アサド大統領はロシア24(3月5日付)のインタビューに応じた。 インタビューは通訳を通じてロシア語・アラビア語で行われた。 アサド大統領の主な発言は以下の通り: [embed]https://youtu.be/xTuS27YHaGo[/embed] ** 米国は、自らが思い描く計画をこの地域の世俗的政府が実行できないと判断した。ここでいう国というのは米国の同盟国のことで、同盟国でないシリアのような国のことを話しているのではない。米国はこうした体制を、人々を指導するために宗教を利用する同胞団的体制にとって代えようと決心したのだ…。この転換プロセスはいわゆる「アラブの春」を通じて始められた。もちろん、当時存在した唯一の同胞団的国家とは、エルドアン自身が作り出したトルコ国家だけだった…。それ以前は我々と(トルコと)の関係は良好だった…。我々はトルコが隣人で同胞だと考えていた。しかし、エルドアンの同胞団的帰属はこうした言葉よりも強かった。彼は自身のこの帰属に立ち返り、的帰属に基づいて…シリアに対する政策を構築した。同胞団が権力の座に着くために暴力に依存し、宗教を利用しようとした最初のグループだというのは周知の通りだ。こう問いかけたとする。シリアでなぜトルコ軍兵士が死んでいるのか? 大義は何なのか…? 大義は一つしかない。トルコの国益とは無関係の同胞団的な大義だ…。トルコ国民はこの大義のためだけに死んでいるのだ。だから、彼はトルコ国民になぜシリアでトルコの兵士が戦っているのかを説明できないのだ。 ロシアとトルコの多元的、集中的な会合であれ、シリアとトルコの軍・治安関係者の限定的な階段であれ…、トルコをテロ支援から遠ざけ、あるべき場所に戻ってもらうことが、我々ロシアとシリアの共通の目的だ。なぜなら、我々シリアにとって、そしてあなた方(ロシア)にとっても、トルコは隣国だからだ…。そうしたことは可能か? もちろん、可能だ。だが、エルドアンがテロリストを支援していれば、この結果に到達することはできない。テロ支援をあきらめさせねばならない。それで、事態は元に戻る。なぜなら、両国民の間に敵意はないからだ。敵意は政治的な出来事、あるいは特定の利害が絡んだ政策が理由だ。シリア国民レベル、そしてトルコ国民レベルにおいて、意見の対立はない。だから…、こうした関係を正常なものに戻すべきなのだ。 私はトルコ国民に問いたい。シリアとの関係におけるあなた方の大義とは何なのか? トルコの市民がシリアのために死ぬに値する大義とは何なのか? この戦争、あるいはそれ以前に、トルコに対してシリアが行った大なり、小なりの敵対行為とは一体何なのか? そんなものは存在しないのだ。 私は、同胞団に属する様々な国の人たちと会ってきた。彼(エルドアン)もその一人だ…。彼らはみな同じことをする。シリア、そして私との個人的関係についてきれいごとを言うが、事態が変わると、全く逆のことを言う。それがムスリム同胞団なのだ。彼らに政治的道徳、社会的道徳、宗教的道徳などない。彼らにとって宗教は善行ではなく、暴力なのだ。 我々は小国だが、このような戦争で大国になる要素がある。第1に、そして最も重要なものとして、愛国的意識、国民的意識だ。今起きていることが西側の陰謀の結果であるとの意識をシリア国民が持っていなければ、シリアはあっという間に消滅、ないしは破壊されていただろう。国民的意識がさまざまな方面で国民統合をもたらした…。この意識がテロに立ち向かう国家との結束をもたらした…。第2の要素は、犠牲を惜しまない国民の伝説的とも言える能力だ。それをシリア・アラブ軍に見ることができる…。軍の犠牲に加えて、国民自身も犠牲を払った。非常に困難な状況で暮らしている。砲撃は続き、制裁が行われ、経済状況も悪い。にもかかわらず、国民は自らの祖国を守ろうとしている。第3の要素は国家を維持するのに重要な役割を果たす公的セクターだ。これがあるために、最悪の状況でも、給与は支払われ、学校は運営され、市民に日々のサービスが提供された…。これらの要素に加えて、ロシアやイランをはじめとする我々の友人が支えてくれたことも挙げられる。 今日のシリア社会は…結束力という点、さまざまな集団が社会的に統合されている点で、戦争以前よりも良くなっている。理由は簡単だ。戦争というのはどんな社会にも重要な教訓を与えるからだ…。過激派が破壊を行い、他者を受け入れないことが深刻な問題をもたらすという教訓。その結果、集団どうしが近づいていった…。問題は政府の支配の外にあった地域だ…。だが、シリアの戦争は宗派間の戦争だとする西側の作り話はさておき、私は懸念していない。こうした言葉は正しくはない。 このような戦争において、もっとも基本的な内政策の一つが恩赦だ。我々は犯された過ちに恩赦することなければ、安定を回復できない。これが戦争の最初から我々が行ってきたことだ…。このプロセスは非常にうまくいき、多くの地域で安定が回復された。我々はこの政策を続けていく。とはいえ、恩赦ができない状況も限定的ではあるが存在する。犯罪行為を行い、多くの人々を殺戮した者だ。そのほとんどがテロリストの幹部だ。ただし、ほとんどの場合、国家に復帰することができると考えている。なぜなら、武器を手にした者の多くが、そうせざるを得なかったからだ。彼らにはそれ以外の選択肢はなかった。武器を手にしなかったら、殺されていた。こうした者は、必然的に過激派になったのはない。テロリストとしての過去もない。武器を手にすることを強いられた普通の人間だ。 (政府の支配下に復帰した)多くの地域には、民間人はいない。テロリストが入ってきた時に出て行ってしまったからだ。我々がこれらの地域で最初することは、住民が戻れるようになるためのインフラの整備だ…。第2の挑戦は…学校の再建だ…。この二つが、テロリストが退去し、安定が戻ってきた地域において重要な二つの基礎だ。 関係正常化や和解がうまくいったからといって、それは100%の成功を意味しない。完璧は存在しない。一部の者はテロリストの傾向や過激派イデオロギーを留めている。別の場所の過激派に協力し、テロ行為を実行したりすることもある。最近でも、さまざまな場所で多くの爆弾事件が発生した…。しかし、それは和解プロセスを止めることではなく、スリーパー・セルを追跡することを意味する。我々は多くの容疑者を逮捕できたが、まだいる。 憲法がある。我々は立憲国家だ。西側の脅威、西側の望みに従うことはない…。だから、憲法の制定や大統領・議会選出のための投票を延期するよう提案がなされたが、我々はこの戦争を通じてそれを拒否してきた。次期国会選挙は数ヶ月中におこなわれる。我々は決められた日程に従って事を進める。 ほとんどのアラブ諸国はシリアとの関係を維持してきた。しかし、(欧米諸国の)圧力を恐れて非公式に、だ。これらの国にはシリアへの指示を表明し、テロリストに対する我々の勝利を願ってきた。だが、西側、とくに米国がこれらの国に強い圧力をかけ、シリアに大使館を再開しないよう迫ってきた。とりわけ湾岸諸国に対してだ。一方、欧州は…、国際政治において存在していないに等しい…。欧州諸国は米国によって任されたことを実効しているだけだ…。本当のところ、我々は欧州の役割や欧州の政治について話すことに時間を費やしたくもない。主人は米国なのだ。米国について話すということは、自動的に欧州について話すことにもなる。だが…、変化はある。これらの国の望みは何一つ実現せず…、代価を支払っているのは欧州だということが明らかになっている。欧州の難民問題は深刻だ。 我々とあなた方ロシアの関係は60年以上に及ぶ…。両国の関係は互恵関係だ…。我々はこの戦争において1日たりとも、ロシアが我々に何かを押しつけようとしているとは感じていない。ロシアはいつも尊敬の念をもって我々に接してきた…。シリアとロシアの関係は、特にこの戦争を経て、明らかに戦略的な関係になった。そしてこの関係はより強固で、より信頼に満ちたものとなった。 もっとも重要なのは破壊し尽くされた郊外の復興だ。投資系企業にとってのトップ・プライオリティだと私が考えているのがこれだ…。この分野は確実に利益が見込める。それ以外にも、石油・ガス部門がある。この分野も利益が見込める。現在、多くのロシア企業がシリア国内で活動を始めている…。生産を拡大するうえで最大の障害は、テロリストと米国の占領だ。米国はとくにシリアの油田地帯を占拠している。 軍事的側面における最優先課題はイドリブ県だ。だから、エルドアンは全力を投じている。もちろん、それが米国の支持に従っていることは間違いない。なぜなら、イドリブ県の解放は、我々が東部の解放に向かうことを意味しているからだ。私はこれまで何度も、イドリブ県というのが軍事的側面において前哨地だと言ってきた。だから、トルコはイドリブ県の解放を阻止しようと全軍を配置してきた。我々が東進しないようにするためだ。だが、もし、我々が東部地域で戦争を始めないとしても、市民と連絡は取り合っている。東部地域での人々の怒りは徐々に高まっており、占領者に対する抵抗プロセスが始まることだろう。国家は、愛国的、そして憲政上の義務として、占領勢力に対する抵抗を支援する…。民衆は米国の占領に反対するだろう…。米国にはとどまることはできないだろう。石油のためであれ、ダーイシュ(イスラーム国)やヌスラ(シャーム解放機構)といったテロリストを支援するためであれ、なんであれ…。もちろんシリア北部を占領しているトルコも同じだということを忘れてはならない。 我々はシリア北部のすべてのクルド人政治グループと連絡をとっている。だが、問題なのは、これらのグループの一部が米国の権威のもとに活動していることだ。我々はクルド人とは言わない。なぜなら、クルド人の大部分は愛国的なグループ・部族で、国家とともにあるからだ。だが、これらのグループは声を出せない。この地域を支配しているのは、米国と共に行動する小さなグループに過ぎない。 シリアにはいわゆるクルド問題はない。理由は簡単だ。クルド人は歴史的にシリアのなかに生きづいているからだ。トルコの弾圧を受けて20世紀にやってきた人々…我々は彼らをシリアに迎え入れた。クルド人やアルメニア教徒らがシリアにやって来たが、問題はなかった…。問題は数十年前から分離主義的なアジェンダを提起するグループにある…。だが、トルコの国家がクルド人に対して弾圧、殺戮を行えば、我々は彼らを支持する。 彼らはシリアで国籍を取得した。もともとシリア人ではなかったのだ。クルド人をめぐってはいつも良いことが生じていた。つまり、いわゆるクルド問題というのは不正確な表現なのだ。 現時点での問題は米国との関係だ。米国は占領者だからだ。米国は我が国の領土を占領し、石油を盗んでいる。 このクルド人グループはトルコの占領に反対すると言い、トルコの占領と戦うという声明を何度も出している。しかし、トルコが(イドリブ県に)進攻した時、一発も撃たなかった。なぜか? トルコが進攻する場所を決めているのが米国だからだ…。我々は言動を一致させて欲しいのだ…。しかし彼らは中立を守っている。米国、トルコと共に歩んでいる。 (私の)公的な立場に関して、このような状況でまず考えるのは、祖国防衛だ。これが国家を担っている私の義務だ…。過ちはあるだろうか? もちろん、どんな行動にも過ちはある。もっと良い政治的・軍事的判断はなかったろうか? 必ずある…。シリアの場合も同じだ…。しかし、9年が経って思うのは、我々が別の方向に進んでいたら、我々は祖国を真っ先に失っていただろうということだ。つまり、決定は正しかったのだ。一方、日々の過ちはもちろん続いていた。過ちがなされるたびに、我々はそれをただし、決定を改めねばならない。それは当然のことだ。 一方、個人的な事柄について言うと…、どんな人間にも祖国への思いというものがある。とくに、我々は戦争が始まる前は急成長を遂げていた…。もちろん改革プロセスにおいて多くの問題があった…。汚職、失政などだ。とはいえ、国力は改善し、発展していた…。間違いなく言えるのは、どんな戦争にも理由があるが、その結果は非常に悪いものになるというものだ。戦争に良い感情を持つことなどあり得ない。常に痛みや憤りを感じ、常に正しい人々が失われ、日々資源が失われる…。しかしこうした痛みが同時にもっと働こうという動機、インセンティブになる。 Russia 24, March 5, 2020、SANA, March 5, 2020をもとに作成。 (C)青山弘之 All rights reserved.