アル=カーイダ系武装集団のシャームの民のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動、ジュンド・アクサー機構などジハード主義武装集団からなる合同作戦司令室「ファトフ軍」が、イドリブ県の県庁所在地イドリブ市をほぼ完全に制圧した。
ジハード主義者が県庁所在地を制圧したのはラッカ市に次いで2市目。
これに関して、シリア人権監視団は、「シャーム自由人イスラーム運動、シャームの民のヌスラ戦線、ヌンド・アクサー機構といったイスラーム主義(アル=カーイダ系)武装集団が、政府軍および親政権民兵との5日におよぶ激しい戦闘の末、イドリブ市をほぼ完全に制圧した」と発表した。
『ハヤート』(3月29日付)によると、イドリブ市を制圧した「ファトフ軍」は、数千の戦闘員を擁しており、彼らはこれまで以上に組織化され、重武装しているという。
すなわち、ファトフ軍は、まず政府軍拠点を制圧したうえで、イドリブ市を四方から包囲、同市に進入するなど、系統立った戦闘を展開した。
イドリブ市が陥落した理由に関して、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表は、シリア軍が過去4日間で150回にわたって空爆を行ったほか、地対地ミサイルなどを投入したが、「約2,000人の戦闘員が四方から、40輌におよぶ兵員輸送車に乗って攻撃を行った」と指摘した。
また、シリア政府が「2週間前にイドリブ市からジスル・シュグール市への行政機関の移設を開始」しており、そのことが敗北を速めたと付言した。
『ハヤート』によると、反体制活動家は、反体制武装集団がイドリブ中央刑務所に進入し、遺体が写し出される画像を公開、そのなかで戦闘員らは、この遺体がシリア政府軍によって処刑されたものだと主張しているという。
また、イドリブ市内に到着した反体制武装集団は、バッシャール・アサド大統領の写真が破り、ハーフィズ・アサド前大統領の像を破壊するビデオ映像も公開された。
反体制ジャーナリストのハーディー・アブドゥッラー氏はイドリブ市中心部にある時計台広場で、アサド大統領の写真を踏みつけながら現地取材を行い、ユーチューブ(https://youtu.be/XCpiEmtFMKw)を通じて配信した。
反体制派によると、イドリブ進入は、住民からの歓迎をもって受け入れられたという。
戦闘員の一人はビデオ映像のなかで「ここはオレの家だ。4年も帰れなかった。ここはオレが住んでいた街区で、オレの国だ。アッラーのお許しのもと、我々は国を解放するだろう」と述べている。
一方、民間人の行方への懸念も高まっている。同市には、住民や、シリア政府の支配を離れたイドリブ市郊外からの避難民数十万人が3年にわたって身を寄せているという。
「アブー・ヤザン」を名乗る「ファトフ軍」の軍高官は、反体制武装集団戦闘員らが何度も、民間人を逃がそうとしており、「シリア人の血で手を汚していないことを条件に」、武器を携帯している者でさえも攻撃を加えることはない」と述べている。
しかし、シリア軍が行うであろう空爆を恐れて、数千の民間人が郊外やほかの都市に脱出したことが報告されているという。
「ファトフ軍」がイドリブ市を制圧するなか、SANA(3月28日付)は「シリア軍部隊がイドリブ市北東部方面および南西部方面など(イドリブ市東部の工業地区一帯、国立博物館一帯など)でテロ集団の進軍を食い止め、原状回復に向けた激しい戦闘を行っている」と報じた。
また軍消息筋の話として「軍武装部隊はタクフィール主義組織の拠点複数カ所を集中的に攻撃した」と伝えた。
なお、イドリブ県においてシリア政府の支配下にとどまっているのは、ジスル・シュグール市、アリーハー市、アブー・ズフール航空基地、イドリブ市とアリーハー市の間に位置するマストゥーマ村の「野営キャンプ」、アリーハー市とサラーキブ市(反体制派の支配下)の間に位置するアレッポ県方面の「煉瓦工場」など。
クッルナー・シュラカー(3月29日付)によると、イドリブ市南部でイラク人民兵14人が立て籠もっていたビルを武装集団が爆破し、倒壊させ、民兵10人が死亡した。
武装集団は民兵に投降を呼びかけていたが、拒否したため、ビルを破壊したという。
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ファトフ軍は声明を出し、ドゥンヤー・チャンネルのアブドゥルガニー・ジャールーフ記者をイドリブ市内で捕捉したと発表した。
AFP, March 28, 2015、AP, March 28, 2015、ARA News, March 28, 2015、Champress, March 28, 2015、al-Hayat, March 29, 2015、Iraqi News, March 28, 2015、Kull-na Shuraka’, March 28, 2015、March 29, 2015、al-Mada Press, March 28, 2015、Naharnet, March 28, 2015、NNA, March 28, 2015、Reuters, March 28, 2015、SANA, March 28, 2015、UPI, March 28, 2015などをもとに作成。
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