アサド大統領「紛争が終わりに近づいていることは明らかだが、終わりに近づけば近づくほど、欧米諸国やテロリストの妨害は激しくなる」(2018年5月31日)

アサド大統領はロシアのRT(5月31日付)のインタビュー(インタビュアーはムラド・ガズディエヴ(Murad Gazdiev)記者)に応じた。

30分弱のインタビューは英語で行われ、その映像は大統領府がYoutube(https://www.youtube.com/watch?v=a6mg2x3aY4k)を通じて公開、英語全文とアラビア語全訳はSANA(https://sana.sy/en/?p=139186https://www.sana.sy/?p=761582)が配信した。

インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:

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「戦場での進軍が行われ、勝利し、地域が解放されるたびに、我々は紛争の終わりに近づいている。私は常に、外国の干渉がなければ、シリアの状況を収めるのに1年以上かからないと言ってきた。だが同時に、シリア軍が進軍し、政治プロセスに向かって前進しようとするたびに、米国に主導された西側、欧州や中東にいるその操り人形など、我々の敵や反対分子は、シリアにいるその傭兵とともに、テロ支援を強め、テロリストをシリアに送り込み、政治プロセスを妨害することで、それ(紛争の終わり)を遠ざけようとする。我々が挑戦しているのは、彼らの計画と我々の計画のギャップを以下に近づけるのかということだ。この点で我々は成功を収めていると考えている。だが同時に、それがいつかを言うことは誰にとっても難しい。だが、(終わりは)近づいている、それは明らかだ」。

SANA, May 31, 2018

「戦争は最悪の選択肢だ。すべてのシリア人がこの事実に同意すると思う。だが時にこの選択肢しかない場合がある。とくに、アル=カーイダ、ISIS(ダーイシュ)、ヌスラ(シャーム解放機構)などの勢力、さらにイスラーム軍、アフラール・シャーム(シャーム自由人イスラームン道)など…似たような志向を持つ勢力について言及しているときに、そのことは言える。彼らは対話の用意ができておらず、政治的な計画もない。暗黒のイデオロギーに基づく計画があるだけだ…。アル=カーイダが支配する地域で…こうした勢力に対処する唯一の選択肢は力しかない。同時に、それ以外の地域では和解に成功してきた…。最善の選択しは和解することだ。だが、それが駄目な場合、力に訴えることが唯一の方法となる」。

(歴戦のジハード主義者をイドリブ県一カ所に排除することは賢明と言えるか、との質問に対して)「我々はいつもすべての地域を解放しようとしている。だから、どの地域であっても、意図的に政府の支配の外に放置することなどできない。当然だ。周知の通り、イドリブはトルコの支援を受けたテロリストによって2015年に掌握されてしまった。ヌスラや彼らを支援する勢力によってだ。我々はそれ以前に和解(プロセス)を開始していた。だが、2015年5月以降…のすべての和解においては、武装勢力は都市であれ村であれ、退去する際に、イドリブ県に行くことを選択している。これは彼らが同じイデオロギーを共有していることを示す良い例だ。なぜなら、彼らはヌスラが支配している地域を選び、それ以外は選ばないからだ…」。

「軍事的側面に関して…、テロリストとその雇い主は、シリア軍を小さな部隊に分散させることを企図していた。それはどんな軍隊にとっても良いことではない。これに対して、我々は軍を1カ所、2カ所、ないしは3カ所に集中させることを計画してきた。10、さらには100もの戦線が同時あるより、2つ、3つ、ないしは4つしか戦線がないようがましからだ」。

(米国、ロシアなどの外国で、イスラーム教スンナ派の人々が、政権がスンナ派を弾圧していると考えるのはなぜか、との問いに対して)「主に西側、さらにはシリア国内、そして中東や西側の一部主要メディアでこの問題が語られ始めた当初から…、彼らは(シリアの)社会内に亀裂を作り出そうとしていたからだ…。世界各地の一部の狂信者たちは…宗派間の紛争だとイメージしている…。彼らの狭量なものの考え方、そしておそらくは無知ゆえに、彼らは自分達の「兄弟」を支援しようとしてここ(過激派が支配するイドリブ県などの地域)にやって来たのだ…。もしこのような解説が現実を言い当てていたなら、すなわちある宗派が別の宗派を殺戮していたのなら、シリアは宗派に沿って分割されるべきだろう…。だが、現実はそうではない。ダマスカスでも、アレッポでも、ヒムスでも、シリア政府が支配するどの地域でも、シリア社会を構成するすべての要素(宗派)を例外なく目にするだろう。この現実こそが、この手の解説のウソを暴くことになる。政府が宗派の違いに基づいて殺戮しているなかで、人々はどのように共存できたというのか?」。

(軍事的に勝利したにもかかわらず、なぜ敗北を喫した反体制派と交渉しないのか、との問いに対して)「政府と戦ってきたすべての者が同じ理由でそうしてきたのではない。イデオロギー的なバックグランドに基づいていた者もいれば、財政的なバックグランドに依っていた者もいた。最初の段階に過ちを犯してしまったため、後ずさりできず、その後も同じ方向に進まざるを得ない者もいた。だから門戸を開いて、こうした者たちを峻別する必要があるのだ。さらに、より重要なこととして、政府に(表向き)反対していた大多数の人々は…、心のなかでは政府と共にあった。なぜなら、彼らは政府があることと、混乱(無政府)に陥ることの違いについて語ることができたからだ」。

「アレッポ県、その後はダイル・ザウル県、そしてそれ以前ではヒムス県、そして今回はダマスカス郊外県。これらの地域が解放されたことで、米国は自らのカードを失っている。もっとも重要なカードはヌスラで、それを「穏健派」と呼んでいた。だが、彼らが穏健でなく、アル=カーイダだということが発覚したたため…、米国は別のカードを探した。そのカードが今は(西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)人民防衛隊(YPG)主体の)シリア民主軍なのだ…。我々が様々な地域でテロリストを打ち負かし、進軍するなか、シリアに残っている唯一の問題がシリア民主軍だからだ。この組織には二つのオプションで対処するつもりだ。第1に、交渉の門戸を開くということだ。なぜなら、シリア民主軍の大多数がシリア人で…外国の操り人形になることを望んでいないからだ。我々は…これが共通基盤だと思っている。我々はみな、数十年前から米国を信頼していないからだ」。

「それがだめなら、力による解放という手段に訴え、力によってその支配地域を解放する。米国がいようがいまいが、それ以外には選択肢はない…。そこは我々の土地であり…、解放する義務がある。また米国は去るべきなのだ。米国は何の法的根拠もなく、イラクに侵攻し、そこで何が起きたかを見てきたはずだ。米国は教訓を学び取らねばならない」。

「我々は生まれたときから…イスラエルの攻撃という脅威のなかで生きてきた。これは潜在意識のようなものだ。だから、同じ脅威のなかで暮らし続けることが怖いかという質問はナンセンスだ。イスラエルはこの地域で数十年にわたり、虐殺、殺戮、占領を続けてきたが、その際に脅迫するということはなかった。なぜ今になってこのように(政権や大統領を抹殺するなどと発言して)脅迫するようになったのか? パニックに陥っているからだ。それはある種のヒステリーなのだ。なぜなら、イスラエルは「愛しい人たち」、つまりヌスラやISISを失いつつあるからだ」。

「シリアで活動する傭兵が最初に狙ったのは防空装備だった…。なぜ彼らは防空装備を攻撃したのか? 防空装備は、彼らが言うところの「平和的なデモ参加者」や「穏健な反体制派」、さらには過激派にも対処するものではなく…、国を守るために構築されているにもかかわらずだ。このことは、イスラエルがシリア国内のテロリストと直接つながりがあることを示すもう一つの証拠だ…。にもかかわらず、現在、我々の防空装備は、ロシアの支援のおかげでこれまで以上に協力になっている。イスラエル、米国、英国、フランスによる最近の攻撃で、我々が優勢に立っていることが証明された…。(イスラエルの脅威に対処する)唯一のオプションは我々の防空装備をさらに改善することだ」。

(イスラエルが最近になってシリア国内のイランの拠点への攻撃を頻発化させていることに関して)「この点に関するもっとも重要な事実は、イランの部隊などいないということだ…。イラン軍の士官はシリア軍を支援するためにいるが、部隊はいない…。最近の攻撃で、彼ら(イスラエル)は、イランの基地を攻撃したと主張した…。これにより実際に、シリア人数十人が死傷したが、イラン人はいなかった…。イランの士官は常にいるが、我が軍とともに行動しているだけで、部隊はいない」。

(4月の東グータ地方での化学兵器使用疑惑事件に関して)「我々にとって利益はあるのか? なぜあるのか、あるいはないのか? 攻撃が行われたとされるタイミングは、シリア軍がグータで勝利した直後だった。我々はそもそも化学兵器を保有していないし、国民に対して使うつもりもない。なぜなら、シリアでの戦いは市民の心を勝ち取れるかどうかにかかっており…、我々はそれを勝ち取った。自分を支持してくれている市民にどうやって化学兵器など使えるのか?」

「化学兵器を使いたいという場合、戦いの後、前、あるいはその最中のいずれに使うだろう? (戦いの後に使うのは)論理的でない。さらに、もしあの地域(グータ)で使ったら…、みな(軍、反体制派、市民)に被害を与えてしまう…。あの地域に行って、市民に訊いても、化学兵器による攻撃は誰にしても行われなかったと言っている」。

(学兵器使用疑惑事件を口実とした攻撃は再び行われると考えるか、との問いに対して)「もちろん、あり得るだろう。なぜなら、米国は、国際法を踏みにじるのであれば、どんな国でもこうした攻撃はできることになってしまう。この攻撃(シリアへのミサイル攻撃)の法的根拠は何なのか? 米国が、「対テロ同盟」を称する同盟国とともに(シリア国内に)建設された航空基地の法的根拠は何なのか? 何もない…。米国、そしてその操り人形である西側を従わせることができる国際法がなければ、同じようなことが行いという保証はないのだ」。
(米英仏のシリアへのミサイル攻撃が限定的でシンボリックだったのはなぜだと思うか、との問いに対して)「二つの側面があると見ている。第1は…、彼らが(シリア情勢をめぐって)嘘をついていたからだというものだ…。小規模であれ、何かしなければならなかったのだ。第2はロシアの立場と関係している…。ロシアはミサイルが発射されたら基地を破壊すると公言した…。この脅迫で西側の攻撃は小規模なものとなった」。

(「動物」と罵倒するドナルド・トランプ大統領にどういうあだ名をつけるか、との問いに対して)「私はそういう言葉使いはしない…。これは彼の言葉使いだ。それは彼自身を表している…。いずれにしても、それで何かが変わるわけではない」。

「シリアでの紛争が始まった時から、「内戦」という言葉が使われてきた。友達、さらには同盟国さえも誤って使っていた…。「シリア内戦」とは、宗派の違いに沿ったものを意味している…。だが、シリアにはそのような紛争は起きていない…。「内戦」という言葉は正しくない。当初からいたのは、政府を転覆するために西側からカネをもらっていた傭兵、シリア人、外国人だけだ」。

「最初に言った通り、我々は(紛争の)終わりに近づけば近づくほど、彼らはそれを遠ざけようとする。これは何を意味するか? 我々が安定を手に入れれば入れるほど、より深刻な事態に直面することなるということだ。ある地域で和解が進めば、別のところでテロリストによる殺戮、破壊…が激化するだろう」。

AFP, May 31, 2018、ANHA, May 31, 2018、AP, May 31, 2018、al-Durar al-Shamiya, May 31, 2018、al-Hayat, June 1, 2018、Reuters, May 31, 2018、SANA, May 31, 2018、UPI, May 31, 2018などをもとに作成。

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