ハルキー内閣がアサド大統領の演説で示された危機解決に向けたプログラムの詳細行程を閣議決定するなか、シリアの反体制武装勢力は昨年8月に拉致していたイラン人巡礼者48人を釈放(2013年1月9日)

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シリア政府の動き

ワーイル・ハルキー内閣は、アサド大統領の1月6日の演説で示された危機解決に向けたプログラムに必要な仕組みを構築するための特別会合で、その詳細を閣議決定した。

プログラムの実施に関して、閣議では以下の方針が承認された。

1. 首相、経済問題担当副首相兼国内通商消費者保護大臣、運輸大臣、情報大臣、工業大臣、法務大臣、国民和解問題担当国務大臣、赤新月社担当国務大臣、人民議会担当国務大臣からなる作業チームを設置する。
2. 武装集団と関係を持つ諸外国、国際社会・中東地域の当事者に、資金、武器、潜伏先提供の停止を呼びかける。
3. 武装集団に暴力の即時停止の履行を呼びかける。
4. 避難民の帰国を促すため、祖国、国民統合、主権、独立を維持する。
5. 武装テロ集団による停戦履行を受け、軍治安部隊は報復権を留保しつつ、軍事作戦を停止する。
6. 国際社会への危機の政治的解決とテロ撲滅支援を呼びかける。
7. 外務在外居住者省に、国際社会、地域に対してプログラムの内容を開示・広報する。
8. 救急医療活動、インフラ等の復興事業、消費物資確保、経済復興、避難民に対する補償を加速するための内閣特別分科委員会を設置する。
9. 最高支援委員会による人道支援、NGOとの協力を拡充する。
10. 逮捕者の裁判、釈放への迅速な対応を行うため、法務省が関係機関との調整を進める。
11. 内閣は国内外の愛国的反体制勢力およびすべての政党、指導者、運動、社会組織への公開対話参加を呼びかけ、国民対話大会開催の準備をともにめざす。

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そのうえで、ハルキー内閣は、シリア国民に向けて、危機解決に向けたプログラム実施の行程を提示する声明を採択した。

3段階からなる同行程の詳細は以下の通り:

1. 準備段階

1-1. すべての国、国際社会・地域の当事者が武装集団への資金、武器、潜伏先の提供を停止する。
1-2. すべての武装集団があらゆる暴力を即時に停止する。
1-3. 軍武装部隊は、自衛、国民および公共・私有財産の保護目的以外の軍事作戦を停止する。
1-4. 当事者による暴力停止、国境監視の仕組みを構築する。
1-5. 人道支援の搬入を円滑化する。
1-6. インフラ復興と被災者への補償を開始する。
1-7. 避難民に対して必要な補償を行う。
1-8. すべての反体制勢力に、国民対話参加のためのシリアへの帰国、滞在、出国を保証する。
1-9. 法務省は関係機関と調整し、危機に関連する司法手続きや逮捕者の釈放を迅速に行うための必要な措置を講じる。
1-10. 内閣は、国内外の愛国的反体制勢力、政党、政治組織、市民社会団体と連絡を強化し、包括的国民対話大会開催を準備するための公開対話を開始する。

2. 移行期間(準備期間終了をもって開始される)

2-1. 内閣は、国民憲章起草のため、以下の点に即して、包括的国民対話大会の開催を呼びかける。
2-1-a. 主権、統合、国土・国民の安全の確保。
2-1-b. あらゆる内政干渉の拒否。
2-1-c. あらゆる暴力、テロの拒否。
2-1-d. 民主的シリアの政治的未来の描出。立憲法治体制確立の合意。政治的多元主義、司法の独立、市民国家の維持、人種・宗教などを問わない市民の平等、表現の自由、人権尊重、汚職撲滅、行政改革、政党・選挙・地方自治・情報などに関する新法制定への合意。
2-2. 国民憲章は国民投票によって承認する。
2-3. 憲法の規定に従い、広範な行政権を有する拡大政府を発足する。同政府はシリア社会のすべての構成要素を代表し、新憲法起草のための制憲委員会を設置する。
2-4. 制憲委員会の任務完了を受け、憲法草案を国民投票によって承認する。
2-5. 憲法制定後、拡大政府が新憲法を公布する。
2-6. 新選挙法と新憲法の規定に基づき議会選挙を実施する。

3. 第3段階

3-1. 新憲法に基づき新政府を樹立する。
3-2. シリア国民を特徴づける道徳的・愛国的概念に依拠して、シリア国民どうしの結束を回復するため国民和解大会を開催する。
3-3. 危機にかかる犯罪への恩赦と逮捕者の釈放を行う。
3-4. インフラ整備、復興、被災者への補償を加速・完了する。

SANA(1月9日付)が報じた。

反体制勢力の動き

シリア人権監視団によると、ダマスカス郊外県には依然として、約4,500人の反体制武装勢力の戦闘員が潜伏し、そのなかにはダーライヤー市を拠点とするシャームの民のヌスラ戦線メンバー150人も含まれる、という。

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ダマスカス国民民主変革宣言(ダマスカス宣言)事務局が声明を出し、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表が「一部の反体制勢力と不可解で欺瞞に満ちたゲーム」に終止していると非難する一方、国際社会が「シリアでの流血や犠牲を無視している」と批判した。

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ロイター通信(1月10日付)が複数の消息筋の話として、反体制武装勢力が占拠するイドリブ県サルミーン市で、ファールーク大隊の司令官(イスラーム主義者)が9日に狙撃され、死亡した、と報じた。

同消息筋によると、この暗殺事件は、2011年9月に起きたシャームの民のヌスラ戦線の司令官の一人であるフィラース・アブスィー暗殺への報復の可能性があるという。

戦闘員の一人は、ロイター通信(1月10日付)に対して、「車を降りたところ、食糧庫から銃弾を浴びた」としたうえで、「ヒムスの司令官であるアブスィーの兄弟が、フィラース暗殺の復讐を約束しており、その約束を実行したようだ」と述べた。

またファールーク大隊高官は、アブスィー暗殺に関して、「政府が殺害の背後におり、我々にはヌスラ戦線を標的とするような政策をとっていない。我々は一部の地域で同戦線と共闘している」と述べた。

同報道によると、離反兵や武装した民間人からなるファールーク大隊とシャームの鷹旅団がイドリブ県の対トルコ国境のバーブ・ハワー国境通行所を制圧する一方、外国人ジハード主義者からなるヌスラ戦線も同地域一帯に展開しており、両勢力の間では緊張状態が続いている。

しかし、2012年12月にトルコのハタイ県アンタキア市で欧米諸国の肝入りで結成された自由シリア軍参謀委員会に、ファールーク大隊、シャームの鷹旅団、ヌスラ戦線は参加しておらず、事態収拾のための介入ができない、という。

クルド民族主義勢力の動き

クルディーヤ・ニュース(1月9日付)は、クルド人活動家14人が共同声明を出し、シリア革命反体制勢力国民連立のムアーッズ・アフマド・ハティーブ議長に対して、ハサカ県ラアス・アイン市の民家を占拠する「自由シリア軍を名乗る民兵」を退去させるよう要求した。

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クルディーヤ・ニュース(1月9日付)は、ドイツの人道支援団体が声明を出し、ドイツによるクルド人への支援に関するシリア・クルド民主党のアブドゥルハキーム・バッシャール書記長の批判に対して、告訴も辞さないとの強い姿勢で反論したと報じた。

同報道によると、バッシャール書記長は4日のエルビル(イラク)での記者会見で、ドイツの人道支援団体がシリアのクルド人に供与されるべき物資を民主統一党の人民防衛隊(PYD)に提供していると非難していたが、ドイツの人道支援団体はこの発言が事実無根だと反論した。

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クルディーヤ・ニュース(1月10日付)は、パリで、PKK創設メンバーの女性活動家1人を含むクルド人女性3人が暗殺された、と報じた。

国内の暴力

ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ジバーブ・ハマド村が未明に軍の空爆を受け、子供4人を含む10人が死亡した。

同監視団によると、空爆に先立って、ジバーブ・ハマド村に近いフルクルス町入口の諜報機関本部を反体制武装勢力が襲撃を受けた、という。

一方、SANA(1月9日付)によると、タッルドゥー市で、軍が反体制武装勢力のロケット弾製造工場を攻撃、破壊、多数の戦闘員を殺傷した。

またタイバ村、クサイル市郊外などで、軍が反体制武装勢力を攻撃・追撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、アルバイン市・ハラスター市間に位置する車輌管理施設周辺で未明に爆発と銃撃戦があった。またフジャイラ村、サイイダ・ザイナブ町、ムウダミーヤト・シャーム市が砲撃を受けた。

一方、SANA(1月9日付)によると、フジャイラ村、ズィヤービーヤ町、マダーヤー町、ダーライヤー市などで軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、マアッラト・ヌウマーン市西部が砲撃を受けたが、死傷者はなかった。

一方、クッルナー・シュラカー(1月9日付)は、複数の士官の話として、シリア軍がイドリブ県にエリート部隊を投入し、反体制武装勢力の掃討作戦を行っている、と報じた。このエリート部隊の兵力は約4,000人の完全武装した兵士からなるという。

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ダマスカス県では、クッルナー・シュラカー(1月9日付)によると、ダマスカス県のマッザ86地区と人民宮殿をつなぐ複数の道路が再開された。

これらの道路は共和国護衛隊によって封鎖され、住民の往来が規制されていた、という。

同じく、クッルナー・シュラカーによると、アッバースィーイーン広場で市民92人が「テロリスト摘発」を目的に、人民諸委員会によって身柄拘束された(未確認情報)。

身柄拘束された市民の多くは、同広場でセルヴィスなどを待っていたジャウバル区住民だという。

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アレッポ県では、SANA(1月9日付)によると、バウワービーヤ村、クサイバ市、ズィーターン市、カラースィー村、ハーン・アサル市、カイラワーン村、バスラー・フーシュール市、カフルナーハー村、ハーン・トゥーマーン村などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷、拠点を破壊した。

レバノンの動き

『シャルク・アウワト』(1月9日付)は、シリアのシーア派筋の話として、ヒズブッラーがベカーア県東部で、シリア人のシーア派宗徒約1,500人に軍事教練を行っている、と報じた。

自由シリア軍国内合同司令部中央広報局のファフド・ミスリー(在レバノン)によると、彼らはシリア国内のシーア派の村を反体制武装勢力の攻撃から防衛するために教練を受けているという。

諸外国の動き

シリアの反体制武装勢力は、2012年8月に拉致したイラン人巡礼者48人を釈放した。これを受けシリア政府は、2,135人の逮捕者を「善意」(イラン消息筋)に基づいて釈放した。

イランの複数の消息筋によると、この身柄拘束者の交換は、トルコとカタールの合同の努力の結果だという。

シリア政府が釈放した2,130人の氏名については公表されていないが、同消息筋は、釈放者のなかにトルコ人など外国人が多数含まれていることを明らかにした。

同消息筋によると、イラン側とシリアの反体制武装勢力との交渉は、数ヶ月にわたり、トルコ、カタールなどを仲介して行われたが、反体制武装勢力が立場を翻したり、シリア政府が反体制武装勢力の要求を受け入れる準備ができていなかったために難航した、という。

釈放されたイラン人巡礼者48人は、ダマスカス県のシェラトン・ホテルにマイクロバスで到着し、ムハンマド・リザー・シーバーニー駐シリア・イラン大使がこれを出迎えた。

自由シリア軍のダマスカス県・ダマスカス郊外県の報道官を名乗るアフマド・ハティーブはAFP(1月9日付)に対して、2,135人の逮捕者釈放のための「交渉が理論的に完了した」としたうえで、釈放された逮捕者のなかに「重要人物が含まれている」ことを明らかにした。

しかし、釈放された逮捕者の氏名など交渉の詳細については、「カタール、トルコのもと、イランの介入を通じて行われた体制との取引が実行されるまで」明らかにしない、と述べた。

『ハヤート』(1月10日付)は、トルコの人道支援組織の報道官(セルカン・ナルジス氏)の話として、釈放された逮捕者が民間人で、ダマスカス県、ヒムス県、イドリブ県、ラタキア県、タルトゥース県の住民が多く、トルコ人4人も含まれていると報じた。

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イランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣は、エジプトを訪問し、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表と会談、シリア情勢について協議した。

サーレヒー外務大臣は10日までエジプトに滞在、アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長、ムハンマド・ムルスィー大統領、ムハンマド・カーミル・アムル外務大臣と会談予定。

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アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表はBBC(1月9日)のインタビューに応じ、そのなかで、アサド大統領の6日の演説で示された危機解決に向けたプログラムに関して、「提示されたものは、実質的に成功を収めなかったこれまでのイニシアチブの繰り返しになるだけではないか…。実際、この点に相違はなく、おそらくより宗派主義的で一方的なものかもしれない」と述べた。

また「上からの改革に与えられた時間は…終わった。人々は自分たちが支配の方法について語りたいと思っており、自らの将来に関する事柄を自身で行いたいと思っている」と付言、アサド大統領の演説によってシリア危機の解決の「機会が逸する」との見方を示した。

そのうえで「シリア人はアサド家がシリアを統治した40年という期間があまりに長いと考えており、それにもっとも近い立場の発言が、アサド大統領の退陣を直接呼びかけるものだ」と述べた。

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ロシア外務省は声明を出し、シリア紛争をめぐる国際社会の交渉が「1月6日のアサド大統領の演説で示された幾つかのアイデアを考慮するかたちで」続けられるだろうと発表した。

「幾つかのアイデア」の詳細については言及しなかった。

また「シリア大統領はシリアでの対話開始と、シリアの主権、独立、領土の統一性、内政不干渉の原則に基づく改革実施の用意があることを強調した」と述べ、アサド大統領の姿勢を評価した。

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『ハヤート』(1月10日付)は、シリア問題を担当する米高官の話が、「アサド大統領と彼の取り巻きのマフィアの選択肢は権力を去ることだけで、ラタキアにアラウィー派国家を建設することではない」と述べたと報じた。

同高官は、シャームの民のヌスラ戦線に関して、「アラウィー派を脅迫する…最近のビデオ声明は、多くのシリア人の恐怖を高めるだろう…。(ヌスラ戦線による)脅迫は、政治的解決を通じてアラウィー派が平和に暮らせるということを示し、彼らを安心させようとする我々の試みに完全に逆行する」と付言した。

一方、同高官は、イランやヒズブッラーによるアサド政権への軍事支援についても非難した。

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NTV-Turk(1月9日付)など複数のトルコ・メディアは、トルコ政府がPKKの指導者アブドゥッラ・オジャランとの停戦に合意したと報じた。

同報道によると、交渉は2012年から行われており、合意は、①PKKによる攻撃を2013年3月に停止と戦闘員のイラクへの移動、②トルコ政府によるクルド人活動家の釈放、クルド人の人権拡大のための改革実行、を骨子とする。

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『ハヤート』(1月10日付)は、欧州の外交筋が、シリア国内での暴力が停止した場合、欧州がアサド政権と反体制勢力の対話を支援するだろうと述べた、と報じた。

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『フィナンシャル・タイムズ』(1月9日付)は、西側の匿名高官筋の話として、米国および中東の複数の専門家が、シリアのウラニウムの備蓄をアサド政権が管理できなくなることを懸念しているとの根拠のない報道を行った。

西側諸国政府による化学兵器などの拡散の可能性への懸念表明は、シリアの反体制武装勢力が劣勢を強いられる度に行われている。

AFP, January 9, 2013、Akhbar al-Sharq, January 9, 2013、BBC, January 9, 2013、The Financial Times, January 9, 2013、al-Hayat, January 10, 2013、Kull-na Shuraka’, January 9, 2013, January 10, 2013、al-Kurdiya
News, January 9, 2013, January 10, 2013、Naharnet, January 9, 2013、Reuters,
January 9, 2013, January 10, 2013、SANA, January 9, 2013、al-Sharq al-Awsat, January 9, 2013などをもとに作成。

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