2015年11月21日(土)から30日(月)までのシリアをめぐる主な動きは以下の通り。
**
Contents
シリア軍、ロシア軍がラタキア県の対トルコ国境地帯、アレッポ市南部郊外での攻勢を強めるなか、24日、トルコ軍は、ロシア軍戦闘機がトルコ領空を侵犯したとして、これを撃墜した。
撃墜に先立って、トルコ政府は、ロシア軍の国境地帯の空爆によってトルクメン人の被害・難民化が深刻化しているとの主張をにわかに強めていたが、撃墜されたロシア軍戦闘機搭乗員2人のうちの1人は、トルクメン人の武装集団によってパラシュート降下中に撃たれて死亡した。
事件を受け、ロシアはトルコへの制裁に動く一方、トルコ政府がダーイシュ(イスラーム国)をはじめとするテロ組織との密売買に関与していると批判、シリア国内では対トルコ国境地帯での空爆を激化させた。
ロシア軍の空爆は、ラタキア県北部のラビーア町、サルマー町一帯(いわゆるトルクメン山、クルド山一帯)にとどまらず、イドリブ県とトルコを結ぶ兵站路上に位置するバーブ・ハワー国境通行所一帯、アレッポ県西部とトルコを結ぶ兵站路上に位置するバーブ・サラーマ国境通行所一帯に対しても行われ、トルコの後援を受けた反体制武装集団、とりわけアル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線、トルキスターン・イスラーム党といったジハード主義武装集団がその標的となった。
一方、ロシア軍の攻勢を受け、トルコのイスタンブールで活動するシリア革命反体制勢力国民連立(いわゆるシリア国民連合)は、ヌスラ戦線に対して、アル=カーイダからの脱退を宣言し、「自由シリア軍」と共闘するよう呼びかけた。
(主な関連記事)
■シリア軍、ロシア軍がラタキア県の対トルコ国境地帯への攻撃を激化し、トルコ在住のシリア国民連合は徹底抗戦を呼びかける(2015年11月21日)
■オバマ米大統領「ロシアはアサド政権と戦う反体制派を空爆すべきでない」(2015年11月22日)
■フランスのル・ドリアン国防大臣「ロシアはダーイシュのみを空爆せねばならず、自由シリア軍への空爆を止めねばならない(2015年11月22日)
■ロシア軍はシリア空爆作戦拡大に向け、ダブア航空基地の拡張を準備(2015年11月23日)
■ロシア軍は21、22日の2日間で141回の空爆を実施し、ヒムス県、ダイル・ザウル県、ラッカ県のダーイシュ(イスラーム国)の石油関連施設など472カ所を破壊(2015年11月23日)
■シリア国民連合のハウジャ代表、ヌスラ戦線に対してアル=カーイダからの脱退を宣言し、「自由シリア軍」と共闘するよう呼びかける(2015年11月23日)
■シリア軍とヌスラ戦線などからなる反体制武装集団がラタキア県北部、アレッポ県で一進一退の攻防を続ける(2015年11月24日)
■トルコ軍がシリア・トルコ国境地帯でロシア軍戦闘機を撃墜、ロシア側はシリア領内で撃墜されたと主張(2015年11月24日)
■ロシア軍戦闘機撃墜事件(1):トルコはロシア機が領空侵犯したと主張、軍はダウトオール首相ではなくエルドアン大統領にまず報告(2015年11月24日)
■ロシア軍戦闘機撃墜事件(2):ロシア、シリアはトルコ軍がシリア領空を侵犯しロシア機を撃墜したと発表(2015年11月24日)
■ロシア軍戦闘機撃墜事件(3):シリアの反体制武装集団はロシア人パイロット2人を銃殺したと主張、また捜索活動にあたるロシア軍ヘリコプターも撃墜したと発表(2015年11月24日)
■ロシア軍戦闘機撃墜事件(4):米仏両首脳はダーイシュ(イスラーム国)との戦いを改めて強調、駐イラク米軍報道官は「撃墜事件はロシアとトルコの出来事」と発言(2015年11月24日)
■シリア軍、ロシア軍がラタキア県北部でトルキスターン・イスラーム党、ヌスラ戦線などを激しく空爆・攻撃(2015年11月25日)
■シリア軍・ロシア軍は、トルコ軍戦闘機に撃墜されたロシア軍戦闘機搭乗員1人の救出に成功(2015年11月25日)
■トルコ軍によるロシア軍戦闘機撃墜を受け、ロシアはシリア国境での防空態勢強化、ラブロフ外務大臣は事件を「挑発行為」と非難(2015年11月25日)
■トルコのチャヴシュオール外相はロシアのラブロフ外相との電話会談で事件に対して「遺憾の意」を表明:エルドアン大統領「問題をエスカレートさせる意思はない」(2015年11月25日)
■フランスのオランド大統領とロシアのプーチン大統領が会談:「ダーイシュ(イスラーム国)を含むテロ組織と戦う勢力への空爆は行わないことで合意」(2015年11月26日)
■トルコのエルドアン大統領はダーイシュとの石油取引を否定し、「穏健なトルクメン反体制派」の支援を継続すると述べる(2015年11月26日)
■ロシアのプーチン大統領は「トルコはテロリストをかくまい、彼らと石油、人員、麻薬を違法取引している」と批判(2015年11月26日)
■ロシア軍(と思われる戦闘機)およびシリア軍は、米トルコが設置合意した「安全地帯」の西端に位置するバーブ・サラーマ国境通行所(アレッポ県)などトルコ国境地帯で空爆、攻撃を激化(2015年11月26日)
■ロシア国防省:ロシア軍は23~26日にシリア領内各所で134回の空爆を実施し、標的449カ所を破壊(2015年11月26日)
■シリア・ロシア外相会談:ラブロフ外務大臣はトルコによるテロ支援を厳しく非難(2015年11月27日)
■ロシア大統領府報道官は、シリア軍との連携の可能性を示唆したフランスのファビウス外相の発言を高く評価(2015年11月27日)
■エルドアン大統領はトルコによるテロ支援疑惑に反論する一方、プーチン大統領との直接会談を切望(2015年11月27日)
■ロシアがトルコに対する経済制裁を発令(2015年11月28日)
■ロシア軍、シリア軍がラタキア県、イドリブ県のトルコ国境地帯で攻勢を続ける(2015年11月28日)
■シリア軍報道官「トルコ政府は最近になって、テロリストに対する支援を増加させ、彼らに武器、弾薬、装備などを売却している」(2015年11月28日)
■トルコのエルドアン大統領はロシア軍戦闘機撃墜事件に関して「事件を悲しんでいる。起こらなければよかったと願っている」と発言(2015年11月28日)
■ロシア大統領府報道官「テロ組織がシリア領の大部分を支配するなか、政治的移行について話すことは非現実的」(2015年11月28日)
■ロシア軍、シリア軍はイドリブ県、アレッポ県、ラタキア県の対トルコ国境地帯での空爆、攻撃を続ける(2015年11月29日)
■トルコは撃墜後にシリアの反体制武装集団に殺害されたロシア軍戦闘機搭乗員の遺体をロシア側に引き渡す(2015年11月29日)
■イスラエルのヤアロン国防大臣「ロシア軍機がイスラエル領空を侵犯したが、ただちに航路を修正し、シリア領空に戻った」(2015年11月29日)
■トルコのエルドアン大統領は、トルコ政府がダーイシュとの石油密売買に関与しているとのロシアのプーチン大統領の批判を強く否定(2015年11月30日)
■シリア人権監視団:ロシア軍の空爆による死者数は1,502人に達する(2015年11月30日)
■シリア駐留ロシア空軍は地対地ミサイルを搭載して空爆を実施(2015年11月30日)
シリア軍は、ダーイシュ(イスラーム国)によって支配されていたマヒーン町、フワーリーン村およびその一帯を、また西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍はハサカ県ハサカ市郊外のマリービーヤ村一帯、ハサカ市北東部バースィル・ダム一帯でダーイシュの掃討に成功、それぞれ支配地域を拡大した。
シリア軍によるダーイシュ掃討作戦はロシア軍の、シリア民主軍の掃討作戦は米国主導の有志連合がそれぞれ航空支援を行った。
(主な関連記事)
■シリア軍がマヒーン町郊外の大マヒーン山、小マヒーン山をダーイシュ(イスラーム国)から奪還(2015年11月21日)
■YPG主体のシリア民主軍は有志連合の航空支援を受け、ハサカ県のマリービーヤ村一帯をダーイシュ(イスラーム国)から奪還(2015年11月22日)
■シリア軍がヒムス県マヒーン町、フワーリーン村をダーイシュ(イスラーム国)から奪還する一方、アレッポ市マンビジュ市でダーイシュ退去を求めるデモ発生(2015年11月23日)
■YPG主体のシリア民主軍はハサカ県で、シリア軍はダイル・ザウル軍、ヒムス県、アレッポ県でダーイシュ(イスラーム国)への攻勢を続ける(2015年11月24日)
■ロシア軍(と思われる)戦闘機がダーイシュ(イスラーム国)の拠点マンビジュ市などを空爆(2015年11月26日)
■シリア軍がヒムス県中部、ダイル・ザウル市一帯でダーイシュ(イスラーム国)との戦闘を続ける(2015年11月27日)
■シリア軍がダイル・ザウル県、アレッポ県東部でダーイシュ(イスラーム国)への攻勢を続ける(2015年11月28日)
■シリア軍がダイル・ザウル県、ヒムス県、アレッポ県でダーイシュ(イスラーム国)との戦闘を続ける(2015年11月29日)
■シリア人権監視団:ダーイシュ(イスラーム国)がカリフ制宣言以降、シリアで殺害した民間人、軍人、ダーイシュ・メンバーらの数は3,591人にのぼる(2015年11月29日)
■YPG主体のシリア民主軍がダーイシュ(イスラーム国)との戦闘の末にハサカ市北東部のバースィル・ダム一帯を制圧(2015年11月30日)
米トルコ両政府がアレッポ県北部に設置合意した「安全地帯」では、トルクメン人民兵が米トルコ両国空軍の航空支援を受け、同地に展開するダーイシュ(ダーイシュ)への攻勢を強めたが、ダーイシュは同地の拠点都市マーリア市一帯において反撃に転じ、一進一退の攻防が続いた。
米国は、ハサカ県とともに「安全地帯」でも空爆を行ったが、ダーイシュを掃討する戦力を有する部隊が存在しない同地では、戦況に大きな変化はなかった。
こうしたなか、シリア民主軍への支援などを通じて、「穏健な反体制派」支援から西クルディスタン移行期民政局人民防衛隊への支援へと対シリア軍事支援策の路線転換に動き出した米国は、特殊部隊薬50人を、アレッポ県アイン・アラブ市に派遣した。
同地では、アラブ民主軍を主導する人民防衛隊への教練が行われていると思われる。
一方、米国が路線転換に動き出すなか、パリ同時テロ事件を機にシリアへの空爆強化を開始したフランスが、1回だけ、ダーイシュの主要拠点であるラッカを空爆した。
また、ドイツがこのフランスのダーイシュとの戦いへの軍事支援を決定、英国もシリア空爆に向けた審議が下院で本格化した。
(主な関連記事)
■トルクメン人民兵が米トルコの航空支援を受け、アレッポ県北部「安全地帯」内の2カ村をダーイシュ(イスラーム国)から奪還(2015年11月21日)
■米主導の有志連合はシリア領内で9回の空爆を実施(2015年11月21日)
■米主導の有志連合はハサカ県、ダイル・ザウル県、アレッポ県北部で14回の空爆を実施(2015年11月22日)
■米主導の有志連合はシリア領内で5回の空爆を実施(2015年11月23日)
■フランス軍がダーイシュ(イスラーム国)に対する空爆を本格化させ、拠点2カ所を破壊(2015年11月23日)
■シリア人権監視団:有志連合の空爆でダーイシュ(イスラーム国)メンバー3,547人、民間人250人が死亡(2015年11月23日)
■米主導の有志連合はシリア領内で5回の空爆を実施(2015年11月24日)
■米主導の有志連合はシリア領内の4カ所を空爆(2015年11月25日)
■ダーイシュ(イスラーム国)は米トルコが設置合意したアレッポ県北部の「安全地帯」の中心都市マーリア市を砲撃(2015年11月25日)
■米主導の有志連合はシリア領内での空爆を実施せず(2015年11月26日)
■ドイツはフランス軍によるシリア空爆を支援するため偵察機と艦船の派遣を決定(2015年11月26日)
■YPGへの軍事教練のために米軍士官ら約50人がアイン・アラブ市(アレッポ県)入りか?(2015年11月26日)
■サウジアラビアのジュバイル外相は「アサドには二つの選択肢しかない。平和的に去るか、軍事行動で排除されるかだ」と述べ、シリアへの軍事介入を改めて示唆(2015年11月26日)
■キャメロン英首相はシリア領内でのダーイシュ(イスラーム国)への空爆を求める法案を下院に提出(2015年11月26日)
■米主導の有志連合はシリア領内の3カ所を空爆(2015年11月27日)
■フランスのファビウス外相はダーイシュ(イスラーム国)との戦いにおいてシリア軍との連携の可能性を初めて示唆(2015年11月27日)
■米主導の有志連合はシリア領内の3カ所を空爆(2015年11月28日)
■米主導の有志連合はシリア領内の5カ所を空爆(2015年11月29日)
■米主導の有志連合はシリア領内の1カ所を空爆(2015年11月30日)
■マケイン米上院議員「スンナ派諸国軍と米軍からなる数十万規模の多国籍軍を発足し、シリア領内でのダーイシュ(イスラーム国)に対する地上作戦に投入すべき」(2015年11月30日)
シリア軍、ロシア軍による軍事攻勢が続くなか、ダマスカス郊外県東グータ地方では、ロシア政府の仲介のもと、シリア軍とイスラーム軍をはじめとする反体制武装集団の停戦に向けた交渉が行われたが、合意には至らず、同地での戦闘は激しさを増した。
一方、ヒムス市最後の戦闘地域であるワアル地区では、シリア政府と反体制武装集団の停戦交渉が、武装集団戦闘員退去を骨子とする合意に向けて大きく前進した。
(主な関連記事)
■シリア軍がダマスカス郊外県東グータ地方への攻撃を激化するなか、アル=カーイダ系のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動を除く反体制派が停戦に向け委員会を設置(2015年11月22日)
■シリア軍報道官:シリア軍は21~26日にシリア領内各所で179回の空爆を実施し、標的673カ所を破壊(2015年11月26日)
■シリア軍がハマー県、アレッポ県などで反体制武装集団との戦闘を続ける(2015年11月30日)
■ファトフ軍を指導するサウジ人のムハイスィニー氏はシリア国内の支配地域での政府樹立を主唱(2015年11月30日)
■ヒムス市内の最後の戦闘地域ワアル地区で、反体制武装集団退去などを骨子とする和平合意締結に向けた交渉開始(2015年11月30日)
ロシア軍がトルコ国境での攻勢を強めるなか、西クルディスタン移行期文民局が実効支配するアレッポ県北部のアフリーン市一帯、アレッポ市シャイフ・マクスード地区に、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動、そして「穏健な反体制派」などからなるアレッポ・ファトフ軍作戦司令室、マーリア作戦司令室が進攻し、人民防衛隊、そしてアレッポ県、イドリブ県で最近になって同部隊と連携し、シリア民主軍を編成した革命家軍と交戦した。
アル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」は、サウジアラビア、トルコ、カタール、そして米国などの支援を受け、対するシリア民主軍も米国が最近になって支援を強化している。
(主な関連記事)
■アレッポ・ファトフ軍作戦司令室がアレッポ市北部のシリア軍拠点を攻撃(2015年11月23日)
■アレッポ県北部で、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線が西クルディスタン移行期民政局支配下のアフリーン市郊外の村に進攻し、YPGと交戦(2015年11月24日)
■ロシア軍戦闘機をトルコ領内で撃墜したと主張するトルコ軍は、シリア領内(ハサカ県)をヘリコプターで領空侵犯(2015年11月25日)
■米トルコが設置合意した「安全地帯」(アレッポ県北部)でダーイシュ(イスラーム国)戦う「穏健な反体制派」は、米が後援するシリア民主党所属組織が住民を虐殺したと主張(2015年11月27日)
■シリア軍とアル=カーイダ系組織のヌスラ戦線、トルキスターン・イスラーム党などからなる反体制派がラタキア県北部、アレッポ県で一進一退の攻防を続ける一方、YPGもアレッポ県北部でヌスラ戦線と交戦(2015年11月27日)
■西クルディスタン移行期民政局の支配下にあるアレッポ県シャイフ・マクスード地区をヌスラ戦線が無差別砲撃(2015年11月28日)
■アフリーン市郊外でアル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」がYPG主体のシリア民主軍支配下の村を攻撃、制圧(2015年11月29日)
■YPG(主導のシリア民主軍)とアル=カーイダ系組織のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動がアレッポ県のアフリーン市一帯およびアレッポ市シャイフ・マクスード地区で戦闘を続ける(2015年11月30日)
シリア情勢についてもっと詳しく知りたい方は「シリア・アラブの春顛末期:最新シリア情勢」(http://syriaarabspring.info/)をご覧ください。
またFacebook、Twitter、Livdoor Blogでも記事を配信しています。
Facebook:https://twitter.com/SyriaArabSpring
Twitter:https://twitter.com/SyriaArabSpring
Livdoor Blog:http://blog.livedoor.jp/syriaarabspring/