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シリア政府の動き
アサド大統領はシリアを訪問中のイラン・シューラー議会(国会)のアラーッディーン・ボルージェルディー国家安全保障外交委員長と会談した。
SANA(8月26日付)などによると、アサド大統領は会談で「西側諸国と一部の地域諸国がどれほど協力しあったとしても、シリアは確固たる方法をもって国民の合法的な権利を擁護し抵抗する」との意思を示した。
また「現下の計略がシリアに対して向けられているのではなく、シリアが礎石をなす地域全体に対して向けられている…。外国諸勢力はシリアを標的とすることで、地域全体における計画を実現しようとしている」と述べた。
これに対して、ボルージェルディー委員長は「シリアの安全保障はイランの安全保障の一部をなす」点を強調し対話を通じた危機の政治的解決に向けてシリア政府、国民を引き続き支援するとの意思を示した。
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シリアを訪問中のイラン・シューラー議会(国会)のアラーッディーン・ボルージェルディー国家安全保障外交委員長はまた離反報道が絶えないファールーク・シャルア副大統領と会談したほか、ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣と会談した。
離反報道の加熱以降、シャルア副大統領が公の場に姿を現したのはこれが初めて。
ムアッリム外務在外居住者大臣は会談後、国内の「武装集団」の「浄化」が完了するまで、反体制勢力との交渉は始められないとの見解を示した。
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8月16日に就任したアドナーン・アブドゥー・サフニー工業大臣、ナジュム・ハマド・アフマド法務大臣、サアド・アブドゥッサラーム・ナーイフ保健大臣の3人がアサド大統領に対して就任宣誓を行った。
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『サウラ』(8月26日付)は、社説で、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相が「かつてないほどに米国にの従順な道具になりさがり…、イスラエルの国益のため米国とともにシリア国内でのテロに関与している」と批判した。
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Damas Post(8月26日付)は、イランで開催予定の非同盟諸国外相会合後に、シリア政府がロシア、中国、イランの支援のもと、包括的国民対話大会開催の準備を始めるだろう、と報じた。
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『クッルナー・シュラカー』(8月26日付)は、ジャーミア・ジャーミア少将が軍事情報局ダイル・ザウル課長からダマスカス地域課長に異動したと報じた。
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『アフバール・バラド・ナー』(8月26日付)はヨルダンの複数の消息筋の話として、バフジャト・スライマーン駐ヨルダン・シリア大使がイード・フィトルの挨拶で訪問した複数のヨルダン人に対して、「アサド大統領は血に飢えた性格でなく、非常に繊細」と述べたと報じた。
同報道によると、スライマーン大使は、故ハーフィズ・アサド大統領から、バッシャール・アサド大統領に、軍の裏切り者に対処するための銃の撃ち方を教えるよう頼まれたが、なかなか習得しなかったという。
しかし1996年、アサド大統領(当時共和国護衛隊付士官)は、スライマーン大使(当時ムハーバラートの幹部)に軍のクーデタ未遂に対処するため裏切り者を射殺することを求めた、という。
スライマーン大使が上記のように語ったか否かの真偽は定かでない。
国内の暴力
ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市(人口約20万)で過去5日間の軍・治安部隊と反体制武装勢力と交戦で死亡したと見られる遺体少なくとも320人が発見された。
同監視団によると、このうち約200体は過去48時間に粛清・処刑されたり、空爆で死亡した遺体で、反体制武装集団の戦闘員だけでなく、女性子供も含まれている、という。
ユーチューブ(8月26日付)には、「ダーライヤーのアブー・スライマーン・ダーライヤーニー・モスクの虐殺」とのタイトルで、モスク内に安置された遺体の映像が公開された。
http://www.youtube.com/verify_age?next_url=/watch%3Fv%3DIOT8FK7oKSE
アブー・カナアーンを名のる活動家によると、遺体のほとんどは軍・治安部隊や親政府の民兵が市内で行った突入作戦時に家の中で射殺された、という。
複数の活動家は、ダーライヤー市での「虐殺」は「反体制武装勢力戦闘員が首都南部郊外に再集結したのを受け、(政権が)首都での革命を一気に根絶しようとした」と評した。
なおダーライヤー市での戦闘(虐殺)での被害者数は、「300人以上」、「150人以上」というように各反体制勢力によって異なっており、また『ハヤート』(8月27日付)によると、虐殺の真偽も非政府系のメディアが規制を受けているため確認できない、という。
このほか、シリア人権監視団によると、ランクース市での軍・治安部隊との戦闘で、反体制武装勢力の戦闘員5人が死亡した。
一方、SANA(8月26日付)によると、反体制武装勢力が「浄化」されたダーライヤー市で軍・治安部隊が「残党」の掃討を続し、多数の戦闘員を殺傷、逮捕、武器弾薬を押収した。
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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市のメリディヤン地区、イザーア地区、ファイイド地区などで軍・治安部隊と反体制武装勢力が激しく交戦した。
また同監視団によると、ダウワール・ジャンドゥール地区の戦闘で反体制武装勢力の戦闘員3人が、またマイダーン地区では1人が殺害された。
このほか、サラーフッディーン地区、サイフ・ダウラ地区、スライマーン・ハラビー地区、サーフール地区などでも戦闘があったという。
一方、SANA(8月26日付)によると、軍・治安部隊はアレッポ市アズィーズィーヤ地区、スライマーニーヤ地区、バーブ・ハディード地区、サーリヒーン地区、サイフ・ダウラ地区、ジュダイダ地区などで反体制武装勢力の「残党」の掃討を続け、多数の戦闘員を殺傷した。
またアナダーン市、マンビジュ市などでも軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」の掃討を続け、多数の戦闘員を殺傷した。
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ダマスカス県では、『ハヤート』(8月27日付)は、複数の活動家の話として、アッバースィーイーン広場で爆発音が聞こえ、広場にいたる道が一時封鎖された、と報じた。
一方、SANA(8月26日付)によると、ルクンッディーン区でイマーム・ナワウィー・モスクの説教師ハサン・バルターウィー師が「テロ集団」に暗殺された。
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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市の旧市街で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦した。
一方、SANA(8月26日付)によると、カルヤ・ヒスン市、タッルカラフ市などで軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。
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イドリブ県では、SNN(8月26日付)によると、MiG23がザーウィヤ山を空爆した、数十人が死傷したという。
一方、SANA(8月26日付)によると、アリーハー市およびその周辺で軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」を追跡し、多数の戦闘員を殺傷した。
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ハマー県では、SANA(8月26日付)によると、ハマー市内で指名手配中の反体制武装勢力戦闘員多数が逮捕された。
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山本美香氏らをトルコからアレッポに案内したアブドゥッラフマーン(38歳)を名のる運転手はロイター通信(8月26日付)に対して、同氏と佐藤和孝氏はフッラ・チャンネルの記者2人とともにシリアに入国したと語った。
4人はアレッポ市内のサラーフッディーン地区に連れて行くよう求め、彼らがタウヒード旅団のアブー・ナースィルなる部隊長と交渉していると、軍のヘリコプターやMiG23がスライマーン・ハラビー地区を空爆した。
アブー・ナースィルが死傷者収容のため、スライマーン・ハラビー地区に行くと4人に告げると、彼らは行く先を変更し、アブー・ナースィルとともに同地区に向かった、という。
フッラ・チャンネルの記者2人は現在も行方不明である。
反体制勢力の動き
地元調整諸委員会はダーライヤー市での戦闘に関して「体制が犯した虐殺」と非難した。
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自由シリア軍のリヤード・アスアド司令官は、レバノンの声ラジオ(8月26日付)に対して、アレッポ県で拉致されたレバノン人巡礼者の釈放は「そのほとんどがヒズブッラーの幹部なので容易ではない」と述べた。
またハサン・ナスルッラー書記長に関して「求められたことを行うことに失敗した」と述べ、「シリア政府とともにヒズブッラーが(シリア)国民と戦っているとみなしている」と非難した。
クルド民族主義勢力の動き
クルディーヤ・ニュース(8月26日付)は、信頼できる消息筋の話として、8月20日にイラク・クルディスタン地域のキンディールでPKK代表とシリア・クルド国民評議会の代表が「極秘の会談」を行った、と報じた。
会談に参加したのは、PKKのジェミル・バイク、シリア・クルド左派党のムハンマド・ムーサー書記長、シリア・クルド民主党(アル・パールティ)のホシャンク・ダルウィーシュら。
会談でバイクはクルド民族主義勢力の統合の必要を強調した、という。
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クルディーヤ・ニュース(8月26日付)は、PKK系の民主統一党が自治を行うアレッポ県アイン・アラブ市(コーバーニー市)で麻薬の栽培が行われている、と報じた。
レバノンの動き
北部県トリポリ市バーブ・タッバーナ地区とジャバル・ムフスィン地区で続く市民どうしの衝突で、1人が死亡、6人が負傷した。
またレバノン軍は事態収拾のため、武装した18人を逮捕し、武器を押収した。
諸外国の動き
『ハヤート』(8月27日付)は、トルコ高官の話として、シリア領内からトルコのハタイ県に避難しようとしたシリア人少なくとも2,000人の入国を阻止した、と報じた。
同高官によると、「我々にはこれらの人々を収容する場所がもうない。収容場所を建設するため活動しており、完成すれば、彼らの通過を認めるだろう」と述べた。
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イラン・シューラー議会(国会)のアラーッディーン・ボルージェルディー国家安全保障外交委員長は8月末に開催予定の非同盟諸国首脳会議にシリアの首相と外相を招待するだろうと述べた。
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『サンデー・テレグラフ』(8月26日付)や『タイムズ』(8月26日付)は、「ジハード主義グループ」が英国内で若者をリクルートし、シリアに派遣していると報じた。
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ヨルダンのサミーフ・マアーイタ内閣報道官は、国際社会に対してシリア人避難民救済のための特別支援をヨルダンに行うよう呼びかけた。
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イラク・クルディスタン地域の自治政府は7月のイラク軍のニネベ県ザンマール地方対シリア国境地帯への展開によって生じていた緊張状態を緩和するための治安合意をバグダードのイラク中央政府との間で交わしたと発表した。
この合意は7項目からなっており、イラク軍とペシュメルガの現地での治安維持活動を調整する委員会の設置などを骨子とするという。
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エジプトのムハンマド・ムルスィー大統領は、イランに関して「問題の一部ではなく、解決策の一部」とみなし、同国がメッカでのイスラーム諸国会議機構首脳会議で提案した四カ国連絡委員会の設置に理解を示した。ヤースィル・アリー大統領報道官が記者会見で明らかにした。
同委員会はイラン、エジプト、サウジアラビア、トルコの四カ国からなる。
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英国のアリスター・バート中東問題担当大臣はダーライヤー市での戦闘(虐殺)に関して、「深い懸念」を表明した。
AFP, August 26, 2012、Akhbar al-Sharq, August 26, 2012、Damas Post, August 26, 2012、al-Hayat, August 27, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 26, 2012、al-Kurdiya News, August
26, 2012、Naharnet.com, August 26, 2012、Reuters, August 26, 2012、SANA, August
26, 2012、SNN, August 26, 2012、The Sunday Telegraph, August 26, 2012、al-Thawra, August 26, 2012、The Times, August 26, 2012などをもとに作成。
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