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コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使のシリア訪問
コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使がダマスカスを訪問し、ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣と会談した。
SANA(5月28日付)によると、ムアッリム外務在外居住者大臣は会談で、「シリアで起きている事の実情と、国内の混乱を助長するためにさまざまな手段を通じて同国が標的となっている実態」を伝えるとともに、「さまざまな分野で政府が推進する改革諸政策」を説明した。
そのうえで、武装テロ集団への資金、武器などの供与を通じて、アナン特使の停戦案を失敗させようとする他の当事者とその支援国と対峙する努力を継続するよう呼びかけた。
一方、アナン特使は、シリア政府と引き続き協調する意思を示すとともに、6項目停戦案、具体的にはジャーナリストの自由な移動、赤十字国際委員会やシリア・アラブ赤新月社による人道支援などを円滑に履行するためのさらなる協力を求めた、という。
なお『ハヤート』(5月29日付)は、アラブ連盟のナースィル・カドワ副特使のアナン特使への随行がシリア政府によって拒否されたことに関して、複数の消息筋の話をもとに、「シリア政府は徐々に、国連の意向に沿うかたちで、アナン特使のミッションにおけるアラブ連盟の役割を弱めている」と伝えた。
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コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使は、ハウラでの虐殺に関して、「悲惨で恐るべき」虐殺と述べ、自身が受けた衝撃を露わにし、6項目停戦案が「実施されていない」と非難した。
またアサド政権に対して、「危機を平和的に解決する意思を示すための協力な措置の実施」を求める一方、「すべての当事者に信頼ある政治プロセスに至るに相応しい状況を作り出すための支援」を呼びかけた。
アサド政権の動き
SANA(5月28日付)は、シリアの外務在外居住者省が国連安保理、総会、人権理事会に宛て、ハウラでの虐殺など一連の虐殺が武装テロ集団によるもので、「いかなる戦車も(ハウラ地方に)入っておらず…シリア軍は最大限の自制と最適な対応を通じて自衛を行っていた」とする書簡を提出したと報じた。
国内の暴力
ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ヤブルード市で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦し、前者の兵士8人と後者の戦闘員2人が死亡した。
またサイイダ・ザイナブ町では爆弾が爆発し、治安維持部隊兵士4人が負傷した。
一方、SANA(5月28日付)によると、ムライハ地方で治安維持部隊を標的とした爆弾攻撃が発生し、兵士4人が死亡した。
またムニーン町で治安維持部隊と武装テロ集団が交戦し、前者の兵士7人が死亡した。
しかし『クッルナー・シュラカー』(5月28日付)はムニーン町での戦闘に関して、軍・治安部隊兵士39人、自由シリア軍兵士1人が死亡したと報じた。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、カフル・ナースィジュ村、タファス市、インヒル市、アトマーン村、ダーイル町などで軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦し、タファス市で1人が死亡した。
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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、サラーキブ市で新政権の武装集団が離反兵1人を射殺した。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハマー市のファーリヤ地区で治安部隊が14歳の青年を射殺した。
一方、SANA(5月28日付)によると、ハマー市のマルアブ地区南部で武装テロ集団が発砲、市民3人が死亡した。
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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市のハーリディーヤ地区で治安部隊が市民1人を射殺した。
また『ザマーン・ワスル』(5月28日付)によると、反体制ストリーミング・テレビのシャーム・ニュース・ネットワークのスタッフ3人がヒムス市で治安部隊の要撃を受け、殺害された。
殺害されたのは、ヒムス支局長のアンマール・ムハンマド・スハイル・ザーダ氏、同支局配信局長のルーラーンス・ファフミー・ヌアイミー氏、同支局特派員のアフマド・アシュラク氏。
一方、SANA(5月28日付)によると、ヒムス市の複数地区で武装テロ集団が発砲、市民3人が死亡した。
地元調整諸委員会などは、反体制活動家で映画監督のバースィル・シハーダ氏がヒムス市で殺害されたと発表した。
シハーダ氏は米国から3ヵ月前に帰国していたという。
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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市の空港に向かう街道に仕掛けられた爆弾が爆発し、軍の士官3人が死亡、兵士19人が負傷した。
国内でのその他の動き
反体制活動家によると、ダマスカス県旧市街の商店の約8割がハウラでの虐殺に抗議するためにストライキを行ったとし、ユーチューブなどに映像をアップした。
ストライキが行われたとされるのは、ダマスカス県旧市街(ハミーディーヤ、ハリーカなど)、ハルブーニー地区、カーブーン区、カダム区、バルザ区、マイダーン地区、タダームン区など、ダマスカス郊外県のハジャル・アスワド市、サイイダ・ザイナブ町、タッル市など、アレッポ県バーブ市、ダルアー県ダルアー市、ハマー県ハマー市、ラッカ県タブカ市など。
一方、SANA(5月28日付)は、ダマスカス旧市街の通常通りの賑わいだったと報じ、写真を公開した。
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Syria News(5月28日付)は、国民青年公正成長党のバロウィーン・イブラーヒーム書記長はダマスカスで記者会見を開き、第10期人民議会選挙のハサカ県選挙区での投票に関して、不正があったことを示す約50,000部の文書を最高憲法裁判所に提出し、選挙の無効を訴えると発表した。
イブラーヒーム書記長によると、ハサカ県選挙区で投票された投票用紙には、アブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領、シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長、同評議会のジョルジュ・サブラー広報局長、作家のジュブラーン・ハリール・ジュブラーンなど、立候補者以外の氏名が書かれたものが多数あったという。
反体制勢力の動き
シリア国民評議会は声明を出し、国連安保理での報道機関向け声明を「主要且つ緊急の義務を実行しようとしない恥ずべき怠慢と弱さ」と非難し、「シリア国民のすべての友そして兄弟」に対して、シリア国民の「自衛に必要な諸手段を直ちに増援」するよう呼びかけた
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シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、国連安保理での報道機関向けの声明に関して、「国連憲章第7章に依拠した安保理声明や、シリアの民間人保護に対して安保理が責任を負うような立場をとらず…意味のない声明を採択することで満足している…国際法は地に墜ちた」と非難した。
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クルド青年調整連合、シリア・クルド国民評議会調整、シリア・クルド・ムスタクバル潮流などクルド民族主義組織10団体が共同声明を出し、29日にカーミシュリー市でアサド政権の虐殺に抗議するデモを行うと発表、住民に参加を呼びかけた。
レバノンをめぐる動き
シリア自由人党のイブラーヒーム・ズウビー書記長は声明を出し、アレッポで誘拐されたレバノン人11人を釈放するための仲介を断念したと発表した。
ズウビー書記長は仲介を断念した理由として、レバノン内閣のプロ意識を欠いた事件への対応をあげている。
また声明では、ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長の演説により、レバノンの大統領、首相、国民議会議長が釈放に向けた努力を本格化させたと指摘する一方、女性・老人が釈放されたことに関して、アサド大統領に謝意を示した。
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『アフバール』(5月28日付)は、ムスタクバル潮流のサアド・ハリーリー前首相が、アレッポで誘拐されたレバノン人11人(シーア派)解放のため、身代金を支払うとの提案をトルコ当局に対して行ったと報じた。
また同紙は、ハリーリー前首相がシリアでの「革命」への支援を停止すると述べた、と伝えた。
諸外国の動き
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣はモスクワで英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣と会談した。
会談後の記者会見で、ヘイグ外務大臣は、シリアにとっての選択肢は「アナン特使の停戦案の実行か、混乱増大、大規模な内戦、そして爆発しかない」と脅迫した。
そのうえでラブロフ外務大臣に、アサド政権に圧力をかけ、停戦案を実行させるよう呼びかけた。
これに対して、ラブロフ外務大臣は、シリア政府と反体制勢力の「両当事者が虐殺に手を下していることが明らかな状況にある」と述べたうえで、「我々はシリア政府を支援しているのではなく、アナン停戦案を支援している」と強調した。
そのうえで、「外国のプレーヤーは体制打倒ではなく、アナン特使の和平案を実現させるような方法をとるべきだ」と述べ、西側諸国にシリアの政権打倒に力点を置くことを止めるよう求めた。
また「我々はシリア政府にほぼ毎日圧力をかけている。また同時に、多くの反体制勢力とも接触している…。しかし一部の外国のプレーヤーは我々が言っていることとは違うことを反体制勢力に言っている…。我々は、武装反体制勢力、とりわけ一部の過激派が、停戦しないようにとの指図を受けていることを知っている」と述べ、停戦に向けて努力していることを強調した。
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フランス大統領府によると、フランスのフランソワ・オランド大統領が英国のデヴィッド・キャメロン首相と電話会談を行い、国際社会がアサド政権に体してさらなる圧力をかける必要があることで一致した。
会談後、大統領府は声明を出し、ハウラでの虐殺に関して、「ダマスカス政府の殺人的狂気が地域の安全を脅かしており、彼らの行為に対する責任ある処罰は不可欠だ」と強く非難した。
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中国外交部報道官は、ハウラでの虐殺を「激しく非難する」と非難し、真相究明のための「即時調査」を呼びかけた。
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イラン外務省報道官は、ハウラでの虐殺を「忌まわしい行為」と非難し、「外国の干渉とテロ行為の運命は挫折だ」と付言した。
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イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハウラでの虐殺に「嫌悪感」を感じると述べ、イランとヒズブッラーが関与している可能性があると断じた。
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英国のニック・クレッグ副首相はBBC(5月27日付)に対して、ロンドン・オリンピックへのシリアの代表選手の参加を認めないことを決定したと語った。
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米国のマーチン・デンプシー陸軍参謀長はCBS(5月28日付)で、ハウラでの虐殺に関連して、非軍事的な手段を通じてアサド政権に圧力をかけるよう呼びかけた。
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サウジアラビア内閣は、ハウラでの虐殺を強くに何紙、国際社会がシリアでの流血停止のための責任を負うべきだとの立場を表明した。
AFP, May 28, 2012、al-Akhbar, May 28, 2012、Akhbar al-Sharq, May 28, 2012, May 29, 2012、al-Hayat, May 29, 2012, May 30, 2012、Kull-na Shuraka’, May 28, 2012, May 29, 2012、Naharnet.com,
May 28, 2012、Reuters, May 28, 2012、SANA, May 28, 2012、Syria News, May 28,
2012、UPI, May 28, 2012、Zaman al-Wasl, May 28, 2012などをもとに作成。
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