ダーイシュ(イスラーム国)がUNESCO世界文化遺産のパルミラ遺跡を含むタドムル市一帯を制圧(2015年5月21日)

ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ダドムル市全域および同市南西部に位置するUNESCO世界文化遺産のパルミラ遺跡にダーイシュ(イスラーム国)が展開した。

これに関して、AFP(5月21日付)は、ムハンマド・ハサン・ヒムスィーを名乗るタドムル市出身の活動家の話として、シリア軍は、ダーイシュの侵入に抵抗することなく、ほとんどの拠点から撤退したと伝えた。

ダーイシュ(イスラーム国)ヒムス州もツイッターを通じて、「イスラーム国のムジャーヒディーンがタドムル市を完全制圧し…、ヌサイリー体制軍は崩壊し、多くの死者を残して撤退した」と発表した。

Reuters, May 21, 2015

Reuters, May 21, 2015

SANA, May 21, 2015

SANA, May 21, 2015

SANAも、5月20日に「国防隊は、住民の大多数の避難経路を確保しつつタドムル市内の複数の地区から撤退した」と伝えていた。

『ハヤート』(5月22日付)によると、ダーイシュは、20日昼にタドムル市への突入に成功したのを受け、シリア軍は、拠点としていた市内東部に位置するタドムル刑務所、タドムル航空基地、西部に位置する軍事情報局から撤退、21日夜にダーイシュは軍事情報局を掌握した。

またクッルナー・シュラカー(5月21日付)によると、ダーイシュはタドムル市に加えて、同市東部の第3石油輸送ステーション(T3)、ジャズル・ガス採掘所周辺のシリア軍検問所5カ所、フルクルス町を制圧、これに対してシリア軍はダーイシュによって制圧されたタドムル市に対して激しい空爆を行った。

シリア人権監視団によると、タドムル市一帯に駐留していたシリア軍部隊は、ヒムス市方面に撤退、また住民の一部もヒムス市に向かって避難しているという。

同監視団によると、13日に始まったタドムル市一帯での戦闘による死者数は462人に達しているという。

このうち71人が民間人で、そのなかの49人がダーイシュによって斬首され、死亡したという。

またシリア軍、国防隊の死者は241人、ダーイシュ戦闘員の死者は150人におよぶという。

ダーイシュによるタドムル市制圧により、シリア政府・軍は、S1航空基地、S2航空基地、タイフール航空基地など複数の拠点を除くダマスカス県とダイル・ザウル市を結ぶ国際幹線道路一帯の地域の大部分を喪失したことになる。

なお、ダーイシュが制圧したタドムル刑務所には、35年にわたり拘留されているレバノン人35人を含む受刑者多数が収監されていたが、『ハヤート』(5月22日付)によると、彼らの消息は不明。

しかし、タドムル情報センターを名乗る組織は、シリア当局がタドムル刑務所や軍事情報局の収監者を別の施設に移送しており、ダーイシュが突入した際に両施設には誰もいなかったと主張している。

パルミラ遺跡はシリアにある6つのUNESCO世界文化遺産の一つ。

**

シリア博物館遺跡局のマアムーン・アブドゥルカリーム局長は、AFP(5月21日付)に「遺憾ながら、タドムルは今日、テロ集団ダーイシュに掌握されてしまった。これは全人類、そして世界の文明にとっての損失だ…。同市は残念ながら人質になってしまった」と述べた。

アブドゥルカリーム局長はそのうえで「国際社会にこれ以上無関心を続けないよう訴えたい。無関心はもう充分だ。シリアの遺産は人類の遺産であり、国際社会はこの遺産への破壊、密売を阻止するために行動しなければならない」と主張した。

また「タドムルの戦いは世界的な戦いだ…。世界のすべての国、ダーイシュの車列や大群が同市に進軍するのを阻止しなければならなかった」と述べ、タドムル市へのダーイシュ侵攻に介入しなかった有志連合を暗に批判した。

一方、パルミラ遺跡やタドムル国立博物館所蔵の彫像など数百点を安全な場所に移したが、移設できない石柱などはそのまま残されていることを明らかにした。

**

ハサカ県では、ARA News(5月21日付)によると、西クルディスタン移行期民政局人民防衛隊、ハーブール護衛部隊、シリア正教軍事評議会民兵、サナーディード軍からなる合同部隊がタッル・タムル市郊外のタッル・シャーミーラーン村、ギーブシュ村、タッル・ナスリー村でダーイシュ(イスラーム国)と交戦、同地一帯を奪還した。

**

アレッポ県では、ARA News(5月21日付)によると、西クルディスタン移行期民政局人民防衛隊が、アイン・アラブ市南部郊外でダーイシュ(イスラーム国)と交戦し、司令官(アミール)のアブー・ジャービル・アンサーリー氏を殺害した。

また、ARA News(5月21日付)によると、ダーイシュ(イスラーム国)がマンビジュ市で、56人を処刑した。

一方、SANA(5月21日付)によると、アレッポ市東部の航空士官学校一帯で、シリア軍が反体制武装集団と交戦し、ダーイシュ(イスラーム国)の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ダイル・ザウル県では、ARA News(5月21日付)によると、ダーイシュ(イスラーム国)が、シリア政府内通者、自由シリア軍メンバー、シャームの民のヌスラ戦線メンバー併せて9人を処刑した。

一方、ユーチューブ上で、ダーイシュのメンバーがアブー・ハマーム市でシュアイタート部族の男性をRPGで処刑する映像が公開された。

**

米中央軍(CENTCOM)は、有志連合が現地時間の20日8時から21日8時までの24時間で、シリア、イラク領内のダーイシュ(イスラーム国)拠点などに対して18回の空爆を行ったと発表した。

このうちシリア領内での空爆は8回におよび、ハサカ県、アレッポ県、ラッカ県のダーイシュに対して攻撃が行われたという。

AFP, May 21, 2015、AP, May 21, 2015、ARA News, May 21, 2015、Champress, May 21, 2015、al-Hayat, May 22, 2015、Iraqi News, May 21, 2015、Kull-na Shuraka’, May 21, 2015、al-Mada Press, May 21, 2015、Naharnet, May 21, 2015、NNA, May 21, 2015、Reuters, May 21, 2015、SANA, May 21, 2015、UPI, May 21, 2015などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.