アサド大統領が2011年5月31日以前のすべての犯罪に対する恩赦を発令するなか、ムアッリム外務大臣がバグダードを臨時訪問(2011年5月31日)

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反体制勢力の動き

トルコ南部のアンタリア市での「シリア変革大会」に関して、出席した2人の活動家は、この決定が「不十分」で「遅きに失する」と述べた。

ダマスカス宣言国民会議議長で亡命中のアブドゥッラッザーク・イード氏は「決定は遅きに失する。我々は長らく要求してきたにもかかわらず、である…。恩赦が数十年前に有罪判決を受けた人々だけでなく、最近逮捕された人々も含むのかどうかを明らかにしてもらう必要がある」と述べた。

大会に参加したシリア・ムスリム同胞団の使節団長のムルヒム・ダルービー氏は「この措置は前向きではあるが、不十分である。同胞団は自由を求め、政権打倒を欲する国民の要求の実現を求める」と述べた。

シリア政府の動き

アサド大統領は2011年5月31日以前のすべての犯罪に対する恩赦(2011年政令第61号)を発令した。

恩赦に関して、高官筋は『ハヤート』(6月1日付)に、シリア・ムスリム同胞団など複数の組織に属する逮捕者全員を対象としていると述べた。

また「個別に控訴を行わないという条件で」刑期が半分に減刑されると付言した。

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ムハンマド・イブラーヒーム・シャッアール内務大臣は「殉教者ハムザ・ハティーブ事件状況調査委員会」の設置を宣言した。

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バアス党シリア地域指導部のムハンマド・サイード・バヒーターン副書記長は、ダマスカス大学の研究・教育者、党、事務方の幹部による協議会において「48時間以内に国民対話委員会を設置する」と発表した。

シリアの『ワタン』(6月1日付)が報じた。

バヒーターン副書記長は「対話委員会は最高レベルで設置され、対話には、すべての政治、社会、経済団体などが参加し、「祖国の屋根」のもとで行われる。国民対話の企画や仕組みについては48時間以内に発表される」と述べたという。

しかし、バヒーターン副書記長は、バアス党を「国家と社会を指導する政党」と定めている憲法第8条を廃止しないとの見解を示した。

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『ハヤート』(6月1日付)が得た情報によると、アサド大統領は、ハムザ・ハティーブ君の家族らと面会した。

面会にはハムザ君の父親、いとこ、ダルアー市の有力者たちが出席した。

出席者の一人アイマン・ズウビー氏は『ハヤート』(6月1日付)に対して、6人が出席した面会は2時間続き、その雰囲気や「最高に好意的で暖かなものだった」と述べた。

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SANA, May 31, 2011

シリア・アラブ・テレビ(5月31日付、衛星放送)は、5月25日に治安当局によって逮捕された後に拷問殺害されたとされるハムザ・ハティーブ君(13歳)の死の真相に関する特集番組を放映した。

番組には、シリア検死官連盟のアクラム・シャッアール会長、事件を担当しているサーミル・アッバース弁護士らが出演し、治安当局による拷問、殺害の事実はないとする一方、ハムザ君とともに4月29日にジーザ町で金曜礼拝後のデモに参加したとするサイダー町の青年(アブドゥルアズィーズ・ハティーブ氏)が、礼拝後に別の村の住民から発砲を受け、ハムザ君が倒れたと証言した。

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シリアのワリード・ムアッリム外務大臣兼在外居住者担当大臣はバグダードを臨時訪問した。

『ハヤート』(6月1日付)が報じた。

バグダードの消息筋によると、訪問はイラン産の石油をイラクのパイプライン網を通じてシリアに輸送することを確保することが目的だという。

同消息筋は、ムアッリム外務大臣が、かつてはシリア経由でイラクに潜入していた武装勢力が、「逆潜入」としてシリア領に侵入するのを防ぐため、イラク側に協力を求めたと付け加えた。

これについて、イラクのヌーリー・マーリキー首相は、ムアッリム外務大臣との会談の中で、シリアのおける「諸改革の実現」が同国の「安全と安定」をもたらすのに役立つだろうと強調した。

アリー・ダッバーグ報道官は『ハヤート』(6月1日付)に対し、ムアッリム外務大臣が首相ラトの会談で「イラクとシリアとの間の戦略的石油パイプラインの稼働について協議し…、イラクの市場の志向に沿う形で両国の通商協力を活性化することで合意した」と述べた。

また、シリアにいるイラク人難民の状況について、「今後はシリア在住イラク人の大集団が帰還することであろう。大規模な帰還の理由は、イラク情勢が安定しているからである」と述べた。

国内の暴力

複数の活動家は、少なくとも1人がヒムス市近郊のラスタン市での集中砲火で死亡したと述べた。

この攻撃は、3日前に同地域で開始された治安回復作戦の一環をなしている。これにより、ラスタン市、タルビーサ市、ヒムス市の死者数は、16人以上に及んだ。

治安部隊がタルビーサ市を制圧したとシリア当局が述べる一方、活動家の一人は治安部隊が昨日の夜から早朝にかけてダルアー市近郊のハイラク地区に突入し、大規模な掃討作戦を実施した。シリア人権監視団によると、ダルアー市で少なくとも13人が逮捕された。

一方、SANA(5月31日付)は、軍高官筋の話として、ヒムス県ラスタン市で、軍・治安部隊が武装テロ集団を逮捕、武器弾薬を押収したと伝えた。

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SANA(5月31日付)は、警察が5月6日にハマー市県庁ビルなどを襲撃した暴徒12人を逮捕したと報じた。

諸外国の動き

ニューヨークでは、シリアに対するロシアの態度が、欧州が提出した決議案をめぐる国連安保理内での動きがもたらしている緊張の行方を左右している。この決議案は、デモ参加者への弾圧継続を非難し、独立調査を要求することを骨子としており、複数の外交官筋によると、安保理は今日(水曜)、「専門家レベル」の非公式会合を開催し、シリア情勢をめぐるこの決議案を審議する。

欧州の複数の外交官によると、シリア大統領による改革実行と法改正の約束は「審議中の決議案に関する安保理の動きを決定する基準とはならない」。同外交官はまた「シリア当局による弾圧の継続と、民間人への暴力行使、都市包囲、国民に対する戦車の投入は止められねばならない」と付け加えた。

安保理筋によると、西欧諸国は「(具体的)措置」そして「(その実施の)時期」が意図しているものを解釈させるために、ロシアに猶予を与える意思があるという。そのうえで同消息筋は「しかし、待つということは、時間的な期限を設定しないということではない」と付言した。

また同消息筋はこのようにも指摘した――シリアへの対応をめぐってロシアの戦略の一部をなしていると思われる「建設的曖昧さ」に基づく政策は、今週中に決議案を採決にかける動きを遅らせることになる。しかし現地での動きは、長期間の猶予を西欧諸国に許さない状況にあるなか、ロシアもデモ参加者抑圧の停止を求め、暴力を非難する決議を支持するか、拒否権を発動するかという選択肢を強いられようとしている。外交官の一人は、決議案を支持する国は安保理において「少なくとも」9カ国にのぼると明らかにしている。

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中国外交部報道官は定例記者会見でシリア情勢について言及し、「シリアの安定は地域全体の安定に影響を及ぼす。中国政府は主権、安定を護ろうとするシリアの努力を支持する。我々は、早急にシリアが安定と秩序を回復することを望む」と述べ、国連安保理でのシリア非難決議案に反対の意を示した。

AFP, May 31, 2011、AP, May 31, 2011、Akhbar al-Sharq, May 31, 2011、al-Hayat, June 1, 2011 、Kull-na Shuraka’, May 31, 2011、Reuters, May 31, 2011、SANA, May 31, 2011、al-Watan, June 1, 2011などをもとに作成。

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