ラタキア県北東部でシャーム自由人イスラーム運動が決起、シャーム自由人イスラーム運動が介入(2020年10月12日)

「決戦」作戦司令室の支配下にあるラタキア県北東部で、シャーム自由人イスラーム運動の沿岸地区司令官が離反し、同地の戦闘員とともに決起した。

反乱は、シャーム自由人イスラーム運動がこの司令官の解任を決定したことを受けたもの。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体。

シャーム自由人イスラーム運動は国民解放戦線を主導する武装集団の一つで、アル=カーイダの系譜を汲む。

シリア人権監視団によると、シャーム自由人イスラーム運動はこれを制圧するために特殊部隊を派遣したが、シャーム解放機構も部隊を派遣し、反乱が発生した地域に展開した。

シャーム自由人イスラーム運動特殊部隊司令官は、展開の理由を尋ねるために、シャーム解放機構の拠点に近づいたが、護衛3人とともに拘束された。

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これに関して、シャーム自由人イスラーム運動のイナード・ダルウィーシュ大尉(アブー・ムンズィル)は、シリア・テレビ(10月12日付)の取材に対して、「組織上の理由と指揮系統上の理由」でアブー・ファーリス・ダルアーウィー沿岸地区司令官の解任を決定したことに反発し、一部武装メンバーがシャーム自由人イスラーム運動の拠点複数カ所で反乱したことを明らかにした。

ダルウィーシュ大尉は、9月にもアブー・スハイブを名乗る幹部の1人が解任されたが、今回のダルアーウィー沿岸地区司令官の解任は、アブー・スハイブ支持者を狙ったものだという。

ダルウィーシュ大尉によると、シャーム自由人イスラーム運動の特殊部隊が反乱を鎮圧するために、現地に向かったが、シャーム解放機構が介入し、反乱が発生した拠点一帯に展開した。

シャーム解放機構はまた、展開の理由を尋ねるために拠点に接近しようとした特殊部隊司令官を拘束した。

事態を受けて、特殊部隊は撤退を決定し、司令官は釈放されたという。

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シリア・テレビ(10月2日付)はまた、シャーム自由人イスラーム運動がメンバーに対して向けたとされる声明の内容を紹介した。

声明は、シャーム自由人イスラーム運動のジャービル・アリー・バーシャー総司令官とアラー・ファッハーム副司令官が下した「感情に基づく拙速な決定」が反乱の遠因にあるうえで、バーシャー総司令官が自身の任期延長を受けて、軍事部門を弱体化させ、その権限を奪おうとするとともに、一部の司令官に対して「否定的な行動」をとったと非難した。

また、今回の反乱については、バーシャー総司令官が沿岸地区司令官の解任を「恣意的」に決定したことに、同地区のメンバーが拒否の姿勢を示したことで発生したことを明らかにした。

バーシャー総司令官は、事態を収拾するために、アブー・イッズ・アリーハー司令官の部隊を派遣したが、同司令官が作戦司令室に入ろうとしたために拘束された。

拘束されたアリーハー司令官は、釈放後に反乱分子とシャーム解放機構が結託しているとの情報を拡散し、それがメディアなどを通じて報じられたと主張した。

そのうえで、声明は、組織の統一を維持するため、バーシャー総司令官とファッハーム副司令官の権限を凍結することを要求した。

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なお、シャーム自由人イスラーム運動は9月13日の会合で、バーシャー総司令官の任期を1年間延長することを決定した。

また、これと合わせて、総司令官の権限を拡大し、所属部隊の直接指揮を可能とし、中央集権を強化した。

シリア・テレビは、イナード大尉が、2019年5月末にシャーム自由人イスラーム運動を離れたハサン・スーファーン前総司令官と連携を取り合っていたと伝えたうえで、同大尉らが、シャーム解放機構との関係に対して柔軟な姿勢を示してきたのに対して、バーシャー総司令官やファッハーム副司令官は、イドリブ県におけるシャーム解放機構の「覇権」に異議を唱えてきたと伝え、それがシャーム解放機構の介入に繋がったとの見方を示した。

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シャーム解放機構の広報関係局長タキーッディーン・ウマル氏は、ドゥラル・シャーミヤ(10月12日付)などに向けて報道声明を出し、シャーム解放機構が事件に介入し、反抗したシャーム自由人イスラーム運動の司令官や戦闘員を支援したとの一部報道を否定した。

声明によると、シャーム解放機構による部隊派遣は、沿岸地区、とりわけアイン・バイダー町に設置されている軍事拠点複数カ所が狙われ、軍事的緊張が高まったことを受けたもので、同地に多数の検問所を設置し、交通規制を行い、実行犯複数人を逮捕した。

シャーム解放機構はその後、シャーム自由人イスラーム運動のジャービル・アリー・バーシャー総司令官と連絡をとった結果、拠点の攻撃が組織内の抗争によるものだとの説明を受けて、逮捕した実行犯を釈放したという。

AFP, October 12, 2020、ANHA, October 12, 2020、al-Durar al-Shamiya, October 12, 2020、Reuters, October 12, 2020、SANA, October 12, 2020、SOHR, October 12, 2020、Syria TV, October 12, 2020などをもとに作成。

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