旬刊シリア情勢(2015年9月11~20日)

2015年9月11日(金)から20日(日)までのシリアをめぐる主な動きは以下の通り。

1. 欧米諸国、ロシアによる軍事介入と事実上の連携強まる

フランス、オーストラリアが、シリア領内でのダーイシュ(イスラーム国)に対する軍事活動(偵察飛行など)を開始する一方、米政府匿名高官らのリークにより、ロシアによるシリア軍への軍事・技術支援強化の実態が徐々に明らかになっていった。

ロシア政府は、シリア政府、シリア軍を軸とした「テロとの戦い」を推し進めるよう国際社会に対して呼びかけ、シリアへの軍事・技術支援強化を正当化した。

これに対して、ドイツはシリアの紛争解決に向けてロシアと協力する必要がある表明したが、米国、フランスなどは、アサド政権への支援に懸念を表明するなど、批判的な対応をとった。

しかし、米国などの真意は判然とせず、ジョン・ケリー国務長官は「我々はアサドが去らねばならないと言ってきたが…1日後とか1ヶ月後とかである必要はない」と述べ、アサド政権の退陣を紛争解決の前提条件としてきたこれまでの姿勢を軟化させるとともに、ロシアとの「軍事的対話」を今後の懸案事項に掲げ、ダーイシュ掃討において一定の協力を行うとも受け取れるような姿勢を示した。

また、シリア領内では、後述の通り、ロシアの軍事・技術支援を受けたと思われるシリア軍によるダーイシュ拠点への空爆を並行するかたちで、有志連合が空爆を継続していった。

(主な関連記事)

オバマ米大統領「ロシアにアサド政権支援は失敗すると伝え続ける」(2015年9月11日)

ロイターはロシア空軍がシリア沖で大規模訓練を行ったと報道(2015年9月11日)

フランスのファビウス外相「紛争への介入を目的としたロシアの地上部隊派遣は受け入れられない」(2015年9月11日)

オーストラリア空軍がシリア領内でのダーイシュ(イスラーム国)に対する軍事作戦に初参加(2015年9月12日)

ドイツのメルケル首相「イスラーム過激派を根絶するには、米国、ロシアと協力する必要があり、そうしなければシリアの紛争は解決できない」(2015年9月12日)

人道支援物資を積んだロシア貨物機2機がラタキア県のバースィル・アサド国際空港に着陸(2015年9月12日)

ロイター:米匿名高官の話として、ロシア製のT90戦車7輌がラタキア市近郊の空港で目撃されたと伝える(2015年9月14日)

ロシアのプーチン大統領はCSTOサミットで、ダーイシュ(イスラーム国)などに対する「テロとの戦い」を続けるシリア政府への軍事・技術支援への参加を呼びかける(2015年9月15日)

フランスのヴァルス首相「「完全な独立性」をもってその標的を選定し、ダーイシュ(イスラーム国)への空爆がシリア政府を利することはない」(2015年9月15日)

クッルナー・シュラカー:「欧州に流入する難民のほとんどはシリアの旅券を持ったイラクのシーア派」とのシリア人避難民の証言を紹介(2015年9月15日)

ロシア軍参謀長「シリア国内で空軍基地を建設する予定はないが、可能性は否定しない」(2015年9月16日)

フランスのル・ドリアン国防大臣はシリアでのダーイシュ(イスラーム国)空爆を自己正当化(2015年9月16日)

トルコのエルドーアン大統領「欧州へのシリア難民流入を止めるため、アサド政権を打倒すべき」(2015年9月16日)

オーストラリアのアンドリュース国防大臣は、14日にシリア領内でダーイシュ(イスラーム国)への初の空爆を行っていたと発表(2015年9月16日)

シリア軍がロシアから供与された高性能兵器の使用を開始(2015年9月17日)

ケリー米国務長官は「シリアをめぐってロシアとの軍事的対話が次の重要なステップ」と述べ、ロシアに対話を呼びかける、ロシア側もこれを歓迎(2015年9月18日)

ケリー米国務長官「我々はアサドが去らねばならないと言ってきたが…1日後とか1ヶ月後とかである必要はない」(2015年9月19日)

米政府匿名高官は、ロシアがシリア国内の拠点に戦闘機4機を配備したとの報道が事実だと述べる(2015年9月18日)

トルコのシニルリオール外務大臣「「シリア人難民の問題はアサドが権力に居座り続ける限り続く。シリア人はアサドが権力の座にとどまり続ける限り、混乱のなかに身を起き続ける」(2015年9月19日)

2. シリア軍、有志連合によるダーイシュへの空爆続く

ダイル・ザウル県、ハサカ県、アレッポ県(安全地帯)、ラッカ県などで、有志連合(米国)と、ロシアの軍事・技術支援を受け強化されたと思われるシリア軍が、交互にダーイシュの拠点などへの空爆を行うようになった。

シリア軍はまた、アレッポ県サフィーラ市東部(クワイリス航空基地奪還)、ジャズル油田一帯でダーイシュに対して攻勢に出る一方、ダイル・ザウル航空基地一帯で一進一退の攻防を続けた。

一方、シリア政府と西クルディスタン移行期民政局が分割統治するハサカ市では、2日間で3回の爆弾テロが発生し、国防隊、アサーイシュの拠点などが標的となり、住民多数が犠牲となった。

米トルコ両政府が設置合意したとされる「安全地帯」では、米中央軍のロイド・オースティン司令官(陸軍大将)が上院の軍事委員会で、トルコ領内で米軍の教練を受け、シリアに派遣された「穏健な反体制派」戦闘員が、現在4~5人しかダーイシュとの戦闘に従事していない、との証言を行った。

その後、シリア人権監視団は、「穏健な反体制派」75人が新たにシリア領内に入ったと発表した。

こうしたなか、「安全地帯」内では、在地のシャーム戦線がダーイシュと戦闘を続け、有志連合がこれを航空支援した。

(主な関連記事)

米高官「ダーイシュ(イスラーム国)はシリアとイラクでマスタード・ガスを製造、使用している)(2015年9月11日)

シリア軍がダイル・ザウル航空基地の攻防戦でダーイシュ(イスラーム国)に対して毒ガスを使用か?(2015年9月11日)

ダーイシュ(イスラーム国)タッル・アブヤド地区元司令官がアル=カーイダ系のヌスラ戦線に復帰(2015年9月12日)

ダイル・ザウル県、ハサカ県、アレッポ県(安全地帯)で、有志連合、シリア軍がダーイシュ(イスラーム国)に攻勢(2015年9月12日)

シリア軍、国防隊がダーイシュ(イスラーム国)支配下のサフィーラ市東部に進攻し、2カ村を制圧(2015年9月14日)

シリア政府と西クルディスタン移行期が分割統治するハサカ市で、国防隊とアサーイシュを狙った連続爆破テロが発生し、住民20人が死亡(2015年9月14日)

ヒムス県中部ジャズル油田一帯でシリア軍とダーイシュ(イスラーム国)の攻防続く(2015年9月15日)

シリア政府と西クルディスタン移行期民政局が分割統治するハサカ市で前日の連続爆破テロに続いて自爆テロ発生、ダーイシュ(イスラーム国)がすべてのテロへの関与を認める(2015年9月15日)

有志連合とシリア軍がそろってダイル・ザウル県のダーイシュ(イスラーム国)を空爆(2015年9月16日)

シリア軍が、英米豪によるシリア領内での限定的軍事行動を尻目にダーイシュ(イスラーム国)の中心拠点ラッカ市各所を集中的に空爆(2015年9月17日)

米国がアル=カーイダ系組織のヌスラ戦線と共闘するジュンド・アクサー機構幹部の一人で「グローバル・ジハード運動」の指導者サイード・アーリフ氏を空爆で殺害(2015年9月17日)

ロシア連邦保安局第一次長「ロシア人約2,400人がダーイシュ(イスラーム国)に参加している」(2015年9月18日)

シリア軍が有志連合に続いてタドムル市に対して激しい空爆を実施、有志連合もシリア軍に続いてミールビーヤ村一帯(ハサカ県)を空爆(2015年9月18日)

シリア軍は前日に引き続き、ダーイシュ(イスラーム国)支配下のヒムス県中部タドムル市を空爆(2015年9月19日)

シリア軍とダーイシュ(イスラーム国)がヒムス県中部、アレッポ市東部で交戦(2015年9月20日)

米英トルコ軍が教練した「穏健な反体制派」新規戦闘員75人がシリア領内に進入(2015年9月20日)

3. 「南部の嵐の戦い」作戦司令室消失、東グータ地方(ダマスカス郊外県)、アレッポ市などでの無差別空爆・砲撃の応酬が続くなか、ザバダーニー市(ダマスカス郊外県)、フーア市(イドリブ県)などで3度目となる一時停戦が発効

ダルアー市の制圧をめざし、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線や自由シリア軍南部戦線が結成していた「南部の嵐の戦い」作戦司令室が消滅していたことが明らかになった。

作戦司令室の幹部らは、ハッジを口実にサウジアラビアに渡航、ないしは欧州に移民したという。

また、サウジアラビアから支援を受けているとされるジハード主義武装集団のイスラーム軍が、ダマスカス郊外県のサイドナーヤー刑務所(ダマスカス中央刑務所)、タッル・クルディー町一帯で攻勢に出て、ダーヒヤト・アサド町一帯でシリア軍と攻防戦を繰り広げる一方、ハラスター市ではヌスラ戦線などとシリア軍の戦闘が続いた。

こうしたなか、シリア軍は、東グータ地方各所、ダルアー県のブスラー・シャーム市、アレッポ市の反体制派支配地域に対して激しい空爆、砲撃を繰り返し、多数が死亡した。

これに対して、反体制武装集団は、イドリブ県フーア市、カファルヤー町への無差別砲撃や自爆攻撃で対抗するとともに、アレッポ市のシリア政府支配地域へ砲撃を行った。

戦闘は各地で激化するかに思えたが、8月以来続けられてきたザバダーニー市、フーア市、カファルヤー町をめぐって、3度目の停戦合意が成立、これらの市町の周辺一帯で戦闘が停止した。

またこの動きに追随するかたちで、ダマスカス郊外県のティーバ村、カナーキル村でもシリア軍と反体制武装集団の休戦が成立した。

さらに、アレッポ市シャイフ・マクスード地区でも西クルディスタン移行期民政局と反体制武装集団の交渉の末、シリア政府支配地域と反体制派支配地域の間の通行所が開放され、住民の往来、物資の搬出入が再会した。

(主な関連記事)

自由シリア軍南部戦線やヌスラ戦線などからなる「南部の嵐の戦い」作戦司令室報道官は、作戦が住民の不満を高めたとしたうえで、ダルアー市制圧を断念、司令室を解体したことを認める(2015年9月11日)

イスラーム軍がダマスカス郊外県のサイドナーヤー刑務所(ダマスカス中央刑務所)内の一部と隣接するタッル・クルディー町農場地帯を制圧か?(2015年9月11日)

シャーム自由人イスラーム運動が総司令官を交代(2015年9月12日)

首都ダマスカスに反体制武装集団が撃った迫撃砲弾複数発が着弾し、住民多数が死傷(2015年9月12日)

イスラーム軍は、ダマスカス中央刑務所(サイドナーヤー刑務所)やタッル・クルディー町農場地帯に続いて東グータ地方山岳部のシリア軍拠点など20カ所を制圧したと主張(2015年9月13日)

有志連合がアレッポ県の「安全地帯」でダーイシュ(イスラーム国)の兵站路に対して集中的に空爆(2015年9月13日)

イスラーム国が攻勢を続ける東グータ地方(ダマスカス郊外県)への転戦を拒んだヤブルード市の国防隊員らと国軍が衝突(2015年9月14日)

ダルアー県のウマリー旅団連合(自由シリア軍)は、若者のダーイシュ(イスラーム国)への参加を阻止するため街道封鎖(2015年9月14日)

反体制派がアレッポ市内のシリア政府支配地域を無差別砲撃(2015年9月14日)

ダルアー県で活動していた「南部の嵐の戦い」作戦司令室の面々が、ハッジと称してサウジアラビアに渡航、あるいは欧州に移民し、住民の怒りを買う一方、ラジャート高地ではダーイシュ(イスラーム国)とアル=カーイダ系のヌスラ戦線が交戦(2015年9月14日)

アレッポ市シャイフ・マクスード地区で、西クルディスタン移行期民政局アサーイシュと「自由シリア軍」が通行所を開放し、住民の往来、食料、燃料の搬出入を許可することで合意(2015年9月15日)

アレッポ県で活動するヌールッディーン・ザンキー運動が2組織を吸収合併(2015年9月15日)

ダマスカス郊外県(東グータ地方、ザバダーニー市)でシリア軍とジハード主義武装集団との戦闘続くなか、反体制派はアレッポ市への無差別砲撃を続ける(2015年9月15日)

クッルナー・シュラカーは、シリア軍がUNESCO世界文化遺産に登録されているブスラー・シャーム市の古代ローマ劇場近くに「樽爆弾」を投下したと主張(2015年9月16日)

アレッポ市でシリア軍と反体制武装集団の無差別攻撃の応酬が続くなか、シリア軍はダーヒヤト・アサド町郊外(ダマスカス郊外県)で反転攻勢(2015年9月16日)

シリア外務在外居住者省はアレッポ市に対する反体制武装集団の無差別砲撃に対する厳正な対処を国連に要請(2015年9月16日)

米中央軍司令官「米国が軍事教練した「穏健な反体制派」のうちシリア領内でダーイシュ(イスラーム国)と戦っているのは4、5人だけ」(2015年9月16日)

ヌールッディーン・ザンキー運動がムハンマド・サイード・ミスリー大尉を新総司令官に任命(2015年9月17日)

シリア軍がアレッポ市内の反体制武装集団支配地域を報復空爆し、40人以上が死亡(2015年9月17日)

シリア軍がダーイシュ(イスラーム国)空爆と合わせてブスラー・シャーム市、アレッポ市、東グータ地方(ダマスカス郊外県)などを「無差別空爆」、対するファトフ軍はフーア市を「無差別砲撃」(2015年9月18日)

アル=カーイダ系組織のヌスラ戦線が制圧したアブー・ズフール航空基地(イドリブ県)でシリア軍兵士65人を集団処刑(2015年9月19日)

フーア市、カファルヤー町(イドリブ県)に対して、ファトフ軍が9回の自爆攻撃を行い、政権側民兵21人と子供2人を含む住民7人が死亡(2015年9月19日)

アレッポ市マイダーン地区、サイイド・アリー地区を反体制武装集団が砲撃し、住民14人が死亡、33人が負傷、またダマスカス県のロシア大使館一帯を砲撃(2015年9月20日)

ダマスカス郊外県のティーバ村、カナーキル市でもシリア軍と地元武装集団が停戦(2015年9月20日)

ダマスカス郊外県ザバダーニー市、イドリブ県フーア市、カファルヤー町の住民避難に向けた3度目の一時停戦が発効(ダマスカス郊外県)でも停戦(2015年9月20日)

4. シリア政府が欧米諸国のダブルスタンダードを非難する一方、「テロとの戦い」への支援を国際社会に求める

アサド大統領が、ロシアの複数のメディアによる共同インタビューに応じ、「問題は欧州が難民を受け入れるか否かにあるのではなく、問題にどう対処するかにある。難民のことを心配するのであれば、テロリストへの支援を止めるべきだ…。これが難民問題の本質だ」と述べ、シリア紛争と移民・難民問題をめぐる欧米諸国のダブルスタンダードを批判した。

そのうえで、「すべての勢力に、テロに対抗するために一致団結することを呼びかけたい」と述べ、シリア政府を軸として、ダーイシュ(イスラーム国)、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線などのジハード主義武装集団に対する「テロとの戦い」を主唱した。

また、ワリード・ムアッリム外務在外居住大臣がシリアとロシアのメディアとの2度にわたるインタビューにおいて、ロシアからの軍事支援、とりわけ高度な兵器の供与の必要を認めるとともに、「ダーイシュとヌスラ戦線との戦いへのロシアの参加」という新たな段階を迎えたことを明らかにした。

(主な関連記事)

アサド大統領「問題は欧州が難民を受け入れるか否かにあるのではなく、問題にどう対処するかにある。難民のことを心配するのなら、テロ支援を止めるべきだ。これが難民問題の本質だ」(2015年9月16日)

ムアッリム外務在外居住大臣「率直に言うと、我々が必要としているのは、テロ組織が保有する高度な兵器に対抗するための高度な武器弾薬だ…。ロシアの軍事基地を作る意思はないが、必要が生じれば、何でもあり得る」(2015年9月17日)

シリア外務在外居住者省は「テロとの戦い」を口実とした英仏豪によるシリア領内での一方的空爆を主権侵害と非難、政府の許可を得るよう求める(2015年9月17日)

ムアッリム外務在外居住大臣「シリアへの軍備増強を越えた新たなことがある。それはロシアがダーイシュ(イスラーム国)、ヌスラ戦線との戦いに参加するということだ」(2015年9月19日)

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