シリア政府がハウラでの「虐殺」への関与を否定する一方、国連安保理では米仏の主導により同政府による「国連安保理決議第2042号、第2043号への違反」を非難する議長声明案の採択が目指される(2012年5月27日)

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ハウラでの「虐殺」をめぐる動き

シリアのジハード・マクディスィー外務在外居住者省報道官は記者会見を開き、ハウラでの「虐殺」へのシリア政府の関与を否定するとともに、司法軍事調査委員会を設置し、3日以内の調査結果を報告すると発表した。

SANA, May 26, 2012

SANA, May 26, 2012

ハウラでの「虐殺」の詳細について、マクディスィー報道官は、「ハウラに(軍の)いかなる迫撃砲、戦車も入っていなかった…。武装集団数百人が金曜日に(同地方に)集結し、重火器で武装した車輌を用いた」としたうえで、「武装集団は、軍が5カ所しか警備しておらず、軍には虐殺など到底できないこの地方に進入した」と述べた。

そのうえ「治安維持部隊が持ち場を離れず自衛を続けた」と付言、シリア政府が「虐殺」に際して民間人を保護していたと強調した。

また「虐殺」がアナン特使のシリア訪問に合わせて実行されたとし、それが国内での政治プロセスを反故することが狙いだとの見方を示すとともに、「野蛮な殺害方法はシリア軍によるものでない。殺戮を行ったのは正規軍ではなく、武装テロ集団だ」と主張し、「アナン特使の停戦案に武装テロ集団が3,500回以上違反している」と非難した。

さらに、ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣がアナン特使にこの事件の詳細や現在行われている調査について伝えたと付言した。

一方、国連の潘基文事務総長が25日に提出した国連安保理決議第2043号の実施状況に関する報告書に関しては、「反体制武装組織という名前が見あたらない」と非難した。

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その後、国連安保理緊急会合が開かれ、ハウラでの虐殺を非難する報道機関向けの声明を採択した。

声明では、ハウラでの大量殺害に関して、政府による一連の迫撃砲や戦車での住宅地への攻撃によって女性、子供を含む多数が死傷したことへの非難の意を示す一方、市民が近距離からの発砲や暴行によって殺害されたと指摘、合わせて非難した。

また民間人への武力の行使を国際法および国連安保理決議2043号、2043号への違反と糾弾し、シリア政府に対して人口密集地区からの撤退と重火器の使用停止を求めた。

緊急会合には、ロバート・ムードUNSMIS司令官も現地からテレビ回線を通じて参加し、虐殺についての報告を行い、「殺害が砲撃ではなく近距離からの発砲によるものだ」と述べた。

これを受け、ロシアのアレクサンドル・パンキン常駐国連第一副代表は「殺戮はシリア政府が制圧していない地域で発生した」としたうえで、「シリアには、武装集団、ないしは外国の介入を望む第三者が存在している」と指摘し、UNSMISは軍が殺戮行為を行ったとの証拠を持っていないと述べた。

これに対して、英国のマーク・ライアル・グラント国連大使は、虐殺の責任のすべてはシリア政府にあると主張し、「ハウラで戦車がなかったと言う者は嘘つきだ」と反論、UNSMISが「現場で迫撃砲や戦車の砲撃の跡を発見した。政府が民間人に砲撃したことは疑う余地がない」と述べた。

一方、国連の潘基文事務総長は、26日にUNSMISがタッルドゥー市を訪問した際に、「住宅地区で迫撃砲と戦車による死者を目撃した」としたうえで、「同市はシリア政府の支配を受けていなかったが、重火器によって包囲されていた」と述べた。

また監視団が一方で「銃弾や迫撃砲弾による死傷者、戦車の攻撃の痕跡、重火器で破壊された多数の建物」を目撃し、他方で「至近距離から銃殺されていた」ことを同時に確認した、と述べた。

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反体制系の『クッルナー・シュラカー』(5月27日付)はハウラでの「虐殺」の被害者全員の氏名と死因を発表した。

犠牲者のほとんどの死因は「銃剣での刺殺、ナイフでの斬殺、ないしは銃殺」とされており、「砲撃」での死者は4人だった。

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国連安保理では、ハウラでの「虐殺」を受け、英仏が「シリア軍の住宅地に対する激しい砲撃」とシリア政府による「国連安保理決議第2042号、第2043号への違反」を非難する議長声明案が示され、採択が目指された。

しかし、ロシアは「虐殺への態度を決する前に、ロバート・ムードUNSMIS司令官による報告を受けるための緊急安保理会合の開催を呼びかけ、議長声明採択を猶予すべきだとの立場をとり、この動きを封じた。

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ロシア外務省のゲンナージー・ガティロフ外務次官はツイッターで、ハウラでの「虐殺」の「犠牲者の多くの傷跡はそれが砲撃によるものでないことを示しており、UNSMISの客観的な評価を待つ必要がある」とつぶやいた。

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ヒラリー・クリントン米国務長官は、ハウラでの「虐殺」を「残虐行為」と非難し、同盟国とともにアサド大統領とその支援者への圧力を強化すると述べた。

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キャサリン・アシュトン外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は声明を出し、ハウラでの「虐殺」をシリア「政府が行った恥ずべき行為」と非難し、アサド政権に対して、アナン特使の停戦案の遵守を求めた。

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アラブ連盟の高官筋によると、シャイフ・アブドゥッラー・ビン・ザーイド外務大臣が、ハウラでの「虐殺」への対応を協議するため緊急会合を5月26日にカタールの首都ドーハで開催するよう求めた。

これを受け、ナビール・アラビー事務総長は、連盟の今期議長国のクウェートなどと、外相級会合の調整に入った。

国内の暴力

イドリブ県では、SANA(5月27日付)によると、ハーン・シャイフーン市で武装テロ集団との交戦で治安維持部隊兵士2人が死亡した。

またジスル・シュグール市では軍の大尉が武装テロ集団が仕掛けた爆弾の爆発により死亡した。

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スワイダー県では、『クッルナー・シュラカー』(5月27日付)によると、ダルアー・スワイダー街道で警察官12人が乗ったバスが誘拐された。

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ダマスカス県では、『クッルナー・シュラカー』(5月27日付)によると、ジスル・アブヤド地区にある総合情報部内務課施設の近くで活動家数十人がデモ弾圧に抗議する座り込みを行ったが、逮捕された。

シリア・クルド青年調整連合によると、カダム区でデモに参加していたファドワー・ハーリド・ジュムア女史が射殺された。

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シリア人権監視団によると、シリア各地で軍・治安部隊と離反兵の衝突や、治安部隊による弾圧で23人(うち民間人14人)が死亡した。

アサド政権の動き

アラブ連盟消息筋によると、シリア政府は28日にダマスカス訪問予定のアナン特使に、アラブ連盟のナースィル・カドゥワ副特使が同行することを拒否した。

国内でのその他の動き

SANA(5月27日付)によると、ダマスカス県のヒジャーズ駅前で、「我々はテロに抵抗し、立ち向かう」と題した集会が開催され、多数の市民が参加した。

集会にはレバノン人も多数参加したという。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長は、トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣らトルコ高官との会談後にイスタンブールで記者会見を開き、国連憲章第7章に依拠した国際社会の措置が実現しない場合、自力で「解放戦争を行う」ようシリア国民に呼びかけた。

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シリア国家建設潮流は声明を出し、現下の混乱のすべての責任はアサド政権にあると非難し、退陣を求めた。

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サウジアラビアのジェッダを訪問中のハイサム・マーリフ弁護士(シリア国民行動戦線代表)は、アースィフ・シャウカト副参謀長(中将)、妻でアサド大統領の姉のブシュラー・アサド氏、バアス党シリア地域指導部のヒシャーム・ビフティヤール民族治安局長が自由シリア軍によって先週暗殺されたと発表した。

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ロンドンで活動する反体制組織のシリア人権監視団は声明を出し、2011年3月以来のシリアでの死者数が13,000人以上に達したと発表した。

同声明によると、死者の内訳は民間人9,183人、軍・治安部隊兵士3,072人、離反兵794人。

また4月12日にアナン特使の停戦案が発効して以降の死者数は1,881人で、うち1,260人が民間人だという。

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『クッルナー・シュラカー』(5月28日付)は、自由シリア軍国内合同司令部が、アナン特使が派遣した使節団と会談したと報じた。

Kull-na Shurakā’, May 28, 2012

Kull-na Shuraka’, May 28, 2012

会談は1時間半にわたって行われ、自由シリア軍の立場やシリアの現状に関して意見交換したという。

レバノンの動き

アレッポで誘拐され、釈放のための交渉が行われているレバノン人11人に関して、人質解放を仲介した離反兵のフサームッディーン・アウワーク准将は、LBC(5月27日付)に対して、人質のうち5人はヒズブッラーのメンバーだったと述べた。

アウワーク准将によると、バスは、乗客が「疑わしい双眼鏡を所持していたため」、自由シリア軍の基地の近くで捕捉された。

同准将によると、自由シリア軍司令官のリヤード・アスアド大佐は、事件とは無関係で、人質は尋問が終わったことを受け釈放される、としたうえで、レバノンの複数の当事者にいくつかの要求を行っており、交渉は依然として継続中だという。

また、誘拐されたヒズブッラーのメンバー5人のなかには、「爆発物機関次長」でハサン・ナスルッラー書記長のいとことされるフサイン・ハンムードなる人物がいたというが、ハンムード氏の兄弟はジャディード(5月27日付)に対して、同氏とヒズブッラーの関係を否定している。

ヒズブッラーも人質のなかにナスルッラー書記長の親族がいるとの一部報道を否定している。

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ナハールネット(5月27日付)によると、IHROのアリー・アクル・ハリール大使は、解放党を名のる反体制組織のイブラーヒーム・ズウビー書記長と接触し、人質の無事を確認したことを明らかにした。

ズウビー書記長は26日に人質解放の仲介を中断すると発表していたが、ハリール大使は同書記長が誘拐犯と接触を再会し、人質はシリア・トルコ国境にいる、ことを明らかにした。

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シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長はLBC(5月27日付)に対して、アレッポで誘拐されたレバノン人11人の行方に関する情報を持っていないと語った。

しかしLBCの特派員は、トルコ高官筋がガルユーン事務局長に人質解放の交渉が行われていることを伝えたと報じた。

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NNA(5月27日付)は、ベカーア県ラーシャイヤー郡のカフルクーク市郊外で、シリア軍がレバノン人3人に向けて発砲、1人を殺害、1人を逮捕した、と報じた。

3人はシリアにタバコを密輸しようとしていた、という。

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ナジーブ・ミーカーティー首相は、ハウラでの「虐殺」を非難し、国際社会およびアラブ諸国に対して、シリアでの紛争と流血停止のために努力するよう呼びかけた。

諸外国の動き

『ニューヨーク・タイムズ』(5月27日付)は、バラク・オバマ米大統領が近くロシアのウラジーミル・プーチン大統領に、「イエメン・シナリオ」に沿ったシリアの危機打開を求める、と報じた。

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「アフバール・シャルク」(5月27日付)は、イラン・イスラーム革命防衛隊クドゥス軍団の副司令官イスマーイール・カーアーニー少将が、シリアの反体制抗議運動弾圧のために同軍団が参加したとの発言を、ISNA(5月27日付)が掲載したと報じた。

しかし同報道によると、この記事はISNAのホームページからすぐさま削除された、という。

AFP, May 27, 2012、Akhbar al-Sharq, May 27, 2012、al-Hayat, May 28, 2012, May 29, 2012、Kull-na Shuraka’, May 27, 2012、LBC, May 27,
2012、Naharnet.com, May 27, 2012、The New York Times, May 27, 2012、NNA, May 27, 2012、Reuters, May 27, 2012、SANA, May 27, 2012などをもとに作成。

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