シリア大統領府はイタリアのRAIニュース24がアサド大統領に対して行った単独インタビューを配信した。
インタビューは30分弱で、11月26日にRAIニュース24のモニカ・マッギオーニ(Monica Maggioni)CEO(最高経営責任者)が行っていた。
大統領府によると、12月2日にRAIニュース24とシリア国営メディアを通じて放映することに合意していた。
だが、12月2日、大統領府はRAIニュース24側から放映を延期するとの通知を受けた。
また、これに先立って、RAIニュース24側は2度にわたって延期を申し出ていたが、明確な理由、さらには延期後の放送日が示されなかったため、一方的な配信を決定したという。
インタビューは英語によって行われ、全文およびアラビア語全訳はSANA(https://www.sana.sy/en/?p=180156、https://www.sana.sy/?p=1069535)で公開されている。
インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:
**
「シリア社会についていうと、状況はずっと良くなっている。この戦争から我々は多くの教訓を得た。私はシリアの将来が約束されていると考えている。我々はこの戦闘を通じてより強くなっている」。
「現地情勢について言うと、シリア軍は過去数年にわたり、進軍を続け、テロリストから多くの地域を開放した。しかし、まだイドリブ県が残っており、そこにはトルコの支援を受けるヌスラ戦線(シャーム解放機構)がいる。また、シリア北部では先月トルコが我が国の領土を侵略した」。
「政治状況については、これまで以上に複雑になっていると言える。なぜなら、これまで以上に多くのプレーヤーが、シリアの紛争に関与し、消耗戦に持ち込もうとしているからだ」。
「良い雰囲気を醸成しようとして我々が採用した方法を我々は和解と呼んできた。人々が共に暮らし、シリア政府支配地域の外で暮らしていた人々が法と制度のもとに復帰するためのだ。武器を棄てて、法律に従おうとする者であれば、誰に対しても恩赦を与えてきた。この点において、事態は複雑ではない。どの地域であれ、あなたが訪問する機会を得られれば、生活が普通に戻りつつあることを見ることだろう」。
「問題は人々が戦い合っていることではなかった。西側での解説が見せようとしていたものとは違っていた。シリア人どうしが戦っている、あるいは西側が言うところの「内戦」というのは誤解を招くものだ。実情は、テロリストが複数の地域を掌握し、かれらのルールを適用しているというものだ。こうしたテロリストがいなければ、人々は日常生活に戻り、共存することだろう。宗派戦争もない、民族戦争もない、政治的な戦争すらもない。外国勢力が支援するテロリストがいて、資金、武器を得て、こうした地域を占領しているのだ」。
「シリア政府の支配下にないこれらの地域は二つのものによって支配されている。まずは混乱だ。なぜなら法律がないからだ。だから人々、とりわけ若い世代は、国家、法、制度といったものを何ら知らない」。
「第2は、より頭のなかに深く根付いてしまっているもの、つまりイデオロギー、暗黒のイデオロギー、ワッハーブ主義イデオロギーだ。ダーイシュ(イスラーム国)、ヌスラ、アフラール・シャーム(シャーム自由人イスラーム運動)、それ以外のイスラーム主義テロ過激派のイデオロギーだ」。
「我々は今こうした現実に対処し始めている。なぜなら、ある地域を解放したら、この問題に取り組まねばならないからだ。そうしなければ、解放することの意味はいったい何なのか? 解決策の第1部は、宗教的なものだ。なぜなら、このイデオロギーが宗教イデオロギーだからだ。シリアの宗教関係者、つまりは宗教機関は、この点で多大な努力をし、成功を収めている。これらの人々が、ヌスラ、ダーイシュなどによって教えられた宗教ではなく、真の宗教を理解することを手助けするのに成功している」。
「第2部は学校だ。学校では、教師がおり、教育がある。国が定めたカリキュラムがあり、このカリキュラムは若い世代の考えを変えるのに非常に重要だ。第3は、文化が。芸術、知識などが果たす役割がある。一部の地域では、そうした役割を果たすことが今も難しい。だから、我々には、宗教から始め、次に学校へと進む方が簡単だ」。
「ロシアの役割を理解するには、ロシアの原則を理解する必要がある。ロシアは、国際法、そしてそれに基づく国際秩序が自国の国益、そして世界のすべての人の利益にかなっていると考えている。だから、シリア支援を通じて、ロシアは国際法を支援している。これが第1点だ。第2に、テロリストに対抗することが、ロシア国民、そして世界の利益だと(ロシアは)考えている」。
「(ロシアが)トルコと一緒になって、妥協することは、トルコの侵略を支援することを意味していない。むしり、ロシアはトルコにシリアを去らねばならないと認識させる役割を果たしたいと考えてきた。ロシアはトルコを支援していない。ロシアは「これは良い現実だから、我々はこれを受け入れ、シリアもこれを受け入れねばならない」などと言ってはいない…。しかし、トルコ、クルド人をめぐる米国、西側の否定的な役割ゆえに、ロシアは介入し、バランスの取れた役割を果たし、事態を収拾しようとした。良いものだとは言えないが、正確に言うのであれば、悪いと言い切れるものではない…。将来、ロシアの立場はより明白になるだろう。それはシリアの国民統合と主権(を支持するというもの)だ。シリアの国民統合と主権はトルコの侵略とは矛盾する」。
「ロシアも(シリアと同じく)主権という点では妥協はしていない。現実に対処しているのだ。悪い現実がある場合、何かをするために関与しなければならない。妥協とは言いたくない。なぜならそれは最終解決にはならないからだ。短期的には妥協となるかもしれない。だが、中長期的にはトルコは去るべきなのだ。そこに疑問の余地はない」。
「いつか(トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との協議を)しなければならないとしても、それを誇らしいとは感じないだろう。この手の日和見的イスラーム主義者、つまり、政治的な意味で、イスラーム教徒でなく、イスラーム主義者と対処することにはうんざりしている。だが、もう一度言うと、私の職務は、自分がすることで幸せになったりならなかったりすることではない。私の感情とは関係がない。シリアの国益に関わるものだ。我々の国益にかなうのであれば、私はどこにでも行く」。
「単純な問いから始めたい。誰がこうした問題(難民、イスラーム主義者のテロ)を創り出したのか? 欧州になぜ難民がいるのか?… 欧州がテロを支援しているからだ。もちろん、米国、トルコなどもだが、欧州はシリアの混乱を創り出すうえで中心的な役割を果たした」。
「欧州は公然と支援をした。欧州はシリアのテロリストを最初から支援してきた。欧州はシリア政府を侮辱した。フランスのような一部の政権は、武器を供与し…、この混乱を創り出した。だから、多くの国民がシリアにとどまることが難しくなった。何百万人もの人々がここで暮らすことができなくなり、シリアを後にした」。
「混乱があればいつでも、それはみなにとって悪い副作用、反響をもたらす。外国の干渉があればなおさらだ。もし、それ(イランでの混乱が)自発的であるなら、つまり、改革、あるいはより良い経済状況などを求めるデモであるなら、それは前向きなものだ。だが、破壊行為、殺戮、外国勢力の干渉があれば、そうではなくなる。否定的以外の何ものでもなく、悪いもので、この地域のみなにとって危険なものとなる」。
「(レバノンも)同じだ。もちろん、レバノンはシリアと直接接しているので、それ以外のどの国よりもシリアに大きな影響を与える。だが、もう一度言うと、それが自発的で、改革、あるいは政治的宗派主義システムの排除を求めるものであるなら、それはレバノンにとって良いことだ。それは、レバノン国民の意識に次第で、部外者がレバノンでの自発的な運動、デモを操作しようとするのを許さないようにすることだ」。
「(イドリブ県などシリアの人々の惨状を憂慮した)ローマ教皇フランシスコの書簡はシリアの市民を思いやったものだ。だが、私はヴァチカンが持っているイメージはまだ充分でないという印象を持った。西側の主な解説が「悪い政府が良い国民を殺戮している」というものなので、無理もない。だが、西側メディアで見聞きしていると思うが、シリア軍の銃弾、そして爆弾が民間人だけを殺し、病院だけを狙っているのだ! シリア軍は民間人を狙っていてテロリストを殺していないというのだ! だがそれは正しくない」。
「…我々こそが、民間人の命にもっとも関心を払い、しかも最初に関心を払ってきたのだ。なぜなら、人々が反対している限り、いかなる地域も解放できないからだ。民間人が社会に反抗している限り、解放について話すことはできない。どの地域を軍事的に解放する場合でも最も重要なのは、その地域、あるいは地域全体の大衆の支持を得ることだからだ」。
「この問題(民間人保護)は、道徳、原則、価値観としてでだけでなく、国益として、我々が毎日考えていることだ。既に述べた通り、こうした支持、大衆の支持なくしては、何も達成できない。政治、軍事、経済などすべてにおいて前進することができない。我々は大衆の支持がなければ9年間もこの戦争を耐え抜くことはできなかった。民間人を殺していたら大衆の支援など得ることはできない」。
「(シリアの民間人の惨状の)主要な原因は、欧州がテロリストを支援していることだ。また、欧州がシリア国民に制裁を科していることが、事態を悪化させている。これこそが、欧州に難民が押し寄せているもう一つの原因でもある。難民は要らないと言っておきながら、「シリアから出てどこかに行け」と言い放つような状況、雰囲気を醸成してしていれば、彼らは欧州に行くだろう。だから…、どの国であっても原因に対処すべきなのだ。我々はヴァチカンが欧州、さらには世界中でそうした役割を果たすことができると期待している。シリアの問題に干渉すること、そして国際法に違反することを止めさせるよう多くの国を納得させることを。国際法に従いさえすれば、それで充分だ。民間人は安全になるし、秩序は戻るだろう。すべてが良くなるだろう」。
「我々は常に、化学兵器に関する話が始まった時から、使用していないと言ってきた。使用などできない。我々が置かれていた状況において、多くの理由から使用することは不可能なのだ。論理的な理由でだ」。
「一つ理由を挙げるが、それはきわめて単純なものだ。進軍しているときに、なぜ化学兵器を使うのか?!… 良い状況にあるのに、なぜ使うのか、とくに2018年にだ?」。
「二つ目は、こうした(シリア軍が化学兵器を使用したとの)説明に反論するきわめて具体的な証拠がある。化学兵器、つまりは大量破壊兵器を使用したら、数千人、ないしは少なくとも数百人が死亡するはずだ。しかし、そうしたことは起きなかった。化学兵器による攻撃が行われたとするビデオがあるだけだ。最近のレポートでは…、我々がビデオで目にしたものと、技術者や専門家が目にした者との間に齟齬が生じている。彼らが述べていた塩素の量だ。まず、塩素は大量破壊兵器ではない。第2に、彼らが発見したのは、自宅にあるのと同じ程度の量で、多くの家にある量で、おそらく洗濯などに使われるものだ…。それが化学兵器禁止機関(OPCW)がしたことだ。彼らは、おそらく米国が望んだ通りに報告書をねつ造した。幸い、こうした報告書は、我々が2013年以降言ってきたことすべてが正しいことを証明していた。我々が正しく、彼らが間違っているということをだ…。これがこの問題に関する具体的な証拠だ。もう一度言うが、OPCWは偏っており、政治化しており、非道徳だ…。それは米国、そして西側が混乱を創り出すための武器として利用されてきた」。
「何かをするとき、常に誤りを見つけるものだ。それが人間の本質だ。だが、政治的な実践について話す時、二つのことが言える。戦略あり、大きな決定をすること、そして戦略があること、あるいはこの文脈におけいては実施だ。我々の戦略的決定、あるいは主要な決定はテロに立ち向かい、和解し、内政干渉に立ち向かうことだ。9年が経った今日も、我々は同じ政策をとっている。これまで以上にこの政策をこだわるようになっている。もし、間違っていると考えていたら、それを変更していた。だが、実際にはそんなことはなかった。この政策に誤りがあったとは考えていない。我々には使命があったからだ。国民を守ることで憲法を実践するという使命だ」。
「実践面での誤りについて言うのなら、もちろん多くの誤りがある。ただ、この戦争についての誤りについて話したいとしても、我々は戦時中に行われた決定について云々すべきでない。なぜなら、戦争は別の何かの一部、ないしは結果だからだ」。
「我々は戦争を通じて二つのものに直面してきた。第1に過激思想だ。過激思想は、1960年代にこの地域で始まり、80年代にとくにワッハーブ主義イデオロギーが加速した。この問題への対処に関する誤りについて話したいのなら…、我々は非常に危険なものに対して寛容すぎた、と言って認めるだろう。我々が数十年間犯してしまった大きな誤りだ。この戦争以前の私自身を含めたさまざまな政府について言っている」。
「第2は、秩序に抗って反乱し、公共財を破壊し、破壊行為などをしようとしている人々がいるとき、彼らが国に反抗し、外国勢力、外国の諜報機関のために活動し、自国への外国の軍事干渉を求めようとするという状況だ。我々はこれらの人々にどう対処するかがもう一つの問題だ? そう訊かれたなら、戦争前であれば、警察が捕らえられていない5万人以上の犯罪者がいて、犯罪者にとって、生来の敵は政府だ、なぜなら投獄されたくないからだ、と答えるだろう。
「それ(経済的不満)は一要素ではあるが、主因ではない。4年にわたる干ばつで、人々が農村を離れ都市に移動したと言う者もいる。それは問題かもしれないが、主要な問題ではない、自由主義政策について話す者もいる。我々は自由主義政策をとっていないし、今も社会主義だからだ。国営セクターが今もあり、それは政府において非常に大きなセクターだ。大規模な国営セクターがあるのに、自由主義政策について話すことはできない。我々は充分成長してきたからだ」。
「もちろん、政策実施にさいして誤りはあった。国民にどのように平等な機会を創出することができるか? 農村と都市の間に? 経済を開放すれば、都市部がより大きな利益を得る。農村から都市部に多くの移民が入ってくるだろう…。しかしこれ自体は問題ではない。農村で、より深刻な貧困な発生し、カタールの資金が都市部以上に役割を果たしてしまった。それは当然だ。1週間働いて得ていた額を30分で支払われたからだ」。
「それ(復興)について大きな問題は抱えていない。シリアにはカネがないと言うが…、そうではない。実際にはシリアにはたくさんのカネがある。世界中にいるシリア人がたくさんのカネ持っている。彼らは戻ってきて自分たちの国を作りたいと思っている。なぜなら、国を建設するという時、それは人々にカネを与えるというのではなく、利益を得ることに歓迎がある。それがビジネスだ。シリア人以外にも多くの人がシリアでビジネスをしたいと考えている。復興資金をどこで確保するかについてだが、我々にはすでに資金はあるが、問題は、制裁によってビジネスマンや企業がシリアに来て事業をできないことにある。にもかかわらず、我々は(復興を)開始した。にもかかわらず、一部外国企業は制裁を回避する方法を見つけ始めている。我々は計画立案を開始した。制裁がなければ、我々には問題がないことが示されることになろう」。
「ほぼすべての都市が、テロ、外国の攻撃などで被害を受けたこのような国全体にかかわる戦争について話したいのなら、シリア人すべてがサバイバーだ。人間の本質とは、サバイバーになることだと思っている」。
「私はそうしたシリア人の一人だ。彼らと切り離すことはできない。同じ感情を持っている。もう一度言うが、強い人間がサバイバーになるということではない。こうした状況、こうした社会、生き延びるためのこうした孵卵器のような社会がなければ、生き残ることはできない。一人の人間ではなく、集団としてだ。ワンマンショーではない」。
AFP, December 9, 2019、ANHA, December 9, 2019、AP, December 9, 2019、al-Durar al-Shamiya, December 9, 2019、Reuters, December 9, 2019、SANA, December 9, 2019、SOHR, December 9, 2019、UPI, December 9, 2019などをもとに作成。
(C)青山弘之 All rights reserved.
ナハールネット(11月21日付…
イドリブ県では、テレグラムの「…