アサド大統領が英日刊紙『メール・オン・サンデー』のインタビューに応じる:「シリアで戦争を始めたのは西側だ。西側がテロリストを支援してきた」(2018年6月9日)

アサド大統領が英日刊紙『メール・オン・サンデー』(6月9日付)(http://www.dailymail.co.uk/news/article-5825159/Syrian-President-Assad-brands-gas-attacks-fake-news.html)のインタビューに応じた。

インタビューは英語で行われ、SANAが英語全文(https://sana.sy/en/?p=139864)とアラビア語全訳(https://www.sana.sy/?p=765582)を配信した。

SANA, June 9, 2018

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:

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(ロシアは、英国が4月のダマスカス郊外県東グータ地方での化学兵器攻撃疑惑事件を捏造したホワイト・ヘルメットを支援していると非難しているが、こうした主張を本当だと考えているか、との問いに対して「絶対に、疑う余地はない…。英国とフランスは米国の政治的衛星だ。英国はアル=カーイダ、すなわちヌスラ戦線(シャーム解放機構)の一派であるホワイト・ヘルメットをシリア各地で公然と支援している…。我々はホワイト・ヘルメットが英国のPR行為だと考えている…。それ(東グータ地方での化学兵器攻撃疑惑事件)は米英仏がお膳立てした。英国は関与している」。

(シリアでの人道危機に対処するための米英仏の軍事介入は国際法上認められないと考えているか、との問いに対して)「彼女(テレーザ・メイ英首相)の発言に従えば、2003年にイラクに違法に攻撃を行った英国と米国を…、世界のどの政府であっても攻撃する権利があるということになる。これが第1だ。第2に、彼ら(欧米諸国首脳)はウソをついている。彼らは自国の世論に何の証拠も示していない…。地元住民は化学兵器について…「化学兵器攻撃を目にしなかった。攻撃は起こらなかった」と言っている。ウソだったのだ…。英国はまず、攻撃が行われたことを証明しなければならない。そのうえで、誰が関与していたのかを証明しなければならない。もちろん事件は起こっていないのだが」。

「世界中からジハード主義者を助けようと戦闘員がやって来ている。英国人戦闘員を生け捕りにしたなどとは言うつもりはない。ほとんどの戦闘員は死んだ。彼らは死ぬためにここにやって来た。そうすれば天国に行けるというのが彼らのイデオロギーなのだ」。

(英諜報機関から何らかの理由であれ、コニュニケーションを取ろうとする試みはあったか、との問いに対して)「ない。ただ、欧州のさまざまな諜報機関とはコミュニケーションを取ってはきた。だが、どれも真面目に対応しようとはしないので、最近になって止めた」。

(米英と露の対シリア政策の違いに関して)「大きく異なっている。ロシアはシリア政府によって招かれ、合法的にシリアにいる。イランも同じだ。対する、米国、そして英国は違法で、侵略をしている。シリアの主権を侵害しているのだ」。

「西側の指導者は、自分達と意見の異なる者、国、政府、人格を認めない…。シリアの政治的姿勢は自立したもので、我々は自らの国益のために行動している。操り人形ではない。だが、彼らはこの現実を認めようとしない。西欧のシリアに対する態度とは「我々はこの政府を変えねばならない、この大統領を悪魔化しなければならない、なぜなら我々の政策に合わないからだ」というものだ…。そのためにウソをつき、化学兵器について云々し、悪い大統領が善良な国民を殺しているなどと言う…。こうしたウソは、体制転換という目的のためなのだ…。これは植民地主義的な政策なのだ…。西側はこうした政策を変えようとはしない。19世紀、そして20世紀初頭の古いかたちの植民地主義は…今は隠蔽され、新しいマスク、いろいろなマスクを纏っている」。

(ドナルド・トランプ米大統領、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン国王らと比較して、自分はにわかに良く見えるようになっているか、との問いに対して)「私は自分を人と比較しない。なぜなら、自分を客観的に判断できないからだ。だから、そういう質問は他の人にする方がよい」。

「我々は(地政学的な)活断層に位置している…。なぜなら、世界中への影響を見てみればよい。西側がシリアで混乱を助長したことで、世界中にテロが拡散した…。難民危機が欧州を襲った。5年前に私が言ったように、シリアが活断層に位置しているからだ」。

「我々はロシア、イランの支援を受けて、ISIS(ダーイシュ(イスラーム国))と戦う主要な当時者だ…。米国が主導する西側の軍事同盟について言及したいのなら、これらこそがISISを支援してきた。ISISを攻撃し、あるいはISISから攻撃を受けるシリア軍を攻撃してきたからだ」。

(西側がシリアを孤立させようとしていることに関して)「国を孤立させるという発想は間違っている…。現代の政治において、そして古来の政治においても、コミュニケーションが必要だ。ある国を孤立させると、その国の現実から自らを隔絶することになる。政治的に盲目的になってしまう」。

「悪い大統領が良い国民を殺していて、この大統領がパーリアだという理由で世界中が彼に反対している…。こういう話を読者は信用すると思いますか…? こうした話は論理的ではいし、現実的でもない。国民が支持しているから、大統領はその地位に留まっている。なのに、どうして国民を殺戮しながら、支持してもらえるというのか…? 我々はテロリストと戦っているのであって、彼らは英国政府、フランス政府、米政府、そしてその操り人形たちの支援を受けているのだ…。我々はこうしたテロリストと戦うということで世論から支持されている。だから我々は成果を得ているのだ。ロシアやイランが支援しただけで、成果は得られない。ロシアとイランが国民の支持の代わりをすることなどできない」。

(シリア人数十万人が殺され、投獄されていることに関して)「もちろん、戦争の話をしているのだから。良い戦争などない。平和的な戦争もない。戦争は悪いことだからだ。戦争の話をすると、どこであれ当然の帰結として、死や流血が生じる。しかし、問題は、誰がこの戦争を始めたのか、誰がこの戦争を支持しているのか、ということだ。それは西側だ。西側が戦争を始め、テロリストを支援してきた…。西側はアル=カーイダを支援してきた。殺戮があると言うだけでは充分ではないのだ…。何よりもまず、西側に責任があるのだ」。

(自分自身の責任に関して)「シリアで起きていることの責任はシリア人にあるが…、それはシリア人の問題だ。西側とそのことを議論することはない。シリアで誰に責任があるのかを云々する役割は西側にはない…。我々がそれを決めるのだ」。

(ロシアがシリアの政策を決定しているのか、との問いに対して)「ロシアの政策、振る舞い、価値観は干渉や支配とは無縁だ…。意見の相違はあるが、ロシアとの関係は良好だ…。シリアで起きていること、そしてこれから起きることについて唯一決定を下すのはシリアだ」。

(ロシアがイスラエルのシリア爆撃を黙認していることに関して)「ロシアはシリアに敵対する者と連携はしない」。

「(米軍をシリアで排除するため、直接戦おうとしているか、との問いに対して)「ここは我々の土地であり、その解放は我々の義務だ。それは政治的立場ではなく、国としての義務なのだ」。

「私はいつも、この紛争を解決するのに1年もかからない、と言ってきた。それ自体は複雑ではないからだ。だが、複雑にしているのは外国の干渉だ。我々が成果を達成すればするだけ、テロリストは西側の支援を受けるようになる」。

(2021年の大統領選挙に出馬するか、との問いに対して)「そのことを話すのは時期尚早だ…。3年先に我々の国がどうなっているのかなど誰にも知ることはできない。ただ、私が出馬する場合は、二つの要因が必要となる。第1に、意思つまり(大統領としての)責任を負うという個人としての意思、そして第2に、もっとも重要なこととしてシリア国民の意思だ」。

(好きなサッカーチームは、との問いに対して)「私が好きなチームは、テロリストと戦うシリア軍だ」。

AFP, June 9, 2018、ANHA, June 9, 2018、AP, June 9, 2018、al-Durar al-Shamiya, June 9, 2018、al-Hayat, June 9, 2018、Reuters, June 9, 2018、SANA, June 9, 2018、UPI, June 9, 2018などをもとに作成。

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