西クルディスタン人民議会とシリア・クルド国民評議会がシリア北東部における自治構想をめぐって合意に至る、米国務長官はシリア情勢をめぐってアラブ諸国9か国の外相やアラブ連盟事務局長と会談(2013年9月8日)

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反体制勢力の動き

『ハヤート』(9月9日付)は、クルド人高官らの話として、西クルディスタン人民議会(民主統一党)とシリア・クルド国民評議会が、クルド人が多く住むシリア北部および東部での自治構想に関して合意(http://www.rihabnews.com/?cat=29)したと報じた。

この自治構想は民主統一党のサーリフ・ムスリム共同党首が数週間前に提案したもので、合意締結後40日以内に暫定憲法草案を作成するための委員会を設置すること、すべての勢力が選挙実施のための暫定委員会に代表を輩出すること、憲法施行と選挙法制定を経て合同移行民主自治政府を樹立すること、などが定められている。

合意はハサカ県カーミシュリー市のクルド最高委員会の本部でなされた。

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自由シリア軍参謀委員会のルワイユ・ミクダード政治広報調整官はAFP(9月8日付)に「我々は臨戦態勢にある。サリーム・イドリース参謀長は各戦線を訪問し、各地域の作戦司令室を統合した。(米国の)攻撃に対応し、最大限利用するかたちで作戦を策定した」と述べた。

また「バッシャール・アサドが、2年半におよぶ人道虐殺を通じてこの攻撃をもたらしたのだ」と非難した。

さらに「策定された計画により、新たな戦線を開き、武器を捕獲し、複数の地域を解放する…。(米国の)攻撃は軍の離反と…弱体化をもたらすだろう」と強調した。

そのうえで、ミクダード広報調整官は、西側諸国が攻撃に際して自由シリア軍からの情報提供を必要としていないと述べる一方、「参謀委員会と一部外国勢力は、軍事攻撃開始直前に攻撃目標がどこかを通知することで合意している…。我々はこの情報を各地の軍事評議会代表に伝え、彼らが攻撃を最大限り利用するのを支援する」と付言した。

その一方、「ジハード主義者は米軍の攻撃によって得をすることは決してあり得ない。現状を観察していればそのことは明らかだ…。イラク・シャーム・イスラーム国とシャームの民のヌスラ戦線は、アサド政権に対して何らの戦線も開いていない。クサイルやタッルカラフ、ダマスカスでイスラーム国の戦闘員を見たのか?こうした組織の戦闘員はアレッポ、イドリブ郊外、ラッカといった解放区に集中している。防衛線の戦闘に彼らは参加していない」と主張した。

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シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ウワイヤーン・ジャルバー議長と自由シリア軍参謀委員会のサリーム・イドリース参謀長は共同声明を発表し、マアルーラー市での攻防に関して、アサド政権が「革命のイメージをゆがめるため…、マイノリティ宗派を保護すると主張することで、マイノリティ宗派というカードを利用している」と非難した。

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反体制ニュースサイト「クッルナー・シュラカー」の管理人で、「平和のためのシリア・キリスト教徒」執行部代表であるアイマン・アブドゥンヌール氏は、米国のシリア軍事攻撃に抗議するためのミサ・断食を呼びかけるローマ法王フランシスコが「現状に基づいておらず…、大いなる(シリア)分割の計略の基礎をなすと考える」と非難した。

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シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン元事務局長はDPI(9月8日付)に「西側の国益は明白で、シリアがイランの一県にならないようにすることだ…。そうなれば、シリアが西側と世界のエネルギー供給源である湾岸の安全保障を脅かすからだ」と述べた。

またガルユーン元事務局長は「西側は自らのプレゼンスを強化し、ロシアや、バッシャールのような小者の独裁者の挑戦を許さないようにしたいと考えている」と指摘、「シリア国民との将来の信頼関係も維持しようともしている」と付言した。

シリア政府の動き

アサド大統領はCBS(9月8日付)のインタビューに応じ、化学兵器使用疑惑に関して米国が示した証拠が「決定的でない」としたうえで、米国がシリアへの軍事攻撃に踏み切った場合、シリアの同盟諸国も報復を行うだろうと述べた。

インタビューを行ったチャーリー・ローズ記者によると、アサド大統領は「私が自国民に対して化学兵器を使った証拠はない」と述べたという。

またアサド大統領は米国民に対して「中東で戦争を行うことは良い試練とはならないだろう」と語りかけ、攻撃を回避するよう呼びかけたという。

http://www.cbsnews.com/video/watch/?id=50154592n

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Damas Post(9月8日付)は、シリア学生国民連合と革命青年連合が近く、新たな民兵組織「バアス大隊」の結成を発表するだろと報じた。

同報道によると、新民兵組織は、シリア軍が制圧した地域の防衛を任務とするという。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表がAFP(9月8日付)によると、マアルーラー市では「軍が夜、市内に一時入ったが、多数の反体制武装集団が入り、同市を完全に制圧したため、再び撤退した」。

同監視団によると、マアルーラー市での戦闘により、反体制武装集団の戦闘員17人が死亡、数百人が負傷する一方、軍兵士も数十人が死傷したという。

マアルーラー市で暮らす女性はAFP(9月8日付)に対し、反体制武装集団がマアルーラー市全域に展開し、軍が撤退したとしたうえで、同市は今のところ平穏であると述べた。

このほか、シリア人権監視団によると、ムウダミーヤト・シャーム市を軍が砲撃した。

一方、SANA(9月8日付)によると、ダイル・サルマーン市、ザマーニーヤ市、アルバイン市、ハラスター市、ドゥーマー市郊外、フサイニーヤ町、フジャイラ村、ザバダーニー市東部山間地帯、サルハ市、ヤブルード市郊外、ルハイバ市で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またマアルーラー市および同市周辺でも、軍が反体制武装集団の追撃を続け、ヤブルード・ファールーク大隊の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラッカ県では、シリア人権監視団によると、軍がタブカ市の発電所近くなどに「樽爆弾」で空爆を行った。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、マアッルブライト市を軍が「樽爆弾」で空爆、またアリーハー市で軍と反体制武装集団が交戦し、反体制武装集団の戦闘員6人が死亡した。

一方、SANA(9月8日付)によると、ザルズール村、ズーフ村、マールティーン市、アブー・ズフール市、ハーッス村、カフルナブル市、バーッラ市、サルジャ村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ジャウバル区北部で、軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(9月8日付)によると、カーブーン区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラタキア県では、SANA(9月8日付)によると、ブルジュ・ハヤート村、サーキヤト・カルト村、ハーン・ジャウズ村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、リビア人戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ヒムス県では、SANA(9月8日付)によると、タッルカラフ市郊外で、軍がレバノン領から潜入しようとした武装集団を撃退した。

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アレッポ県では、SANA(9月8日付)によると、カフルハムラ村、バービース村、マアーッラト・アルティーク村、マーイル町、ハーン・アサル村、ラスム・アッブード村、ダイル・ハーフィル市、ナイラブ村、フライターン市、ハイヤーン町、アレッポ中央刑務所周辺、クワイリス村、バーブ市、アレッポ市では旧市街、ジュダイダ地区で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダイル・ザウル県では、SANA(9月8日付)によると、ダイル・ザウル市ジャフラー地区の空港周辺に潜入しようとした反体制武装集団を軍が撃退、殲滅」した。

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ダルアー県では、SANA(9月8日付)によると、ダルアー市、ジーザ町、フラーク市、ナワー市で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

レバノンの動き

UNHCRは、レバノンへのシリア人避難民の数が726,000人に達したと発表した。

このうち、622,000人が難民登録を終え、104,000人が申請中だという。

地域別の避難民数は、北部県が204,000人、ベカーア県が210,000人、ベイルート県・レバノン山地県が125,000人、南部県・ナバティーヤ県が81,000人。

UPI(9月8日付)が報じた。

諸外国の動き

CNN(9月8日付)は、8月21日付のダマスカス郊外県での化学兵器攻撃疑惑に関して、被害者・犠牲者を撮影したとされる新たなビデオ映像(http://www.youtube.com/watch?v=LsJMVaQsOKU&feature=player_embedded)を公開した。

同報道によると、ビデオ映像はバラク・オバマ政権が米議員らに対して示した証拠映像だという。

しかし、米上院情報委員会はこの証拠映像の信憑性を確認できず、また誰が化学攻撃を行ったかも特定できなかったと報じた。

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ジョン・ケリー米国務長官は、アラブ和平イニシアチブ委員会を構成するカタール、サウジアラビア、エジプトなどアラブ諸国9カ国の外相やアラブ連盟事務局長とパリで会談し、パレスチナ・イスラエル情勢、シリア情勢などについて協議した。

会談後、カタールのハーリド・アティーヤ外務大臣と行った共同記者会見で、ケリー国務長官は、化学兵器使用に関する国連調査団による報告書提出を受けて、シリア問題への対応について国連安保理での承認を得ることを米政権は否定しないと述べ、これまでよりやや柔軟な姿勢を示した。

ただし、この点に関して、バラク・オバマ政権はまだ決定していないとも付言した。

ケリー国務長官はまた、CNNなどで公開されたアサド政権による化学兵器使用を裏付けるとされるビデオ映像に関して、米議会議員の大多数が化学兵器使用にどう対応するかを決定していないがゆえに、公開したことを明らかにした。

そのうえで「米国はその価値観に反することを許さない。1925年に禁止された化学兵器が使われたことを米国民が見ることが重要だ…。アサド政権は化学兵器を11回も使用した」と強調、「我々がシリアで何もしなければ、ヒズブッラーやイランに化学兵器を使ってもいいというメッセージを発してしまう」との危機感を示した。

さらにケリー国務長官は、CBSによるアサド大統領のインタビューに関して、「証拠が語っている」と述べ、アサド政権が化学兵器を使用したとの見方を改めて示した。

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デニス・マクドノー米大統領主席補佐官はCBSによるアサド大統領のインタビューに関して、CBS(9月8日付)に「嘘だと思う」と述べた。

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『ロサンジェルス・タイムズ』(9月8日付)は、米軍総則筋の話として、国防総省がシリアへの軍事攻撃に関して、当初計画よりも大規模・長期間の軍事攻撃を準備している、と報じた。

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フランスのローラン・ファビウス外務大臣は、シリアへの軍事攻撃に関して、フランス3チャンネル(9月8日付)に「すべての国から物的、軍事的(支援)の誓約を得る必要はない。ほとんどの国はそうしたことを行う手段を持たない。必要なのは政治的支援だ」と述べた。

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トルコのNTV(9月8日付)は、トルコ軍がハタイ県のシリア国境に近いヤイラダーイ市近郊の山頂および、ウルファ県のジランビナル市にスティンガー・ミサイルの発射台を増強配備したと報じた。

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ドイツ日刊紙『ビルド・アム・ゾンターグ』(9月8日付)は、ドイツ軍が傍受した通信内容から、8月21日付のダマスカス郊外県でのシリア軍によるとされる化学兵器攻撃がアサド大統領の同意を経ずして行われた可能性が高いと報じた。

同紙によると、シリア軍幹部は「約4ヶ月前からダマスカスの大統領府で化学兵器攻撃を行うことを求めたが、常に拒否されてきた」と報じた。

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イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外務大臣はイラクを訪問し、ホシェリ・ゼバリ外務大臣らと会談、シリア情勢について協議した。

会談後の共同記者会見で、両外相は、「中東地域におけるいかなる国に対する攻撃も、地域すべての国に対するものとなり、すべての国に損害を与え、不安定化をもたらすがゆえ、あらゆる努力を通じて阻止せねばならない」との認識で一致したと発表した。

ザリーフ外務大臣はまた「我々が、バラク・オバマ米大統領が個人的に(攻撃を)望んでいなかったにもかかわらず、罠にかかったことを知っている…。彼がそこから抜け出すことを望んでいる。なぜならこの戦争は米国の国益にも、地域の国々の国益にもならないからだ」と述べたうえで、すべての当事者に「対話のテーブル」について紛争解決をめざすよう呼びかけた。

一方、ゼバリ外務大臣は、「シリアへの(軍事)介入は、近隣諸国に直接影響を及ぼす。なかでもイラクは安全保障、人道面で被害を受ける」と危機感を露わにした。

SANA(9月8日付)が報じた。

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イタリア外務省は、4月9日に反体制武装集団によって拉致されたイタリア人記者ドメニコ・キリコ氏とベルギー人教師のピエール・ピッチナン氏が釈放されたと発表した。

AFP, September 8, 2013、Bild am Zonntag, September 8, 2013、CBS, September 8, 2013、CNN, September 8, 2013、Damas
Post, September 8, 2013、al-Hayat, September 9, 2013、Kull-na Shuraka’, September 8, 2013、Kurdonline, September
8, 2013、The Los Angels Times, September 8, 2013、Naharnet, September 8, 2013、Reuters, September 8, 2013、SANA,
September 8, 2013、UPI, September 8, 2013などをもとに作成。

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