シリア人権監視団:レバノンのヒズブッラーをはじめとする「イランの民兵」は米軍とシリア民主軍が展開する地域への影響力拡大を目的にダーイシュと連携(2024年6月13日)

シリア人権監視団は、複数の独自筋からの情報として、レバノンのヒズブッラーをはじめとする「イランの民兵」が、ダイル・ザウル民政評議会(北・東シリア自治局)の支配下にあり、米軍(有志連合)と人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍が随所に展開する地域への影響力拡大を目的して、シリア軍第4師団とともにダーイシュ(イスラーム国)と複数回にわたって会合を重ねていると発表した。

同監視団によると、「イランの民兵」は、シリア民主軍に対して蜂起した2013年8月から地元武装集団(部族の民兵)を支援し、ダイル・ザウル民政評議会の支配地域への影響力の拡大を画策してきたが、治安を紊乱するには不十分で、こうしたなか「敵の敵は味方」の論理に従うかたちで、ダーイシュと連携するようになったという。

両者の折衝は、ダイル・ザウル県ズィーバーン町出身で、ダーイシュの治安部門における元幹部だったとされる「ムーサー・ターハー・アリー」を名乗る男性が仲介している。

この男性は、トルコ占領下の「平和の泉」地域内のラッカ県ラアス・アイン市方面に逃走し、長らく消息が分からなかったが、2023年8月にダイル・ザウル県でシリア民主軍に対する地元武装集団の蜂起が始まると、部族軍を指導するイブラーヒーム・ハフル氏に伴われるかたちで再び姿を表すようになったという。

ムーサー・ターハー・アリー氏は、「イラク人司令官」1人を派遣し、ダーイシュとの交渉にあたらせた。

交渉が成立した結果、「アブー・バラー・イラーキー」を名乗るダーイシュ幹部の1人がイラクのモースルから脱出、シリア政府支配地に入った。

この人物は、2014年から2017年にかけて、ダイル・ザウル県ウマル油田の管理を担当していた責任者の1人で、イラクからダイル・ザウル民政評議会の支配下にあるユーフラテス川東岸のバーグーズ村、スーサ町に潜入、その後、政府支配下のブーカマール市方面に向かったという。

「イランの民兵」とダーイシュの会合は、4月14日にマヤーディーン市近郊の農場とアラバ(ラフバ)の城塞の間にダーイシュが建設した地下トンネルで行われ、ダーイシュ側からはアブー・バラー・イラーキー氏、「イランの民兵」側からは「ハーッジ・ハサン」を名乗るヒズブッラーの司令官、「アブー・マリヤム・ラーミー」を名乗るイラクのヒズブッラー大隊の司令官、シリア軍第4師団東部地区のアリー・イブラーヒーム准将、「イランの民兵」の「ムーサー・アリー」を名乗る人物が出席した。

会合では、ダイル・ザウル県の治安紊乱の方途、とりわけ有志連合を同地の治安対策で忙殺する方法について話し合われ、ハーッジ・ハサン氏は、アブー・バラー・イラーキー氏に10万米ドルを支払う一方、アブー・マリヤム・ラーミー氏も武器や弾薬を供与、シリア軍第4師団もダーイシュがユーフラテス川西岸から東岸に渡河するルート2ヵ所(アッバース村とハジーン市、クーリーヤ市とシャンナーン村をそれぞれ結ぶ密輸ルート)を確保することを確約した。

両者は連携に合意する一方、アブー・バラー・イラーキー氏は、ダーイシュがラッカ市に近づくことを認めるよう求めたが、シリア軍第4師団は、シリア軍や親民兵への攻撃の可能性を懸念し、これを拒否、代わりに、アリー氏に対して、ダイル・ザウル民政評議会支配地に対する地元武装集団の攻撃を強化することを要請した。

この合意を受けて、ダイル・ザウル民政評議会支配地では、4月30日から5月末にかけて、ダーイシュのスリーパーセルは15回以上の攻撃を実施、民間人1人とシリア民主軍兵士7人を殺害、地元武装集団も攻撃をエスカレートさせたという。

AFP, June 13, 2024、ANHA, June 13, 2024、‘Inab Baladi, June 13, 2024、Reuters, June 13, 2024、SANA, June 13, 2024、SOHR, June 13, 2024などをもとに作成。

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