翻訳:青山弘之
Contents
前文
長きにわたる歴史を通じて人類の遺産の一部をなしてきたアラブ文明は、その意思を砕き、植民地主義的覇権に従属させようとする巨大な挑戦にさらされてきた。だが、アラブ文明は自らの創造的な能力をもって、人類の文明を建設する役割を果たしてきた。
シリア・アラブ共和国は、アラブへの帰属を誇り、その人民がアラブ民族の不可分な一部をなすことを誇りとし、自らの愛国的且つ民族的な計画と、アラブどうしの協力支援に向けた行動のなかにこの帰属を体現し、アラブ民族の統合強化と統一実現をめざしている。
シリア・アラブ共和国は、国際の平和と安定が基本的目標にして戦略的選択肢であると考え、国際法、ならびに権利と公正の価値のもとでそれらを実現すべく行動する。
シリア・アラブが地域および国際において果たす役割は過去数十年の間に増大し、すべての領域と分野において人類的且つ愛国的な願望と成果を多く実現した。シリアは、鼓動するウルーバ(アラブ性)の心臓として、またシオニストという敵に対峙するための前線、さらにはアラブの祖国、能力、そして財産に対する植民地主義的覇権に抵抗するレジスタンスの礎として、政治的に重要な位置にある。我らが人民による長きにわたる闘争と、独立、復興、国民統合のための犠牲は、強力な国家を建設し、主権、安全、安定、そして領土の一体性を保障し、守護する筆頭であるシリア・アラブ軍と人民の団結を強化するための道を切り開き、すべての占領地を解放するための人民闘争の確固たる礎となっている。
シリア社会は、すべての要素と層、さらにはその人民、政治、市民組織をもって、文明的蓄積をさらに深淵なものとするための成果を実現し得た。この蓄積はシリア社会に体現されるとともに、変化に適用し、人類的役割を維持するにふさわしい場を準備しようとするその強靱な意思と能力に体現され、それは人類の文明が実際に歩みを進めるうえでの歴史的な力となっている。
21世紀が到来して以降、シリアは、その人民と国家機関のいずれもが、主権を標的とした困難な地域国際情勢のなかで、発展と近代化という挑戦に直面し、それが本憲法を法治国家強化の礎として施行する動機となった。
本憲法は、自由と民主主義への途上にある人民闘争に冠されるべく施行される。本憲法は、諸成果を真に表し、変化や変容に応えるものであり、未来に向かう国家の歩みを導く証であり、国家機関の活動を規制し、その立法の法源をなす。これは、独立、主権、選挙と政治的・党派的多元主義に基づく主権在民、国民統合、文化的多様性、基本的自由、人権、社会的公正、平等、機会均等、市民権、法による支配の擁護を確たるものとする体系的基本原則を通じてもたらされる。ここにおいて、社会と国民は、すべての愛国的努力が捧げられるところの目的、目標となり、その尊厳の維持は祖国の文明と国家の威厳を示すものとなる。
第1部 基本原則
第1章 基本原則
第1条
1. シリア・アラブ共和国は、完全なる主権を有する民主国家で、分割を認めず、またアラブの祖国の一部をなすその国土のいかなる割譲も認めない。
2. シリア人民はアラブ民族の一部をなす。
第2条
1. 国家の政体は共和制である。
2. 主権は人民にあり、個人、集団がそれを主張することは許されず、人民の人民による人民のための統治原則に依る。
3. 人民は憲法が定める形式、限度のもとで主権を行使する。
第3条
1. 大統領の宗教はイスラームである。
2. イスラーム法は立法の主要な法源である。
3. 国家はすべての宗教を尊重し、公の秩序に反しない限りにおいて、あらゆる儀礼を実践する自由を保障する。
4. 宗派の身分は保護され、尊重される。
第4条
アラビア語は国家の公用語である。
第5条
国家の首都はダマスカスである。
第6条
1. シリア・アラブ共和国国旗は、赤、白、黒の三色に、緑色の五角形の星二つを配する。国旗は長方形とし、縦の長さは横の長さ3分の2とし、横に三等分し、上部を赤、中部を白、下部を黒とし、二つの星は白地に配する。
2. 国家の紋章、国家は、法律および同法律にかかる諸規定がこれを定める。
第7条
立憲宣誓は以下の通りとする:
「偉大なるアッラーにかけて、国の憲法と法律、そして共和制を尊重し、人民の利益と自由を尊重し、祖国の主権、独立、自由、国土の安全防衛を維持し、社会的公正とアラブ民族統一の実現のために行動することを誓う」。
第8条
1. 国家の政体は政治的多元主義の原則に依り、権力は投票を通じて民主的に行使される。
2. 公認政党と選挙団体が国民政治生活に参与し、国民主権と民主主義の原則を尊重しなければならない。
3. 法律が政党結成にかかる規定と実施措置を調整する。
4. 宗教、宗派、部族、地域、宗教、職業に依拠、あるいは性別、出自、人種、肌の色に基づく差別に依拠するいかなる政治活動、政党、政治団体の結成も認められない。
5. 政治、政党、選挙のために公職、公金を乱用することは認められない。
第9条
憲法はシリア社会のすべての構成要素が持つ文化的多様性、そしてその多様性のなかにある多元性を保護することを保障し、それをシリア・アラブ共和国の領土保全の枠組みのなかで、国民統合を強化する国民的遺産とみなす。
第10条
人民諸組織、職業諸組合、結社は、国民が社会を発展させ、その成員の利益を実現するために所属する組織であり、国家はその独立と、法律が定めるさまざまな部門や議会に対する人民の監視と参加を保障する。これは、法律が定める条件や状況に基づき、各組織の目的が実現される分野においてなされる。
第11条
軍武装部隊は国土の安全と領域主権を防衛することに責任を担う国民的機関であり、人民の利益に奉仕し、国民の目的と安全を守る。
第12条
国政、ないしは地方において、選挙で民主的に選ばれる議会は、国民がそれを通じて、主権の行使、国家の建設、社会の指導という自らの役割を行使する機関である。
第2章 経済原則
第13条
1. 国民経済は、歳入増加、生産発展、個人の生活水準の向上、就労機会の提供を目的とする経済・社会計画を通じて行われる公的および私的な経済活動の成長を基礎とする。
2. 国家の経済政策は社会と個人の必需品を満たすことを目的とし、これは、包括的且つ持続的で均衡ある成長を遂げるための経済成長、社会的公正を実現することを通じて行われる。
3. 国家は生産者と消費者の保護、通商と投資の保護、さまざまな経済分野における独占の禁止を保障し、人的資源の開発、労働力の保護のために活動し、それにより国民経済に奉仕する。
第14条
天然資源、施設、機関、そして公共事業は国有財産であり、国家は、人民全体の利益のためにこれらへの投資と監督を行う。またこれらの保護は国民の義務である。
第15条
1. 集団および個人の私的所有権は以下の基礎のもとに保護される:
a. 公共財産の没収は禁じられる。
b. 私的所有権は、条例によって公共の利益を目的とし、法律に基づく公正な補償なくして奪われない。
c. 私的所有権の没収は、司法による最終判断なくして強制されない。
d. 公正な補償を定めた法律に基づき、戦争および災害時の必需品とされる私的所有権を没収することができる。
2. 補償は、所有権の真の価値に応じて公正になされねばならない。
第16条
農業にかかる所有権と農業投資は法律がその上限を定め、農民および農業労働者の搾取からの保護と生産増加を保障する。
第17条
相続権は法律に基づき保護される。
第18条
1. 税金、手数料、公共料金は法律なくして課されない。
2. 税制は公正な基礎に依り、税金は累進制とし、平等と社会的公正を実現する。
第3章 社会的原則
第19条
シリア・アラブ共和国社会は団結、扶助、そしてすべての個人の社会的公正、自由、平等、人間的尊厳の維持を基礎とする。
第20条
1. 家族は社会の核であり、法律はその存立を維持し、その絆を強化する。
2. 国家は結婚を保護、奨励し、それを妨げる物的、社会的困難を排除するために活動し、母性、子供らしさを保護し、幼児、青年を養育し、その才能の育成にふさわしい環境を提供する。
第21条
祖国のための殉死は最高の価値であり、国家は法律に基づき、遺族に補償を行う。
第22条
1. 国家は、非常事態、疾病、障害、孤児、高齢に苛まれるすべての国民とその家族に対して補償を行う。
2. 国家は、国民の健康を守り、予防、治療、医療手段を提供する。
第23条
国家は、政治、経済、社会、文化生活に効果的且つ完全に参与するためのあらゆる機会を提供し、女性の開発とその社会建設への参加を阻害する障害を排除するために行動する。
第24条
国家は、自然災害に起因する負担に対して、社会と団結して負う。
第25条
教育、衛生、社会福祉は社会建設の基軸であり、国家はシリア・アラブ共和国のすべての地域において均衡ある成長を実現するために活動する。
第26条
1. 公共福祉は責務にして名誉であり、その目的は、公共の福利の実現と人民への奉仕になる。
2. 国民は公共福祉にかかる職務を等しく任さられ、法律は分担の条件、分担者の権利と義務を定める。
第27条
環境保全は国家と社会の責務であり、すべての国民の義務である。
第4章 教育文化原則
第28条
教育制度は、自らの自我、歴史的遺産、帰属意識、国民統合に関わる世代の育成を基礎とする。
第29条
1. 教育は、国家が保障する権利であり、すべての段階において無償とし、大学や国立教育機関における教育を有償とする場合は法律がこれを定める。
2. 教育は基本教育段階終了まで義務とし、国家は義務期間を伸長するために行動する。
3. 国家は教育を監督し、教育と社会の要請、そして開発にかかる必要との連動を実現するための指導を行う。
4. 法律は、国家による私立教育機関の監督について定める。
第30条
身体教育は社会建設の基本的な支柱をなし、国家はこれを奨励し、身体面、道徳面、思考面で教育な世代を育成する。
第31条
国家は科学研究が必要とするすべてを支援し、科学、教養、技術、文化面での創造の自由を保障し、それを実現するための手段を提供する。また国家は、科学と技術の進歩のためにあらゆる支援を行い、科学的、技術的な発明、創造的な技能を奨励し、その成果を保護する。
第32条
国家は遺跡、史跡、芸術的、歴史的、文化的価値を有する財を保護する。
第2部 権利、自由、法の支配
第1章 権利、自由
第33条
1. 自由は神聖な権利であり、国家は国民に対して個人の自由を保障し、その尊厳と安全を維持する。
2. 市民権はすべての国民が法律に基づいて享受、行使する権利と義務に関わる基本原則である。
3. 国民は権利と義務において平等であり、性別、出自、言語、宗教、心情によって国民の権利と義務が差別されてはならない。
4. 国家は国民の機会均等の原則を保障する。
第34条
すべての国民には、政治、経済、社会、文化生活に参与する権利を有し、法律がこれを定める。
第35条
すべての国民は憲法と法律を尊重する義務を有する。
第36条
1. 個人の生命は法律が保護する不可侵権である。
2. 住居は保護され、関係司法当局の命令がなく、また法律が定める場合以外において進入、捜査は認められない。
第37条
郵便、有線、無線通信などの連絡の秘密性は法律に基づき保障される。
第38条
1. 国民が祖国から排除されること、ないしはその帰還が禁じられることは許されない。
2. 国民をいかなる外国当局に引き渡すことも許されない。
3. すべての国民は、関係司法当局、検事総局、ないしは公共衛生安全にかかる法律によって禁じられていない限り、国内を移動、ないしは出国する権利を有する。
第39条
政治難民は、政治的信条、ないしは自由防衛を理由に引き渡されることは許されない。
第40条
1. 労働はすべての国民の権利であり、義務である。国家はすべての国民に労働を提供するために行動し、法律が労働を調整し、労働条件、労働権を定める。
2. すべての労働者は、労働の質や成果に従い公正な賃金を得る。この賃金は、生活およびその変化の必要を保障する最低賃金を下回ってはならない。
3. 国家は労働者に対して社会衛生保障を保障する。
第41条
税金、手数料、公共料金は法律に基づく義務である。
第42条
1. 信条の自由は法律に基づき保護される。
2. すべての国民は、自らの意見を自由、且つ口頭ないしは文書などあらゆる手段を通じて公けに表明する権利を有する。
第43条
国家は法律に基づき、報道、印刷、出版の自由、報道手段、そしてその独立性を保障する。
第44条
国民は、憲法の諸原則の枠内で、集会、平和的デモ、ストライキを行う権利を有し、この権利の行使については法律が定める。
第45条
結社、組合を結成する権利は、国民的な基礎に依っており、合法的目的のため、平和的手段を通じて行使され、法律が定める条件や状況に基づき保障される。
第46条
1. 徴兵は神聖な義務であり、法律によって定められる。
2. 祖国の安全の防衛と国家機密の守秘はすべての国民の義務である。
第47条
国家は国民統合の保全を保障し、国民にとってその維持は義務である。
第48条
法律がシリア・アラブ国籍を定める。
第49条
選挙と信任投票は国民の権利であり、義務であり、法律がその行使を定める。
第2章 法の支配
第50条
法の支配は国家の統治原則である。
第51条
1. 懲罰は、犯罪や制裁ではなく法律によって個人に対してなされる。
2. すべての被疑者は公正な法廷において最終的な司法判断が下されるまで無罪である。
3. 司法に対する控訴、救済、再審、弁護の権利は法律に従い保護され、国家は法律に従い、これらの権利を行使できない者に対する司法における支援を保障する。
4. 司法の監督に対する行政の働きかけ、ないしは決定は、法律規定によって免責を禁じられる。
第52条
法律規定は発行日をもってのみ適用され、訴求しない。ただし、犯罪以外の行為については、訴追が許される。
第53条
1. 何人も、関係司法当局の命令ないしは決定に従わずして、あるいは現行犯で逮捕された場合、ないしは重犯罪、軽犯罪容疑で司法当局に身柄を引き渡すことが意図されていない場合を除いて、捜査、逮捕されない。
2. 何人に対しても拷問、ないしは侮辱的処遇は許されず、こうした行為を行った者への処罰は法律が定める。
3. すべての逮捕者は、逮捕理由と権利が告知されねばならず、関係司法当局の命令なくして、行政府が逮捕・拘束を継続することは許されない。
4. 最終判決を受け、処罰が執行されたのちに、判決の誤りが確定したすべての者は、国家に対して自らが受けた被害に対する補償を請求する権利がある。
第54条
個人の自由の侵害、ないしは憲法が保障する私生活などの権利や一般的自由に対する侵害は、法律が罰則を定める犯罪とみなされる。
第3部 国家権力
第1章 立法権
第55条
国家の立法権は、憲法の明文に従い人民議会に帰する。
第56条
人民議会の任期は西暦で4年とし、第1回の会議をもって始まり、法律が定める戦争状態以外において任期延長は許されない。
第57条
人民議会議員は、選挙法の規定に基づき、直接秘密平等の一般投票によって選ばれる。
第58条
人民議会議員は人民全体を代表し、特定の制限や条件によって自らの代理人を限定することは許されず、自らの尊厳と良心の導きに従い、職務を行わねばならない。
第59条
投票者は、18歳に達し、選挙法が定める条件を満たした国民とする。
第60条
1. 選挙制度にかかる法律によって、人民議会議員、およびその定数、立候補者が満たすべき用件が定められる。
2. 人民議会の少なくとも過半数は労働者と農民でなければならない、労働者と農民の定義は法律で定める。
第61条
選挙法は以下の規定を保障しなければならない:
1. 投票者が自らの代表者を選ぶ自由、および選挙手続きにおける安全と公正性。
2. 立候補者による選挙プロセスの監督権
3. 投票者の意思を操作した者への処罰
4. 選挙運動への資金提供の規則の明確化。
5. 選挙宣伝とメディア利用の制度化。
第62条
1. 選挙は人民議会任期終了前の60日間に実施される。
2. 議会は、次期議会が選出されない場合、その召集は継続され、新議会が選出されるまで有効となる。
第63条
人民議会議員が何らかの理由により欠員となった場合、議会の任期が6ヶ月以上であれば、欠員発生から60日以内に後任が選出される。新たに選ばれた議員の任期は、議会の任期終了を持って終了とする。欠員状況については選挙法がこれを定める。
第64条
1. 人民議会は、現議会の任期終了日、ないしは議会不在の場合は選挙結果発表から15日以内に、大統領が発する政令により召集される。大統領の政令が発せられない場合は、16日目に召集される。
2. 議会は第1回会議で議長および事務局メンバーを選び、その改選は毎年行われる。
第65条
1. 議会は年に3度通常会を召集し、会期全体が6ヶ月を越えないものとする。また議会内規は日程と帰還を定める。
2. 議会は、大統領、議員の3分の1、ないしは議会事務局の要請に基づき、臨時会の召集を許される。
3. 1年の最後に召集される会議は、国家予算を承認するまで開会される。
第66条
1. 最高憲法裁判所は人民議会議員の選挙にかかる不服申立の審査を担当する。
2. 不服申立は選挙結果発表から3日以内に立候補者によって提出され、裁判所は不服申立日から7日以内に最終判断を確定する。
第67条
人民議会議員は憲法第7条に記されている憲法宣誓を行う。
第68条
人民議会議員の報酬と補償は法律によって定められる。
第69条
人民議会は、活動方法、任務遂行方法、そして事務局の権限を定めるため、内規を定める。
第70条
人民議会議員は、自らが言及した事実、あるいは公開、非公開の会議での投票や委員会での活動において表明した見解に関して、刑事、民事において訴追されない。
第71条
人民議会議員は、議会任期中に免責特権を享受され、現行犯以外においては、議会の事前の許可なくして、議員に対して刑事起訴を行うことはできない。また会期以外の時期においては事務局の許可が必要であり、議会は第1回会議において、事務局が講じ措置について報告を受ける。
第72条
1. 議員はいかなる活動にもその地位を乱用してはならない。
2. 法律が議員の地位と結びつけることが許される活動を定める。
第73条
1. 人民議会議長は議会を代表し、議会の名のもとに署名、発言する。
2. 議会には、議長の命令に服する特別警備隊を有し、いかなる武装勢力も、議長の許可なくして、議会への進入を許されない。
第74条
人民議会議員は、内規の規定に従い、法案提出の権利を行使し、内閣、閣僚に対して質問、照会を行う。
第75条
人民議会は以下の権限を有する:
1. 法律の承認。
2. 内閣声明の審議。
3. 内閣、ないしは閣僚の不信任。
4. 予算および決済の承認。
5. 開発計画の承認。
6. 和平条約、同盟条約など国家の安全に関わる同盟および国際合意、主権に関わるあらゆる同盟、ないしは外国の企業や帰還に特権を付与する合意、予算に記されていない支出を国庫に負担させる、ないしは債務契約にかかる合意、あるいは現行法の規定に反し、その執行に新たな立法が必要となる合意の承認。
7. 恩赦の承認。
8. 議員の辞表の受理、ないしは拒否。
第76条
1. 首相は内閣発足日から最大で30日以内に声明を提出し、人民議会にその審議を求める。
2. 内閣は人民議会に対して声明の実施の責任を負う。
3. 議会が閉会中の場合、特別会が召集される。
第77条
1. 内閣、ないしは閣僚に対する不信任は、議会での追及がなされた後でなければ許されない。不信任の動議は、人民議会議員の少なくとも5分の1の提案に基づくものとし、内閣、ないしは閣僚への不信任は、議会の過半数で可決される。
2. 内閣が不信任を受けた場合、首相は大統領に対して内閣総辞職を行う。また不信任を受けた閣僚は、辞表を提出しなければならない。
第78条
議会はその権限の行使にかかる問題についての情報収集と調査を行うため、議員からなる臨時委員会を設置する権限を有する。
第79条
1. 1会計年度には1予算が定められ、会見年度の開始は法律によって定められる。
2. 法律が国家予算の準備方法を定める。
3. 予算案は、少なくとも会見年度開始2ヶ月前までに人民議会に提出されなければならない。
第80条
1. 議会は品目ごとに予算を採決し、議会の承認がなければ予算は執行されない。
2. 議会が新規会計年度開始までに予算承認を終了しない場合、現行の法規に従って、新規年度予算が承認され、歳入が収集されるまで、前年度予算が執行される。
3. 法律規定に従うことなく、予算品目間での付け替えは許されない。
4. 議会は予算審議の間、歳入および歳出の見積もり総額を増額する権限を有さない。
第81条
人民議会は、予算承認後、新規の歳出および歳入を追加する法律を承認することができる。
第82条
会計年度の決済は、同年度終了から1年以内に人民議会に提出され、決済は法律に基づき、予算承認時と同じ手続きを経て行われる。
第2章 行政権
(1) 大統領
第83条
大統領と内閣は、憲法に定められた規定の枠内で、議会に代わって強制権を行使する。
第84条
大統領職への立候補者は以下を条件とする:
1. 40歳に達していること。
2. 出生時にシリア・アラブ国籍を享受し、出生時にシリア・アラブ国籍を享受する両親を持つこと。
3. 市民権、政治的権利を享受し、復権していたとしても、不名誉な重罪で有罪判決を受けていないこと。
4. シリア人以外と婚姻を結んでいないこと。
5. 立候補届出時にシリア・アラブ共和国に10年以上継続的に居住していること。
第85条
大統領職への立候補は以下に従う:
1. 人民議会議長は現大統領任期終了から60日以上90日以内に大統領選挙を公示する。
2. 大統領選挙公示日から10日以内に、最高憲法裁判所に立候補届が提出され、個別に登録される。
3. 立候補届は、人民議会議員の35名以上の文書による支持が得られない場合、受理されない。また人民議会議員は1名以上の立候補者を支持してはならない。
4. 立候補届の審査は、登録後5日以内最高憲法裁判所によって行われる。
5. 届出期間中に1名の立候補者以外の立候補届の条件が満たされない場合、人民議会議長は改めて同じ条件で立候補期間を公示しなければならない。
第86条
1. 大統領は人民によって直接選出される。
2. 選挙参加者の過半数を獲得した立候補者を大統領選挙の勝者とし、どの立候補者も過半数を獲得しない場合、投票を行った投票者の票をもっとも多く獲得した2名の立候補者による再選挙を2週間以内に実施する。
3. 選挙結果は人民議会議長によって発表される。
第87条
1. 新大統領選挙期間中に人民議会が解散した場合、新議会選挙が終了し、議会が召集されるまで、現大統領がその職を継続する。ただし、新議会召集日から90日以内に新大統領は選出されねばならない。
2. 大統領の任期が終了し、新大統領が選出されない場合、新大統領が選出されるまで現大統領がその職を継続する。
第88条
大統領は現大統領の任期終了日から7年の任期で選ばれ、1度の任期に限り再選を認められる。
第89条
1. 最高憲法裁判所は、大統領選挙にかかる不服申立の審査を担当する。
2. 立候補者による不服申立は、結果発表日から3日以内に提出され、裁判所は不服申立提出日から7日以内に最終判断を下す。
第90条
大統領は、執務開始に先立ち、憲法第7章に記されている憲法宣誓を人民議会に対して行う。
第91条
1. 大統領は1名以上の副大統領を指名し、その権限の一部を委任することができる。
2. 副大統領は、執務開始に先立ち、憲法第7章に記されている憲法宣誓を大統領に対して行う。
第92条
大統領が執務遂行を継続できない状況が一時的に生じた場合、副大統領がこれを代行する。
第93条
1. 大統領職に欠員が生じる、ないしは執務遂行が継続できない場合、第一副大統領がその執務を暫定的に遂行する。これは大統領職欠員発生から70日を越えないものとし、この間に新大統領の選出が行われねばならない。
2. 大統領職に欠員が生じ、副大統領がいない場合、首相がその執務を暫定的に遂行する。これは大統領職欠員発生から70日を越えないものとし、この間に新大統領の選出が行われねばならない。
第94条
大統領が辞職する場合、人民議会に書面で辞表が提出される。
第95条
大統領職に必要な儀典および特権は法律によって定められる。またその詳細も法律によって定められる。
第96条
大統領は憲法尊重、公権の適切な行使、国民統合維持、国家建設に日夜励む。
第97条
大統領は首相、副首相を指名し、大臣、副大臣を指名し、その辞表を受理し、罷免する権限を有する。
第98条
大統領は、自らが議長を務める閣議において、国家の政策全般を策定、その遂行を監督する。
第99条
大統領は、自らが議長を務める閣議を召集する権限を有し、首相および大臣に報告を求める権限を有する。
第100条
大統領は人民議会が承認した法律を施行する。またこれらの法律の大統領府への提出日から1ヶ月以内に合理的決定により、これを拒否する権限を有する。ただし、議会が3分の2以上でこれを再承認した場合、大統領はこれを施行する。
第101条
大統領は法律に基づき、布告、決定、政令を施行する。
第102条
大統領は開戦、総動員を宣言し、人民議会の合意を経て和平を締結する。
第103条
大統領は非常事態を宣言し、大統領を議長とする閣議で3分の2以上の閣僚により了承される布告をもってこれを解除する。この政令は、人民議会が最初に召集する会議に提出され、法律がこれに関する規定を定める。
第104条
大統領は外国の外交使節団代表を認証し、シリア・アラブ共和国における外国の外交使節団代表の信任状を受理する。
第105条
大統領は軍武装部隊の最高司令官であり、その権限を行使するのに必要なあらゆる決定と命令を発すとともに、その一部を委任する。
第106条
大統領は法律に基づき、公務員および軍官を任命し、解任する。
第107条
大統領は、憲法判断および国際法の規則に基づき、同盟および国際合意を結ぶ。
第108条
大統領は特赦を与え、復権を認める権限を有する。
第109条
大統領は勲章授与の権限を有する。
第110条
大統領は人民議会に向けて演説を行い、議会に対し声明を出す権限を有する。
第111条
1. 大統領は、自らが下す合理的な決定をもって、人民議会の解散を決定する権限を有する。
2. 新議会の選挙は解散日から60日以内に行われる。
3. 人民議会は、一つの理由につき1度だけ解散が認められる。
第112条
大統領は法案を準備し、人民議会に提出、その承認を審議するよう求める権限を有する。
第113条
1. 大統領は、人民議会の閉会中、あるいは会期中にその必要が生じた場合や議会解散中に、立法権を行使する。
2. この立法は、議会の会議が最初に召集されてから15日以内に議会に提出される。
3. 議会は法律によってこの立法を廃止、ないしは修正する権限を有し、過半数以上の議員の出席のもと、出席議員の3分の2以上の賛成をもって行われる。この修正、ないしは廃止は遡及しない。議会がこれを廃止、ないしは修正しない場合、承認されたと判断される。
第114条
国民統合、ないしは祖国の安全と独立を脅かす、ないしは国家機関が憲法に従って任務を遂行することが阻害される深刻な危機や状況が生じた場合、大統領は危機に対処するため、この状況において求められる措置を早急に講じる権限を有する。
第115条
大統領は特別な機関、委員会、会議を設置し、設置にかかる決定によりその任務と権限を定める権限を有する。
第116条
大統領は至上の国益にかかわる重要な問題を国民投票にかける権限を有する。投票の結果は拘束力を有し、発表日に発効し、大統領がそれを発令する。
第117条
大統領は、大逆に相当しない場合を除いて、自らの執務遂行中に行う行為に対して責任を負わない。大逆容疑の告発は、人民議会が特別秘密会で3分の1以上の議員の出席ものと、出席議員の記名投票で3分の2以上の賛成によって決議され、最高憲法裁判所でその審理が行われる。
(2) 内閣
第118条
1. 内閣は国家の最高行政執行機関であり、首相、副首相、大臣によって構成され、法律および規則の執行を監督し、国家機関とその諸組織の監視を行う。
2. 首相は副首相と大臣の行動を監督する。
第119条
首相、副首相、大臣の予算割当および給付金は法律によって定める。
第120条
首相、副首相、大臣は、新内閣発足に際して、憲法第7章に記されている憲法宣誓を大統領に対して行う。これは執務開始に先立って行われる。内閣改造時には信任大臣のみが宣誓を行う。
第121条
首相、副首相、大臣は、大統領および人民議会に対して責任を負う。
第122条
大臣は省における最高行政職であり、省に関係する国家の政策全般を遂行する。
第123条
大臣は、執務遂行中に民間企業の経営評議会メンバー、ないしはその代理人を務めること、ないしは営利活動や自由業に直接、間接行うことを禁じられる。
第124条
1. 首相、副首相、大臣は法律に基づき、民事、刑事責任を負う。
2. 大統領は、首相、副首相、大臣が任務遂行中に犯した事件に関して、ないしは相応の理由により、起訴を行う権限を有する。
3. 被疑者は、起訴後、容疑に関する判断が下されるまで、ただちに職務が停止され、その辞職、罷免は裁判を妨げない。諸手続きは法律が定める通り行われる。
第125条
1. 内閣は以下の場合において辞職したものとする:
a. 大統領の任期が終了した場合。
b. 新人民議会が選出された場合。
c. 大臣の過半数が辞表を提出した場合。
2. 内閣は、新内閣を指名する法案が施行されるまで、暫定的に執務を継続する。
第126条
大臣と人民議会議員は兼務できる。
第127条
大臣に関する規定は副大臣にも適用される。
第128条
閣議は以下の権限を行使する:
1. 国家の政策全般の執行計画の策定。
2. 各省および公共機関の職務指導
3. 国家予算案の策定。
4. 法案の準備。
5. 開発計画、生産増加、国富投資、ならびに経済発展と歳入増加に資するすべてにかかる計画の準備。
6. 憲法の規定に基づく債務契約および債務許可。
7. 憲法の規定に基づく合意、同盟の締結。
8. 法律執行、および国益、国家の安全の維持、国民の自由と権利の保護。
9. 法律と規則に基づく行政令の施行とその執行の監視。
第129条
首相および大臣は、憲法が定めるそれ以外の当局に与えられている権限、および憲法の規定に定めれたそれ以外の権限を侵害しないかたちで、現行の立法に記されている権限を遂行する。
(3) 地方自治体
第130条
シリア・アラブ共和国は複数の自治体から構成され、法律がその数、境界、権限、そしてそれらが享受する法的地位、財政、行政上の独立性を定める。
第131条
1. 自治体の構成は、権力と責任の分権化の原則を採用することを基礎とする。法律が、中央政府と各自治体との関係、権限、財源、職務監視について定める。また首長の任命、ないしは選出方法、その権限、各部局長の権限についても法律で定められる。
2. 地方自治自治体は直接秘密平等の一般投票によって選ばれる議会を有する。
第3章 司法権
(1) 裁判所、検事総局
第132条
司法府は独立しており、大統領はこの独立を保障し、最高司法評議会がこれを支援する。
第133条
1. 最高司法評議会は大統領を議長とし、法律が設置方法、権限、職務規則を定める。
2. 最高司法評議会は司法の独立を保護するために必要な保障を行う。
第134条
1. 判事は独立しており、法律以外に判事の裁判に優越する権限はない。
2. 判事の名誉、良心、公平性は、人々の権利と自由を保障する。
第135条
法律が司法機関のすべての組織、種目、段階を制度化し、各裁判所の権限規則を定める。
第136条
法律が、判事の任命、昇進、異動、訓練、解任について定める。
第137条
検事総局は法務大臣が長を務める唯一の司法機関であり、法律がその職務権限を定める。
第138条
1. 司法判断はシリアのアラブ人民の名の下に発せられる。
2. 司法判断の不履行、ないしは実施妨害は、法律に従い罰せられる犯罪である。
(2) 行政裁判
第139条
国家評議会が行政裁判を行う。評議会は独立した司法諮問機関であり、法律がその権限、判事の任命、昇進、異動、訓練、解任に関する方法を定める。
第4部 最高憲法裁判所
第140条
最高憲法裁判所は、独立した司法機関であり、本部はダマスカスに置く。
第141条
最高憲法裁判所は、長官1名を含む7名以上によって構成され、政令によって大統領が指名する。
第142条
最高憲法裁判所判事と閣僚、人民議会議員は兼務できない。また法律が裁判所判事と兼務できない職務を定める。
第143条
最高憲法裁判所判事の任期は7年とし、再任を認められる。
第144条
最高憲法裁判所判事は法律に従わずして解任を認められない。
第145条
最高憲法裁判所長官と判事は、任務遂行に先立ち、人民議会議長同席のもと、大統領に対して以下の通り宣誓する:
「偉大なるアッラーにかけて、国の憲法と法律を尊重し、誠意と公正さをもって義務を遂行することを誓う」。
第146条
最高憲法裁判所は以下の権限を有す:
1. 法律、政令、条例、規則の合憲性の監視。
2. 大統領の要請に基づき、法律、政令、政令の法案の合憲性への意見表明。
3. 大統領選挙の監視、およびこれに関連する手続きの調整。
4. 大統領選挙および人民議会選挙にかかる不服申立の審査と判断。
5. 大統領による大逆の裁判。
6. 法律がそれ以外の権限を定める。
第147条
最高憲法裁判所は以下の通り法律の合憲性を監視する。
1. 法律の違憲審査と判断は以下の通り:
a. 大統領、ないしは人民議会議員5名以上が、施行前の法律の合憲性に異議を申し立てた場合、その施行は中止され、裁判所は異議申立日から15日以内に判断を下す。法律が緊急性を要する場合、裁判所は7日以内に判断を下さねばならない。
b. 人民議会議員5名以上が、議会への提出日から15日以内に政令の合憲性に異議を申し立てた場合、裁判所は異議申立日から15日以内に判断を下さねばならない。
c. 裁判所が法律、政令、条例の憲法違反と判断した場合、憲法の文言に違反するとされる項目は遡及して削除され、すべての結果が削除される。
2. 法律の違憲判断に対する異議申立の審査と判断は以下の通り:
a. 異議申立人が、裁判所によって採用された法律文言の違憲判断に異議申立を行う場合、また異議申立を審査する裁判所がこの申立が真摯で、判断の必要があると判断した場合、裁判所は審査を中止し、最高憲法裁判所にこれを付託する。
b. 最高憲法裁判所は、付託受理日から30日以内に異議申立に対する判断を下さねばならない。
第148条
最高憲法裁判所は、大統領が国民投票にかけ、人民の同意を得た法律の合憲性を審査する権限を有さない。
第149条
法律が、最高憲法裁判所による審査と判断にかかる指針を定め、その権限、判事の要件を定める。またその免責特権、責任、給与、特典についても法律が定める。
第5部 憲法改正
第150条
1. 大統領、および3分の1以上の人民議会議員は憲法改正を提案する権利を有する。
2. 改正提案は、修正される文言および修正が必要とされる理由を明記する。
3. 人民議会は、改正提案提出後ただちに、審理のための特別委員会を設置する。
4. 議会は、改正提案を審議し、4分の3の賛成をもってこれを承認し、大統領の同意をもって最終的に修正されたものとする。
第6部 総則、経過規定
第151条
前文は本憲法と分かつことができない。
第152条
シリア・アラブ国籍に加えて、外国籍を取得している者は、大統領、副大統領、首相、副首相、大臣、人民議会議員、最高憲法裁判所判事を務めることはできない。
第153条
本憲法は公布日から18ヶ月は改正できない。
第154条
本憲法承認以前に施行された現行立法は、その規定に沿って改正されるまで有効とする。またその改正は3年以内に行うものとする。
第155条
現大統領の任期は、大統領としての憲法宣誓を行った日から7年を経て終了し、大統領職に再立候補する権利を有する。また次期大統領選挙から、本憲法第88条の規定が現大統領に適用される。
第156条
本憲法のもと、最初の人民議会選挙が国民投票での承認日から90日以内に実施される。
第157条
本憲法は官報において発表され、承認日をもって発効する。
憲法のアラビア語元文についてはhttp://sana.sy/ara/369/2012/02/24/400634.htmを参照。
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