カザフスタンの首都アスタナで、ロシア、トルコ、そしてイランの仲介によるシリア政府と反体制派の和平協議(アスタナ会議)が開幕した。
会議の主な参加者は以下の通り:
シリア政府代表団:バッシャール・ジャアファリー国連シリア代表を団長とする10人。
反体制派代表団:ムハンマド・アッルーシュ氏(イスラーム軍)が団長を務め、ファーリス・バイユーシュ氏(イドリブ自由軍)、ハサン・イブラーヒーム少佐(南部戦線、通称アブー・ウサーマ・ジャウラーニー、シリア革命家戦線元司令官)、マアムーン・ハッジ・ムーサー氏(シャームの鷹)、ヤフヤー・アリーディー氏(反体制派代表団報道官)ら14人が会議に参加、これに加えて21人の顧問がアスタナに参集。
ロシア政府:アレクサンドル・ラヴレンチエフ・シリア問題担当大統領特使が団長。
トルコ政府:セダト・オナル外務大臣特別顧問を団長とする外務省関係者。
イラン政府:ホセイン・ジャーベリー・アンサーリー外務副大臣が団長。
米国政府:ジョージ・クロール在カザフスタン大使。
カザフスタン政府:カイラット・アブドラフマノフ外務大臣(ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領の代理)。
国連:スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表。
**
『ハヤート』(1月24日付)は、会議開催直前からロシア、トルコ、イランが作成にとりかかっていた閉幕声明案に反体制派側が、一部文言に異議を唱えていると伝えた。
同紙によると、閉幕声明案には「現地での和解」、「武装集団の地位回復」といった文言があることついて、反体制派側は、反体制武装集団の支配にとどまる町・村に対するシリア軍の包囲や圧力を是認することにつながると反発しているという。
また、反体制派は、開幕式でイラン政府代表団が主催者として発言を行うことに異議を唱えていたという。
これに対して、スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表が反体制派を説得し、事なきを得たという。
一方、シリア政府は、トルコ政府代表団が和平協議ではなく「反体制武装集団の保証人」として立ち居振る舞うことに警戒していたという。
なお、これに関して、これに関して『ハヤート』(1月23日付)は、反体制派筋の話として、トルコは軍幹部を代表団に加えようとしていたが、シリア政府がこれに異議を唱えたため、見送ったと伝えた。
**
開会式では、アブドラフマノフ外務大臣がナザルバエフ大統領のメッセージを読み上げ、各代表団が基調演説を行った。
このうち、シリア政府代表団の団長を務めるジャアファリー国連シリア代表は、この和平協議が、ダーイシュ(イスラーム国)、シャーム・ファトフ戦線、そしてロシア・トルコ仲介による全土停戦に応じない「テロ組織」を排除したかたちでの停戦合意の定着をめざすものだと協調する一方、現下のシリアの混乱に関して、近隣諸国からの「テロリストの群れの流入、教練、武器資金供与」の結果だと改めて非難した。
**
反体制派代表団の団長を務めるイスラーム軍のアッルーシュ氏は、シリア全土における停戦と、国連安保理決議第2254号の諸規定の実施を強調するとともに「政治プロセスは、バッシャール・アサドと軍政の退陣、イランに服する民兵や外外国人勢力の排除がなければ始められない…。ヒズブッラー、クルド人の民主統一党など、イランが引き込み、政権が作り出した外国人民兵がいることで、流血が続く。これらの組織は国連がテロ組織と位置づけるダーイシュ(イスラーム国)と変わらない」と主張した。
そのうえで、アッルーシュ氏は「反体制派が権力を分有するためにアスタナに来たのではなく、シリアの治安を回復し、逮捕された男女を釈放させるためにやって来た」と述べた。
デミストゥラ特使は、2月8日にスイスで開催が予定しているジュネーブ4会議を踏まえ、「来月のジュネーブでの反体制派とシリア政府双方の代表団による直接交渉への道を拓くべきだ」と強調した。
**
ジャアファリー国連代表は開幕式後の記者会見で、この和平協議が、シリア紛争の政治的解決に向けた重要な出来事と位置づけ、デミストゥラ特使に同調する一方、「テロ組織の代表団は、彼らを雇っているトルコなどの指示を受け、交渉を破壊しようとしている」と反論した。
ジャアファリー氏は「テロ集団の代表団による挑発的な発言は、皆にとっては驚きだった。またこの代表団は停戦合意を理解していないことを露呈した…。アッルーシュ氏の発言は外交儀礼に反しており、会議の主題とは無関係で、この会議の重要性や会議の保証国による取り組みのすべてに対する侮辱だ」と付言した。
**
なお、『ハヤート』(1月24日付)によると、シリア国内での停戦監視の仕組みの構築とその完全実施、軍事的解決の拒否などが盛り込まれているが、イランは「移行期間」という文言を入れることに反対し、ロシア、トルコと対立しているという。
一方、アッルーシュ氏は、ツイッター(1月23日付)で、アスタナ会議では「いかなる閉幕声明を採択為れないだろう。リークされた文言は正しくない。我々はそうしたテキストは目にしていない」と綴った。
AFP, January 23, 2017、AP, January 23, 2017、ARA News, January 23, 2017、Champress, January 23, 2017、al-Hayat, January 23, 2017、January 24, 2017、Iraqi News, January 23, 2017、Kull-na Shuraka’, January 22, 2017、January 23, 2017、al-Mada Press, January 23, 2017、Naharnet, January 23, 2017、NNA, January 23, 2017、Reuters, January 23, 2017、SANA, January 23, 2017、UPI, January 23, 2017などをもとに作成。
(C)青山弘之 All rights reserved.