旬刊シリア情勢(2016年3月上旬)

1.米軍の軍事教練を受けたシリアの「穏健な反体制派」が再活性化か?

「新シリア軍」を名乗る武装集団は3月4日、声明を発表し、ダーイシュ(イスラーム国)との戦闘の末にヒムス県南東部の対イラク国境に位置するタンフ国境通過所を制圧したと発表し、その映像を公開した。
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シリア人権監視団:米軍の教練を受けた「穏健な反体制派」約100人がトルコからアレッポ県北西部に進入(2016年3月4日)
米軍が軍事教練した「新シリア軍」がダーイシュとの交戦の末、対イラク国境のタンフ国境通過所を一時制圧するも、数時間後にはダーイシュが奪還(2016年3月5日)
「新シリア軍」のタラーア中佐はあくまでもタンフ国境通過所を制圧したと主張(2016年3月7日)
オースティン米中央軍司令官「オバマ政権に「穏健な反体制派」への軍事教練再開許可を求めた」(2016年3月8日)
東部の獅子軍がタンフ国境通過所に近いワアル中隊基地をダーイシュから奪取したと発表(2016年3月8日)
ヴォーテル次期米中央軍司令官「現時点でシリア領内に我々の同盟者はいない」(2016年3月10日)

2.シリア:停戦下の反体制派支配地域で発生した反アサド・デモをアル=カーイダ系組織ヌスラ戦線が弾圧

米国とロシアによるシリアでの敵対行為停止合意発効(2月27日)後初の金曜日となる3月4日、イドリブ県、ダルアー県、アレッポ県内の反体制派支配地域各所で、アサド政権の打倒を求める反体制デモが発生した。… 続きを読む→

敵対行為停止合意発効後最初の金曜日に合わせ、反体制派支配地域各所で反政府デモが発生(2016年3月4日)
ハサカ県カーミシュリー市で政府支持者がヒズブッラーを支持するデモを実施(2016年3月6日)
ダルアー市で反体制デモ発生(2016年3月7日)
ファトフ軍支配下のイドリブ市の「執行部隊」がアサド政権に対する反体制デモを弾圧、ヌスラ戦線幹部はデモ弾圧を批判、シャーム自由人イスラーム運動は弾圧への関与を否定(2016年3月7日)
住民の圧力に屈し、ヌスラ戦線はアブー・ズフール町(イドリブ県)から撤退(2016年3月9日)
ヌスラ戦線がトルコ国境に面するシリア人避難民キャンプに突入し、「指名手配者」と交戦、少年1人が巻き添えとなり死亡(2016年3月9日)
イスラーム軍の拠点都市ダーライヤー市(ダマスカス郊外県)で体制打倒と包囲解除を求めるデモ(2016年3月9日)
ヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動が主導するファトフ軍は金曜日の反体制デモでの「革命旗」の掲揚自粛を求める(2016年3月10日)

3.ロシア軍、有志連合、シリア軍、シリア民主軍、「穏健な反体制派」がダーイシュ、ヌスラ戦線に対する「テロとの戦い」を継続するなか、トルコがシリア領内への越境砲撃を続ける

ロシア軍、シリア軍、西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊主導のシリア民主軍は、アレッポ県、ラタキア県、イドリブ県、ヒムス県、ハマー県、ダルアー県、ダマスカス郊外県、ダイル・ザウル県でダーイシュ(イスラーム国)とシャームの民のヌスラ戦線に対する「テロとの戦い」を継続する一方、米軍主導の有志連合、ハサカ県、ラッカ県、ヒムス県でダーイシュに対する空爆を実施、また「穏健な反体制派」はアレッポ県北西部、ヒムス県南東部(タンフ国境通過所)でダーイシュと交戦した(タンフ国境通過所での戦闘については「米国の軍事教練を受けたシリアの「穏健な反体制派」が再活性化か」を参照)。

ロシア軍、シリア軍、シリア民主軍による「テロとの戦い」、とりわけヌスラ戦線との戦いは、西クルディスタン移行期民政局の支配下にあるアレッポ市シャイフ・マクスード地区で激しく行われ、人民防衛部隊と、ヌスラ戦線などからなる反体制武装集団が砲撃戦を行った。

またアレッポ市南部のアイス村一帯では、シリア軍が、ダーイシュとの共闘が報じられているジュンド・アクサー機構と連携するヌスラ戦線の攻勢を受け、アイス丘、Syriatel丘を一時奪われたが、奪還に成功した。

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ヌスラ戦線に対する攻勢は、同組織が「穏健な反体制派」と共闘していることもあり、リヤド最高交渉委員会、シリア人権ネットワークから「停戦違反」だとの非難を受けた。

また、英仏両首脳も、シリア軍、ロシア軍が「穏健な反体制派」への攻撃を続けていると非難し、その停止を求めた。

しかし、米国はこうした非難に同調せず、「停戦を揺るがすほどの深刻な違反行為は発生していない」との姿勢をとり続け、ロシア軍、シリア軍、シリア民主軍の攻撃を黙認した。

停戦発効以降、ラタキア県のフマイミーム航空基地に設置されたロシアの当事者和解調整センターは連日、シリア国内での停戦違反の件数、発生場所を公表、これと合わせて、「ロシア軍は、米・ロシアによる敵対行為禁止合意の対象地域内での空爆は実施せず、ダーイシュ、ヌスラ戦線に対する空爆地点は、米・ロシア両国の当事者和解調整センターに通告済み」と発表し続けた。

これに対して、アンマンに設置された米国の当事者和解調整センターにいは目立った活動を見せず、また有志連合の合同司令部もダーイシュに対する自らの空爆の戦果を開示するにとどまった。

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こうしたなか、もっとも目立った停戦違反は、トルコ軍によるシリアへの越境空爆だった。

トルコ軍は、停戦発効後、ダーイシュに対する砲撃を散発的に行うようになったが、西クルディスタン移行期民政局の支配下に落ちたアレッポ市南西部のタッル・リフアト市(アアザーズ市南部)や、シリア政府と西クルディスタン移行期民政局が共同統治するカーミシュリー市に対して攻撃を加えた。

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なお、ダーイシュと各当事者との攻防戦においては、シリア軍がヒムス県東部とアレッポ県南東部(アレッポ市・ハナースィル市街道一帯)で攻勢を続けた。

また米軍の航空支援を受けたシリア民主軍はハサカ県のマルカダ町攻略をめざし、ダーイシュと一進一退の攻防を続けた。

こうしたなか、ラッカ市、アレッポ県北部で、ダーイシュの戦闘員が離反したとの情報が流れる一方、米匿名高官は、ハサカ県シャッダーディー市一帯での空爆で、幹部司令官のアブー・アリー・シーシャーニー氏を殺害したと発表した(だが、シリア人権監視団はこれに関して、重傷は負ったが死亡していないと発表している)。

さらに、英国のスカイ・ニュースは、元自由シリア軍メンバーのシリア人男性が盗んだというダーイシュ・メンバー2万2,000人分の個人情報のデータベースを入手したと伝えた。

米軍主導の有志連合はシリア領内で7回の空爆を実施(2016年3月1日)
サウジアラビア国防省顧問のアスィーリー准将「有志連合はシリアでの地上作戦の実施について決定にいたらず」(2016年3月1日)
シリア軍がダイル・ザウル県、ヒムス県でダーイシュとの戦闘を続ける(2016年3月1日)
ロシア国防省は3月1日に15件の停戦違反が発生したと発表(2016年3月1日)
ハマー県、イドリブ県、アレッポ県などで、シリア軍、YPG主導のシリア民主軍、反体制武装集団が交戦(2016年3月1日)
シリア軍がダルアー県、ダマスカス郊外県にビラを散布し、投降を呼びかける一方、ダルアー県などで投降拒否と武装集団の統合を訴えるデモ発生(2016年3月1日)
ロシアのラヴロフ外務大臣はテロリストの兵站路を遮断するため、シリア・トルコ国境の閉鎖を主唱(2016年3月1日)
ケリー米国務長官「停戦を揺るがすほどの深刻な違反は発生していない」(2016年3月1日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で8回の空爆を実施(2016年3月2日)
YPGはアレッポ市シャイフ・マクスード地区でヌスラ戦線などの反体制武装集団と交戦を続ける(2016年3月2日)
ロシア軍、有志連合と思われる戦闘機がアレッポ県東部、ヒムス県のダーイシュ拠点を空爆する一方、シリア軍はアレッポ市・ラッカ市街道沿いの1カ村を制圧(2016年3月2日)
シリア軍はラタキア県・イドリブ県・ハマー県境のカッバーナ丘への攻勢を強める一方、アレッポ市南部でヌスラ戦線、ジュンド・アクサー機構などと交戦(2016年3月2日)
ラタキア県内のトルコ国境地帯を取材中の外国人記者団に対してトルコ国境近くから反体制派が砲撃を加え、記者4人が負傷(2016年3月2日)
ロシア国防省は2日に21件の停戦違反が発生し、民間人3人が死亡したと発表(2016年3月2日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で6回の空爆を実施(2016年3月3日)
シリア軍、シリア民主軍、「穏健な反体制派」がアレッポ県、ハサカ県でダーイシュと交戦(2016年3月3日)
YPG主導のシリア民主軍がヌスラ戦線への攻勢を強め、アレッポ市の反体制派の完全包囲を目指す(2016年3月3日)
英仏首脳が共同声明でロシア軍とシリア軍に「穏健な反体制派」への攻撃停止を求める(2016年3月3日)
ロシアの仲介による「穏健な反体制派」4組織が新たに敵対行為停止合意を受諾(2016年3月3日)
ロシア国防省は3日に14件の停戦違反が発生したと発表するとともに、トルコが越境砲撃を続けていると非難(2016年3月3日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で2回の空爆を実施(2016年3月4日)
ヌスラ戦線などからなる反体制派は西クルディスタン移行期民政局支配下のアレッポ市シャイフ・マクスード地区を砲撃する一方、シリア軍はダマスカス郊外県ドゥーマー市、イドリブ県ハーン・シャイフーン市などを砲撃し、住民が死亡(2016年3月4日)
アレッポ県東部、ハサカ県、ラッカ県、ダイル・ザウル県でYPG、シリア軍がダーイシュとの戦闘を続ける(2016年3月4日)
ドイツのシュタインマイヤー外務大臣「シリアで停戦違反が依然として起きていることはみなが知っているが、我々の任務は停戦の強化だ」(2016年3月4日)
ロシア国防省は4日に停戦違反が27件発生したと発表する一方、トルコ領内からアル=カーイダ系組織のヌスラ戦線に武器搬入が行われていると批判(2016年3月4日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で6回の空爆を実施(2016年3月5日)
ラッカ市でダーイシュのチュニジア人司令官ら200人が離反し、戦闘の末多数が死亡(2016年3月5日)
ロシア国防省は5日に9件の停戦違反が発生したと発表(2016年3月5日)
ダーイシュはハマー県サラミーヤ市とイスリヤー村を結ぶシリア軍の兵站路を遮断(2016年3月5日)
イドリブ県フーア市で子供1人が狙撃され死亡(2016年3月5日)
トルコ軍はハサカ県カーミシュリー市郊外でYPGに発砲(2016年3月5日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で4回の空爆を実施(2016年3月6日)
アレッポ県、ヒムス県、ハサカ県、ハマー県、ダイル・ザウル県でシリア軍、YPGがダーイシュと交戦(2016年3月6日)
アレッポ、ラタキア県、ヒムス県、イドリブ県で、シリア軍、YPGとヌスラ戦線主導の反体制派の戦闘続く(2016年3月6日)
ロシア国防省は6日に停戦違反が15件発生したと発表(2016年3月6日)
シリア人権監視団:停戦発効後の1週間で停戦地域での死者数は135人(2016年3月6日)
シリア・ムスリム同胞団系のシャーム軍団がダーイシュ・メンバー42人の離反を手配(2016年3月6日)
シリア軍はイドリブ県、ダルアー県にビラを散布し、反体制武装集団戦闘員に最後通告(2016年3月6日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で7回の空爆を実施(2016年3月7日)
トルコ軍がアレッポ県北西部のタッル・リフアト市を越境砲撃(2016年3月7日)
ヌスラ戦線とジュンド・アクサー機構がアレッポ市南部アイス村に近い丘を制圧(2016年3月7日)
ハサカ県、ヒムス県でYPG主導のシリア民主軍、シリア軍がダーイシュと交戦(2016年3月7日)
ロシア国防省は7日に停戦違反が8件発生する一方、ダマスカス郊外県で反体制武装集団5組織が新たに停戦を受諾した発表(2016年3月7日)
ダーイシュ系のヤルムーク殉教者旅団の新司令官にサウジアラビア人が就任(2016年3月8日)
ダーイシュ(イスラーム国)がアレッポ県北西部からトルコのキリス市を越境砲撃する一方、「穏健な反体制派」はトルコ国境に近い2カ村を制圧(2016年3月8日)
シリア軍はアレッポ市南部のアイス村近郊の丘からヌスラ戦線、ジュンド・アクサー機構を撃退(2016年3月8日)
シリア軍はヒムス県、ダイル・ザウル県でダーイシュとの戦闘を続ける(2016年3月8日)
ロシア国防省は7日の停戦違反件数を7件と発表(2016年3月8日)
YPG主導のシリア民主軍はハサカ県におけるダーイシュ最後の拠点マルカダ町を包囲、シリア軍はアレッポ市・ハナースィル氏街道一帯で支配地域を拡大(2016年3月9日)
シリア軍が西クルディスタン移行期民政局支配下のアフリーン市(アレッポ県)でクルド人2人を兵役忌避容疑で逮捕(2016年3月9日)
ダルアー県ハウラーン地方で活動を続ける反体制武装集団15組織が「南部旅団」として統合(2016年3月9日)
米匿名高官「有志連合によるシャッダーディー市(ハサカ県)空爆でダーイシュの幹部司令官アブー・ウマル・シーシャーニー氏が死亡」(2016年3月9日)
ロシア国防省は反体制武装集団5組織が新たに停戦を受諾したと発表(2016年3月9日)
ロシア国防省は8日の停戦違反件数を7件と発表(2016年3月9日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で5回の空爆を実施(2016年3月9日)
米軍主導の有志連合はシリア領内で1回の空爆を実施(2016年3月10日)
シリア軍はダマスカス郊外県マルジュ・スルターン村一帯でヌスラ戦線、イスラーム軍などへの攻勢を強める(2016年3月10日)
シリア軍はダーイシュとの戦闘の末、アレッポ市・ハナースィル市街道一帯の8カ村を制圧(2016年3月10日)
ロシア国防省は9日の停戦違反件数を8件と発表(2016年3月10日)
ヴォーテル次期米中央軍司令官「現時点でシリア領内に我々の同盟者はいない」(2016年3月10日)
ハサカ市郊外のバアス大隊本部をYPGが襲撃(2016年3月10日)
英スカイ・ニュースは、自由シリア軍元メンバーが盗んだダーイシュ・メンバー2万2,000人分の個人情報データを入手(2016年3月10日)
シリア人権監視団のアブドゥッラフマーン代表「ダーイシュの幹部司令官アブー・ウマル・シーシャーニー氏は重傷を負ったが死んでいない」(2016年3月10日)
YPG主導のシリア民主軍はハサカ県におけるダーイシュ最後の拠点マルカダ町を包囲、シリア軍はアレッポ市・ハナースィル氏街道一帯で支配地域を拡大(2016年3月9日)
米国主導の有志連合はシリア領内で5回の空爆を実施(2016年3月9日)
米国主導の有志連合はシリア領内で1回の空爆を実施(2016年3月10日)

4.リヤド最高交渉委員会、サウジアラビアはジュネーブ3会議の再開に消極的

スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表は報道声明を出し、ジュネーブ3会議を3月14日から24日にかけて再開すると発表した。

米国とロシアによるシリアでの敵対行為停止合意の発効を受け、シリア国内での武力衝突の強度が低下したのを受け、スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表は、2月に中断していたシリア政府と反体制派の代表による和平交渉「ジュネーブ3会議」再開の準備を加速させ、3月9日に会合を再開すると発表し、シリア政府、変革解放人民戦線(在ロシア)の代表団らも現地入りに向けた動きを本格化させた。

しかし、リヤド最高交渉委員会、そして同委員会を保護するサウジアラビア政府は会合の再開に消極的な姿勢を示し続けた。

リヤド最高交渉委員会は、委員長を務めるリヤード・ヒジャーブ元首相が、ロシア軍とシリア軍による停戦違反が続いているとして、会合再開にふさわしい状況にないと主張、戦闘停止、シリア軍が包囲する地域への人道支援、逮捕者釈放を改めて要求した。

一方、サウジアラビアのアーディル・ジュバイル外務大臣は、「ジュネーブ合意の原則に従ってシリアで政権移譲を行うための政治プロセスを再開、あるいは開始するための停戦が必要だ」としつつ、「我々にとって、問題(アサド大統領退陣)は極めて明白だ。(退陣は政治)プロセスの終わりではなく始めでなければならない」と述べ、シリア政府と反体制派の交渉を通じて紛争の政治的解決を定めてジュネーブ合意を否定するような姿勢を示した。

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こうした消極姿勢に対して、西クルディスタン移行期民政局を主導する民主連合党(PYD)のサーリフ・ムスリム共同党首は、「世界中が彼ら(リヤド最高交渉委員会)の発言に注目している。彼らは妨害している…。多くの障害が途上にある…。これらの障害はリヤドの反体制派によるものだ…。彼らは様々な手段で政治解決路線を頓挫させようとしている」と批判した。

リヤド最高交渉委員会「停戦合意は完全破棄の危機に直面」(2016年3月1日)
デミストゥラ国連特別代表は3月9日にジュネーブ3会議を再開すると発表(2016年3月1日)
リヤド最高交渉委員会幹部「ジュネーブ3会議再開日程は仮の日程」(2016年3月2日)
リヤド最高交渉委員会のヒジャーブ氏はシリア軍とロシア軍の停戦違反を批判(2016年3月3日)
デミストゥラ・シリア担当国連特別代表「停戦合意の成功は保証されていないが明確な進展が起きている」(2016年3月3日)
ドイツのシュタインマイヤー外務大臣「シリアで停戦違反が依然として起きていることはみなが知っているが、我々の任務は停戦の強化だ」(2016年3月4日)
サウジアラビアのジュバイル外務大臣「交渉後ではなく前にアサド大統領は退陣すべき」(2016年3月5日)
シリア国民連合は新代表に「穏健なイスラーム主義者」のアブダ氏を選出(2016年3月5日)
米・ロシア外相が電話会談でシリア政府と反体制派による交渉を早急に再開する必要があることを確認(2016年3月5日)
バイデン米副大統領「我々は今、アサドと反体制派を再び交渉のテーブルに着かせるため行動している」(2016年3月7日)
ムスリムPYD共同党首「リヤドの反体制派がジュネーブ3会議を妨害している」(2016年3月8日)
サウジアラビアのジュバイル外務大臣「アサドは退任か、国民によって軍事的に倒されることを選ばねばならない」(2016年3月9日)
デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表「ジュネーブ3会議を3月14日から24日にかけて再開する」(2016年3月9日)

5.西クルディスタン移行期民政局支配地域を含む各地に人道支援物資が搬入

米国とロシアによるシリアでの敵対行為停止合意の発効を受け、国連、シリア赤新月社などからなるチームが、各地で人道支援物資の搬入作業を継続した。

アレッポ県では、西クルディスタン移行期民政局の支配下にあるアフリーン市にシリア赤新月社が初の人道支援物資搬入を行った。これはクルド人芸術家ビーバル・ワヒード氏の仲介によるもの。

また、ダーイシュ(イスラーム国)、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線の戦闘員が退去したダマスカス県のヤルムーク・パレスチナ難民キャンプ、ダマスカス郊外県東グータ地方各所にも、人道支援物資の搬入が行われた。

クルド人芸術家の仲介でシリア赤新月社が西クルディスタン移行期民政局支配下のアレッポ県アフリーン市に人道支援物資を搬入(2016年3月3日)
シリア政府当局と反体制派が協調し、アレッポ市で3ヶ月ぶりに水道が再開(2016年3月4日)
シリア政府とUNRWAはヤルムーク・パレスチナ難民キャンプに、国連、シリア赤新月社はダマスカス郊外県東グータ地方に人道支援物資を搬入(2016年3月4日)

6.トルコ・イラン政府に歩み寄りの兆しか?

シリア情勢をめぐって対立関係にあるイランとトルコが、シリアのクルド人への処遇、ロシアやサウジアラビアとの関係をめぐってにわかに歩み寄りの兆しを見せた。

イランの首都テヘランを訪問したアフメト・ダウトオール首相は6日、ハサン・ロウハーニー大統領との会談後の記者会見で「私は、トルコとイラン、そしてその他の地域諸国がシリアの国土統一、分割阻止という点で合意できると確信している」と述べ、米国とロシアの後援を受け台頭を続けるシリアの民主連合党(PYD)主導の西クルディスタン移行期民政局の勢力拡大に対する危機感への理解をイラン側から勝ち取った。

これを受けるかたちで、イランのホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン外務副大臣(アラブ・アフリカ担当)はテヘランを訪問したロシアのミハエル・ボグダノフ外務副大臣との会談で、米・ロシアが共同議長を務めるISSG(国際シリア支援グループ)の停戦作業チームに関して、イランの主張が考慮されていないように見受けられるとし、イラン政府が敵対行為停止合意に必ずしも「満足していない」と述べた。

アブドゥッラフヤーン外務副大臣の発言は、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣が2月29日にシリアの将来の政治体制に関して、「連邦制のモデルに基づく体制は、シリアを統一的で世俗的な独立主権国家として維持することに資するだろう」と述べ、米国とともに支援を強化している西クルディスタン移行期民政局の存在に理解を示したことを受けたものと思われる。

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一方、『ハヤート』(3月9日付)は、6日のロウハーニー大統領との会談で、ダウトオール首相が、ロシアとの緊張緩和を仲介するよう求め、その見返りとして、トルコ政府がイラン・サウジ関係の緊張緩和をめざすと提案したと報じた。

これに対して、イラン側は、「隣国との関係だけを優先させるのではなく、すべての近隣諸国とのバランスのとれた関係を維持したいと考えている」と述べ、トルコ、ロシアの双方との関係維持に努めようとしているとの立場を示したという。

イランのロウハーニー大統領とトルコのダウトオール首相が会談し、シリア情勢への対応などを協議(2016年3月6日)
イランのアブドゥッラフヤーン外務副大臣は、クルド人の自治に前向きな姿勢を示す米・ロシア主導の敵対行為停止合意に不満を表明(2016年3月7日)
『ハヤート』:トルコのダウトオール首相は、サウジ・イランの緊張緩和を仲介する見返りとして、トルコ・ロシアの緊張緩和の仲介をイランに求める(2016年3月9日)

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本稿は2016年3月上旬のシリア情勢を踏まえて執筆したものです。 主な記事は「旬刊シリア情勢」を参照ください。