カタール首相兼外相が国連事務総長と会談し事態を国際問題化させる意思があることを暗示するなか、自由シリア軍司令官も「国連への問題の付託を支持」(2012年1月5日)

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アラブ連盟の動き

カタールのハマド・ブン・ジャースィム首相兼外務大臣はニューヨークで国連の潘基文事務総長と会談した。

クウェート通信(1月5日付)によると、ハマド首相は、アラブ連盟監視団が経験不足ゆえに「いくつかの失敗」を犯したと断じたうえで、「すべての側面から評価したうえで、監視団の活動継続の可能性の是非やその方法などを連盟が決するだろう」と述べた。

また「我々は国連事務総長とその問題(シリア情勢)について議論した。我々は、技術支援を得て、国連が持つ経験に依拠すべくここにやってきた」と付言し、「我々は常にアラブ連盟においてこの危機を解決しようとしてきた。しかしそれはシリア政府次第である」と述べ、事態を国際問題化させる意思があることを暗示した。

カタールおよびジャズィーラ・テレビは、アサド政権から反体制運動を煽動し、問題の国際問題化を通じて地域全体の不安定化を助長する急先鋒と目されている。

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アラブ連盟監視団のアドナーン・ハディール作業部長は、カイロの連盟本部で1月6日にダマスカスに向かう予定の監視員らと会談した。

ハディール作業部長は会談に合わせて声明を出し、監視団の活動が完了するまでに少なくとも1ヵ月はかかるとしたうえで、「現時点で監視団の任務の成否を誰も断言できない」と述べ、シリアの反体制勢力やカタールなどの姿勢を牽制した。

また第2人の監視員に関して、その人数が140人にのぼり、うち1月6日に派遣されるのが、アルジェリア人、クウェート人、サウジ人、エジプト人、イラク人など約50人であると明らかにした。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長はジェフリー・フェルトマン米国務次官補と会談した。

フェルトマン米国務次官補はシリア情勢に関して、国連安保理が本件に関心を示しており、1月8日に予定されているアラブ連盟閣僚委員会での監視団の報告を待っている、と述べた。

アサド政権の動き

SANA, January 5, 2012

SANA, January 5, 2012

『ワタン』(1月5日付)は、シリア・アラブ共和国憲法草案準備委員会のメンバーで反体制組織の人民変革解放人民戦線議長のカドリー・ジャミール氏が、現在改正案が審議されている新憲法において、これまでバアス党シリア地域指導部書記長の信任投票によって選ばれてきた大統領が「複数候補の選挙」を通じて選ばれることになるだろうと述べた、と報じた。

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SANA(1月5日付)は、シリア司法当局が「最近の事件に関与したが、その手を血で染めていない」逮捕者552人を釈放したと報じた。

この措置は12月30日の912人の釈放に続くもの。

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『クドス・アラビー』(1月5日付)は、アサド大統領が1月2日に政令を出し、バアス党員および人民諸組織メンバー約2,500人を省庁機関職員へと異動したと報じた。

同紙によると、『バアス』紙を発行するバアス機構の職員約400人が情報省の外郭団体などに異動となったほか、人民諸組織の職員約2,000人が国家機関に転属となった、という。

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SANA(1月5日付)によると、ダマスカス県サブウ・バフラート広場、ラタキア県ラタキア市で国民統合、外国の干渉拒否を訴える大規模集会が開催され、多数の市民が参加した。

SANA, January 5, 2012

SANA, January 5, 2012

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トルコの至福党使節団がダマスカスを訪問し、ナジャーフ・アッタール副大統領、ワリード・ムアッリム外務大臣らと会談した。

SANA(1月5日付)によると、使節団団長を務めるムスタファ・カマラク党首がシリア情勢への内政干渉拒否を支持する姿勢を示したのに対し、アッタール副大統領は「シリア国民とトルコ国民の繁栄を望む者が殺人集団をかくまったりはしない」と応え、自由シリア軍などに潜伏先を提供しているAKP政権を暗に批判した。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長はBBC(1月5日付)に対して、アラブ連盟監視団が提出する報告書が「悪しきもので、民間人に対して政府が行っていることに対する反体制勢力のイメージを表していないなら、彼らの即時撤退を要求し…、シリアの危機解決をめぐるアラブ連盟の任務が失敗に終わった場合、安保理に向かう」と述べた。

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自由シリア軍のリヤード・アスアド司令官はAFP(1月5日付)に対して、「我々はアラブ連盟が脇に退き、国連に責任を委ねることを望んでいる。なぜなら、国連の方が事態解決の能力があるからだ。我々は国連への問題の付託を支持する」と述べた。

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民主変革諸勢力国民調整委員会在外事務局のハイサム・マンナーア代表はベルギーの副首相兼外相と会談した。また同委員会使節団はEUの中東課長、欧州議会議長と会談した。

マンナーア代表は『ハヤート』(1月6日付)に対して、EUなどによる外国の軍事干渉を拒否するとの意思を伝えたと述べた。

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シリア・ムスリム同胞団のアリー・サドルッディーン・バヤーヌーニー前最高監督者は、アルジェリアの『ハバル』(12月5日付)で、民間人保護のため外国の介入を「道徳的、人道的問題」として支持する姿勢を示すとともに、アラブ連盟監視団の活動がシリア国内での弾圧を止めることに失敗したと断じた。

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シリア救援最高委員会が声明を出し、ヒムス県ヒムス市が「人災」に見舞われているとしたうえで、国際社会に救援のための支援を呼びかけた。

国内の暴力

SANA(1月5日付)によると、ヒムス県ヒムス市で武装テロ集団の発砲により退役大佐とその息子の中尉が襲撃され、死亡した。

またダルアー県スール村の警備隊を武装テロ集団が襲撃し、警備隊長1人が死亡、警備員6人が負傷した。

さらにダルアー県アムキーヤ村長のファウワーズ・アブドゥルフサイブ・ムスタファー村長が武装テロ集団によって暗殺された。

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シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル県(4人)などで約30人が治安部隊の弾圧によって殺害された。

また、ダルアー県のサナマイン市で大尉1人を含む兵士14人が軍を離反し、軍・治安部隊との交戦の末、「逃走に成功した」という。

さらに治安部隊がダルアー県ジャースィム市で若者らを「人間の盾」として離反兵からの攻撃をかわそうとしている、という。

諸外国の動き

ロシアのドミトリー・メドヴェージェフ大統領とイランのマフムード・アフマディーネジャード大統領が電話会談を行い、シリア情勢を含む中東地域の諸問題が関係当事者間の対話の奨励を通じた政治的手段によってのみ解決し得るとの立場で一致した、とロシア大統領府が発表した。

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フランス外務省副報道官は記者団に対して、アラブ連盟監視団の任務強化のため可能なあらゆる手段を駆使するべきだと述べた。

AFP, January 5, 2012、Akhbar al-Sharq, January 5, 2012、al-Hayat, January 6, 2012、al-Khabar, January 5, 2012、Kull-na Shuraka’, January 5, 2012、al-Quds al-‘Arabi, January 5, 2012、Reuters, January 5, 2012、SANA, January 5, 2012、al-Watan, January 5, 2012などをもとに作成。

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