アサド政権の改革支持を訴える集会が各地で実施され散発的な反体制デモを圧倒するなか、国連人権理事会がシリア情勢をめぐって国連各機関に対し「適切な措置を講じる」よう求める決議を採択(2011年12月2日)

シリア国内各地で、外国の干渉拒否、アサド政権の改革支持を訴える集会が各地で実施、離反兵による武装闘争や金曜礼拝後の散発的な反体制デモを圧倒した。

アサド政権の治安維持能力が改めて示されるなか、国連人権理事会は、国内の混乱を助長するかのように、反体制運動弾圧を「人道に対する罪」と非難する決議を採択した。

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外国の内政干渉拒否、アサド政権の改革支持を訴える集会

SANA, December 2, 2011

SANA, December 2, 2011

SANA, December 2, 2011

SANA, December 2, 2011

SANA, December 2, 2011

SANA(12月2日付)は、外国の干渉拒否、アサド政権による改革指示を訴える集会が各地で開催されたと報じた。

同報道は、ダマスカス県サブウ・バフラート広場、タルトゥース県タルトゥース市、サーフィーター市、ラタキア県ラタキア市、スワイダー県スワイダー市、シャフバー市、ダマスカス郊外県ワーフィディーン・ゴラン高原難民キャンプ、サフナーヤー市、ハサカ県ラアス・アイン市での集会の写真を公開した。

各県での写真を見る限り、過去数週間の親体制集会と比して小規模ではあるが、地方都市で同時に親体制集会が行われたのはこれが初めてで、金曜礼拝後の散発的な反体制デモを圧倒したかたちとなった。

反体制デモ

シリア人権監視団とシリア革命総合委員会によると、金曜礼拝後に各地で反体制デモが各地で実施され、治安部隊の弾圧で民間人11人が殺害された。

フェイスブックでは「孤立地域の金曜日」の名のもとにデモが呼びかけられていた。

シャーム・ニュース・ネットワークなどは、ヒムス県ヒムス市、イドリブ県郊外などでデモが行われている映像を配信した。

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『クッルナー・シュラカー』(12月3日付)は、ハサカ県のラアス・アイン市で反体制デモが発生したと報じた。

デモではクルドの旗、独立期のシリア国旗が掲げられ、他の都市との連帯が訴えられたという。

SANA, December 2, 2011

デモが終わる頃、アサド政権の支持者が今度は体制支持デモを行ったが、同報道によると、その数は50人にも満たなかった。

一方、ダルバースィーヤ市、アームーダー市、カーミシュリー市、ダイリーク市でも反体制デモが行われた。

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レバノンの北部県アッカール郡の対シリア国境に位置するワーディー・ハーリド地方でシリア領内から発砲があり、4人が負傷した。

この発砲は、ヒムス県タッルカラフ地方での混乱を背景にしているという。

Sham News Network, December 2, 2011

Sham News Network, December 2, 2011

反体制武装集団の動き

シリア人権監視団によると、離反兵の一団が、イドリブ県ジスル・シュグール市とラタキア県ラタキア市にある空軍情報部施設を襲撃、数時間にわたって交戦し、空軍情報部兵士8人を殺害し、13人を負傷させた。離反兵側は1人が負傷したという。

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自由シリア軍のリヤード・アスアド大佐はロイター通信(12月2日付)に対して、シリア軍部隊への物資の供給を絶つため、軍車輌を集中的に攻撃している、と述べた。

アスアド大佐は、自由シリア軍の活動の詳細について言及せず、「離反兵は3ヵ月間に調整を初めて以降、戦術を変更した」としたうえで、兵舎を標的と述べ、その攻撃が対人ではなく軍の兵站を標的としていることを強調した。

なおこうした発表・映像に関して、SANA(12月2日付)は、イドリブでの民間人殺害の報道は「ねつ造」だと反論した。

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これに対してSANA(12月2日付)は以下の通り報じた。

ハマー県では、ハマー市サーブーニーヤ地区に武装テロ集団がしかけた爆弾2発を爆弾処理班が撤去した。また同市内の医療センターを武装テロ集団が襲撃した。

ダルアー県では、武装テロ集団が複数の治安機関施設を襲撃した。またヌアイム市では爆弾処理班が武装テロ集団のしかけた爆弾を撤去した。

イドリブ県では、ハーン・シャイフーン市で治安維持部隊と武装テロ集団が交戦した。

その他の反体制勢力の動き

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月2日付)は、シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長と単独インタビューを行い、その内容を報じた。

同報道は、アサド政権の高官がシーア派の一派のアラウィー派であり、シーア派のイランと同盟関係にあるとしたうえで、ガルユーン事務局長がこの状態をシリアの多数派を占めるスンナ派アラブにとって「異常だ」と述べたと伝えた。

またガルユーン事務局長は、アサド政権が崩壊した場合、「イランとの特別な関係はないだろう…。例外的な関係を清算することは、戦略的、軍事的同盟を解消することを意味する…。シリアの体制崩壊後は、ヒズブッラーとの関係もこれまでと同じものではなくなるだろう」と続けたという。

一方、イスラーム主義の台頭の可能性に関しては、「シリアでイスラーム主義者が独占する恐怖はないと思う…。彼らへの支持は10%にも満たない。ムスリム同胞団は30年にわたってほぼ亡命状態で、国内での調整はできない」と述べた。

一方、イスラエルが不当に占領するゴラン高原に関しては、その回復の必要を強調しつつ、武装闘争や武装組織の支援ではなく、交渉を通じて実現をめざすとの姿勢を示した。(筆者注:この姿勢はパレスチナのファタハの姿勢に類し、西側諸国が過去数年にわたって後押ししているものである)

http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204397704577070850124861954.html?KEYWORDS=burhan

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アルジェリアの『ファジュル』(12月2日付)は、マラフ・ビカーイー女史らシリアの反体制女性活動家らが声明で、シリア国民評議会が女性の代表者を周縁化(過小評価)していると非難したと報じた。

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反体制活動家のアクサム・バラカート氏はElpha.com(12月2日付)に対して、シリア国民評議会の活動が「高く評価でき、そのことを活動結果が証明している」と述べた。

バラカート氏は、「反体制活動家のなかには、事を妨害使用とし続けるシャッビーハも多くいるが、彼らの試みは失敗している」と付言した。

またイスラエルとの関係があるとの一部指摘に関しては、それを否定した。

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Elpha.com(12月2日付)は、シリア国内で反体制活動を行うワリード・ブンニー氏が、シリア国民評議会から脱退し、「シリアのすべての反体制勢力を包摂するため、評議会にメンバー拡大を受け入れさせる努力が失敗に終わったため、今後は反体制勢力統一のため無所属として活動を続ける」と宣言したと報じた。

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シリア国民評議会の使節団(ブルハーン・ガルユーン事務局長ら)がブルガリアの首相、外相と会談した。

諸外国の動き

国連人権理事会は特別会合を開き、シリアでの反体制デモ弾圧を「重大かつ体系的」人権侵害と非難、「人道に対する罪」と断じ、国連各機関に「適切な措置を講じる」よう求める決議を採択した。

決議には西側諸国、サウジアラビア、クウェート、カタール、ヨルダン、リビアなど37カ国が賛成し、ロシアと中国を含む4カ国が反対、6カ国が棄権した。

シリアのファイサル・ハマウィー代表は、「人権理事会はその任務を逸脱した」と述べ、シリア側が提示した情報や文書のすべてを無視していると、その姿勢を非難した。

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EUが官報で追加制裁の対象となる政府関係者、機関を公表した。

リストに記載された主な政府関係者、機関は以下の通り:

ムハンマド・ジャラーラーティー(財務大臣)
ムハンマド・ニダール・シャッアール(経済通商大臣)
ファフド・ジャースィム・フライジュ(一等中将、参謀長)
イブラーヒーム・ハサン(少将)
ハリール・ザグラフィーヤ(准将)
アリー・バラカート(准将)
タラール・マフルーフ(准将、共和国護衛隊、ワリード・アッカーウィー、ハサン・M・ユースフの義理の兄弟)
ナズィーフ・ハッスーン少将(総合情報部次長)
マアン・ジャディード(大尉、共和国護衛隊大統領治安局)
ムハンマド・シャッアール
ハーリド・タウィール
ガイス・ファイヤード(反体制デモ弾圧に関与、シャフィーク・ファイヤードの息子)

『ワタン』
シャーム・プレス
科学研究調査センター
Syronics
Sytrol(石油会社)
石油公社
ユーフラテス石油会社

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ロシアのヴィタリー・チュルキン国連大使はアラブ連盟による対シリア経済制裁に関して、「シリア危機解決における建設的役割を果たすための機会をアラブ連盟はつかみ損ねた」と非難した。

チュルキン国連大使は「シリアへの監視団派遣というアラブ連盟の計画は重要だが、シリア政府の修正提案は考慮・審議し得るものだった」と述べた。

また「シリアだけでなくイランをも対象としたかたちでの対決のシナリオがますます懸念されるようになっている」と付言した。

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ジョー・バイデン米副大統領はトルコの『ヒュッリイェト』(12月2日付)に対して、「合衆国の姿勢は明確だ。シリアの現体制は国民に対する蛮行を止め、アサド大統領は国民の意思を尊重する平和的転換を可能とするべく去らねばならない」と述べた。

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ロイヤルダッチ・シェル社はシリアへの追加制裁発動を受け、シリア国内での操業を停止するだろう、と発表した。

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SANA(12月2日付)は、イランのヌーリー・マーリキー首相がバクダードでの戦略研究会議で、出席者を前にして、「いかなる国に対しても経済制裁を科すことに拒否する。なぜならそれは体制ではなく国民に被害を与えるからだ」と述べた、と報じた。

AFP, December 2, 2011、Akhbar al-Sharq, December 6, 2011、Elpha.com, December 2, 2011、al-Hayat, December 3, 2011、Kull-na Shuraka’ , December 2, 2011, December 3, 2011、Reuters,
December 2, 2011、SANA, December 2, 2011、The Wall Street Journal, December 2, 2011などをもとに作成。

(C)青山弘之All rights reserved.

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