イスラエルのネタニヤフ首相はシリアとの兵力引き離し合意は「崩壊した」と宣言:イスラエル軍は各地の放棄されたシリア軍基地を爆撃する一方、シリア南部に侵攻し、これを「一時的に」掌握(2024年12月8日)

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、1974年のシリアとの兵力引き離し合意は「崩壊した」としたうえで、イスラエル軍に対して「昨日、緩衝地帯(占領下ゴラン高原に隣接する兵力引き離し地域(AOS))と隣接する重要拠点を掌握するよう命令した。我々は、いかなる敵対勢力も我々の国境にとりつくことを許さない」と発表した。

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イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官はフェイスブックのアカウント(https://www.facebook.com/IDFarabicAvichayAdraee/)を通じて、クナイトラ県のウーファーニヤー村、クナイトラ市、ハミーディーヤ、西サムダーニーヤ村、カフターニーヤ町の住民に対して、同地での戦闘を受けてイスラエル軍が介入を余儀なくされたとしたうえ、追って通知をするまで、外出を控え、自宅に留まるよう警告した。

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ダルアー24(12月8日付)、スワイダー24(12月8日付)、シリア人権監視団などによると、イスラエル軍は、シリア軍が撤退したダルアー県(インヒル市北のジャドヤー大隊基地、シャイフ・マスキーン市西のハマド丘、サナマイン市、ヤルムーク渓谷)、クナイトラ県内の拠点複数ヵ所、スワイダー県内の軍の陣地複数ヵ所(シャアール丘)に集中的な爆撃を行った。


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これを受けて、イスラエル軍は兵力引き離し地域内のルッカード橋、ハムダーニーヤ村一帯に戦車、装甲車多数を侵攻させた。

また、ジュバーター・ハシャブ村出身の若い男性を狙撃し、殺害、ラスム・ラワーディー村の住民全員を拘束し、村の学校に連行した。

なお、イスラエル軍の侵攻に先だって、イスラエル軍は兵力引き離し地帯と占領下のゴラン高原を隔てるAライン近くで若い男性2人を拘束、占領下のゴラン高原に連行していた。

イスラエル軍はまた、ダルアー県西部のマアリヤ村一帯を砲撃した。

また、シリア軍が放棄したダマスカス郊外県のジャバル・シャイフ(ヘルモン山)の監視所複数ヵ所を制圧した。

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イスラエル軍ラジオ(12月8日付)は、イスラエル軍による兵力引き離し地域の制圧は、武装勢力に対処するための「一時的」な作戦だと伝えた。

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イスラエル軍は、シリアとレバノンの状況への対応をめぐってテレグラムの公式アカウント(https://t.me/idfofficial)で以下の通り発表した。

午前9時35分
シリアの現況への状況評価に基づき、武装勢力の緩衝地帯への侵入などの事態を受けて、イスラエル軍はゴラン高原の住民とイスラエル市民の安全を確保するため、緩衝地帯および防衛上必要とされる複数の地域に部隊を配備した。 イスラエル軍はシリア国内での事態に干渉していないことを強調する。 イスラエル軍は、緩衝地帯を維持し、イスラエルとその市民を守るために必要な限り行動を続ける。

午後8時15分
現況の状況評価に基づき、過去24時間でゴラン高原における準備態勢が強化され、イスラエル軍地上部隊および航空部隊が同地域に配備された。加えて、国内のすべての防衛機関が動員されている。 イスラエル軍第474旅団の部隊は国境沿いで活動しており、主に情報収集とイスラエル市民、特にゴラン高原住民の防衛に注力している。 また、国境沿いの「ニューイースト」として知られる障壁の強化にも取り組んでいる。

午後10時18分
イスラエル空軍がレバノン南部の武器貯蔵施設内にいたヒズブッラーのテロリスト1人を狙って攻撃を実施。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、イスラエル軍戦闘機がマッザ航空基地一帯、中心街に位置する参謀本部、ムハーバラート、税関局の施設を爆撃した、

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、イスラエル軍戦闘機がはジャバル・シャイフ(ヘルモン山)一帯、ジャルマーナー市近郊の科学研究センター近くにあるシリア軍第4師団の貯蔵施設複数ヵ所を爆撃した。

爆撃は、シリア軍が放棄した兵器が反体制派の手に渡るのを阻止するのが目的とされる。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、イスラエル軍所属と見られる戦闘機複数機が、シリア政府の支配下にあったユーフラテス川西岸の製塩工場、シリア軍が放棄した指揮所などに対して6回の爆撃を実施した。

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シリア人権監視団によると、イスラエル軍の攻撃は、アサド政権崩壊後これが初めて。

今年に入って166回(うち140回が航空攻撃、26回が地上攻撃)となり、これにより304あまりの標的が破壊され、軍関係者416人が死亡、286人が負傷した。

同監視団によると、軍関係者の死者内訳は以下の通りである。

イラン人(イラン・イスラーム革命防衛隊):25人
ヒズブッラーのメンバー:59人
イラク人:28人
「イランの民兵」のシリア人メンバー(カーティルジー・グループ社も含む):157人
「イランの民兵」の外国人メンバー:34人
シリア軍将兵:64人
身元不明者:7人
パレスチナ・イスラーム聖戦機構関係者:10人
タドムル市で死亡した外国人民兵(ほとんどがヌジャバー運動のメンバー):22人
ヒズブッラーの協力者(クサイル市一帯):2人
身元不明者(ダブースィーヤ国境通行所):3人
身元不明者(アクラバー町近く):1人
また、民間人も66人(うち子供12人、女性16人)が死亡、67人あまりが負傷している。

攻撃の県別内訳は以下の通りである。

ダマスカス県、ダマスカス郊外県:60回
ダルアー県:18回
ヒムス県:57回
クナイトラ県:18回
タルトゥース県:4回
ダイル・ザウル県:5回
アレッポ県:3回
ハマー県:4回
スワイダー県:3回
ラタキア県:2回
イドリブ県:1回

AFP, December 8, 2024、ANHA, December 8, 2024、‘Inab Baladi, December 8, 2024、Reuters, December 8, 2024、SANA, December 8, 2024、Sham FM, December 8, 2024、SOHR, December 8, 2024などをもとに作成。

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