石油省の現職次官が政権離反を宣言し初の事例となる一方、米下院外交問題委員会が「シリア解放法案」を可決(2012年3月8日)

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石油省次官の離反

石油省のアブドゥフ・フサームッディーン次官(イスラーム教スンナ派)が政権離反を宣言する映像をユーチューブを通じて配信した。

政権幹部の離反は、これまでがそうであったように、反体制勢力の派閥化と分裂を助長するものと思われる。

Kull-na Shuraka’, March 8, 2012

フサームッディーン次官は33年にわたって石油省に勤務し、2009年に次官に就任した。

現職の次官の離反は初めて。

しかしアブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領やムスタファー・シャイフ准将ら、長年「独裁政権」に奉仕してきた高官の離反と反体制勢力への参加は、反体制勢力内の権力闘争、派閥化、分裂を助長しており、フサームッディーン次官の離反がアサド政権を追い詰めることにつながるかは不確実。

フサームッディーン次官はビデオで、「自由と尊厳を得ようとするシリア国民の要求を弾圧する政府とそれに従う者の蛮行を、まかり間違っても受け入れることのない国民の革命への参加」を宣言するとともに、同僚に対して、「政権の蛮行に沈黙せず、沈みかけた船を放棄する」よう呼びかけた。

http://www.youtube.com/watch?v=LLXgmhVxsDw&feature=player_embedded#t=0s

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シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長は、フサームッディーン次官の離反を歓迎するとともに、「同省のスタッフ、行政機関高官がこの体制から離反し、自由と尊厳の革命に参加することを呼びかける」と述べた。

SANA, March 8, 2012

また「かつてない段階に突入した体制からの離反者が確実に出るだろう」と期待を述べた。

国内の暴力

シリア軍・治安部隊はイドリブ県ザーウィヤ山などで反体制(武装)勢力に対する掃討作戦を継続し、離反兵と交戦した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ハーン・シャイフーン市で治安部隊の発砲によって8人が殺害された。

一方、SANA(3月8日付)によると、関係当局は対トルコ国境のタッル・アブヤド地方で、トルコから密輸入された大量の武器を押収した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市で治安部隊が活動家らの逮捕・追跡を行った。

またマヤーディーン市では、治安部隊の発砲で2人が殺害された。

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ダマスカス県では、マッザ区で行われた兵士の葬儀に参列した数百人の市民に対して、治安部隊が発砲した。

兵士はヒムス市での掃討作戦での発砲命令を拒否して殺害されたとされる若者。

マッザ調整のアブー・フザイファ・マッズィーを名のる活動家が明らかにした。

一方、AFP(3月9日付)によると、治安部隊がダマスカス県内で、ミシェル・シャンマース弁護士の娘(ヤーラー・シャンマースさん)を含む若者12人を逮捕した。

シャンマース弁護士によると逮捕の理由は不明。

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ダマスカス郊外県では、地元調整諸委員会によると、各地で若者ら50人以上が逮捕された。

シリア人権監視団によると、ダーライヤー市で、治安部隊の発砲により1人が殺害された。

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ヒムス県では、ヒムス市で反体制活動家のウマル・カンダルジー弁護士が逮捕された。

カンダルジー弁護士は、同じく反体制活動家のナジャーティー・タイヤーラ氏の代理人などを務めてきた。

シリア革命総合委員会のハーディー・アブドゥッラー氏は、信頼できる複数の人物からの情報として、ヒムス市バーブ・アムル地区で軍・治安部隊の進入直後に16人の市民が「虐殺」されたと語った。うち6人がスブーフ家の子息。

また、この「虐殺」をドゥンヤー・チャンネルが「武装テロ集団の犯行」と報じたことに関して、アブドゥッラー氏は、「自由シリア軍のファールーク大隊がバーブ・アムル地区を1ヵ月にわたって制圧していた間、一件の窃盗も発生しなかった…。なぜファールーク大隊が彼らを殺したというのか?」と反論した。

シリア人権監視団によると、タルビーサ市で、治安部隊の発砲により2人が殺害された。

一方、SANA(3月8日付)によると、ヒムス・タドムル街道で武装テロ集団が市民の車を襲撃し、乗っていた子供1人が死亡した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ジャルジャラ村で治安部隊の発砲により市民1人が殺害された。

一方、SANA(3月8日付)によると、タイバト・イマーム市一帯で、軍・治安部隊と武装テロ集団が交戦、テロリスト多数を逮捕するとともに、大量の武器弾薬、盗まれた公文書を押収した。

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アレッポ県では、アレッポ調整連合報道官のムハンマド・ハラビーを名のる活動家によると、自由シリア軍が対トルコ国境近くのアアザーズ市の治安部隊の拠点2カ所を攻撃した。

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ラッカ県では、地元調整諸委員会によると、ラッカ市で反体制活動家で医師のウスマーン・マタル氏が治安当局に逮捕された。

アサド政権の動き

Elaph(3月8日付)は、アサド大統領の母アニーサ・マフルーフ氏が、リビアのカッザーフィー大佐の二の舞になることを懸念し、反体制運動に同情的な大統領に不満の意を示した、と報じた。

同報道によると、米国のStratforが行った2011年11月10日付のE-mailの分析に関する情報をもとに、マフルーフ氏が、反体制運動に同情的な息子に対して「もしあなたの父が生きてたら、事態は同じようになっていたはず」と述べた、とウィキリークスが発表した。

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バアス革命(1963年3月8日)記念日にあたる3月8日は例年通り祝日となった。

SANA, March 8, 2012

SANA(3月8日付)は、シリア軍・武装部隊がバアス革命記念日を祝う祝典を執り行ったと報じた。

反体制勢力の動き

国内で反体制活動を行う民主的変革諸勢力国民調整委員会の報道官はAKI(3月8日付)に対して、シリア訪問中の李華新前駐シリア大使と委員会の代表が会談したことを明らかにした。

同報道官によると、会談では、無条件の対話を求める中国側に対して、委員会の代表は、軍・治安部隊の市街地からの撤退、逮捕者釈放、弾圧の責任者の処罰、暴力停止を通じて、対話の雰囲気を醸成する必要があるとの考えを伝えたという。

また対話の目的に関しては、議題を体制転換の方法に限定すべきと述べ、アサド政権打倒の意思に変わりがないことを示した。

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シリア国民評議会の指導者の一人アンワル・ブンニー弁護士はAKI(3月8日付)に対して、国連のバレリー・アモス人道問題担当事務次長のシリア訪問を「無駄だ」と一蹴した。

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シリア・ビジネスマン評議会なる組織が、反体制デモへの支援を表明する声明を出した。

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フェイスブック上のページ「シリア革命2011」などは、「2004年クルド人蜂起への忠誠の金曜日」と銘打って、反体制デモを呼びかけた。

2004年3月、シリア北東部では「カーミシュリーの春」と呼ばれるクルド人による大規模暴動が発生し、政権によって弾圧されている。

レバノンをめぐる動き

レバノン訪問中のマロン派のビシャーラ・ラーイー総大司教は、米大使が反体制勢力の保護をレバノン政府に求めたことに関して、「レバノンの国家は、自国の問題に関して他人から命令を受ける必要がない」と述べた。

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ロイター通信(3月8日付)によると、レバノン国外で暮らすサアド・ハリーリー前首相は、ベイルートでのムスタクバル潮流の会合でテレビ電話を通じて「アサド政権の犯罪はレバノンやガザに対するイスラエルの犯罪以上」と非難した。

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レバノンの治安当局は3月4日にベカーア県で逮捕したシリア人武装集団33人のうち、釈放されていなかった7人を釈放した。

パレスチナ人をめぐる動き

『シャファーフ』(3月8日付)は、パレスチナの複数の消息筋の話として、「シリアのザルカーウィー」と呼ばれているアブドゥルカリーム・サアディー(通称アブー・ムフジン)の息子イブラーヒーム・サアディー氏をシリアが釈放したと報じた。

アブドゥルカリーム・サアディー氏はレバノンのアイン・フルワ・パレスチナ難民キャンプなどを拠点とするウスバト・アンサール(アル=カーイダ”系”とされる組織)の幹部で、シャイフ・ニザール・ハラビー師の暗殺に関与しているとされる。

同報道によると、イブラーヒーム氏は2週間前にシリアの刑務所から釈放され、同日夜にレバノンのアイン・フルワ難民キャンプに入った、という。

シリア政府がイブラーヒーム氏を釈放した背景は不明。

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パレスチナのハマースの指導者の一人アフマド・ユースフ氏はAFP(3月8日付)に対して、「イランはハマースがシリア国民を失望させられないということを理解している。シリア政府はレッドラインを踏み越えてしまっており、ハマースはこれに沈黙するわけにはいかない」と述べた。

諸外国の動き

ロシアのヴィタリー・チュルキン国連代表大使は、「我々はリビアで…シリアの破壊分子を教練するセンターがあり、彼らはシリアに派遣され合法的なシリア政府を攻撃しているとの情報を得た」と安保理のリビア問題に関する会合で非難した。

チュルキン国連代表大使はまた「シリアにアル=カーイダが存在すると我々は考えている。現在提起されている問題は、革命の輸出がテロの輸出になっているのではないか、ということである」と付言した。

これに対して、会合に出席していたアブドゥッラヒーム・キーブ首相は、チュルキン国連代表大使の発言に関してコメントしなかった。

リビア政府はシリア国民評議会を最初に「シリア国民の正当な代表」として承認しており、2月には同評議会に1億ドルの資金援助を行っている。

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エジプト訪問中のコフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使任命は、アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長と会談し、シリア情勢について協議した。

会談後の記者会見で両氏は、「シリアの紛争の軍事化」への警鐘を鳴らすとともに、即時の暴力停止、人道支援、危機の平和的解決に向けた包括的政治プロセス開始の必要を強調した。

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シリアを訪問中の国連のバレリー・アモス人道問題担当事務次長はヒムス市バーブ・アムル地区を訪問(7日)し、被害状況に関して「恐怖を感じた…。ヒムスの一部は完全に破壊されている」と述べた。

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国連の人道問題調整事務所はシリアに対して、150万人分の食糧90日間分を緊急援助する準備を進めていると発表した。

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国連では、米国が新たに提案した対シリア決議案をめぐって常任理事国およびモロッコの大使級会合が引き続き行われた。

複数のアラブ消息筋によると、ロシアによる修正提案は「受け入れられない」内容であり、「中国の修正提案もロシアとほぼ同じで、今回の会合とは別途提案する」ものと見られている。

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米下院外交問題委員会は「シリア解放法案」を可決した。

同法案は、シリアのエネルギー部門への500万ドル以上の出資者、ないしはシリア政府の石油精製部門の能力向上を目的とした100万ドル以上の出資者への財政支援の停止を骨子とする。

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トルコのアブドゥッラー・ギュル大統領は訪問先のチュニジアでムンスィフ・マルズーキー大統領と会談し、共同記者会見で「二国間関係と国際会議を区別せねばならない」としたうえで、アサド大統領退任を求めつつも、二国がシリアへの軍事介入に反対するとの姿勢を明示した。

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チュニジアでムンスィフ・マルズーキー大統領はBBC(3月6日付)に対して、アサド大統領の亡命先を提供する意思があることを改めて示した。

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SANA(3月8日付)は、イエメン南部のタイズ市で、アサド政権との連帯と同政権が主導する改革支持を訴えるデモが行われたと報じた。

AFP, March 8, 2012, March 9, 2012、Akhbar al-Sharq, March 8, 2012、Elaph.com, March 9, 2012、Facebook、al-Hayat, March 9, 2012、Kull-na Shuraka’, March 8, 2012、Naharnet.com, March 8,
2012、Reuters, March 8, 2012、SANA, March 8, 2012、al-Shafaf, March 8, 2012などをもとに作成。

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