ロシアのプーチン大統領がトルコのエルドアン大統領と会談:「クルド人とダマスカスの対話を支持する…。トルコの懸念を尊重するが、アダナ合意がある!」(2019年1月23日)

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、ロシアの首都モスクワを訪問し、ヴラジミール・プーチン大統領と会談した。

エルドアン大統領にはメヴリュト・チャヴシュオール外務大臣、フルシ・アカル国防大臣、ハカン・フィダン国家諜報機構(MİT)長官が同行した。

ロシア・トルコ首脳会談は、イドリブ県を中心とする反体制派支配地域(緊張緩和地帯第1ゾーン)での非武装地帯設置合意が交わされた2018年9月以来4ヶ月ぶり。

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『ハヤート』(1月24日付)、ANHA(1月23日付)、ドゥラル・シャーミーヤ(1月23日付)などによると、会談では、シリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構が、トルコの庇護を受ける国民解放戦線諸派を排除し、緊張緩和地帯第1ゾーンの軍事・治安権限を掌握したこと、ドナルド・トランプ米大統領がシリア駐留米軍撤退を決定したことに伴うシリア情勢の評価やそれへの対応などについて意見が交わされた。

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会談後の共同記者会見で、プーチン大統領は、エルドアン大統領を「親愛なる親友」と呼び、「両国関係はあなたの努力のおかげでここまで発展した」と賛美した。

北・東シリア自治局とシリア政府の対話については、「シリアからの米軍撤退を受けて、その地域はクルド人の支配下に置かれることになった。だから、私はクルド人とダマスカスの対話を支持する」と述べたうえで、「我々はトルコの懸念を尊重する。だが、1998年に締結されたアダナ合意があり、さまざまな問題がそこでは取り扱われている」と付言した。

アダナ合意は、PKK(クルディスタン労働者党)に対するシリア(ハーフィズ・アサド政権)の支援を阻止するためにトルコが国境地帯に部隊を展開するなどして圧力をかけたのを受けて、エジプト(ムハンマド・フスニー・ムバーラーク政権)の仲介で交わされた合意。

①アブドゥッラ・オジャランPKK党首およびPKKメンバーのシリア入国を認めないこと、②シリア国内でのPKKの活動を認めないこと、③PKKメンバーをトルコに引き渡すこと、などを骨子としている。

一方、イドリブ県の情勢に関しては「我々はトルコ側とイドリブ県の問題に対処し、テロリストに侮れないようにするための追加措置について議論した」と述べた。

そのうえで、国連安保理決議第2254号に基づいたシリア危機の政治的・外交的解決、シリアの領土の統一性性維持を訴えた。

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エルドアン大統領は「ロシア、イラン(、そしてトルコ)が参加して開かれたシリアに関する三カ国首脳会談(2018年9月)は世界の関心を引きつけた…。三カ国首脳会談、さらには今回の会談とともに実り多いものとなる…。(ロシアとの)経済関係も引き続き発展するだろう」と述べた。

シリア危機の政治的解決に向けては「短期間に制憲委員会を設置せねばならない。我々、トルコとロシアは、この方向に向かって歩を加速させたい」と述べた。

一方、米軍のシリアからの撤退に関しては「米国は前向きに接近してきた。ロシアに問題はない」と述べた。

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ロシアのマリア・ザハロワ外務省報道官は、エルドアン大統領に先立って「イドリブ県の現状は急速に悪化しており、シャーム解放機構の実質支配下に入った…。大いに懸念すべきだ」と述べた。

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『シャルク・アウサト』(1月26日付)によると、プーチン大統領は会談で、エルドアン大統領に対して、1998年のアダナ合意に従い、トルコがシリア領内幅5キロの地域でPKK(クルディスタン労働者党)の掃討を行うことをシリア政府が認める代わりに、シリア政府はアレキサンドレッタ地方の帰属権を放棄するとともに、PKKをテロ組織に認定するとの提案を行ったという。

AFP, January 23, 2019、ANHA, January 23, 2019、AP, January 23, 2019、al-Durar al-Shamiya, January 23, 2019、al-Hayat, January 24, 2019、Reuters, January 23, 2019、SANA, January 23, 2019、al-Sharq al-Awsat, January 26, 2019、UPI, January 23, 2019などをもとに作成。

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