イスラエル軍機がダマスカス郊外県の43か所に対して越境空爆を実施し複数の師団が壊滅するなど甚大な被害、シリア外務省は国連への報告のなかで空爆が「タクフィール主義テロ集団の調整のもとに」行われたと指摘(2013年5月5日)

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イスラエル軍によるシリアへの越境空爆

『ハヤート』(5月6日付)など、イスラエル軍機がダマスカス郊外県ジャムラーヤー市の軍科学研究センターなど43カ所に対して約4時間にわたって空爆を行ったと報じた。

Kull-na Shuraka', May 5, 2013

Kull-na Shuraka’, May 5, 2013

複数の目撃者によると、空爆による「火柱」がカシオン山上空まで昇み、ダマスカス県住民の多くが階下へと避難したという。

なお攻撃には、少なくとも18機の戦闘機が空爆に参加したという。

http://www.youtube.com/watch?v=7KjDnKr_ZBY

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RT(5月5日付)は、シリアの複数の匿名消息筋の話として、イスラエル軍のシリアへの越境空爆によって、ダマスカス郊外県のジャムラーヤー地区、クドスィーヤー地区、ハーマ地区、サッブーラ地区に展開していた共和国護衛隊第104旅団、第105旅団、第14師団の兵士約300人が死亡した、と報じた。

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クッルナー・シュラカー(5月5日付)は、イスラエル軍のシリアへの越境空爆には、米軍製のJDAM誘導爆弾、ヘルファイヤ地対空ミサイル、およぶ非伝統兵器の巨大な爆弾が使用され、巨大な爆弾によってマグニチュード4の揺れが生じたと報じた。

また同報道によると、空爆を標的となった軍施設およびその被害状況は以下の通り:

Kull-na Shuraka', May 5, 2013

Kull-na Shuraka’, May 5, 2013

共和国護衛隊第105旅団:壊滅
共和国護衛隊第104旅団:壊滅
カシオン山に駐留するミサイル旅団
カシオン山の武器庫
ジャムラーヤー市の科学研究センター
ハーマ町の防空向上近くの施設
クドスィーヤー市郊外の第4師団拠点
クドスィーヤー市郊外の第4師団武器庫
マアルバ町・タッル市間の軍施設(スカッド・ミサイル関連施設と思われる施設)
クドスィーヤー市にある共和国護衛隊団地内の施設(未確認情報)
クドスィーヤー市にある住宅地内の施設(未確認情報)

そのうえで、クッルナー・シュラカー(5月5日付)は、イスラエル軍の越境攻撃で、第4師団の精鋭部隊兵士など約2,000人が死亡したものと思われると付言した。

なおクッルナー・シュラカー(5月6日付)はその後、イスラエル軍の越境空爆によって、共和国護衛隊第104、105旅団の将兵約500人が死亡したと報じた。

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AFP(5月5日付)は、ダマスカス国際空港近くの施設をイスラエル軍機が空爆したことをイスラエル公式筋(匿名高官)が認めたと報じた。

空爆は、ヒズブッラーに手渡されるミサイルが格納されていた倉庫などに対して行われたという。

シリア政府の動き

シリア外務在外居住者省は、国連安保理議長と事務総長に宛てて書簡を提出し、イスラエル軍によるシリアへの越境攻撃の詳細を報告した。

同書簡によると、イスラエル軍は、イスラエル領内からレバノン領空と占領下のゴラン高原を侵犯・通過し、ジャムラーヤー市北西部、マイサルーン市、ディーマース町シャワーイー航空基地にあるシリア軍の施設3カ所に対して空爆を行い、これにより、軍施設は破壊され、また市民に多数の死傷者が出た。

また同書簡は「イスラエルとシャームの民のヌスラ戦線に属すタクフィール主義テロ集団の調整のもとに攻撃が行われた」と指摘するとともに、シリア領外への武器輸送阻止というイスラエルの主張には根拠がないと却下、イスラエルの敵対的行為が地域の緊張を高め、大規模な地域戦争を誘発しかねないと警鐘を鳴らした。

さらに、米国首脳が行ったイスラエルの攻撃を是認するような米国首脳の発言が、イスラエルの越境空爆を促したと断じ、「シリアの主権侵害を政治的に隠蔽するもの」と非難した。

最後に、シリア・アラブ共和国が自国の領土と主権に対して自衛権を有することを強調し、「シリアに対するイスラエルの敵対行為を停止させ、その再発と地域の混乱を回避するために責任を果たす」よう呼びかけた。

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ワーイル・ハルキー内閣が緊急閣議を開き、イスラエル軍によるシリアへの越境攻撃に対する非難決議を採択し、ウムラーン・ズウビー情報大臣が閣議後の記者会見で決議を読み上げた。

非難決議はイスラエル軍の越境攻撃を「国際法のすべての基礎にあからさまに違反している」と非難する一方、「シリアに対する戦争を構成するタクフィール主義勢力とシオニストの有機的なつながりに対して何らの疑いの余地もないことが明らかになった」としたうえで、「シリア・アラブ共和国政府は、この攻撃がすべての可能性に対する門戸を開いたと考える」と報復を示唆した。

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またバアス党シリア地域指導部、人民議会、ビラード・シャーム・ウラマー連盟、人民諸組織、職業諸組合、クルド国民平和的変革運動、人民諸委員会連盟連合、アラブ社会主義運動、アラブ民主団結党、人民民主党、シリア共産党ニムル派などが、相次いでイスラエル軍によるシリアへの越境空爆を非難した。

国内の暴力

タルトゥース県では、シリア人権監視団によると、バーニヤース市ラアス・ナブア地区、カルア地区で軍による捜索摘発が行われる一方、マルカブ村周辺などに軍が砲撃を加えた。

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ラタキア県では、シリア人権監視団によると、サルマー町一帯などに軍が激しい砲撃を加えた。

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ヒムス県では、クサイル市郊外で軍と「ヒズブッラーを支持する人民諸委員会」が反体制武装集団と交戦、戦闘員21人を含む34人が死亡、またクサイル市とラスタン市での空爆で子供1人、女性1人を含む4人が死亡した。

また東ブワイダ市近くで車が襲撃され、子供3人、女性3人が殺害された。

一方、SANA(5月5日付)によると、マジュダル村、ヒムス市カラービース地区、ワーディー・サーイフ地区、ワルシャ地区、クサイル市などで、軍が反体制武装集団の拠点を破壊、戦闘員を殺傷、武器弾薬などを押収した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ズグバ村が軍の空爆を受け、カフルヌブーダ町、カフルズィーター市で軍と反体制武装集団が交戦した。

またハマー市アレッポ街道地区では軍が摘発逮捕を行った。

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イドリブ県では、シリア人権監視団にようと、ダルクーシュ町などが軍に砲撃を受けた。

一方、SANA(5月5日付)によると、タフタナーズ航空基地周辺、サルミーン・ビンニシュ街道、アブー・ズフール軍事基地周辺、ナイラブ村、ジダール・ブカフルーン市、マアッラトミスラーン市、アイン・シーブ村、タッル・サラムー市、トゥルア市、アイン・スーダ村、ジャーヌーディーヤ町、タッル・ザハブ町などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、マーイル町、ハルビール市、ハッダーディーン村、マンナグ航空基地周辺、ハーン・アサル村、アレッポ中央刑務所周辺などで、軍と反体制武装集団が交戦、また第80師団基地周辺での戦闘では、反体制武装集団戦闘員9人を含む23人が死亡した。

またアレッポ市では、ハーリディーヤ地区で軍と反体制武装集団が交戦、カーディー・アスカル地区、アレッポ城周辺が砲撃を受けた。

一方は、SANA(5月5日付)によると、ムスリミーヤ村、ハンダラート・キャンプ、マンナグ村、アルカミーヤ村、アレッポ中央刑務所周辺、アレッポ市ライラムーン地区などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラッカ県では、シリア人権監視団によると、ラッカ市バドウ地区、種はダー地区、第17師団基地周辺などが軍の空爆を受けた。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ムーハサン市などが軍の空爆を受けた。

一方、SANA(5月5日付)によると、ダイル・ザウル市工業地区などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市などで軍と反体制武装集団が交戦し、ダルーシャー村、ハーン・シャイフ・キャンプのパレスチナ難民キャンプなどが砲撃を受けた。

一方、SANA(5月5日付)によると、アドラー市、ランクース市東部、ムウダミーヤト・シャーム市、ダーライヤー市、ハラスター市などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ジャウバル区で軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(5月5日付)によると、ジャウバル区、バルザ区で軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ワーディー・ヤルムーク地方、タスィール町、ジャムラ村などを軍が空爆した。

一方、SANA(5月5日付)によると、ヒルバト・ガザーラ町、ジャースィム市、ナーフィア村、シャジャラ町、ダーイル町などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

反体制勢力の動き

シリア民主左派連合は声明を出し、イスラエル軍によるシリアへの越境空爆に関して、シリア情勢を複雑化し、シリア人民の革命が挑まねばならない新たな課題を生み出す動きと非難した。

レバノンの動き

NNA(5月5日付)は、ベカーア県ヘルメル郡カスル村に、シリア領から発射されたカチューシャ砲が着弾したと報じた。

諸外国の動き

イランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣は、イスラエル軍によるシリアへの越境空爆に関して、マナール・チャンネル(5月5日付)に対して、「この攻撃は、シオニスト政体とシリア国民と戦うテロ傭兵集団が結託していることを示すものであり、シリア軍の成果と勝利の結果として行われた」と非難した。

そのうえで、イスラエル軍の攻撃があらゆる国際的な取り決めに反しており、地域の安定を脅かすと付言した。

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アラブ連盟は声明を出し、イスラエル軍によるシリアへの越境空爆を「危険な影響」を及ぼし得ると警鐘を鳴らすとともに、国連安保理に対して、敵対行為の停止と再発防止に向け、即時に行動するよう呼びかけた。

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また、イランのアリー・ラーリージャーニー諮問評議会(国会)議長、アルジェリア外務省報道官、レバノンのミシェル・スライマーン大統領、アドナーン・マンスール外務大臣、アマル運動政治局、スーダンのアフマド・ビラール・ウスマーン情報大臣、PFLP、パレスチナ・イスラーム聖戦、PFLP-GC、パレスチナ人民闘争戦線、PLO政治局長、クウェート国会などが、相次いでイスラエル軍によるシリアへの越境空爆を非難した。

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NNA(5月5日付)などによると、イスラエル軍は対レバノン・シリア国境地帯にアイアン・ドーム防空システム2基を配備した。

シリアへの越境攻撃に対する報復を警戒した動き。

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トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、AKP党員らを前に演説し、イスラエル軍によるシリアへの越境空爆に関連して、「我々はアッラーの許しのもと、このとさつ人、人殺しがこの世界で報いを受けるのを目にすることになろう…。お前は振り籠の子供に対して勇気を見せつけたことに対して、非常に高い代償を支払うことになろう」と述べ、アサド大統領を非難した。

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国連の潘基文事務総長は、イスラエル軍によるシリアへの越境空爆に関して「イスラエルが攻撃を行ったとの(5月4日の)報道に関して大いなる懸念」を表明しつつ、「国連は攻撃が行われたかどうか確認できない」と述べた。

AFP, May 5, 2013、al-Hayat, May 6, 2013、Kull-na Shuraka’, May 5, 2013, May 6, 2013、Kurdonline, May
5, 2013、al-Manar Channel, May 5, 2013、Naharnet, May 5, 2013、NNA, May 5,
2013、Reuters, May 5, 2013、SANA, May 5, 2013、UPI, May 5, 2013などをもとに作成。

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