シリア・アラブ共和国大統領府によると、アフマド・シャルア暫定大統領は、アスアド・ハサン・シャイバーニー暫定外務在外居住者大臣と、憲法宣言起草専門家委員会の委員らと会談し、憲法宣言草案を受け取り、これに署名、承認した。
憲法宣言の全文は以下の通り:
シリア・アラブ共和国憲法宣言
前文
歴史的な日の夜明け、勝利の朝の息吹のなか、シリアは新たな時代へと踏み出し、不正と抑圧の終焉を告げ、公正、尊厳、真の市民権に基づく近代国家の建設への希望が復活した。宣誓がシリア人の胸に重くのしかかっていた。バアス党が科してきた全体主義体制が60年にわたって続き、権力を独占し、権利を奪い、国家機関に対する専制的で抑圧的な支配が強化されてきた。これにより、憲法はその内容を失い、法律は抑圧と排除の手段へと化した。この数十年は、闇に包まれた暗黒の時代だった。し国民は自由を求め、尊厳を回復すべく立ち上がった。だが、アサドの悪党の手による体系的殺戮、全面的な破壊、非的な拷問、強制移住、不当な封鎖、民間人への直接の攻撃、さらには時には樽爆弾、時には化学兵器を使用した住民の頭上での家屋の破壊に晒された。こうした犯罪は、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドとみなされるもので、人間としての価値と国際法の原則へのあからさまな侵害の典型だった。
しかし、シリア国民は、確固たる信念、不屈の意志、そして伝説的な忍耐力によって屈することはなかった。14年近くにわたる偉大な革命を続け、そのなかでシリアの自由人たちは血を流し、多くの犠牲を払いながらも、宣誓の遺産を打ち破り、新たな時代の幕開けを迎えた。2024年12月8日、解放の陽がダマスカスを照らし、犯罪的アサド体制政権とその支援者の時代は終焉が宣言された。その後、勝利大会でこの勝利が正式に表明され、シリア革命の勝利を記録した歴史的声明が発表され、国民は自らの意思と主権を回復した。
今日、祖国はその子どもたちのもとに戻った。彼らはその礎を建設し、その財産を守るために戻ってきた。歴史的責任は、この勝利を確実なものとし、正義の基盤を確立し、悲劇の再発を防ぎ、将来の世代をいかなる新たな宣誓からも保護するために、闘争を道のりを貫徹することを求めている。この国民的義務を起点として、シリア社会のさまざまな構成要素の間で、自由、シリアの未来をめぐる建設的な意見交換の雰囲気のなかで集中的な対話が行われた。これを経て、国民対話大会が開催され、2025年2月25日にその成果が発表され、以下の主要な問題に関する国民的合意が表明された。
*シリアの領土と国民の一体性の維持とその保全。
*移行期正義の実現と被害者の救済。
*市民権、自由、尊厳、法の支配に基づく国家の建設。
*良識ある統治の原則に従い、移行期の国の運営の組織化。
本憲法宣言は、シリア社会の多様性と文明的遺産によって特徴づけられる由緒ある固有の価値観、確固たる愛国的且つ人道的な原則に基づき、健全な民主的統治の基礎を確立することを目指し、過去のシリア憲法の精神、とりわけ1950年(独立憲法)の精神から着想を得つつ、そして本宣言の確固たる基盤をなす2025年1月29日に発表されたシリア革命勝利宣言の規程に基づいている。
共和国大統領は以下の憲法宣言を施行するものとし、本前文はその不可分の一部をなすものとする。
第1章:一般規定
第1条:
シリア・アラブ共和国は、完全な主権を有する独立国家であり、不可分の地理的・政治的統合体であり、そのいかなる部分の放棄も認められない。
第2条:
国家は、権力分立の原則に基づく政治体制を樹立し、市民の自由と尊厳を保障するものとする。
第3条:
1.共和国大統領の宗教はイスラーム教とし、イスラーム法を立法の主要な根拠とする。
- 信仰の自由は保障され、国家はすべての天啓宗教を尊重し、公序良俗を害しないかたちですべての儀式を行う自由を保障する。
- 宗派の個人身分は保障され、法に従い保護される。
第4条:
アラビア語を国の公用語とする。
第5条:
ダマスカスをシリア・アラブ共和国の首都とし、国章および国歌は法律で定める。
第6条:
シリア国旗の形状は以下のとおりとする:
国旗は長方形とし、縦の長さは幅の3分の2とする。
横に三等分され、上から緑、白、黒の順に配置する。
白の部分に赤い星を3つ配置する。
第7条:
- 国家はシリアの国土の一体性を維持し、分割や分離の呼びかけ、外国の介入、外部勢力への依存を禁じる。
- 国家は共存と社会的安定の実現、社会平和の維持を義務とし、いかなる内乱、分断、扇動、暴力の唱導を阻止する。
- 国家はシリア社会のすべての構成要員の文化的多様性と、すべてのシリア人の文化的、言語的権利を保障する。
- 国家は汚職撲滅を保証する。
第8条:
- 国家は、シリアの復興プロセスを支援するために、関係国および機関との連携に務める。
- 国家は、難民、避難民、すべての強制移住者の自主的な帰還の障害を取り除くため、関係国および国際機関との連携に取り組む。
- 国家は、あらゆる種類と形態の暴力的過激主義を撲滅することを義務とするとともに、権利と自由を尊重する。
第9条:
- 軍は専従の国民的機関であり、その任務は、法の支配と人権の保護に従い、国の防衛、治安、安全、領土の一体性の維持の維持にあたることにある。
- 国家のみが軍を設立でき、いかなる個人、団体、機関、組織、集団も、軍事または準軍事な組織や部隊を創設することを禁止する。また、武器は国家の管理下に限られる。
第10条:
市民民は、その権利と義務において法の下で平等で、人種、宗教、性別、家系によるいかなる差別も受けない。
第11条:
- 国民経済は、社会正義の実現、包括的な経済発展、生産の向上、市民の生活水準の向上を目的とする。
- 国民経済は、自由で公正な競争の原則に基づき、独占を禁止する。
- 国家は投資を奨励し、魅力的な法的環境のもとで投資家を保護する。
第2章:権利と自由
第12条:
- 国家は人権および基本的自由を保護し、市民の権利と自由を保障する。
- シリア・アラブ共和国が批准した人権にかかる条約、文書、国際協定が定めるすべての権利と自由は、本憲法宣言の不可分の一部をなす。
第13条:
- 国家は、言論、表現、報道、出版の自由を保障する。
- 国家は、個人のプライバシーを保護し、これに対するいかなる侵害も法律がこれを犯罪として処罰する。
- 市民には移動の自由が認められ、市民を祖国から追放すること、あるいは帰還を禁じることは許されない。
第14条:
- 国家は、愛国的基礎のもと、新たな法律に基づき、政治参加および政党結成の権利を保障する。
- 国家は、団体および労働組合の活動を保障する。
第15条:
労働は市民の権利であり、国家はすべての市民に対し、平等な機会を保証する。
第16条:
- 私有財産権は保護され、公共の利益のためにのみ、適正な補償をもって収用される。
- 公共財産の所有権は保護され、すべての天然資源およびその供給源は公共財産とし、国家が社会の利益のためにこれを保護、活用、運用する。
第17条:
- 刑罰は個人責任に基づくものであり、規程なしに犯罪および刑罰を科すことはできない。
- 訴訟権、弁護権、および上訴権は法律によって保障される。また、いかなる法律の規程も行政の活動や決定が司法の監視から免除されることを禁止する。
- 被告人は、確定判決により有罪が証明されるまでは無罪と推定される。
第18条:
- 国家は人間の尊厳および身体の不可侵性を保護し、強制失踪および身体的・精神的拷問を禁止し、拷問犯罪は時効とはならない。
- 現行犯の場合を除き、裁判所の決定なくして、いかなる者も逮捕、拘束すること、その自由を制限することは認められない。
第19条:
住居は保障され、法律で定められた場合を除き、住居への立ち入りや捜索は許可されない。
第20条:
家族は社会の基本単位であり、国家はその保護を義務とする。
第21条:
- 国家は女性の社会的地位を保護し、その尊厳と家庭および社会における役割を保証し、教育および就労の権利を確保する。
- 国家は女性の社会的、経済的、政治的権利を保障し、あらゆる形態の抑圧、不正、暴力から保護する。
第22条:
国家は搾取および虐待から児童を保護するために取り組み、教育および医療の権利を保障する。
第23条:
国家は本章に規定された権利および自由を保障し、法律に従いこれを行使する。また、国民の安全、領土の保全、公共の安全、公共秩序の維持、犯罪防止、健康と公序良俗の保護のために、必要な措置による制約を課すことが許される。
第3章:移行期の統治体制
第1:立法権
人民議会が立法権を行使する。
第24条:
1.共和国大統領は、人民議会議員を選出するための高等委員会を設置する。
- 高等委員会は、投票支部機関を監督し、これらの機関が人民議会議員の3分の2を選出する。
3.共和国大統領は、公正な代表性と適格性を確保するため、人民議会議員の3分の1を任命する。
第25条:
- 人民議会議員の罷免は、議員の3分の2の同意なくして認められない。
- 人民議会議員は議会特権を享受する。
第26条:
- 人民議会は、恒久憲法が施行され、これに基づいて新たな議会選挙が実施されるまで立法権を行使する。
- 人民議会の任期は30ヵ月とし、更新を可能とする。
第27条:
人民議会議員は、共和国大統領の前で宣誓を行う。その文言は以下の通りとする。「私は、誠実かつ忠実に職務を遂行することを、偉大なるアッラーに誓う」。
第28条:
人民議会は、第1回会合において、議長、副議長2名、書記を選出する。選挙は秘密投票により多数決をもって行われる。最年長議員が第1回会合の議長を務める。
第29条:
人民議会は、第1回会合から1ヵ月以内に内規を制定する。
第30条:
- 人民議会は、以下の職務を担う。
- 法律の提案および承認。
- 既存の法律の改正または廃止。
- 国際条約の批准。
- 国家予算の承認。
- 恩赦の承認。
- 内規に基づいた議員の辞職の受理または拒否、または議会特権の剥奪。
- 閣僚に対する聴聞会の開催。
- 人民議会は多数決によって決定を行う。
第2:行政権
第31条:
共和国大統領および閣僚は、本憲法宣言に規定された範囲内で行政権を行使する。
第32条:
共和国大統領は、軍武装部隊の最高司令官であり、国の統治、領土の一体性と安全の維持、国民の利益の保護に対して責任を負う。
第33条:
共和国大統領は、人民議会の前で以下の宣誓を行う。その文言は以下の通りとする。「私は、国家の主権、国の統一、領土の保全、決定の独立性を誠実に維持、これを防衛し、法律を遵守し、国民の利益を擁護し、誠実かつ正直に、その尊厳ある生活を確保し、公正を実現し、高潔な価値観と優れた道徳を高めるために取り組みことを、偉大なるアッラーに誓う」。
第34条:
共和国大統領は、副大統領を1名以上任命し、その職務を定め、罷免および辞任の受理を行う。共和国大統領職が空席となった場合、第1副大統領が共和国大統領の職務を遂行する。
第35条:
- 共和国大統領は閣僚を任命および罷免し、辞任を受理する。
- 閣僚は共和国大統領の前で宣誓を行う。その文言は以下の通りとする。「私は、誠実かつ忠実に職務を遂行することを、偉大なるアッラーに誓う」。
第36条:
共和国大統領は、法律に従って、行政規則、管理規則、取締規制、政令、および大統領令を発布する。
第37条:
共和国大統領は国家を代表し、外国および国際機関との条約の最終調印を行う。
第38条:
共和国大統領は、外国に駐在する外交使節団の代表長の任命および解任を行い、外国の外交使節団の代表者の信任状を受け取る。
第39条:
- 共和国大統領は法律を提案する権限を有する。
- 共和国大統領は、人民議会が可決した法律を施行する。ただし、共和国大統領は合理的な理由を示した上で、議会から送付された日から1ヵ月以内に、これを拒否する権限を有する。議会が再審議を行い、3分の2の賛成多数で再可決した場合、共和国大統領はこれを施行しなければならない。
第40条:
共和国大統領は、特別恩赦および名誉回復を行う権限を有する。
第41条:
- 共和国大統領は、国家安全保障会議の承認を得た上で、総動員および戦争を宣言する権限を有する。
- 国民統合、あるいは領土の保全と独立が重大な危機に晒され、国家機関が憲法に定められた職務の遂行を妨げられる場合、共和国大統領は、国民に向けた声明を通じて、3ヵ月を限度として、限定的、あるいは全面的に非常事態を宣言することができる。これは、国家安全保障会議の承認を得た上で、人民議会議長および憲法裁判所長官と協議するものとするものとし、その延長は、人民議会の承認がある場合に限り、1度だけ認められる。
第42条:
行政機関は、以下の業務を担当する。
- 法律、計画、および公認プログラムの実施。
- 国家運営、および安定と発展を実現するための政策の実施。
- 共和国大統領のために法律案を作成し、これを人民議会に提出。
- 国家の一般計画の策定。
- 国家の公共資源の管理およびその効率的かつ透明な利用の保障。
- 公共機関の再建および法の支配と良識ある統治の強化。
- 治安機関の設立を通じ、国内の安全および安定を強化し、市民の権利と自由を保護。
- 愛国心と誠実さをもって、現行法を完全に尊重しつつ、国境と主権の防衛、および国民の保護を任務とする国民軍の創設。
- 国益の実現を目的とした国際関係の強化および国際機関との協力。
第3章:司法権
第43条:
- 司法権は独立しており、裁判官は法律にのみ従う。
- 高等司法評議会は、司法の適正な運営およびその独立性の尊重を保証する。
第44条:
裁判所は法律によって設立され、その権限が定められる。特別裁判所の設置は禁止される。
第45条:
- 司法制度は二重構造とし、一般司法および行政司法から構成される。
- 高等司法評議会は、一般司法および軍事司法を監督する。
- 国家評議会は行政司法を担当し、独立した司法および諮問機関とする。その権限および裁判官の任命条件と権限は法律によって定められる。
第46条:
国家司法の管理は司法省に帰属し、その権限は法律により定められる。
第47条:
- 現行の高等憲法裁判所は廃止され、新たに高等憲法裁判所を設立する。
- 高等憲法裁判所は、共和国大統領が指名する7名の高潔で有能かつ経験豊富な人物によって構成され、その運営および権限は法律で規定される。
第4章:最終条項
第48条:
国家は以下を通じて移行期正義の実現にふさわしい基盤を整える:
- シリア国民に損害を与え、人権に反するあらゆる特別法の廃止。
- 抑圧の手段として使用されたテロ裁判所が下した不当な判決の無効化、合わせて没収財産の返還。
- 旧体制がシリア国民を抑圧するために利用した民事および不動産文書にかかる特別な安全措置の撤廃。
第49条:
- 移行期の正義を実現するための委員会を設置し、効果的な参加型メカニズムを用い、被害者の権利を重視し、説明責任の方法を定め、真実を知る権利、被害者および生存者の救済、ならびに殉教者の顕彰を行う。
- 戦争犯罪、人道に対する罪、およびジェノサイド、そのほか旧体制によるすべての犯罪は時効の対象とはならない。
- アサド体制およびその象徴を称賛することを犯罪とし、その犯罪の否定、称賛、正当化、軽視とみなし、法律がこれを処罰する。
第50条:
憲法宣言の改正は、共和国大統領の提案に基づき、人民議会の3分の2の賛成をもって行われる。
第51条:
現行の法律は、改正または廃止されるまで適用を続ける。
第52条:
移行期の期間は5暦年とし、本憲法宣言の施行日から開始され、恒久憲法が承認され、これに基づき選挙が実施されることをもって終了する。
第53条:
本憲法宣言は官報に掲載され、その掲載日より施行される。
シリア・アラブ共和国大統領
ヒジュラ暦1446年ラマダーン月13日/西暦2025年3月13日
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SANAによると、記者会見のなかで、アブドゥルハミード・アウワーク報道官は以下の通り述べた。
我々は権力分立を完全に確立する政治体制を選択した。この政治体制は、憲法宣言草案において提案され、移行期の運営を支えるものだ。
我々は、政治体制を真の憲法上の軌道に戻すために取り組み、恒久憲法の制定を提言する。
移行期間中、人民議会は共和国大統領に対して何らの権限を持たない。
高等選挙委員会や高等憲法委員会を含むいくつかの機関が設立される予定で、とくに高等憲法委員会は、法律の合憲性を監督する役割を担う。
過去の憲法では、条文が独裁者に資するものだったが、現在はすべての権力が国民によって監視されている。
憲法宣言草案に基づく大統領制では、(三権のうちのいずれかの)権力が別の権力を解任することは許されない。
また、ライアーン・カヒーラーン委員は以下の通り述べた。
憲法宣言における諸自由は、シリア国民のすべての構成要素を対象としている。
旧体制下で国民に苦痛と苦難をもたらした特別法廷は廃止された。 移行期正義を実現するための裁判所が設立される予定である。
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