2012年6月10日のシリア情勢

ヒムス県の空軍大隊での離反

ヒムス県では、『ハヤート』(6月11日付)などによると、ラスタン市近郊のガントゥー市に駐留する防空大隊内で「大規模な離反」が発生し、反体制武装集団が同大隊本部を占拠、軍・治安部隊が奪還のため、ヘリコプターなどを投入し、激しい攻撃を加えた。

しかし各紙が大々的に報じた離反は、その後の情報からきわめて小規模だったことが明らかとなった。

シリア革命総合委員会は、「アブドゥッラー大尉」からの情報として、離反者が出たのは、ガントゥー市に駐留する第26防空師団第72旅団第743大隊(ミサイル大隊)で、士官10人、兵士130人のうち、自由シリア軍に合流したのは、士官2人と兵士8人だけだったことを明らかにした。

同大佐によると、離反は、ヒムス県の自由シリア軍と同大隊司令部の連携のもと早朝に行われ、離反に先立って、自由シリア軍の兵士がガントゥー市周辺に展開していた。

部隊から離反したのは35人で、離反後、指揮官は兵士に帰宅か反体制運動への参加を選ばせ、士官3人と兵士22人が帰宅し、士官2人と兵士8人が自由シリア軍に合流した、という。

同部隊はSAM-6、SAM-7といった対空ミサイルを装備しており、自由シリア軍はこれらの兵器を入手したものと思われる。

なおこの離反に関して、SANA(6月10日付)は、ガントゥー地方で軍部隊の本部が武装テロ集団の襲撃を受け、武器・装備が盗まれた、と報じた。

その他の国内の暴力

ラタキア県では、シリア人権監視団や地元調整諸委員会によると、反体制武装集団の戦闘員「数百人」が集結するハッファ地方に対して、軍が砲撃を継続した。

シリア・アラブ・テレビ(6月10日付)は、ハッファ地方の武装テロ集団が「人質と捕虜を殺せ」と会話する電話の音声を放映した。

電話はトルコの携帯電話から通話する人物とガイス・ムハンマド・サーディク・クッリーヤ容疑者との間で行われた会話だという。

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ヒムス県では、ラスタン市郊外のほかにも、ヒムス市、クサイル市、タルビーサ市でも軍・治安部隊と反体制武装制勢力が交戦し、シリア人権監視団によると、複数の活動家によると、ヒムス市ハーリディーヤ地区で13人、クサイル市で3人、タルビーサ市で6人が死亡した。

一方、SANA(6月10日付)によると、ヒムス市にあるヒムス国立病院の変電施設が武装テロ集団によって破壊された。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、タイバ町で早朝、軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦し、前者の兵士2人が死亡した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、ハイヤーン町が軍・治安部隊の砲撃に曝された。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、カフルルーマー村で市民1人が射殺された。

またマアッラト・ニウマーン市で犠牲者9人の葬儀が行われ、数千人の市民が参列した。

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クウェートの日刊紙『カバス』(6月10日付)は、クウェート人数十人が自由シリア軍に参加し、「ジハード」を行っている、と報じた。

同紙は、戦闘員の親族の証言をもとに、彼らがトルコ国境を経由しシリアに潜入し、シリア政府に対するジハードを行っており、サウジ人、アルジェリア人、パキスタン人戦闘員なども多数いる、という。

国内の主な動き

『アクス・サイル』(6月10日付)は、クルド民族主義勢力指導部筋の話として、リヤード・ヒジャーブ首相がクルド人を2人入閣させない場合、クルド民族主義勢力が内閣を「挙国一致内閣」と認めないとの姿勢をとり、クルド人閣僚の入閣を迫っている、と報じた。

SANA, June 10, 2012

SANA, June 10, 2012

一方、『クッルナー・シュラカー』(6月10日付)によると、ヒジャーブ首相は、インターネット・サイトを通じて声明を出し、マーヒル・アサド大佐の義理の弟だとの噂を否定した。

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アサド大統領は専門職業協会総連合執行委員会メンバーと会談した。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会がイスタンブールで事務局(33人)会合を開き、アブドゥルバースィト・スィーダー氏をブルハーン・ガルユーン氏の後任の事務局長に全会一致で選出した。

スィーダー氏は、1956年、ハサカ県アームーダー市生まれのクルド人。「融和的」、「公正」、「無所属」と目されているが、20年以上(1994年~)もスウェーデンで暮らしており、シリア国内との関係は希薄。

また在欧渉外調整局長のムンズィル・マーフース氏によると、「政治的経験がないが…すべての人に受け入れられた」。

なおシリア国民評議会を実質的に指導するシリア・ムスリム同胞団はガルユーン氏の再選を最後まで支持していた、とされる。

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シリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長は記者会見を開き、シリアの未来像に関して、「多元的、民主的、市民」国家になるだろうとしたうえで、「アラウィー派やキリスト教徒など…すべての人々が安心でき…、宗教、宗派、民族、人種、思想などによる差別はなくなるだろう」と述べた。

al-Hayat, June 11, 2012

al-Hayat, June 11, 2012

また「革命」に関しては、国内の文民、軍人に対して離反を呼びかけるとともに、すべての国々、すべての諸国民、とりわけ、湾岸諸国、トルコ、EU、さらに国連、アラブ連盟、アナン特使に…国連憲章第7章に基づき、民間人保護、強権的殺戮の停止」を呼びかけた。

外国の軍事介入に関しては、「我々は戦争や外国の介入を主唱していない。政府が国をこのような方向に押しやり、祖国と国見を不正に満ちた戦争に駆り立てようとしている…。我々は平和的であると宣言している」と述べた。

イランに対しては、「シリアの現実を承認し、シリア国民の意思を尊重」するよう呼びかけた。

対立を続ける反体制組織に対しては、「最大レベルの協力と調整を通じて、革命と国民に奉仕するよう」呼びかけるとともに、「シリア国民評議会への参加を望む勢力と連絡をとる準備がある」と述べ、対立を続ける組織との連携に消極的な姿勢を示した。

アサド政権に関しては、「我々はデリケートな段階にいる。体制は最終段階に入った」と述べ、崩壊寸前との見方を示した。

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シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン前事務局長はイスタンブールでの事務局長選挙の合間に、記者会見を開き、ロシアが提唱する関係国による国際会議に関して、「我々はすべての国が国際会議に参加することを支持するが、参加国はシリア国民の自由権を承認することが前提となる…。あの政府の犯罪を依然として支持する国に参加する術があるとは思わない」と述べ、イランの参加に異議を唱えた。

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AFP(6月11日付)によると、トルコを拠点とする自由シリア軍は声明を出し、国民に対してゼネストと市民非服従を呼びかけるとともに、軍兵士に対して反体制武装集団に参加するよう呼びかけた。

トルコの自由シリア軍は、国内で反対武装闘争を行う自由シリア軍国内合同司令部から「自由シリア軍」を名のらないよう警告を受けている。

レバノンの動き

北部県アッカール郡ワーディー・ハーリド地方住民らは、住民のスライマーン・アフマド氏が誘拐されシリア領内に連れ去れたことに抗議し、シリア人を含む7人を「報復」として拘束するとともに、トリポリ市に至る街道を閉鎖し、解放を求めた。

ワーディー・ハーリド地方住民はヒクマト・ユースフ氏以外の人質をまもなく釈放した。

諸外国の動き

イギリスのウィリアム・ヘイグ外務大臣はスカイ・ニュース(6月10日付)に対して、「1990年代のボスニア情勢により似ている。なぜなら…シリアは宗派主義内戦の縁にあるからだ」と警鐘をならした。

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イスラエルのシモン・ペレス大統領は、シリアでの虐殺に対する国際社会の「無力」を批判し、直ちに軍事介入するよう呼びかけた。

またベンヤミン・ネタニヤフ首相は、シリアでの「虐殺」に関して、イランとヒズブッラーが支援していると断じた。

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フランス警察筋によると、パリにあるシリア大使館に侵入しようとしたデモ参加者18人が逮捕された。

デモ参加者は約40人に及び、「最近の虐殺に抗議するため、大使館の占拠」を試み、3人が侵入に成功した、という。

AFP, June 10, 2012、Akhbar al-Sharq, June 10, 2012、ʻAks al-Sayr, June 10, 2012、al-Hayat, June 10, 2012、June 11, 2012、Kull-na Shurakāʼ, June 10, 2012、Naharnet.com, June 10, 2012、al-Qabas, June 10, 2012、Reuters, June 10, 2012、SANA, June 10, 2012などをもとに作成。

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