは、地震発生前に計画されていた。だが、おそらくは偶然ではあるが、今回の訪問のタイミングは、トルコをめぐる問題であれ、それ以外の問題であれ、シリアの経済状況を踏まえた経済協力であれ、政治状況の進展において非常に適切なものだった。
戦争による被害額は4000億米ドル以上に達していると評価されている。だか、これは概算であり、実際にはより大きいだろう。なぜなら、国家の支配下にない地域があるからだ。地震の被害額は500億米ドルと考えられている。これもまた仮定の数字だ。なぜなら、被害調査は、公共の建物であれ、個人の建物であれ、インフラであれ、まだ完了しておらず、さらなる時間を要するからだ。だが、戦争であれ、地震であれ、建物や施設、インフラの損傷など物理的な被害だけを見ることは許されず、それは経済全般に被害を与えている。おそらく、地震によって生じた経済面での損失は、物質的な被害よりも数段大きい。今求められているのは何かという最初の質問に戻ろう。制裁は解除されはしたが、実際には、そうではない。一部の人道支援は認められた。だが、どの国であれ、経済には、公共生活において不可欠な各種の原材料、二次原料が容易に入手できることが必要だ。工業においても、商業においても、それ以外においても、この問題が変わることはない。シリアには、支援がなくとも、戦争、そして地震から自らを復興する能力がある。なぜなら、復興のための資源を有しているからだ。しかし、問題は、このプロセスが今、より多くの費用、多くの困難を伴うものになっているということにある。にもかかわらず、復興は行われるだろう…。つまり、シリアにとって必要なのは、支援よりも前に包囲解除なのだ。
西側の政策はすべてにおいて、そしてあらゆる問題において嘘に基づいている。シリアをめぐる問題はこうした嘘の問題の一つだ。もちろん、西側は嘘をついている。今、嘘がないのであれば、西側とは言えないだろう。これが現状であって、誇張はしていない。我々は何年にもわたって多くの問題で西側に対処している。シリアと西側の関係が良好な時もあったが、その際でも関係は、西側のシリアに対する偽善とウソに基づく関係だった。それ以外の国も同じだ。ウクライナ情勢についても同じであり、他の問題でも同じだ。西側はもちろん嘘をつく。、シリアでの地震でも偽りの人道的な顔をしようとした。西側が非人道的な姿勢をとっていないと言われないようにするためだ。だが、西側は何も提供はしていない。
(地震はシリアとトルコの関係改善を促すかとの問いに対して)地震でトルコの市民、国民が被害を受けた。両国民を紺的に隔てるものは存在するとは思ってていない。問題はトルコの政治家側の問題だ。彼らにはシリアでの戦争を通じて実現したい特別な野望がある。それは戦争当初もそうだし、今もそうだ。だから…、トルコの政策を政策を変え、両国の接近を促す「唯一の地震」はトルコの大統領選挙だ。それ以外には何もない。
(エルドアン大統領との会談について)現状において当然のこととして質問されるべきは、いかなる政治会談であれ、それ以外のレベルの会談であれ、何が目的なのかということだ。答えは明確な成果が実現されるということだが、では、この成果とは何なのか? 我々シリアにとって、最優先事項は、すべての違法な外国部隊の撤退だ。これは基本的には、米国とトルコのことを意図している。それ以外にシリアには違法な部隊は存在しない。テロ支援を止めること。これはいわゆる「シャーム解放機構」、すなわち「ヌスラ」を意味している。名前は重要ではない。それは一つの組織であり、支援者も一つだからだ。最近のトルコ側から外務大臣次官レベルでの四ヵ国会談に向けて提案がなされた。だが、この会談の議事は存在しない。いかなる当事者からもいかなる前提条件も示されていない。いかなる期待もない。そうしたなかで、会談の目的とは何なのか? 我々はなぜ赴くのか? 写真に納まるためか? 我々は前提条件を設けていない。一部では、シリアは条件が最大限受け入れられなければ赴かないと宣伝しようとしている。だが、撤退にかかる問題提起は、確固たるもので変わるものではない。それは、愛国的な問題であり、政治的な問題ではない。だが、理由、方法、あるいは何も知らいないで会議に赴くこと…、ここに問題がある。我々は明確な議事を設定しようとしている。
(16日から開催が予定されているロシア、トルコ、イラン、シリアの外務省代表会合について)我々は、明確な議事が設定されるか、シリアが撤退にかかる条項を確認できることを強く主張している。議事が示されなければ、シリア側が議事を提示する。その際の唯一の議題とはシリアからのトルコの撤退だ。
双方(アサド大統領とエルドアン大統領)の会合が行われる場合、共通の何かが必要になる。もちろん、まったく異なった優先事項が提示されたとしても、それ自体は正しいことで、それによっていかなる断交も起きることはない。トルコの国家、そして大統領の最優先事項は、選挙で、それ以外の何ものでもない。選挙を利するものすべてだ。一方、シリアにとって、最優先事項は、撤退、主権回復、そしてそれらを利するすべてだ。両者の折り合はつくか? 折り合うことはない。第1の目的が第2の目的に沿っていれば、つまり、シリアからの撤退が大統領選挙での勝利を実現するのであれば、我々にとって問題はない。だが、今のところ、こうした折り合いを見て取ることはできない。それぞれが異なった最優先事項に取り組んでいる。ここに問題が隠されている。
もし条件が達成される、あるいは満たされるのであれば…、我々にとってそれは撤退だが…、もし条件が満たされて、会談の日程がないとしても、その日、あるいはその次の日に会談は開かれるだろう。つまり、問題はないのだ。タイミングが問題なのではない。たが、我々にとっての条件が実現し得なければ、そのタイミングは存在しない。
我々は戦争当初から、トルコ国内の紛争の当事者にならないようにしてきた。我々が一部の勢力とそのことに合意しているかいなかはともかくだ。我々が自分たちの国の問題を他国の政治の一部として据えることは大きな過ちだ。なぜなら、第1に他国だからで、その動きのなかの一部ではないからだ。第2に、我々にとってもっとも重要で、決して小さな問題ではない問題を矮小化することを意味しているからだ。
(トルコのフルシ・アカル国防大臣が、シリアにおけるトルコ軍の駐留は占領ではなく、トルコ政府はクルド民族主義義勢力への立場をシリア政府が理解することを期待していると発言したことに関して)占領がないと言うのであれば、何があるというのか? シリアでもてなしを受けているというのか? どういう論理なのか? ハムラビ法典以前にまでさかのぼったとしても、こうした定義を今現在まで支持するようないかなる法律も承知していない…。また、(クルド民族主義勢力への立場の)理解について…、(アカル国防大臣は)愚人であり、軍人は勇敢さをもって特徴づけられるべきものだ。彼に勇敢さがあって、真実を語ることを望んでいた。その真実とは、戦争が始まる前の2000年から、1998年に遡るまで、国境をめぐっていかなる問題も存在しなかったということだ。当時はアダナ合意があった。相互理解、協力、ほぼ完全なかたちでのコンセンサスが安全保障問題をめぐって存在していた。彼は大胆さをもって、今日の安全保障上の麻痺の原因はトルコの政策、より厳密にはエルドアン(大統領)の政策にあると言うべきだった。彼がすべきなのは、あなた方(トルコ)がこうした結果をもたらしたということを理解することだ。安全保障と難民という二つの根本的な問題は、いずれもトルコの問題であって、それはエルドアンが指導する公正発展党がもたらしたものだ。
第1に、法的な側面で正確さを期するのであれば、アダナ合意は議会によって批准された合意ではなく、安全保障にかかる合意だった。第2に、この合意は、テロリストを国境から5キロの地点まで追跡することを定めていた。それゆえ、情勢が良好であれば、追跡すら行われなかった。国境地帯にはシリアの国家が存在していたからだ。軍、警察、治安機関がおり、それぞれの義務を果たし、この条項を適用する必要もなかったし、実際に適用されることもなかった。つまり、トルコ側は言い訳をしているのだ。彼らが現在提示している問題をもたらした原因は彼らにあるのだ。
第1に、法的な側面で正確さを期するのであれば、アダナ合意は議会によって批准された合意ではなく、安全保障にかかる合意だった。第2に、この合意は、テロリストを国境から5キロの地点まで追跡することを定めていた。それゆえ、情勢が良好であれば、追跡すら行われなかった。国境地帯にはシリアの国家が存在していたからだ。軍、警察、治安機関がおり、それぞれの義務を果たし、この条項を適用する必要もなかったし、実際に適用されることもなかった。つまり、トルコ側は言い訳をしているのだ。彼らが現在提示している問題をもたらした原因は彼らにあるのだ。
(米軍統合参謀本部議長のマーク・ミリー陸軍大将による北・東シリア自治局の支配地への)訪問をこれらの組織(ダーイシュ(イスラーム国)、ヌスラ戦線、民主統一党(PYD)への評価と結び付けたくはない。第1に、この訪問は、米国が世界最大の「ならず者国家」であることを示している…。米国はもっとも国際法に違反している国であり、この訪問も国家の主権を侵害している。次に、それは国際法にも違反している。これに対して、これらの組織については、クルド人に対する非難と理解されないよう、いわゆる「クルド人保護部隊」(人民防衛隊(YPG)、あるいは一部アラブ人も所属する「シリア民主軍」と呼ぶが、我々の評価の起点にあるのは、外国部隊のために活動するいかなる勢力、個人も裏切り者、手先であるということだと言いたい。愛国的なクルド人はおり、クルド人の大多数は祖国とともにある。だが、米国の手先であるこれらの組織の支配下にある地域で暮らすなかで、誰一人として、いかなる愛国的な方向にも動くことも許されず、多数派はあたかも非愛国的であるように見えてしまう。だが、原則に立ち戻ると、米国人とともに協力している者はすべて手先だ。これは自明のことだ。
第1に、中国の仲介にもとで、(イランとサウジアラビアが)発表した和解、会談についていうと、すばらしいサプライズだと言える。それは交渉、連絡、通信が何年にもわたって行われず、なかったとしてもだ。それは斬新なものではなかったが、タイミングが良かった…。他方、シリアはイランとサウジアラビアの紛争の場ではなくなった…。サウジアラビアの政策は、数年にわたってシリアに反するものだったが、もはやそうではなくなった…。つまり、内政干渉、あるいはシリア国内の反体制諸派への支援も行われることはない。シリアとイランの関係を断行せねばならないという言説については、シリアにおいては何年も提起されてはいない。シリアとイランの間には40年にわたって交わされてきたある種の誠意がある。自分たちの友人に誠意を示せないのであれば、どのように他の友人、さらにはきょうだいに誠意を示すことができようか? こうした問題はもはやアラブ世界において問題視されることがないと見ている…。
(スライマーン・フランジーヤ氏がレバノンの大統領候補になることへの合意が形成されたことに関して)イランとサウジアラビアのコンセンサスであれ、それ以外のコンセンサスであれ、総じてこの地域に良い結果をもたらすだろう。また、それはシリア、さらにはレバノンにもさまざまなかたちで良い影響を与えるだろう…。
イスラエルは常にそれ(カードのリシャッフル)を行っている(地域における混乱を画策しようとしている)。そもそもそうしたことを止めようとはしていない。イスラエルはしばしば、「カードのシャッフル」を行う。2013年にシリア軍がテロリストと対決するために進軍を開始した時にそれは始まった。その後、米国と協力して、2014年にダーイシュをたちあげたが、その背景にはシリア軍の進軍があった。今もテロリストに対して(シリアが)進軍を試みるたびに、イスラエルが、爆撃、あるいはこれらのグループと直接協力するかたちで動いている。「カードのシャッフル」は、良い出来事が起きたあとでもイスラエルが継続すると予想している政策だ。それは当然のことだ。なぜなら、イスラエルは敵であり、イスラエルはテロの上に築きあげられた疑似国家だからだ…。
(イスラエルはシリアへの爆撃によって)シリアを弱体化させ続けようとしている。それ以外の何ものでもない。イランとも関係がなければ、それ以外のものとも無関係だ。イスラエルは、シリアを狙って爆撃を行うことの最大の目的がイランと無関係で、シリアを弱らせることにあることを承知している。
(サウジアラビアで開催予定のアラブ連盟首脳会議への出席の是非について)第1に、シリアは資格停止処分を受けている。それゆえ、首脳会談に出席するにはこの処分が廃止されねばならない。そしてそのためには、首脳会談が必要となる。だが、この問題をめぐる我々の姿勢は…、2月の地震発生時にも、シリアを訪れた(各国の)閣僚らに伝えた通り、アラブ連盟への復帰それ自体が目的なのではなく、アラブ諸国による共同の行動が目的であるというものだ。多極化は形成段階においてどのくらいの時間を要するだろう? 数年だろうか? それは時間のかかるプロセスだ。なぜなら、覇権を握る西側諸国、とりわけ米国は数年にわたって生存をかけた戦争をしているからだ。米国の一局支配、あるいは米国の影響力の低下についていかに話すべきかというと、確実に後退はしているが、そのことは、米国が世界における超大国ではないことを意味しない。我々は現実的にならねばならない…。
AFP, March 16, 2023、ANHA, March 16, 2023、al-Durar al-Shamiya, March 16, 2023、Reuters, March 16, 2023、SANA, March 16, 2023、SOHR, March 16, 2023などをもとに作成。
(C)青山弘之 All rights reserved.
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