レバノンのワリード・ジュンブラート進歩社会主義党党首がアサド大統領と会談、改革プログラムへの確信を表明する(2011年6月9日)

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反体制勢力の動き

フェイスブックの「シリア革命2011」は、金曜日(10日)を「部族たちの金曜日」と名づけ、反体制デモを呼びかけ、「すべての部族は当初から革命家を支持してきた。部族は屈辱、誹謗、攻撃を拒んできた。権利を求め、非難を恐れない」と主唱した。

同ページによると、クナイトラ県、ダルアー県、スワイダー県の部族が「シリア革命」を支持しており、またアレッポ県、ダイル・ザウル県、ラッカ県、ヒムス県の部族に対して「体制打倒」を呼びかけているという。

シリア政府の動き

SANA, June 9, 2011

SANA, June 9, 2011

進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首はシリアのダマスカスを訪問し、アサド大統領と会談した。

会談後に進歩社会主義党が出した声明によると、ジュンブラート党首は会談で「大統領が開始した改革プログラムの実施を通じて、歴史的危機状況を克服できるだろうと確信している」と伝える一方、アサド大統領から改革実施を確約したという。

またジュンブラート党首はシリア情勢への外国の干渉に拒否の姿勢を示した。

国内の暴力

イドリブ県では、AFP(6月9日付)によると、民間人数千人がオートバイや貨物車輌でジスル・シュグール市から避難した。

また、複数の目撃者によると、金曜日(10日)の反体制デモに備えて、軍の貨物車輌、兵員輸送車、戦車がジスル・シュグール市からアレッポ県方面に進軍、活動家の一人によると、軍の車列に投石した1人が殺害され、6人が負傷した。

al-Hayat, June 10, 2011

al-Hayat, June 10, 2011

一方、『ハヤート』(6月10日付)によると、シリア軍部隊が、ジスル・シュグール市周辺の幹線道路に展開、封鎖した。

トルコ国境に向かう幹線道路だけは住民を避難させるために封鎖されていないという。

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ヒムス県では、『ハヤート』(6月10日付)によると、金曜日(10日)の反体制デモに備えて、ヒムス市バーブ・アムル地区など市内各所に軍が戦車を展開させた。

諸外国の動き

NTV(6月8日付)によると、トルコのアフメット・ダウトオール外務省は、トルコにシリア人避難民約600人が新たに避難した。避難民の総数は2,500人に達したと発表した。

ダウトオール外務大臣は「シリア情勢に多大な懸念を抱いている。30分前、正確な数字を得た…。2,400人以上が現在トルコに避難民として入国している」と述べた。

そのうえで、シリアが政治改革に関して「重大な決断」を行うべき時が来たと明言した。

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ナバメセム・ピレー国連人権高等弁務官はシリア政府に対して民間人への攻撃を停止するよう呼びかけ、「いかなる政府であれ、国民を沈黙させるため弾圧を行うこと」に遺憾の意を表明した。

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ロシア外務省報道官は、国連安保理に英仏が提出したアサド政権への非難決議案に関して、シリア情勢をさらに悪化させると指摘し、「強く反対する」と発表、シリア政府が国民に約束している改革を実施するための時間を与えるべきとの見解を示した。

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フランスのアラン・ジュペ外務大臣は、アサド政権による民間人虐殺を「受け入れられない」と非難した。

ジュペ外務大臣は「シリアの姿勢は受け入れられない。国民がさらなる自由と民主主義を求めているなか、民間人惨殺が続けられてはならない」と述べた。

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IAEA理事会は、2007年9月にイスラエルが空爆で破壊したダイル・ザウル県キバルの原子炉とされる施設に関して、シリア政府が建設を申告せず、加盟国に対する包括的保障措置協定を遵守しなかったとして、同問題への対応を国連安保理に付託する決議を採択した。

決議案は米国が提出し、賛成17カ国、反対6カ国、棄権11カ国、欠席1カ国で採択した。

ロシアと中国は反対票を投じた。

決議採択を受け、シリアのバッサーム・サッバーグ大使は「遺憾な動き」と非難しつつも、「シリアは常に誓約と義務を守ってきたし、そうあり続けると考える」と述べ、IAEAへのシリアの協力姿勢に影響はないとの姿勢を示した。

米国のグリン・デービーズIAEA大使は理事会の非公式会合で採決に先だって「ウラン製造のための未申告の秘密施設を建設しようとするシリアの試みは何らの平和的な目的を持っておらず、保障措置協定に対するもっとも申告な違反の一つだ」と述べた。

また「ダイル・ザウルでシリアが核開発を行おうとしていることは明らかだ。同地において原子炉が建設され、おそらく核兵器に転用するためのウランを製造するという明確な目的があった」と付言した。

これに対し、複数の外交筋によると、ロシアのグレゴリー・ベルデンニコフ大使はこの動きを「壊滅的攻撃」と非難したという。

これに先だって、ベルデンニコフ大使はIAEAのシリアに対する決議案が「不適切な時期に提起されており、客観的でない」と非難、「それゆえ、もし(決議案の)採決がなされたら、我々は反対する」と述べていた。

また同大使は「シリア側に過ちがあるかもしれないが、(キバルの)施設が破壊されてしまった今となっては、国際安全保障を脅かすものではない」と続けたという。

他方、新華社通信(6月9日付)によると、中国のIAEA代表の王英凡大使も採決に先立って、「現状において、シリアの核(疑惑)問題をめぐって決議を採択する必要はなく、同問題を安保理に提訴する必要もない」と述べ、この問題がIAEAの枠内で解決されるべきとの中国の立場を示した。

AFP, June 9, 2011、Akhbar al-Sharq, June 9, 2011、al-Hayat, June 10, 2011、Kull-na Shuraka’, June 9, 2011、Naharnet, June 9, 2011、Reuters, June 9, 2011、SANA, June 9, 2011などをもとに作成。

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