アサド大統領がヒズブッラー系TV局の単独インタビューに応じる:「シリアのテロリストは今日、イスラエルにとってもっとも重要な攻撃のツールとなっている」(2015年8月25日)

レバノンのヒズブッラーが運営する衛星テレビ局マナール・チャンネルは、アサド大統領への単独インタビューを行い、8月25日に放映した(https://www.youtube.com/watch?v=iAEwExmUQQU)。

また、SANAはインタビュー全文をHP(http://www.sana.sy/?p=257883)で公開した。

SANA, August 25, 2015

SANA, August 25, 2015

インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:

「我々は何よりもまず、国民を頼りにしている。もちろんアッラーの次ではあるが…。国民の支持がなければ、持ちこたえることなどできなかった。国民の支持がなければ、大統領、高官、あるいは国家が採用する政治的方針には何の価値もない…。次いで我々はシリアに寄り添ってくれる友人を頼りにしている」。

「この問題の本質は外国の干渉にある。シリアに資金、武器、そしてテロリストを送り込んでいる…。シリアに対して陰謀と流血をもたらしている国々が…テロ支援を止めれば、我々は(紛争終結の)最後の15分が来たと言える。なぜなら、政治的解決、政治的プロセスなど…といった細目はそのときにそれ自体価値のない容易いものとなるからだ…。外国の支援がなくなれば、テロリストとの戦いはきわめて容易なものになる。しかし現在、我々はそうした段階にはいたっていない」。

「私は「政治的解決」という言葉は使いたくない。私は「政治的プロセス」という言葉を用いたい。解決とは「問題」解決のことだ…。現下の危機の原因は政治的なものだとの主張がある。しかしこれは正しい主張とは言えない。主因は外国の干渉にある」。

「我々は何の躊躇もなく、(対立する)政治勢力と対話する用意がある。これこそがいわゆる政治プロセスだ。しかし現実において、政治プロセスが影響力を発揮するには、対話が、シリア国民に属し、シリアに根ざし、(外国勢力から)独立したシリアの政治勢力の間でなされる必要がある」。

(ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣が訪問したオマーンに関して)「オマーンはこの地域における緊張に対処し、デタントや問題解決をもたらすにあたって重要な役割を果たしている」。

「数十年前のレバノンの経験に立ち返ると…、一部のレバノン人が外国と結託し、そのなかにはイスラエルと結託する者がいた。彼らは様々なかたちで外国の干渉をもたらした…。同じことはシリアについても言える。イスラエルという敵と協力を受け入れ、それ以外の敵に対峙しようとするシリア人集団がいれば、彼らはイスラエルに介入するよう求めることになる」。

「シリアにいるテロリストは今日、イスラエルが攻撃を行う際のもっとも重要な真のツールとなっている…。もし我々がイスラエルに立ち向かいたいと考えるのなら、我々はまず、シリア国内でイスラエルのツールに立ち向かわなければならない。国内に敵がいるなかで、国外の敵に立ち向かうことなどできない」。

「我々とイスラエルの国境には現在、イスラエルの手先がいる。彼らはかつてのアントワーン・ラフドやサアド・ハッダードの軍(南レバノン軍)に似ている。まずはこの問題に対処しなければならない」。

「私が先日(7月の演説で)、一部の地域での後退について話した時、こうした後退が起きたということを確認したが、その後で、シリア軍による進軍があったことにも触れた。現段階においては、1ヶ月という短い期間のうちに、同じ場所で、後退と進軍が起こっている。こうしたことは、あらゆる戦争において…当然起こり得ることだ…。しかし、私がここで注目しておきたいのは、軍に参加、従軍しようとする若者の動きが増進するという効果が生じているということだ」。

「祖国防衛とは、銃を持つことに限られるものではない…。祖国防衛とは必要とされる目標に沿ってなされるものだ…。日常生活を送っているすべての人、従業員、承認、そして患者の手当てにあたる医師、貧しい人を支援する人、愛国的価値観や道徳を広めようとしている人。彼らはみな祖国を守っている。祖国に暮らしていない人がいるかもしれない…が、自分たちの立場や能力に応じてシリアを守ろうとしている人もいる」。

(スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連アラブ連盟共同特別代表に関して)「米国や西側から中立的な人物が合意を得ることは困難だ。中立的だったら、派遣されなかったろう。我々は現在、非中立的な発言を目の当たりにするようになっている。彼はテロリストのなかに死者が出ていると話す。もちろん彼ら(デミストゥラ氏ら)にとって、死者とはみな無垢の民間人であり、テロリストなど存在せず、武器も持っていないような話をする。しかし、ダマスカス、アレッポなどでテロリストの砲撃で民間人が死亡しても、我々は同じような発言を耳にしない。こうした発言をすることが彼ら(デミストゥラ氏ら)の役割なはずなのに、彼らはその役割を果たしていない…。彼らが我々にとってふさわしい提案をせず、国民和解にふさわしい提案をしなければ、我々が彼らを支援することはないし、ともに歩むこともない」。

「ある高官が言ったことが数日後に別の高官によって覆される…。これが米国の政策の特徴の一つだ。同盟国を無視し、友好国を無視し、裏切りが特徴だ…。一方、ロシアの政策は原則に則った一貫したもので…、シリアの主権、国民の自決を支援しようとしている…。我々はロシアを大いに信頼している…。我々は、ロシアがさまざまな政治勢力を戦争への道を絶つための対話に向けさせようとしていると考えている」。

(紛争解決に向けたイニシアチブに関して)「シリアの主権、国土保全、国民の自決…、テロとの戦いが、あらゆるイニシアチブの基礎…をなす…。国際監視下での選挙は受け入れられない。なぜなら主権への干渉になるからだ」。

「西側諸国は、あらゆる手段、方法で、イランに、シリアの問題が核開発問題の一部をなしていると説得し、そのうえで、この問題でイランが欲しいものを与える代わりに、シリアへの支援などをイランに譲歩させようとしてきた。しかしこの点におけるイランの姿勢は確固たるもので、核開発問題と他の問題がひとくくりにされること…を断固として拒否した…。もちろん、こうした決定は正しく、客観的で、堅実だと言える」。

「イランの力はシリアの力にも反映し、シリアの勝利はイランの勝利に反映するだろう…。我々が(イランに)より接近していると言うのではない。我々はもともと近い関係にあり、似た視座に立ち、共通の原則を持ってきた。我々は同じ勢力を支援しており、一つの枢軸、抵抗枢軸をなしている。一部の戦術、そして現場での成果に変化が生じているかもしれないが、この基本原則は変わっていない」。

「ウルーバ(アラブ性)とは、我々になくてはならない自我である…。誰も自身の自我から逸脱することなどできない。アラブとしての自我は選択肢ではない。特定の宗教に帰属し、特定の民族に帰属することが自我だ…。我々が自我を拒否すること。これこそが敵が望んでいることだ。今日の問題の本質、そして戦争状態は、体制打倒をめざすものではない。それは一つの段階に過ぎない。一つのツールに過ぎない。また国を破壊し、経済を破綻させることもめざしていない。これらはすべて手段に過ぎない。最終的な目標は自我の破壊にある。我々が先にこうした背信に至ってしまえば、我々は敵に無償で贈り物を与えてしまうようなものだ」。

「レバノンのヒズブッラーと我々が行っているように、我々(シリアとイラク)が一つになって戦いを行えば…、より少ない犠牲で、しかも短時間で、より良い成果を得ることができよう」。

「ヒズブッラーとそれ以外の外国人戦闘員の違いは正統性にある…。ヒズブッラーはシリアという国家の合意に基づいてやって来た。シリアという国家は正統な国家であり、シリア国民を代表している。選挙によって選ばれた国家であり、シリア国民の大多数の支持を得ている。シリアという国家には、シリア国民を守るための勢力を呼び込む権利がある。一方、それ以外の勢力はテロリストであり、シリア国民を殺すためにやって来た。シリア国民、そしてシリア国民を代表する国家の意思を無視してやって来た」。

(ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長との関係について)「誠実さと率直さが特徴だ。なぜなら彼(ナスルッラー書記長)は誠実で、率直だからだ…。彼との関係は抵抗を続ける国家と、レバノン防衛のために息子を殉教者として捧げた真の抵抗者の関係だ」。

「いかなる同盟、行動、施策、対話であっても、それがシリア人の流血を止めるものであるのなら、我々にとっての最優先事項としなければならず、そのために躊躇してはならない」。

「(サウジアラビアの)メディアによる(シリア)批判には意味はない…。実際に重要なのは、この国家(サウジアラビア)が実際に行っていることだ。この国はそもそも、テロを支援してきたからだ…。メディアでの批判を強めようと強めまいと、サウジアラビアという国はシリアのテロリストを支援している。これは皆が知っている事実だ」。

「対話は愛国的な者、なかでも影響力を行使し得る者となされなければならない…。しかし、より大きな問題は、我々が対話を行っている者の大部分は愛国的ではないということだ。これは、シリアでテロを支援し、対話の問題に介入する諸外国が強いた結果でもある。これらの国は、シリア国民ではなく、自分たちの国を代表する人物(との対話)を強いている」。

(米国による「穏健な反体制派」への軍事教練について)「シリアに対してさまざまなかたちで続けられている計略の一環をなしている。こうした計略がこの危機においてなくなることはないだろう。今回(米国による軍事教練)もシリアにおけるテロの文脈ではこれまでと変わりはない。なぜなら、米国が彼らを教練しなかったとしても、テロを支援し、武器や資金を送り込んでいる別の国が別の誰かを教練していたからだ。より深刻で懸念すべきは、米国をはじめとする西側諸国の間でテロへの危険が認識されていないことだ…。我々の地域でテロが勝利すれば、事態はシリアだけでは収まらないのだ」。

「(レジェップ・タイイップ・)エルドアン(大統領)には大きな夢があるのだ。首領になる、そして同胞団的スルターンになることだ。彼は、スルターン制の経験とムスリム同胞団の経験を融合しようと考え、エジプトやチュニジアでの出来事に当初は大きな期待を寄せた。しかし、その後、この夢が現実のなかで打ち砕かれると、主人(欧米諸国)が自分の要望に応えてくれるという願望だけが残った。エルドアンとその下僕の(アフメト・)ダウトオール(首相)は…「干渉地帯」(安全地帯のこと)という夢を追うだけの人形になり下がった。これまでの夢のすべてがシリアで打ち砕かれた後に残った最後の夢が「干渉地帯」であり、NATO、ないしは米国がその設置の合図が出るのを待ち望んでいる…。しかし、彼らは、自分たちの主人がこうした夢に向かう合図を出してくれなければ、進むことさえできないのだ」。

「シリア、エジプト、そしてイラクの関係には特別な意味がある。なぜなら、これらの国はアラブ文明の基礎をなしており…、アラブの歴史を通じて政治的な原動力となってきたからだ。それゆえ、我々はエジプトとの関係構築を強くの望んでいる」。

AFP, August 25, 2015、AP, August 25, 2015、ARA News, August 25, 2015、Champress, August 25, 2015、al-Hayat, August 26, 2015、Iraqi News, August 25, 2015、Kull-na Shuraka’, August 25, 2015、al-Mada Press, August 25, 2015、Naharnet, August 25, 2015、NNA, August 25, 2015、Reuters, August 25, 2015、SANA, August 25, 2015、UPI, August 25, 2015などをもとに作成。

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