アサド大統領がドゥンヤー・チャンネルの単独インタビューに応じ「緩衝地帯」設置の構想を「現実的でない」と一蹴、シリア国民評議会のカドマーニー報道官が同評議会を脱会(2012年8月29日)

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アサド大統領のテレビ・インタビュー

シリアのバッシャール・アサド大統領はドゥンヤー・チャンネルの単独インタビューに応じ、シリアが自国の権利擁護、レジスタンス支援、イランとの関係といった原則的な立場を維持するために犠牲を払っていると強調する一方、反体制武装勢力を支援するために西側諸国が設置を検討している「緩衝地帯」に関して、西側にとっても現実的でないと一蹴した。

SANA, August 29, 2012

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り。

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(アレッポでの反体制武装勢力掃討作戦に関して)「結局のところ、問題は第1に、意志の戦いだということだ。彼ら(反体制武装勢力)には国を破壊しようとする意志がある…。彼らは次から次へと転戦を試みている…。しかし武装部隊が行う複雑な戦闘の規模を考慮するのであれば…、この戦闘はもっとも複雑な戦闘であることが分かる。にもかかわらず、武装部隊は大きな成功を収めている」。

「すべての人が、数週間、数日、数時間で成果が出て決着がつくことを望んでいる。しかしそれは非論理的である。我々は地域的・世界的な戦いを行っている。それを決着させるのには時間がかかる。しかし約言するなら、我々は前進しており、事態は実質的に改善している。しかしまだ決着はついておらず、それには時間がかかる」。

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(アサド政権の退陣を主張する近隣諸国に関して)「我々はこうした国から何を望むのかを、国、国民、市民のレベルで区別しなければならない…。我々はまず(周辺諸国の)国民のことを考えねばならない。なぜならこれらの国の政府はいずれ交代し、こうした政府との問題もいずれなくなるからである…。我々は国民との関係を維持しなければならない。なぜなら彼らこそが我々を護ってくれるからである…。時間がかかるだろうが、忘れてならないのは、こうした各国国民がいずれ政府に反対する運動を起こすだろうということだ」。

「各国国民と敵対することは、テロの伸張を抑えることにはならない…。我々は(各国国民との)関係を良好に保ち、真実を示すことで支援しなければならない。これらの国民がシリアで起きていることの真実を知れば…、彼らの政治運動はより協力になろう」。

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(ヒムス市での掃討作戦の長期化に関して)「同市での事態の決着が遅れているのは、武装部隊が都市内部で作戦を行っているからだ。つまり武装部隊は二つのことを考慮しなければならない。第1に人名、第2に財産…。武装部隊がその軍事力のすべてを投じれば、敵を短期間で掃討できるが…、それでは求められた結果を実現できないのだ」。

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(西側諸国が設置を検討している緩衝地帯に関して)「緩衝地帯とは国家の合意がいる…。しかし我々は国家として、1日たりともシリアの実効支配下にない地域があると認めるなどと決定してはいない。軍がそうしようと思えば、どこにでも進軍できるからだ…。彼ら(西側諸国)は、多くの地域が国家の支配下にないと考えている。しかし軍はほとんどの地域に容易に進軍できる。つまり彼らには緩衝地帯など設置できない。それゆえ、緩衝地帯をめぐる議論は事実上存在しないと考えている。しかもそれは、シリアに敵対する国にとっても非現実的だ」。

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(軍がゴラン高原ではなく、国内の都市に展開していることに関して)「どの国においても軍・武装部隊の任務は、祖国防衛だ。祖国防衛は外国からの自衛だけを意味しない。国内での自衛も意味する。どこからどんな敵が来ようとも、軍・武装部隊といった組織をもって祖国を護らねばならない。現下の危機において、敵は国外ではなく国内にいる。彼らはシリア人だと言うかもしれないが、私は外国の敵対的計略を実行しようとするシリア人はシリア人ではないと言いたい」。

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(紛争に対する国民の理解に関して)「国家という立場からすると、国民の理解が存在しないというのは問題だった。しかし最近数ヶ月間で国家を支えてきたのは、シリア国民の多くにとってイメージが明らかになってきたことだ。政治、そして治安状況には明らかに変化が生じ、現状や武装集団に対する国民の感情も変化してきた。なぜなら、彼らは現状が革命でも(アラブの)春でもなく、あらゆる意味においてテロ活動の現象だということを知ったからだ。また当初明らかでなかった外的要因も明らかになっている」。

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(メディアの役割について)「政府のパフォーマンスは上から監督されねばならないし、下から、すなわち国民ベースで監視されなければならない。しかしこれまで求められてきたのは、上からの高官の監督だけだった。これでは不十分だ。より公務員などといったレベルにおいては国民の監視が必要で、メディアはここにおいて基本的な役割を担うべきだ」。

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(離反に関して)「離反とは、ある組織が上部の組織に背くことを意味する…。しかしこうしたことはいまだに起きていない。これまで起きたのは、何らかのポストに就いていた一部の者が外国に逃れたという事例だけで、これは逃亡、脱走であって、離反ではない。離反は国内で生じるものだ。脱走者は金を受け取った腐敗した…者かもしれないし…、テロリストなどに脅された臆病者かもしれない…。あるいは期待していた報酬、利権を得られずに…逃げた者かもしれない…。こうした行為は実際のところ、第一に国家を、そして祖国全体を自浄するために有益な行為だ。それゆえ、我々は腹を立ててはいけない」。

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(アサド政権への諸外国の執拗な圧力に関して)「これこそがシリアの歴史だ…。なぜならビラード・シャームは戦略的な地域だ…。現在、我々はさまざまな立場を維持しようと犠牲を払っている。例えば、シリアの主権に関わる原則的な立場、レジスタンスへの姿勢、イランなど西側が快く思わない国との関係などである…。(西側諸国による)この手の制裁は確かにシリアに影響を及ぼすだろう。しかしそれは相対的なもので、現状にいかに適用するかによる…。我々は歴史を通じて知恵を身につけてきた。我々には高い適応力がある。歴史を通じてさまざまな危機にその身を置いてきたからだ…。我々は自らの経済を新たな状況にふさわしいかたちで再構成しなければならない」。

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(対話を通じた危機の政治的解決に関して)「危機発生当初から、我々はすべての勢力、個人と政治について対話を行ってきた…。その際、我々は問題が単に政治問題ではなく祖国に関わる問題で、すべてのシリア人が危機解決に関与すべきだと考えた…。反体制勢力のなかには、自らにとって利益を顧みず、祖国のために、対話、そして政治プロセスを推し進め…、その一部は占拠にも参加し、人民議会、さらには内閣に参画した組織も出た…。他方、愛国心を欠く反体制勢力もあった…。どの組織がそれにあたるかをここでは明言しないが、国民はいずれそれがどの組織かが分かるだろう」。

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(今後のシリア情勢に関して)「一部の人々は(沈没の是非が指摘されている)船が国家という船、ないしはカッコ付きの「体制」の船だと間違って理解している。しかし船とは祖国そのものを意味している。シリアが沈むか救われるか…、我々はこの点を明確に捉えねばならない。この国家が沈没し、祖国が残ることなどない。その理由は簡単だ。それは多くの間違いを犯してきたにもかかわらず、国家の政策は国民の信条と密接に結びついているからだ…。この国民のなかで、国を強力にするうえためにもっとも重要な集団が武装部隊だ」。

「危機発生当初…、彼らは国民の間で宗派主義的な亀裂を作り出そうとした」。

「我々はシリア国民としてシリアを自らが望む方向へと進めていく…。外的要因が作用し、そのプロセスを加速させることもあれば、減速させることもあろう。また別の方向に逸脱させるかもしれない。しかし我々はそれを回復する能力を持つ」。

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(反体制活動家への恩赦に関して)「(危機打開のため)すべての可能なツールを利用せねばならず、そのなかには寛容の精神も含まれる」。

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実際の映像は以下のURLを参照。

http://www.youtube.com/watch?v=y31h_wywL1U
http://www.youtube.com/watch?v=PbYzHDW6nl0
http://www.youtube.com/watch?v=d5cN2FQ_dSk

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アサド大統領は、2012年8月29日政令第317号でテロ法廷のハッサーン・サイード判事を同法廷裁判長に、マイムーン・イッズッディーン判事を検事長に任命した。

また同政令では、経済治安裁判所などの人事も改編された。

シリア政府の動き

AKI(8月29日付)は、シリア反体制勢力筋の話として、アサド政権が約1ヶ月前からロシアとイランの支援のもと、国内外の主要な反体制組織や活動家と個別に接触し、政権との対話に応じるよう試みている、と報じた。

国内の暴力

イドリブ県では、自由シリア軍の殉教者大隊はタフタナーズ航空基地を襲撃しヘリコプター5機を破壊したと発表した。

同大隊のアブー・ムスアブを名のる戦闘員はAFP(8月29日付)に対して、「戦闘機3機を大破させ、2機に損傷を与えた。また空港ビルの一部を破壊した…。戦車2輌で空港を砲撃し…、また(攻撃では)23ミリ、14.5ミリ、12.7ミリの対空砲を使用した」と語った。

しかしSANA(8月29日付)は、反体制武装勢力がタフタナーズ航空基地襲撃を試みたが、軍・治安部隊がこれを撃退したと報じ、自由シリア軍の発表を否定した。

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同じくイドリブ県では、シリア人権監視団によると、アリーハー市で軍・治安部隊が反体制活動家の逮捕・追跡を行い、サラーキブ市に砲撃を加えた。

一方、SANA(8月29日付)によると、アリーハー市で、軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」に対する「浄化」作戦を継続し、多数の戦闘員を殺傷し、大量の武器弾薬を押収した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、カーブーン区で軍・治安部隊と反体制武装勢力が交戦した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ザマルカー町とザバダーニー市が軍・治安部隊の砲撃を受け、またサクバー市およびその周辺がヘリコプターの攻撃を受けた。

一方、SANA(8月29日付)はザマルカー町で「武装テロ集団の残党」が住民を拉致し、家族の前で処刑した、と報じた。

また「テロリスト」は犠牲者の遺体を回収し、シャイフ・アスカル・モスクに放置し、同モスクを爆弾で爆発し、軍・治安部隊による応戦を誘うために迫撃砲で軍に発砲してきた、という。

またSANA(8月29日付)によると、アイン・タルマー村で、検問中の軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。

このほか、LBCI(8月29日付)によると、ジュダイダト・アルトゥーズ町でレバノン人のシャーミル・シャンムート氏が撃たれて死亡した。

また8月18日にドゥーマー市でマフムード・ムハンマド・ファキーフ(72歳)が失踪し(誘拐され)、家族が自由シリア軍のイスラーム旅団を名のるグループと引き渡しのための交渉を行っている、と報じた。

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シリア国内で取材中のロバート・フィスク記者がダーライヤー市を訪れ、現地の様子を伝えた。

フィスク記者が住民から得た証言によると、住民を人質にとった自由シリア軍に対して、軍が突入前に人質交換の交渉を行ったが、失敗したという。

また軍がダーライヤーに突入する前から遺体が市街地に散乱していた、という。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市のハーリディーヤ地区、ジャウラト・シヤーフ地区などが砲撃を受けた。

一方、SANA(8月29日付)によると、ヒムス市バーブ・フード地区で治安当局が反体制武装勢力のアジトなどの摘発を行い、多数の戦闘員を殺傷した。

またタッルカラフ地方ではレバノンからの潜入を試みる反体制武装勢力を軍・治安部隊が撃退した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市では、アレッポ市のアーミリーヤ地区で軍・治安部隊と反体制武装勢力が激しく交戦した。

一方、SANA(8月29日付)によると、アレッポ・ラッカ街道で、関係当局が市民を拉致・誘拐しようとした反体制武装勢力と交戦し、戦闘員全員を殺害した。

しかしこの際、戦闘に巻き込まれた市民2人が死亡した、という。

アレッポ市ではサラーフッディーン地区、アーミリーヤ地区、ハシュカル地区、タッル・ザラーズィール地区などで反体制武装勢力が隠し持っていた武器弾薬を軍・治安部隊が押収した。

またサイイド・アリー地区、サイフ・ダウラ地区、シャッアール地区、バヤーヌーン地区、サーフール地区、スワイカ地区、メリディアン地区などでは軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」に対する掃討作戦を継続し、多数の戦闘員を殺傷した。

タッル・リフアト市、マーリア市、ハムラー村、フライターン市、ハイヤーン町などでも軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」に対する掃討作戦を継続し、多数の戦闘員を殺傷した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ダルアー市で軍・治安部隊が反体制活動家の逮捕・追跡を行った。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会は、リビアから最近1660万ユーロ(約2000万ドル)の資金援助を受けた、と発表した。

評議会はこれまでにカタールから1000万ドル、UAEから500万ドルから資金援助を受けており、「そのうち95%がシリア国内に送金された」と強調した。

財務経済局のサミール・ナッシャール局長が明らかにした。

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ロイター通信(8月29日付)は、バスマ・カドマーニー報道官がシリア国民評議会を脱会した、と報じた。

Kull-na Shuraka’, August 29, 2012

カドマーニー報道官はパリで電話取材に応じ、シリア国民評議会が国内の蜂起を充分支援できなかったと批判、また「現地で増大する挑戦に対抗できず、私が期待していた活動ができなくなっていると感じるようになった」と述べた。

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『クッルナー・シュラカー』(8月28日付)は、ジャルマーナー市での爆破テロに関して、「ドゥルーズ派のシャッビーハが爆破についてあらかじめ知っていた」ことを示す書き込みがフェイスブックなどにあったと事実確認しないままに報じた。

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シリア国民評議会は声明を出し、アサド政権による暴力停止と「シリアの友」による軍事介入を求めてハンストを開始すると発表した。

クルド民族主義勢力の動き

クルディーヤ・ニュース(8月29日付)は、イラク・クルディスタン自治区のハンスにあるペシュメルガ軍事キャンプで教練を受けていたシリアのクルド人兵士(シリア軍離反兵)1人がイラクのクルド人士官に射殺されたと報じた。

射殺された兵士は、軍事教練を辞退し、軍事キャンプを離れることを求めて抗議行動を行った約50人のシリア・クルド人の一人だという。

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『クッルナー・シュラカー』(8月29日付)は、PKK系の民主統一党がハサカ県が所有する不動産を支持者に安価で払い下げていると報じた。事実確認はとれていない。

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クルディーヤ・ニュース(8月30日付)によると、クルド最高委員会は、主要な知事都市・農村でのシリア・クルド国民評議会と西クルディスタン人民議会による検問所での治安活動を統合することを決定した。

レバノンの動き

ナハールネット(8月29日付)などによると、ベイルート県のアシュラフィーヤ地区の外務省前で3月14日勢力を支持する若者らが、アリー・アブドゥルカリーム・アリー駐レバノン・シリア大使の追放を求めてデモを行った。

諸外国の動き

トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣はアンカラで記者会見を開き、シリア人避難民を収容するための「緩衝地帯」をシリア領内の国境地帯に設置することを国連安保理が審議することを期待する、と述べた。

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フランスのローラン・ファビウス外務大臣は、フランス・インター・ラジオ(8月29日付)で、シリア領内の国境地帯に「緩衝地帯」を設置するのは、「きわめて複雑な問題」と述べ、難色を示した。

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フランス大統領府が声明を発表し、エジプトのムハンマド・ムルスィー大統領とフランソワ・オランド大統領の電話会談で、両者が「バッシャール・アサドの退任なくしてはいかなる政治的解決も不可能」という点で意見が一致したと発表した。

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チュニジアのラフィーク・アブドゥッサラーム外務大臣はテヘランでの非同盟諸国首脳会議出席に先立って、アサド大統領の退任を求めるとのチュニジアの姿勢を会談で示すと述べた。

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ヨルダンのサミーフ・マアーイタ内閣報道官は、ザアタリー国営避難民キャンプでのシリア人避難民とヨルダン当局との衝突を受け、シリア人非難民約300人を「彼らの要請を受けて」29日に本国に送還した、と発表した。

ヨルダンのペトラ通信が伝えた。

AFP, August 29, 2012、Akhbar al-Sharq, August 29, 2012, August 30, 2012、AKI, August 29, 2012, August 30, 2012、al-Hayat, August 30, 2012、The Independent, August 29, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 29, 2012, August 30, 2012, September
16, 2012、al-Kurdiya News, August 29, 2012, August 30, 2012、Naharnet.com,
August 29, 2012、Reuters, August 29, 2012、SANA, August 29, 2012、Youtube,
August 29, 2012などをもとに作成。

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