軍がサラフィー主義武装集団によって前日から占拠されていたヤアルビーヤ市の半分以上を制圧、人民防衛隊がルマイラーン町およびカフターニーヤ市の掌握を発表するも制圧に際し戦闘は起こらず(2013年3月2日)

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シリア政府の動き

シリアのワリード・ムアッリム外務在外居住大臣がイランを訪問、マフムード・アフマディーネジャード大統領、アリー・アクバル・サーレヒー外務大臣と会談した。

SANA(3月2日付)によると、アフマディーネジャード大統領は、「生存をかけた戦争を行うシリアとともにある」と表明するとともに、暴力の停止、対話を通じた危機解決を支持することを改めて確認した。

SANA, March 2, 2013

SANA, March 2, 2013

一方、サーレヒー外務大臣は会談後の記者会見で、「次期選挙で、アサド大統領は他の候補者とともに参加し、国民が望む者を選出するだろう」と述べた。

サーレヒー外務大臣は、「なぜ彼を排除するのか?…アサド大統領も他の立候補者も国民に向かって、自らのプログラムを提示し、国民が彼らを選ばねばならない。投票箱がシリアの将来を決めるのだ」と付言した。

さらに6日間にわたるロシア訪問を終えて帰国したサーレヒー外務大臣は、「ロシアがイランに対して述べた姿勢とは、アサド大統領が(2014年の)次期大統領選挙まで正統な大統領であるというものだ」と強調した。

そのうえで「シリアの危機に軍事的解決はなく、唯一の解決策は政府と反体制勢力の対話だ…。だれもシリアの政府に武装放棄を求めることなどできず、平静を回復するため、傭兵に対抗する以外に選択肢はない」と述べた。

これに対し、ムアッリム外務在外居住者大臣は、米国が反体制武装集団への兵器以外の直接支援を決定したことに関して、「反体制勢力が人々を殺戮するなかで、このイニシアチブを理解できない」と批判した。

また反体制勢力を支援する「トルコとカタールに圧力をかける」よう呼びかけた。

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『サウラ』(3月2日付)は、米国が反体制武装集団への兵器以外の直接支援を決定したことに関して、「裏切りの政策」と非難、政治的解決策を案出するとの欧州歴訪時のジョン・ケリー米国務長官の発言と矛盾している」と指弾した。

また「テロ集団への軍事・兵站支援、さらにはエルドアン基地など近隣諸国での軍事教練は、傭兵集団に暴力、殺戮、破壊をエスカレートさせるよう呼びかけていることを意味する」と批判した。

国内の暴力

軍武装部隊総司令部は声明を出し、ハマー県サラミーヤ地方からアレッポ県アレッポ国際空港にいたる国際幹線街道一帯における反体制武装集団の浄化を完了し、治安と安全を回復したと発表した。

治安回復が発表されたのは、サラミーヤ、アスラヤー、ハナースィル、マズラア、ラスム・ナクル、ウンム・アームード・サギール、ウンム・アームード、ジュナイド、カブタイン村フライリシュ、サフィーラ、防衛工場機構、科学研究センター、バーシュクワー、タッル・アーブール村トゥルクマーン、タッル・シュガイブ、ナイラブ、ナイラブ・キャンプ、アレッポ国際空港。

これに関して、ロンドンを拠点とする反体制組織のシリア人権監視団は、「軍が金曜晩、数日間にわたる戦闘で、(アレッポ国際空港、ナイラブ航空基地にいたる)街道の制圧を完了した」と認めた。

同監視団によると、これにより、軍はハマー県からアレッポ県にいたる兵站路を確保し、反体制武装集団の浄化を加速させると見られる一方、反体制武装集団がアレッポ市での戦闘を激化させることが懸念される。

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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、軍がヤアルビーヤ国境通行所を奪還、またヤアルビーヤ市の半分以上を制圧した。

対イラク国境に位置するヤアルビーヤ国境通行所は、前日にシャームの民のヌスラ戦線などによって一時占拠されていた。

これに関して、ジャズィーラ自由人旅団参謀長のジャースィム・シャムリーはクルディーヤ・ニュース(3月2日付)に対して、イラク軍のヘリコプターがヤアルビーヤ国境検問所上空を通過し、シリア領内の通関事務所を攻撃したと主張した。

シャムリーによると、反体制武装集団はヤアルビーヤ国境検問所を一時完全に掌握し、シリア軍兵士はイラク領内のラビーア町方面に逃走したが、その後、イラク軍の支援を受けた軍の反撃に遭ったのだという。

なおこの戦闘で、シャームの民のヌスラ戦線の戦闘員1人を含む2人が死亡した。

一方、AFP(3月2日付)は、イラク国防相報道官の話として、ハサカ県ヤアルビーヤ市での反体制武装集団との戦闘で負傷したシリア軍兵士4人が、イラク領内のルバイア病院(ニネベ県)に搬送されたと報じた。

同報道官によると、シリア領内での戦闘で、イラク領内に双方の砲弾・銃弾が着弾しているが、イラク側は自制を続けているという。

このほか、クルディーヤ・ニュース(3月2日付)は、タッル・ハミース市が軍の空爆を受けたと報じた。

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同じく、ハサカ県では、民主統一党人民防衛隊が声明を出し、ルマイラーン町、カフターニーヤ市(クルド語名ディルベ・スピーイェ)の両市を制圧した、と発表した。

複数の反体制勢力筋によると、民主統一党人民防衛隊が、ルマイラーンの油田地帯に侵入、またルマイラーン町の政府、治安機関、バアス党の施設を制圧したという。

またシリア人権監視団によると、民主統一党人民防衛隊は、軍・治安部隊が撤退したカフターニーヤ市を制圧した。制圧に際して交戦はなかったという。

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イスラエル軍報道官は、占領下ゴラン高原南部の非居住地域に複数の迫撃砲が着弾した、と発表した。

同報道官によると、迫撃砲は「シリアでの戦闘によるものと思われ…、犠牲者、被害は出なかった」。

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ラッカ県では、シリア人権監視団によると、ラッカ市郊外(マシュラブ、フルースィーヤ検問所周辺)で、正規軍、国防隊、親体制派民兵と反体制武装集団が激しく交戦した。

数時間続いたこの戦闘で、反体制武装集団の戦闘員16人、軍などの兵士10人が死亡した。

SANA(3月2日付)によると、反体制武装集団はラッカ中央刑務所近くおよびフルースィーヤ市の軍の検問所を襲撃、武装集団の一部がマシュラブ市を経由して北方からラッカ市内に侵入した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、ハーン・アサル村(警察学校周辺)で、軍と反体制武装集団の交戦が続いた。

一方、SANA(3月2日付)によると、マンナグ村、マンビジュ市、ダイル・ジャマール村、フライターン市、ラトヤーン村、バルクーム市、マンスーラ村、カフル・アントゥーン村、タッル・アッジャール村、ジスル・アッサーン村、アズィーザ市、アウラム・クブラー町、カラースィー村、ハーン・アサル村(警察学校)、ナッカーリーン村などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、装備・拠点を破壊した。

またアレッポ市では、旧市街、カッラーサ地区、ブスターン・カスル地区、ハナーヌー地区などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、装備・拠点を破壊した。

このほか、アレッポ情報センターなる組織は、ユーチューブなどを通じて、マンナグ航空基地周辺でヘリコプターを撃墜したとする映像をアップした。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市、ムウダミーヤト・シャーム市、ドゥーマー市、ヤブルード市などに軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(3月2日付)によると、アッブ農場、スバイナ町、アドラー市、ダーライヤー市、ムウダミーヤト・シャーム市、ハジャル・アスワド市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、イスラーム旅団メンバーなど複数の戦闘員を殺傷、装備・拠点を破壊した。

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ダマスカス県では、SANA(3月2日付)によると、バルザ区郊外に、反体制武装集団の迫撃砲が着弾し、市民2人が死亡、子供1人が負傷した。

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ダルアー県では、SANA(3月2日付)によると、ダルアー市アルバイーン地区で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、SANA(3月2日付)によると、タッル・サラムー市、バラーギーティー村、ハマーマート・ダーイル村、ワリーディー村、ナイラブ村、クマイナース村、アイン・バーリダ村、ミンタール村、アルマラ村、サラーキブ市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、装備・拠点を破壊した。

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ヒムス県では、SANA(3月2日付)によると、ラスタン市および同市郊外、クサイル市、東ブワイダ市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、装備・拠点を破壊した。

反体制勢力の動き

ザマーン・ワスル(3月3日付)によると、トルコのガズィアンテップ市で、アレッポ市議会選挙が実施された。

同報道によるとによると、イスラーム主義者のリスト二つと世俗主義者のリストが議席を争い、イスラーム主義者の若者らからなる忠誠リストが全議席を獲得したという。

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ザマーン・ワスル(3月3日付)によると、トルコのガズィアンテップ市で、アレッポ県地元評議会(ジャラールッディーン・ハーンジー議長)大会が開催された。

大会には、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・マアーッズ・ハティーブ議長が出席し、3日に新評議員を選ぶ選挙が実施されるという。

クルド民族主義勢力の動き

クルディーヤ・ニュース(3月2日付)によると、アレッポ県コバネ(アイン・アラブ市)のクルド人自治評議会が声明を出し、イラク・クルディスタン地域からコバネ地方、アフリーン地方に配給されるはずの人道支援物資が届いていないと発表した。

諸外国の動き

国連の潘基文事務総長はジュネーブでアフダル・ブラーヒーミー共同特別代表と会談した。

国連が発表した声明によると、会談では、政府と反体制勢力双方による対話実施の意思表明を歓迎、国際機関が対話を促す用意があると表明した。

その一方、潘事務総長は、「シリアの紛争の両当事者が人名を尊重していない」と懸念を表明し、「戦争犯罪、人道に対する罪の責任者の処罰が肝要」と強調した。

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チャック・ヘーゲル米国防長官は記者団に対して「(オバマ)政権のシリア政策は明確だ。非戦闘的な支援である。米国が採用している政策は平和的なものだ」と述べた。

AFP, March 2, 2013、Akhbar al-Sharq, March 2, 2013、al-Hayat, March 3, 2013、Kull-na Shuraka’, March 2, 2013, March 3, 2013、al-Kurdiya
News, March 2, 2013、Naharnet, March 2, 2013、Reuters, March 2, 2013、SANA,
March 2, 2013、al-Thawra, March 2, 2013、Zaman al-Wasl, March 3, 2013などをもとに作成。

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