大統領府は、Xを通じて、アフマド・シャルア暫定大統領のテレビ演説を配信した。 声明の内容は以下の通り。 偉大なるシリア国民よ、スワイダー県で最近発生した出来事は、シリアにおける治安・政治状況において極めて重大な転換点をもたらした。そこでは、法に反する集団とベドウィンとの間での衝突に発展、情勢はかつてないほどに悪化した。 この一連の出来事は、これらの集団間での激しい衝突が激化したことから始まり、事態を鎮静化できたシリア国家の介入がなければ、ほぼ制御不能になっていた。しかし、イスラエルの介入が事態の緊張を再び高め、南部およびダマスカスの政府機関への激しい爆撃によって、国の安定を脅かす危険な段階へと押しやった。 これらの出来事を受けて、米国とアラブ諸国による仲介が行われ、複雑な情勢下での事態の沈静化に向けた試みがなされた。しかし、シリア国家の不在がこれらの地域に無秩序をもたらし、より広範な衝突を再燃させるとの我々の警告にもかかわらず、実際に起きたのは最悪の事態であった。 国家が一部地域から撤退したことに伴い、スワイダーの武装集団がベドウィンとその家族に対して激しい報復攻撃を開始し、住民の集団的強制避難が生じ、恐怖と混乱状態がもたらされた。人権侵害行為も伴うこれらの報復攻撃により、他のアラブ部族がスワイダー県内でベドウィンを解囲するため駆けつけた。このことが、さらなる緊張の高まりと、シリアに治安情勢に大きな変化をもたらした。 この悲劇的な情勢の中で、シリア政府には、国際社会から、現下の事態の食い止め、国内に治安と安定をもたらすための再介入を求める多数の呼びかけがなされた。この文脈において、以下の点が指摘されねばならない。 第1:スワイダーの一部個人の狭量な利害が、進むべき方向を見失わせる要因となった。そこでは、外部勢力に頼るという分離主義的な野心が一部の者たちのなかで現れ、彼らは武装集団を率いて、すかさず殺害や虐待行為を行った。シリア国家は、シリア解放後もスワイダーに寄り添い、同地への支援と基本的な公共サービスの提供に努めてきたにもかかわらず、これらの者たちと混乱分子は、スワイダー市と国の安定における同市の役割を傷つけた。外部勢力に依存し、スワイダー内の一部当事者を国際紛争のツールとして利用することは、シリア国民全体の利益にならず、むしろ危機を深刻化させ、国の統一を脅かす。 第2:シリアのアラブ部族は高潔な価値と原則の象徴であり、それが彼らを奮い立たせ、抑圧された者を助ける原動力となっている。部族はその歴史を通じて、シリア国家の側に立ち、支援と犠牲を惜しまず、国が経験してきた幾多の試練に立ち向かううえで名誉ある立場を示してきた。また、部族は幾度となく、内外の脅威に対する防波堤となり、国の統一と安定を守るための有効な手段だった。 部族の名誉ある立場にもかかわらず、一部の集団は、部族が直面する脅威や困難に対して、個別に自衛を試みた。こうした試みの背後にある人道的な動機について理解しているものの、重要なのは、こうした行動が、国家を統治し、治安を確保するという国家の役割にとって代わるものではないという点で強調されることだ。シリア国家のみが、全土においてその威信と主権を維持できる存在なのだ。 我々は、部族の英雄的な立場に感謝するが、全面的な停戦の遵守と国家の命令への厳格な従順を要請する。すべての者が理解すべきは、我々みなが経験している状況を乗り越え、我々の国と土地を外部干渉や内乱から守るために、この瞬間が、一致団結と全面協力を必要としているということである。 第3:この困難な状況において、シリアとともにあることを明言し、国の安定と復興を重視しようとする米国の重要な役割に感謝し、高く評価する。また、この段階で実効的な支援を提供してくれたアラブ諸国の役割も見過ごすことはできない。さらに、トルコも安定と沈静化を支援する地域的取り組みの一部を担ってくれた。同様に、欧州連合(EU)、ロシア、中国も、イスラエルの爆撃とシリア主権に対して繰り返される侵害に強い拒否の姿勢を示してくれた。これらのパートナーが示した国際的なコンセンサスは、シリアの安定と主権に対する共通の関心を反映したもので、国の統一を脅かすいかなる干渉継続も許さないという揺るぎない再確認するものである。 こうした前向きな立場は、シリアの国益を近隣諸国や世界全体の利益と結びつけられたことによる効果的かつ統一された外交に依らずしてはもたらされない。これは、シリアが周辺の地域的・国際的環境に対して依然として影響力を持っていることを示すものであり、シリアが今も世界情勢の中心におり、地域の安定実現において重要な役割を担っていることを立証している。 第4:ドゥルーズ派全体を、由緒ある同派の歴史を代表しない一部の少数集団の姿勢に陥った理由で裁くことは許されない。スワイダー県はこれまでも、そしてこれからも、シリア国家の不可分の一部であり続ける。また、ドゥルーズ派は、シリアの国民的秩序(ナスィージュ)を構成する基本的存在である。我々は、シリアの国民統合を解体したり、その構成集団のいずれかを排除しようとするいかなる試みも、シリアの安定に対する直接的な脅威とみなし得ると認識しなければならない。 過去数か月にわたる出来事は、スワイダーの住民がそのあらゆる階層においてシリア国家の側に立ち、分断の企てを拒否していることを証明してきた。ただし、この国民的立場から彼らを引き離そうとする少数のグループが存在することも否めない。 第5:シリア国家は国のあらゆる少数派と宗派の保護を遵守しており、いかなる当事者によるものであれ、すべての違反行為を制裁するために進んでいる。いかなる人物であっても制裁を免れることはない。我々は、スワイダーの内外を問わず、発生したすべての犯罪および違法行為を否認する。正義の実現と法の適用をすべての者に対して徹底することの重要性を強調する。 ドゥルーズ派およびベドウィンの兄弟たちへ、互いを大切にして欲しい。数世紀にわたって諸君ら結んできた隣人関係と深い絆は、共有の歴史、近親関係、一つの運命、一つの祖国は、一時的な対立や過ぎ去る出来事によって揺らぐ以上に崇高で強力だ。 このような緊迫した状況下で、理性と英知の声を優先させることが強く求められている。双方の賢者に余地を与え、亀裂を修復し、人々の心を鎮め、関係の修復に努める役割を担わせよう。また、亀裂を煽り、宗派対立の火種を撒き散らし、報復や復讐の言説を広めようとする者たちには、断固として立ち向かわねばならない。シリア国家は、その国民的責務に基づき、社会平和とその統合、そして安定を守るために、和解に資するあらゆる努力を全力で支援していく。 現実が示すように、シリアは分断、分離、宗派的扇動の企ての実験場ではない。一部の者たちは、対立と分離の道を選び、悲劇的な結末に直面したことで、この道の危険性を証明した。今こそ、正道に立ち返り、一致団結して共通の国民的基盤の上に立ち、シリアの未来を築くための真の演壇を築くことが必要となっている。 シリア国家の強さは、国民の結束、地域・国際的関係の堅固さ、そして国益の一体性から発するものであり、それによって、その安定が確立され、長期的な復興が強化される。国土の統一を守り、不正に立ち向かって命を落とした祖国の殉教者たちに哀悼の意を表す。アッラーが、彼らを楽園に迎え入れ、負傷者たちに癒しを与えてくださいますように。 (C)青山弘之 All rights reserved.