アサド大統領の就任演説(2014年7月16日)

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就任演説

6月3日に投票が行われた大統領選挙で当選したアサド大統領は、ダマスカス県の人民宮殿で3期目(2012年2月新憲法のもとでは1期目)の就任演説(https://www.youtube.com/watch?v=dZEmfpXspJU)を行った。

就任演説はこれまで人民議会議事堂で議員を前に行われていたが、今回は人民宮殿において一般市民が傍聴するなかで行われた。

会場にはジョルジュ・ワッスーフ氏、ドゥライド・ラッハーム氏、ラシード・アッサーフ氏、バッサーム・クーサー氏、ジルジス・ジャッバーラ氏、アッバース・ヌーリー氏、アイマン・ザイダーン氏、サラーフ・フワーヒルジー氏、ワーイル・ラマダーン氏、ディーマー・カンダルファト氏ら芸能人も招聘された。

Kull-na Shuraka’, July 16, 2014

またアサド大統領は、シリア国内に現存する最古のコーラン(ダマスカス県にあるカダム・モスクのシャイフ、サーリフ・ビン・フサイン・ブン・アブドゥルカーディル・タキー・カフルスィースィーが1780年に制作した写本)に手をかざし、就任宣誓を行った。

就任演説におけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:

「3年と4ヶ月…。一部の人々があなた方の代表だとして「国民は…を望む」と主張した…。数年にわたり、彼らは発言し、行動し、そして幻想に埋没した。これに対して、あなた方国民は現実を作り上げた。彼らは革命を望んだが…、あなた方こそが真の革命家だ。あなた方の革命、そしてあなた方の勝利よ、おめでとう。あなた方が身を置くシリアよ、おめでとう」。

「あらゆるヘゲモニーと敵対行為に抵抗してきたシリアの人民よ、おめでとう…。信任投票と選挙に対するあらゆる恐怖とテロに抵抗し、戦火のなかで自らの権利を行使し、敵対行為を頓挫させたシリアの人民よ、おめでとう…。彼らの醜い顔は、自由や革命といった仮面が落ちたことで白日のもとに曝されたのだ」。

「あらゆる嘘、ねつ造にもかかわらず、世界はあなた方の声(投票)を耳にした。あなた方は真の声をあげ、世界に真実を見せた…。この選挙(大統領選挙)は世界の他の場所とは異なり、単なる政治的プロセスではなく、全方位的な戦いだった…。祖国の敵にとって、それは国家の正統性を奪い、シリア国民が自らを統治できない分裂した弱い存在だということを示し、そのうえでさまざまな口実で干渉を正当化するための手段だった」。

SANA, July 16, 2014

「しかし我々にとって、この選挙は、祖国への真の所属を宣言するものだった…。選挙は主権、正統性、自決、国民の尊厳を防衛するための戦いだった。また選挙に多くの国民が参加したことで、あらゆる形態のテロに対抗する主権が信任された。多くの人々にとって誰が勝つかは重要ではなかった。重要なのは誰が負けるかだった。あなた方は投票によってテロリストを敗北させたのだ。また彼らとともに、その手先となってきたシリア人を敗北させたのだ」。

「国外で行われた選挙に関して言うと…、在外居住者や避難民といった在外シリア人は…自らの言葉を述べ、世界を驚かせた…。在外シリア人は選挙を通じて、心も魂もシリア人であることを宣言したのである」。

「多くのシリア人にとって大統領選挙は銃弾のようなものであり、それはテロリストとその背後にいる者たちの胸を打ち抜いた。数百万という銃弾が放たれ…、政治、情報、石油の帝国主義は純粋で偽りのない愛国的な姿勢を前に何もできないことが明らかになった…。憲法の適用は、祖国、その統合、さらには安定を守るもっとも重要な手段である。それゆえ彼ら2人(大統領選挙に立候補した対立候補2人)には祝辞を述べたい。なぜなら、勝者が誰になるのかといったことを度外視して、この状況下で選挙に出馬することが、人民の勝利であり、祖国の勝利となるからだ。また迫撃砲、脅迫、戦火に立ち向かったすべてのシリア人に祝辞を述べたい…。この勝利は、殉教者、負傷者、そして辛抱強い遺族なくしては実現しなかった」。

「シリア国民に対して行われているこの戦争は、汚れた戦争だ…。我々は今日、未来を見据えている…。未来は国民以外の誰のものでもないという信頼をもって未来に向かって進んでいる」。

「植民地主義的西欧は、いまだ植民地主義的だ。方法が違えど、本質は一つだ。西欧とその取り巻きであるアラブ諸国政府は、自らの計略において頓挫した。ただしこれは、彼らが別の目標のために、シリアを消耗させることを止めるという意味では決してない。自らが計画した政治目標をさまざまなかたちで実現しようとしているだけだ」。

「今日のイラク、そしてシリア、レバノン、そして偽りの春を被ったすべての国において我々が目にしているものは、我々がこれまで何度も繰り返し警鐘をならしてきたことが正しかったことを具体的に示しているものではないのか? 我々は近く、テロを支援してきたアラブ諸国、地域諸国、西欧諸国が高い代償を払うことを目にするだろう。そして彼らの多くが遅きに失したと考えることだろう。シリア国民が祖国防衛のために行っている戦いが、領外へと至り、同じテロに早晩曝されることになる多くの国の国民を守るものであるということを理解するだろう…。西欧とその同盟者が、遅きに失したということ以外、誤った経験から教訓として学び取らないからといって、我々も同じようにしていてよいのか…? ことは春などではなく、また自由、民主主義とも無縁だった」。

「我々は、二つの路線を並行して行うことを決定してきた。容赦ないテロの撲滅と、誤った道を正したい者との国内での和解の実施、である。我々は当初から、問題の解決策が純粋にシリア的な解決策であると理解してきた。そこにおいて部外者が果たすべき役割はないと理解してきた…。多くの人々が武器を捨て、復帰し、軍とともに戦い、祖国防衛のために犠牲となっている。騙された人たちに繰り返し呼びかけたい、武器を捨てよと…。我々を裏切って外国に出た者、手先、腐敗した者には関心はない。我々はこうしたものを国から一掃した。彼らにはもはや居場所などない…。外国で戦争を終わらせようと期待している者は夢想家だ。いわゆる概念としての「政治的解決」とは、国内の和解のうえにうち建てるものだ」。

「国民和解は国民対話と矛盾するものではないが、それにとって代わるものでもない。国家はさまざまな政治勢力、政党、社会勢力と対話を始めてきた…。それは網羅的であり、国が現在置かれている状況に関わるものではない。それは祖国の未来、あらゆる領域における国家建設をめぐるものであり、現下の危機に関わるもの、そうでないものいずれもが議論される…。しかしこの対話には、愛国心のない勢力は含まれない。彼らは当初、対話することから逃げ、(パワー・)バランスを変化させるという賭けに出た…。これらの勢力は愛国心…を主張する一方で、外国からの支援…の見返りとしてテロリストの活動を包み隠すような立場をとろうとしてきた」。

「他人を犠牲にして自分だけの利益のために行動する利己的な者たちに話を移そう。こうした人々を我々はこの危機において多く見てきた…。彼らはその危険度においてテロリストと同じだ…。制度、法律の発展について話す代わりに、道徳について話せばよいというものではなく、また国家がそうすることの責任を逃れることも正当化されない。道徳や文化が基礎をなすのであれば、国家の行政や制度の発展は建物のようなものなのだ。しっかりとした基礎がない建物は、すぐに倒れてしまう。以上のことから、我々はこの二つの問題が結びついているとみなしすことで、汚職について話をすることができるようになる。汚職とはあらゆる社会、国家にとって最大の脅威だ。財政面、行政面での汚職の根底には道徳的汚職がある。この二つの汚職はもっとも危険な腐敗、すなわち愛国面での腐敗をもたらし、これによって、祖国とその血を…売り渡すような者が現れる」。

「汚職撲滅を国家機関、社会全体における今後の我々の最優先課題としよう。高官だけでなく、我々個々人すべてにとっての優先課題としよう」。

「復興が今後の段階における経済の主題となる。我々はみながこの点において努力を集中させ、同時に復興を貫徹させ、支援することになるすべてのセクターを復興させるために活動することになろう。ここで私は、知的労働、中小規模の産業に力点を置きたい…。加えて、国政セクター、農業セクターを二大戦略セクターとして重視し続ける…。我々が復興と言うとき、それは今後の段階の経済を指している。このように言うことは、現下の問題が終わるまで待つことだというに理解されるものではなく、我々は今日、始めなければならない」。

「今日から、我々は新たな段階を迎える。そのなかでも重要なのは、祖国の防衛、道徳面、心理面、物質面での祖国の復興についてコンセンサスに達することである。またもっとも重要なのは、テロ根絶についてコンセンサスに達することである…・それには今後の段階において、我々の努力を倍増させる必要がある。そしてそれは、国民と政府が相互関係の構築を意味する…。それゆえ、「いっしょに」(サワー)という言葉を表明したのであり、それは個々人が未来に向かって進むという責任感を高めることを意味している。「いっしょに」とは我々がともにシリアを復興させることを意味する…。我々はあらゆる場所でテロ撲滅と和解の実施を続ける…。また我々は法律と道徳をもって汚職と戦う」。

「もしこの春(アラブの春)が…自由、民主主義、公正を得るためのものだったら、もっとも後進的で、抑圧と専制がもっとも深刻な国において始まっていたはずだ。しかしこうした国々は、この民族(アラブ民族)が被った大災難(ナクバ)の背後におり、民族に対する戦争の背後におり、思想、宗教の逸脱、道徳的衰退の背後にいた。これらの国の存在が、欧米にとってもっとも重要な成果であり、イスラエルが成功し、我々の地域に存続している最大の理由なのだ…。なぜ彼らは、ガザに資金や武器を供与しないのか? なぜ彼らはパレスチナの民を守るためにムジャーヒディーンを送り込まないのか…? これらの国が1970年代後半から80年代にかけて、ムスリム同胞団、すなわちシリアの悪魔同胞団を支援してきたのではないのか?」

「こうした従属的な国々が自らの役割を成功させるため、アラブの春の名のもとに混乱に資金を投じてきた…。彼らはシリアで果たしてきた役割を、今日ガザで果たしている」。

「パレスチナ問題と距離を置いて我々が安全に暮らせると考えるものは夢想家であり、この問題は中心的な問題であり続ける」。

「テロとの戦いにおけて、我々はこれまでの我々の大いなる成果を実現したが、愛おしいラッカのことは忘れることはなく、我々はアッラーのお許しのもとテロリストから同地を解放するだろう。アレッポとその英雄的な住民について、我々は安寧を取り戻すまでそのこと忘れることはない…。アレッポはすべてのシリア人にとっての心臓のような存在だ。身体が…自らの目や心臓…のことをどうして忘れられようか? シリア・アラブ軍に祝辞を述べたい。将兵に…、国防を担う人民諸集団に、武器を持ち、自らの国の尊厳を守ろうとする若者たち…に祝辞を述べたい。そして自らの子息を軍に捧げてきたすべての国民に最大の祝辞を捧げたい…。また我らの軍とともに、国境の両側で…戦いを行い、勝利のために命を捧げてきた英雄的なレバノン抵抗運動の忠実なる子息のことを忘れない…。イラン、ロシア、中国に謝意を示した。これらの国は3年間にわたり、シリア国民の決定や意思を尊重し、国連憲章における主権尊重、内政不干渉といった権利を擁護してきた」。

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クッルナー・シュラカー(7月16日付)によると、ダマスカス県内では、就任演説会場になると思われていた人民議会議事堂に通じる道路や、大統領私邸があるムハージリーン区の交通規制が行われる一方、軍ヘリコプターがカフルスーサ区、ムハージリーン区、マッザ区などの上空を旋回し、厳戒態勢が敷かれたという。

Kull-na Shuraka’, July 18, 2014

Kull-na Shuraka’, July 18, 2014

Kull-na Shuraka’, July 18, 2014

Kull-na Shuraka’, July 18, 2014

Kull-na Shuraka’, July 18, 2014

Kull-na Shuraka’, July 18, 2014

レバノンの動き

Naharnet, July 16, 2014

レバノン軍団のサミール・ジャアジャア代表は、アサド大統領による3期目の就任演説に関して「嘲っていいものか、泣いていいものか分からない…。ジャアジャア代表は「この人物(アサド大統領)は現実から完全に乖離しており、もはや存在しない共和国の大統領に自らを就任させ、存在しない憲法に従って宣誓を行った」と非難した。

ジャアジャア氏は、レバノン大統領選挙に立候補しているが、ヒズブッラーや自由国民潮流、さらには進歩社会主義党の反対によって、大統領に選出されずにいる。

AFP, July 16, 2014、AP, July 16, 2014、ARA News, July 16, 2014、Champress, July 16, 2014、al-Hayat, July 17, 2014、Kull-na Shuraka’, July 16, 2014、July 18, 2014、al-Mada Press, July 16, 2014、Naharnet, July 16, 2014、NNA, July 16, 2014、Reuters, July 16, 2014、SANA, July 16, 2014、UPI, July 16, 2014などをもとに作成。

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