中国中央電視台がアサド大統領のインタビューを放送:「戦争が終わればシリア国民は国を復興させられる…。我々の地域はネオ・リベラリズムと過激主義という二つの脅威に直面している」(2023年9月29日)

中国中央電視台(CCTV、9月29日付)は、中国訪問中(9月20~28日)のアサド大統領に対して行ったインタビューを放映した。

また、大統領府はインタビューの映像(https://www.facebook.com/SyrianPresidency/videos/1429610380936514/)を公開、SANAも映像とインタビューの全文(https://sana.sy/?p=1971926)を配信した。


インタビューでのアサド大統領の発言は以下の通り。

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(2004年以来2度目となる公式訪問について)まず、今日はインタビューをして頂けることに感謝します、中国訪問について、我々は中国を訪問した19年前から今日までの間に、非常に大きな飛躍が見て取れる。比較しようとしても、それは難しいと言える。なぜなら、多くの変化があったからだ。当時、中国は世界の工場、世界の製品工場と呼ばれていた。だが、今日中国は創造性の工場であると言える。これが一つだ。一方、中国の国民について知られているのは、自分の国をとても愛しているということだ。どのような国民であれ祖国に対して常に誇りを持つのは当然だ。だが、非常に明らかなのは、中国の実績によって、この誇りがさらに大きなレベルに達したということだ。だが、私が注目したいのは、おそらくこれと同じくらいに重要なこと、功績の意義だ。あるいは、これよりも重要なことは、中国において変化しなかったものだ。ここが最大の課題だ。なぜなら、変化は常にネガティブな側面を伴うからだ。中国で変わらなかったもののなかでもっとも重要なのは文化だ。それは、中国という祖国、社会、習慣、伝統への帰属であり、これこそが最大の成功なのだ。
多くの国が技術的、経済的、さまざまな科学分野で発展することができる。だが、アイデンティティを維持できる国はほとんどない。今日の中国のアイデンティティは20年前と同じく明確だ。
(第19回アジア競技大会開会式にアサド大統領が出席したことに対するSNSでの反応について)もちろん、この瞬間のことは正確に覚えている。なぜなら、中国国民、あるいはスタジアムにいた中国の観客が、シリアのチームの入場を大歓声で迎えてくれた感動的な瞬間だからだ。つまり、このような状況は、それが自発的に生じた瞬間であるがゆえに、大きな意味がある。これこそが中国の国民なのだ。我々は、距離のせいで、感情的に互いが遠いい存在だと考えることもある。あるいは、別の言葉で言えば、あの瞬間は、中国とシリアが国民レベルで互いにに近い存在だったと言うに十分なものだった。だが、インターネットの利用者、そしてこのイベントそのものに関しても、彼らの関心と、我々が目にした非常に感動的なコメント、そしてシリアと中国の歴史的関係や現在の関係、シリアの現状についての知識、そしてシリアへの愛に対して感謝したい。だが、開会式そのものについて言いたいのは、式やSNSを通じて届いたメッセージが互いに交差し合い、リンクし合っているということだ。これが中国の偉大さ、中国の誇り、そして中国人の謙虚さなのだ。
(シリアと中国の戦略的パートナーシップ合意締結について)中国は今日、世界で非常に重要な役割を果たしている超大国だが、パートナーシップについて語る時、中国は新たな原則について語っており、覇権については語らない。それは世界の多くの国々において欠けているものだ。シリアに限らず小国は、こうしたパートナーシップ、こうした役割を必要としている。中国はこの役割を果たしている。なぜなら、中国は安全保障理事会やさまざまな国際フォーラムにおいて役割を果たし、政治的にシリアに寄り添ってきてくれた。さらに、美辞麗句抜きで明白な政治的立場を示してくれた。つまり、政治的側面が基本的に発展すれば、世界が直面している現状をめぐって、より広範な対話が当然のこととして行われることになる。我々にとって、経済的側面、開発といった側面は大きな関心事だ。なぜなら、シリアは現在、シリア国民を飢餓に追い込もうとする西側の過酷で危険な経済包囲に晒されているからだ。これは我々にとって重要な側面だ。それは我々が、中国の首脳らに対して提案した大きな主題の一つであり、そこには多くの側面がある。もちろん、中国はシリアに人道支援を提供し、苦難を軽減するうえで重要な役割を果たしている。我々はさまざまな主題を示した。ダマスカスに戻ったら、これらの主題を実施に向けた行動計画に転じるための仕組みを策定するための会合が行われるだろう。
(習近平国家主席との会談で、シリア側が中国の開発の経験を学ぶ姿勢を示したことに関して)まず、工業関連のプロジェクトにおいて、共同プロジェクトや、中国の経験とシリアの経験を擦り合わせが行われるべきだ。なぜなら、第1に、過去数十年前の中国の状況は、第三世界の多くの諸国の状況と似ているからだ。また、第2に、社会的概念や価値観が開発プロセスにおいて基本的な役割を果たすからだ。技術開発と社会状況を切り離すことはできない。それゆえ、多くの面で中国の経験から恩恵を受けられる。おそらく、西側諸国から同じように恩恵を得ることはできないだろう。我々、そして多くの域内諸国が、西側の取り組みの恩恵を受けようとしてきたし、今もしている。だが、それは失敗しただけでなく、さまざまな実験や模倣の結果、それらの国々に悪影響を及ぼしてしまった。
(シリアが2022年1月に一帯一路構想への参加を宣言したことについて)一帯一路構想を、習近平国家主席が提案する他の構想、つまりグローバル地球文明、グローバル開発、グローバル安全保障といった構想から切り離すことはできない。なぜなら、安全保障なくして開発はあり得ず、国家間の関係において、文明、道徳、文化といった側面を維持しなければ、発展も安全もあり得ないからだ。発展が他国のアイデンティティを打ち砕くことを意味してはならない。それは不可能だ。それゆえ、このイニシアチブが中国のイニシアチブだとは言いたくない。それはグローバルなイニシアチブになったと言いたいからだ。一帯一路は現在進められているこうしたイニシアチブのなかでもっとも重要な実践だ。だが、これを実行する機関を探し、他の機関と交流させる必要がある。これらのイニシアチブは、こうした機関とともに、世界レベルでの現実的な実践に向けたネットワークを構築していくのだ。
(紛争で疲弊した現在のシリアへの評価について)戦争は終わっていない。我々は今も戦争の真っ最中だ。だが、ここで言っておきたいのは、歴史が記されるようになって以来、古代史を通じて、地理的要衝としてのシリアは侵略の回廊だった。占領者が来る度に、都市を破壊していった。これがシリアの歴史だ。だが、シリアは常に再建されてきた。戦争が終わり、包囲が終わったら、シリア国民は確実に国を再建することができる。問題は、社会的影響が生じるかもしれないということだ。物質的に何かを失っても、それは再建できる。だが、知的、あるいは文化的にものを失うと、それは消えてしまい、戻ってはこない。今、我々の地域は、この戦争によって二つの脅威に直面している。米国で生まれた西側のネオ・リベラリズム、そして過激主義という脅威だ。社会は、この二つの害悪の発生を前にしている。それは異なって見えるが、実際は一つだ。我々が今注目しているのは、第1に価値観を、そして帰属を維持することだ。なぜなら、それらは自らの社会や祖国を築くのに役立つからだ。我々がこれらの価値観を失えば、誰が移民し、誰も自分の国を守ったり、社会に役立つことをしたりはしなくなるだろう。
それは大きな障害だ。これまでに何度も言ってきたが、外国の干渉を排除できれば、複雑に見えて、実は複雑ではないシリア問題は、数年ではなく数ヵ月で解決できるだろう、この言葉は事実だ。
(電力、燃料の不足について)テロリストに占領されているシリア北東部は、まさに米国が監視している地域だ。だから、問題は窃盗だけではない。テロリストと利益を分け合うために協力し合っていることが問題なのだ。超大国がテロリストと提携するのが問題だ。これがシリアの現実なのだ。だから、我々はこの地域で石油と小麦を失っている。我々はかつては小麦の輸出国だった。今では僅かな小麦しかない。電気もない。電気のない生活などあり得るのか? もちろん、最低限の電気はある。だがこれでは十分ではない。
現状はもちろん、良くない、あるいは悪い。悪い状況だと明言したい。なぜなら、シリア人にとって現在の問題は、生活の問題、つまり、経済状況にかかわる生活の問題なのだ。苦難は増大している。世界の様々な国々と常に正常な関係を保ってきたシリア国民の能力が低下しているのだ。貿易、文化、知識、その他すべてを彼らと交換できるようにすることが必要なのだ。これは、国が繁栄を続けるために必要な交流です。西側諸国によって、これまで以上に閉塞感が強まっている。だが、これは我々が何もできないことを意味しない。これが今回の訪問の主題の一つだった。友好国による生活への基本支援は必ずしも援助を通じて行われるものではない。援助は人道的理由によって行われる。だが、私が言いたいのは、門戸を広げるための支援だ。それによって、古の能力を有するシリア国民は国を築き、交流し、発展し、繁栄できるようになる。我々はこれらの能力を持っている。欠けてはいない。この種の経済的、政治的、文化的関係によって、我々の前に門戸が開かれ、我々は再始動できるのだ。
(シリアの復興について)復興が実現すれば、シリアには非常に素晴らしい未来が待っている。私は仮説や希望、期待に基づいて話しているのではない。戦前の状況に基づいて話しているのだ。戦前、シリアの成長率は最高で7%近くのレベルに達してた。これは、能力が限られている国としては非常に数値だ。債務もなかった。我々は債務国ではなかった。かつては債務を抱えていたが、直接返済した。十分な小麦があり、多くの国に輸出していた。戦争が始まっても、我々は野菜や果物を輸出し、産業を発展させていた。だから、自信を持って言える。戦争が終わり、シリアが復興すれば、シリアは戦前よりもはるかに良くなると。
もちろん、我々は現在、戦争や封鎖に関連した国内の課題に直面している。さらに、世界経済に関連した国外の課題、コロナ禍の影響、ウクライナでの戦争の影響に関連する外部の課題にも直面している。これらすべてが、ドルへの関心を高めるとともに、物価上昇を引き起こし、その結果、すべての国にとって困難が増大した。こうした状況に対する基本的な処方箋は、もちろんシリアだけでなく、すべての国が、ドル取引から他の通貨、特に人民元による取引に移行することだ。
(中東の和平や安定における中国の役割について)サウジアラビアとイランの和解については、予期していなかった大きな成果で、非常に嬉しい驚きだった。なぜなら、この問題は、我々の地域では40年以上前から続いており、しかも複数の当事者間で複数の問題を引き起こすという西側、とくに米国の(政策)モデルを代表していたからだ。米国は、自国の利益を達成するためにこれらの当事者を脅迫する。その代償は誰が支払うのか? 脅迫された国とそれらの国がある地域なのだ。
(中国による)この取り組みは、単なる二者間の和解ではない。敵だった相手どうしが友人になるとしよう。問題は安定の問題だが、それは一側面に過ぎない。この側面は、中東にいる我々全員に良い効果をもたらすのだ。なぜなら、この問題によって、我々は数十年にわたって代償を払わされてきたからだ。我々は今日、このことに関して安堵を感じている。一方、中国がこの和解を発表したということは、政治が、西側の空虚な言葉、演説、プロパガンダではなく、行動によっていることを意味するものだ。真の政治的行動、真の成果がそこにはあった。
(グローバル開発、グローバル開発、グローバル文明構想への評価)我々は、常に目にしている通り、中国が政治的役割を果たし続けることを期待している、なぜなら、我々が述べたように、この政治的役割は、安定を生み出そうとするグローバル安全保障イニシアチブを含む取り組みと切り離せないからだ。我々はこれらのイニシアチブを新たな世界への基礎だと見ている。我々が生きているこの時代は、古い世界から新しい世界への移行期だと見ている。の時代だと言いたい。だが、ここでいう古い世界とは数千年前を意味しているのではない。15世紀のアメリカ大陸発見に伴う植民地主義の時代に始まった古い世界を指している。それ以来、今日に至るまで、6世紀にわたる植民地支配、殺人、略奪が行われてきた。これに対して、これらのイニシアチブは何を意味するのか? 今日の世界の政治は、他人を犠牲にして利益を得たり、人を殺したり、占領したりするものではない。我々が必要としている政治、あるいは新しい政治とは、道徳に基づいた政治、協力に基づいた政治、原則に基づいた政治、相互利益に基づいた政治なのだ。それゆえ、新たな世界に即した原則が、古い世界に徐々に取って代わると言いたいし、そう見ている。
(これまでの苦難における精神の支えは何だったかとの問いに対して)世界の大国、富裕国、強国が敵となっている時、国民だけが自分を持ちこたえさせてくれる。こうした状況で国民が自分とともにいてくれないのなら、他の何ものも戦争を戦うなかでこうしたインスピレーションを与えてはくれない。戦争が軍事的な戦闘である時も、今日のように経済的なものである時もだ。個人レベルで言うと、それは、どんなに困難な状況でも、それを乗り越えるためにしっかりと団結し、国を守り、維持しようとする家族だった、を固守するのは、団結した家族である。これがもっとも重要な理由、あるいは要素だった。
(子供の養育について)シリア社会は、一部の人がイメージさせようとしているものとは異なり、総じて開明的な社会だ。それは歴史に由来する。同じ場所に異なった文明が存在する場合、人は開明的にならねばならない。こうした環境が我々の家族の環境で、それは他のシリア人の家族も同じだ。私と家族、あるは両親と私の関係で違うのは、世界情勢の変化だ。両親の時代、つまり私が若かった頃は、SNSはおろか、衛星放送もなかった。それゆえ、シリアの文化、思想、国民性への外部からの影響は非常に限られていた。リスクはなかった。今はまったく逆だ。だから、私と子供たちの基本的な関係は、まず価値観、つまりは西洋的な価値観ではない集団の価値観、個人の価値観、さらには主にアイデンティティの維持に基づく愛国的価値観、発展する能力、他の文化と交流しつつも国民性を維持する能力、を重視して構築されていった。これが、今日我々が家族として子供たちと直面している課題だと考えている。
(子息が中国語を学んでいるのかとの問いに対して)はい、彼(息子)は7、8年前、あるいはそれ以上前だが、戦争当初中国語を学んでいた。もちろん、中国の基礎をだ。当初は深くは考えていなかったようだが、誰からの影響という訳でもなくこの言語(中国語)を選んだ。彼は言語や文化など、自分から非常に遠いものについて学びたいと考えていた。
(今回の中国訪問の成果について)今回の訪問において、我々は、過去10年間に中国が経済発展、政治・開発イニシアチブを通じて果たしてきた大きな役割、そして我々の訪中に際しての習近平国家主席の役割から成果を得ようとした。非常に実りの多い訪問だったと言えるし、どの基準に照らしても本当に成功した訪問だったと思う。

SANA(9月29日付)が伝えた。

AFP, September 29, 2023、ANHA, September 29, 2023、al-Durar al-Shamiya, September 29, 2023、‘Inab Baladi, September 29, 2023、Reuters, September 29, 2023、SANA, September 29, 2023、SOHR, September 29, 2023などをもとに作成。

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