NHK(3月17日付)は、シリアで「民主化運動」に参加したと主張し、日本に入国していたシリア人男性4人が、難民認定を求める訴えを東京地方裁判所に起こした、と伝えた。
日本でシリア人が難民認定を求めて提訴するのはこれが初めて。
訴えを起こしたのは、3年前に来日した22歳から35歳のシリア人の男性4人。
彼らはシリアで「民主化」運動に参加したと主張し、日本で難民認定を申し立て、人道上の配慮から一時的な在留を許可されていたが、難民とは認定されず、日本語教育や職業紹介などの支援策を受けていなかったのだという。
このため4人は、「情勢が悪化し続けるシリアから逃れた人は、難民と認められるべきだ。日本で安定した生活を送りたい」と主張して難民認定するよう求めているという。
弁護団などによると、これまでにシリア人約60人が難民の申し立てをしたが、日本は政治的な迫害から逃れた亡命者の保護を念頭に置いて制度を運用しているため、認められたのは3人だけで、難民認定を求める提訴は初めてだという。
原告の1人で、シリア人の妻と幼い2人の子どもと暮らす「ユーセフ・ジュディ」氏(31歳)は「将来が見通せず、日本語も理解できないので非常に生活に困っている。難民として認めてほしいというのがいちばんの願いです」と話しているという。
訴えについて法務省入国管理局は「訴状の内容を検討して適切に対応したい」とのコメントを出した。
なお、ジュディ氏は3年前に来日し、支援者の紹介を受け、さいたま市の住宅に身を寄せている。
同氏によると、シリアにいた当時、無防備な市民が政府軍に銃撃され命を落とす場面を目の当たりにし、「民主化」を求めるデモに積極的に参加するようになったのだという。
ところが外出していたある日、政府の治安部隊がジュディ氏を逮捕しようと自宅を捜索していると知人から連絡を受け、ジュディさんは潜伏、周囲から「家族にも危害が及ぶので逃げたほうがいい」と説得され、妻や子どもを残して国外に脱出したという。
先にシリアを離れていた弟を難民として受け入れた英国に向かうつもりだったが、頼ったブローカーの手配でたどり着いたのは日本の空港だったとのこと。
ジュディ氏には人道上の配慮から在留資格が与えられたが、1年ごとに更新が必要で、また5年間の在留資格や職業紹介などの支援が受けられる難民には認定されなかったという。
「デモに参加した程度で、シリア政府から迫害を受けるおそれは認められない」というのがその理由だったという。
今年1月、家族を呼ぶことは許可され、妻と子ども2人を日本に迎え入れたもの、妻は日本語が理解できないため家に閉じこもりがちで、「買い物に行ってもこれをくださいとも言えず、外に出るのは難しい」のだという。
またジュディ氏自身も安定した仕事が見つからず、今後の生活に不安を抱えていて、「迫害されるおそれがないと言われるのは納得できない。シリアは壊滅的な状況なので難民として日本にいられることを保証してほしい」と話しているという。
なおニュースでは、ジュディ氏がデモに参加している姿を移した写真が映し出されている。
写真はハサカ県マアバダ(カルキールキー)町で撮影されたと思われる。
マアバダ町は、2012年半ば頃までにシリア政府の支配を脱した後、2013年にはシャームの民のヌスラ戦線などが勢力を伸長したが、同年末までに民主統一党の人民保護隊が制圧、2014年以降は比較的平和な状態にある。
なお現在、マアバダ町は西クルディスタン移行期民政局(ジャズィーラ地区)の実効支配下にあり、今月13日には同民政局のもとで統一地方選挙が実施されている。
AFP, March 17, 2015、AP, March 17, 2015、ARA News, March 17, 2015、Champress, March 17, 2015、al-Hayat, March 18, 2015、Iraqi News, March 17, 2015、Kull-na Shuraka’, March 17, 2015、al-Mada Press, March 17, 2015、Naharnet, March 17, 2015、NNA, March 17, 2015、Reuters, March 17, 2015、SANA, March 17, 2015、UPI, March 17, 2015などをもとに作成。
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