シリア各地で軍・治安部隊と離反兵の間で激しい衝突が生じるなか、シリア国民評議会に参加していたクルド人活動家24人が同評議会からの脱会を発表(2012年3月30日)

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国内の暴力・反体制デモ

シリア人権監視団によると、シリア各地で反体制デモが発生し、数千人が参加する一方、軍・治安部隊と離反兵がダマスカス県・郊外県、イドリブ県、ヒムス県などで衝突し、地元調整諸委員会によると45人以上が戦死した。

Alarabia.net, March 30, 2012

しかし同監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長によると、一部地域では軍・治安部隊が多数展開し、また数千人の活動家が逮捕されているため、反体制デモが実施できなかった、という。

また死者のほとんどはデモ弾圧ではなく、軍・治安部隊と離反兵の戦闘で生じた。

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ダマスカス県・ダマスカス郊外県では、ダマスカス革命指導評議会、ドゥーマー革命指導評議会によると、ジャウバル区、カーブーン区、カフルスーサ区、マイダーン地区、アサーリー地区、ハジャル・アスワド市、アルバイン市、ドゥーマー市で金曜礼拝後に反体制デモが発生し、治安部隊が強制排除した。

アルバイン市でのデモでは、軍・治安部隊兵士1人が死亡した、という。

ジャウバル区では、デモ強制排除後に離反兵と軍・治安部隊が交戦した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、クーリーヤ市で発生したデモを強制排除しようとした軍・治安部隊と離反兵が交戦し、7人が死亡した。

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アレッポ県では、アレッポ調整連合のムハマド・ハラビー報道官なる人物によると、アレッポ市内の約30カ所で体制打倒と自由シリア軍への武器供与を求めるデモが発生した。

またアアザール市、ジャラーブルス市、バーブ市などアレッポ市以外の41カ所で反体制デモが行われ、市民1人が死亡した。

al-Hayat, March 31, 2012

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ダルアー県では、ハウラーン調整連合によると、ダルアー市、インヒル市、ジャースィム市、シャイフ・マスキーン市、イズラア市、ヒルバト・ガザーラ町、サイダー町、アクラバー村、ダーイル町、サナマイン市、ブスラー・シャーム市など県内各地約50カ所で反体制デモが発生した。

一方、SANA(3月30日付)によると、ムサイフラ町、カラク村間で軍・治安部隊が武装テロ集団と交戦し、テロリスト3人を殺害し、多数を逮捕した。

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ハマー県では、地元調整諸委員会によると、ハマー市のアースィー広場で反体制デモが行われ、治安部隊が発砲し強制排除した。

またシリア人権監視団によると、カルナーズ町でデモが発生した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、カフルーマ-市などで県内の複数カ所で反体制デモが発生した。

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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、ラアス・アイン市などで反体制デモが発生した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市で市民2人が治安部隊の発砲で死亡した。

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フェイスブックなどでは、「アラブとイスラーム教徒は我々を見捨てた金曜日」と銘打って反体制デモを呼びかけていた。

アサド政権の動き

SANA, March 30, 2012

シリアのジハード・マクディスィー外務省報道官は、シリア・アラブ・テレビ(3月30日付)で、「シリアの体制打倒運動は終わり、安定回復と改革路線のもとでのビジョンの動員のための運動が始まった」と述べた。

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AFP(3月30日付)は、ダマスカス県サブウ・バフラート広場でシリア人数百人がパレスチナの「土地の日」に合わせてパレスチナ人民とレジスタンスを支持するデモを行った、と報じた。

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『ティシュリーン』(3月30日付)は、アラブ連盟首脳会議の決議(閉幕声明)に関して「外国の干渉を是認しようとする政策の延長に過ぎない」と酷評した。

反体制勢力の動き

『ハヤート』(3月30日付)は、自由シリア軍のリヤード・アスアド大佐とシリア革命軍事最高委員会のムスタファー・シャイフ准将とのインタビューをトルコのハタイ県(シリア領アレキサンドレッタ地方)で行った。

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アスアド大佐とのインタビューは、同紙取材班が「私(アスアド大佐)を暗殺するためのジャーナリストだと主張しようとする者がいた」との理由で、多数の警備員が同席するなかで行われた。

アスアド大佐は、シリア国内で勤務していた2011年に自身の粛清がなされるとの事実を知り、民間人としてトルコに脱出、その後7月29日に、軍事力なくして現政権を打倒できないとの認識のもと、離反した士官、兵士とともに自由シリア軍の結成を決心した、と述べた。

自由シリア軍が国内の離反兵と乖離しているとの一部批判に関しては、「革命指導部すべてが国外に存在している。我々はここ(トルコ)で、国内を支援するために活動しており、そのことに何ら困難はない。インターネット通信がある今日、何も不可能なことはない。運動はインターネットを通じてなされている」と答えた。

アキール・ハーシム退役大佐が自由シリア軍を離反し、「シリア国民軍」を結成しようとしているとの情報に関しては、「単なる圧力に過ぎない…。退役軍人が地位を求めているだけだ。現時点では公表したくないが、我々には複数のデータがある。確かなのは、イマードッディーン・ラシードが率いる政治集団がシリア国民評議会内で権力を握ろうとしており、そのための軍事部門を持とうとしているということだ。彼らは我々の名を用いて、一部湾岸諸国、リビア、スーダンから資金を集めていた」と述べた。

イマードッディーン・ラシードはシリア国民評議会のメンバーで、ヨルダン大学シャリーア学部の教員を務めていた人物。

一方、シリア革命最高軍事評議会のシャイフ准将との関係に関しては、軍事評議会発足宣言を通じて対立を解消したと述べた。

またシリア国民評議会については、「否定的な側面があるにせよ、革命運動の政治的な顔だということは厳然たる事実」であると述べた。

しかし「我々が資金、武器、そして国際的な支援が必要であるなか、真摯な発言が(シリア国民評議会によって)なされないことが、我々に悪い影響を与えている」と指摘し、シリア国民評議会の活動に必ずしも満足していないことを明らかにした。

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シャイフ准将とのインタビューは、トルコ側の要請でコメントのメモさえも禁じられるなかでなされた。

シャイフ准将は、西側諸国の対応に関して、「西側は、ポスト・アサドのシリアが地域における戦略的利益、イスラエルとの国境の保障することを担保したいと考えており、過激派が台頭し、マイノリティを弾圧するイスラーム主義の温床にシリアがなることを望んでいない。我々は、革命のイスラーム化のあらゆる潜在的可能性を監視している。これが今後の我々の運動になる」と述べた。

またシリア国民評議会との関係については、同評議会との調整のもと軍事行動の戦略構築に任務にあたっていると述べた。

一方、シリア・ムスリム同胞団については、「外国で長年活動してきた組織で、ほかの国の同胞団の経験を利用している。国内での政治・党としての活動は完全に枯渇しており、それゆえ彼らは(国民に対して)いつ媚を売り、いつ権威を振りかざすのかを知っている」と否定的な見方をした。

さらに「彼ら(同胞団)が市民国家や自由シリア軍傘下の活動に実際にコミットしているのなら、なぜ民間人保護委員会が活動しているというのか。彼らは国内での彼らの軍事部門ではないか」と批判した。

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Kull-na Shuraka’, March 30, 2012

シリア民主フォーラムのミシェル・キールー氏はRT(3月30日付)に対して、イスタンブールの大会での反体制勢力の分裂に関して、「しなければならないことができなければ、分裂と離反が始まる」と述べ、すべての反体制勢力に共通の基盤を構築する必要を強調した。

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シリア国家建設潮流は声明を出し、アサド政権によるアナン特使の6項目和平案の受諾に関して、政権の真剣さは和平案の厳正な実施にかかっていると述べる一方、自由シリア軍を含むすべての反体制武装集団に対して、軍事作戦の停止を宣言するよう求めた。

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シリア国民評議会は声明を出し、アナン特使の和平案への歓迎の意思を示すとともに、アサド政権に対して、アラブ連盟外相会議での行程表に従い、大統領権限の副大統領への移譲などを実施するよう呼びかけた。

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シリア国民評議会に参加していたクルド人活動家24人は声明を出し、3月28日付でクルド・ブロックがイスタンブールでの大会でのクルド問題に対する姿勢に異議を唱え、全員が脱会したことを改めて確認した。

脱会を改めて確認したのは、クルド青年調整連合メンバー、サワー青年連立メンバー、民主諸勢力連合メンバー、シリア革命アーヴァーヒー連立メンバー、シリア・クルド・イェキーティー党メンバー、シリア・クルド民主党パールティー・メンバー、革命最高評議会メンバー、無所属活動家の24人。

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反体制活動家のリーバール・アサド氏(リフアト・アサド前副大統領の息子)はイスラエル紙『ジューイッシュ・クロニクル』(3月30日付)に対して、シリア国民評議会がシリアの反体制勢力を代表していないと批判した。

リーバール氏は「ほとんどのシリア人は何よりも先ず平和と繁栄に関心があり、子供たちのためのよりよい未来を望んでいるがゆえ、体制と今戦っている…。シリア国民評議会は国際的な承認を得ているが、シリアの広範な反体制勢力を代表していない…」と述べた。

そのうえで「ユダヤ教徒を含むすべてのマイノリティを代表する未来の民主的シリア」の建設を主唱した。

レバノンの動き

ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長は「土地の日」に合わせてテレビ演説を行い、アサド政権は崩壊しないとの見方を示すとともに、「アラブの春」をめぐる、西側の二重基準を批判した。

Naharnet, March 30, 2012

ナスルッラー書記長は「政治に関して言うと、アサド政権はヒズブッラーが生き残って欲しいから生き残るのではない。シリアの政治的諸要因と情勢がこの方向に向かっており、そのことが政権が残ることを示している…。軍事的選択肢を通じた体制打倒は終わった…。現地情勢を踏まえると、反体制武装集団に体制打倒はできない」と述べた。

また、シリアへの外国の軍事介入については、「イラクで敗北し、アフガニスタンで困難な状況に直面する…米国は介入できないほど弱っている」と指摘した。

アサド政権と反体制勢力の対話については、「ほかならぬシリアとシリア国民にとっての利益」とし、紛争解決の唯一の手段と位置づけたうえで、対話拒否の姿勢が「イスラエルと地域を完全なる混沌へと陥れようとする者のみに利益になる」と継承をならした。

一方、バーレーン情勢に関して、「シリアが地域、国際社会の関心を呼ぶことは普通だが、バーレーンの問題が無視されることは異常で非難に値する」と批判した。

諸外国の動き

コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使付報道官のアフマド・ファウズィー氏は、「我々は特にシリア政府に対して、市街地からの軍の撤退と重火器の使用停止を求めている…。我々は強い方にまず善意を示すよう呼びかけている…。そうすれば反体制勢力も同じようにすると確信している」と述べ、アサド政権に和平案の「即時」実施を求めた。

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『ハヤート』(3月31日付)は、国連安保理筋の話として、アナン特使とアサド政権が、国連・アラブ連盟合同監視団の派遣に関して、規模を200~250人とし、非武装の兵士・監視員から構成することで調整を進めていると報じた。

監視団の派遣には国連安保理での決議採択が必要となる。

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パレスチナ暫定内閣のリヤード・マーリキー外務大臣は、アナン特使の代理を務めるナースィル・カドワ氏が、6項目調停案の受諾のため、シリアの反体制勢力との交渉を担当すると発表した。

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ヒラリー・クリントン米国務長官は、4月1日のイスタンブールでのシリアの友連絡グループ第2会合に先立って、サウジアラビアを訪問し、アブドゥッラー国王と会談した。

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米財務省は、アサド政権幹部3人を制裁リストに追加し、資産凍結と取引禁止対象とした。

制裁リストに追加されたのは、ズールヒンマ・シャーリーシュ准将(アサド大統領のいとこ、共和国護衛隊大統領治安局長)、ムニール・アドヌーフ中将(副参謀長)、ダーウド・ラージハ防衛大臣(一等中将)。

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ロイター通信(3月30日付)は、イランが中国船籍を通じて自国産石油(約8,000万ドル相当)をシリアに供給しようとしている、と報じた。

AFP, March 30, 2012、Akhbar al-Sharq, March 30, 2012, March 31, 2012、AKI, March 31, 2012、al-Hayat, March 30, 2012, March 31, 2012、Kull-na Shuraka’, March 30, 2012, March
30, 2012、Naharnet.com, March 30, 2012、Reuters, March 30, 2012、SANA, March
30, 2012、Tishrin, March 30, 2012などをもとに作成。

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