シリア全国で統一地方選挙の投票が実施されるなか、イラクのマーリキー首相がオバマ米大統領と会談しシリア情勢について議論(2011年12月12日のシリア情勢

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統一地方選挙

統一地方選挙の投票が全国で実施された。

これに関して、SANA(12月12日付)は、約1400万人が投票を行ったと報じる一方、「選挙法にかかる2011年政令第101号の初めての実質的実施と見なし得るもので、人民議会および地方議会の議員選出を調整するための礎石となり、健全な選挙プロセス、立候補者の権利…、有権者の投票の自由…を保障する」動きだと評価した。

SANA, December 12, 2011

SANA, December 12, 2011

しかしSNN、オガレット・ニュース・ネットワークといった反体制メディアや調整連合などは、ダルアー県、スワイダー県ハウラーン地方、ヒムス県、イドリブ県の各都市では、ゼネストによって投票は完全にボイコットされたと反論した。

またシリア人権監視団は、「イドリブ県では数十人が投票場に行っただけ」と発表した。

反体制(武装)運動掃討

シリア革命総合委員会によると、イドリブ県で市民3人、ハマー県で3人、ヒムス県で1人が治安部隊の弾圧で殺害された。

またシリア人権監視団によると、軍・治安部隊と離反兵による戦闘がイドリブ県、ダルアー県で続いた。

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これに対して、SANA(12月12日付)は、イドリブ県アイン・バイダー村の国境警備隊が、トルコ領内からの潜入を試みた武装テロ集団15人を殺害したと報じた。

またサラーキブ市近くでガーニム・イブラーヒーム・ハサン准将(アサド軍事工科大学付)が暗殺された。

さらに軍・治安部隊とシャッビーハが、トルコ国境に近いマアッラトミスリーン市とカフル・ヤフムール村に突入し、17人を殺害した。

住民はこの突入に対して幹線道路を封鎖して対抗、また軍・治安部隊に離反兵が反撃したほか、イドリブ・バーブ・ハワー街道を巡回する治安部隊を襲撃し、士官1人を含む7人を殺害した。

一方、ダルアー県では、武装テロ集団がスィフム・ジャウラーン地方の治安維持部隊を襲撃し、隊員3人を殺害したと報じた。

またこれに対して、軍・治安部隊が応戦し、テロリスト4人を殺害したと報じた。

さらにヒムス県タッルカラフ地方で武装テロ集団が投票所を襲撃し、投票箱を奪ったが、関係当局がこれを奪還したと報じた。

またヒムス市内各所で軍・治安部隊が武装テロ集団と交戦し、テロ集団の指導者など多数を逮捕したと報じた。

ハマー県では、ムハルダ市近郊の街道に武装テロ集団がしかけた爆弾3発が爆発したと報じた。

反体制勢力の動き

武装闘争の是非をめぐって、シリア国民評議会と自由シリア軍の見解の相違が改めて浮き彫りになった。

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シリア革命支援委員会のマフムード・ハムザ代表はRT(12月12日付)に対して、シリア国民評議会が民間人保護のために国連での対シリア非難決議の採択を求めていると述べた。

また反体制抗議行動に関して「個人的に行われる一部の事件を除いて、100%平和的だ」と断じつつ、シリア国民評議会が自由シリア軍に「民間人支援のための政治的な支援」を求めていることを明らかにした。

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自由シリア軍メンバーでトルコのアンタキアで避難生活を送るアイハム・クルディー大尉はロイター通信(12月12日付)に対して、同軍がさらなる武器弾薬を必要としているとしたうえで、シリアが内戦、ないしは長期的紛争に突入することを回避するために外国の介入が不可避だとの見方を示した。

また同大尉によると、現在も小隊、連隊レベルでの離反が相次いでおり、その数は10,000人以上に達しているという。

レバノンをめぐる動き

レバノン南部県のUNIFIL展開地域のマジュダル・スィリム村のカースィーヤ渓谷からイスラエル領に向かってカチューシャ砲が発射された。

砲弾はイスラエル領に達せず、レバノン領内のフーラー村に着弾、女性1人(55歳)が負傷した。

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外務省のジハード・マクディスィー報道官は、フランスのアラン・ジュペ外務大臣が12月9日のUNIFIL襲撃へのアサド政権とヒズブッラーの関与を推定したことに「外務省はシリアとのこの行為とのいかなる関係をも断固として否定する」反論した。

またジュペ外務大臣の発言およびそれに類する発言が「いかなる証拠も書いており、シリアをめぐる事実のねつ造」をねらっていると指摘した。

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ヒズブッラーはフランスのアラン・ジュペ外務大臣の発言に関して声明を出し、そのなかで、「ジュペはシリアとヒズブッラーを露骨に非難した。しかし彼自身、自分の言葉を裏付ける証拠を持っていないと認めている」と述べ、UNIFIL(フランス軍)攻撃への嫌疑を否定した。

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レバノンの進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首はムフタール市での党祝典で、UNIFIL(フランス軍)の攻撃に関して、「我々は昨日ロケット弾によるメッセージを受け取った。これは危険なメッセージであり、レバノン領を経由し、レバノンの安定、南部、レバノン全土を犠牲として我々の隣国からフランスに対して送られたものだと思われる」と述べ、アサド政権の関与を示唆した。

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イスラエルの国営ラジオ(12月13日付)は、イスラエル治安筋の話として、ロケット弾がイスラエル領内のキルヤト・シュモナを標的としていたと述べるとともに、「ヒズブッラーの継続的な火遊びは治安悪化をもたらす」と非難したと報じた。

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『サフィール』(12月13日付)は、ナジーブ・ミーカーティー内閣閣議で、3月8日勢力の一部閣僚が、UNHCRが検討しているシリア人避難民の難民登録およびキャンプ設営措置に関して、「政治、行政、財政、治安、人口的」な負担との立場を示し、拒否したと報じた。

アサド政権の動き

『クドゥス・アラビー』(12月12日付)は、シリア・アラブ共和国憲法草案準備委員会において、大統領の資格要件として、一部の委員が「大統領の宗教はイスラーム教である」との規定を削除することを求める一方、大多数の委員はこの提案に反対していると報じた。

同報道は複数の消息筋の話として、このほか大統領の任期は1期7年とし、資格年齢は40歳に戻されることが濃厚だという。

一方、公用語に関してアラビア語以外の言語を認定しないというのが委員全員の意見で、宗派マイノリティ、エスニック・マイノリティに関する規定も盛り込まない方針だという。

「バアス党は国家と社会を指導する党である」と定めた憲法第8条は廃止され、多党制が明記されるという。

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ファールーク・シャルア副大統領はムハンマド・リダー駐シリア・イラン大使と会談した。

複数のイラン消息筋によると、会談でシャルア副大統領は、イランとシリアの戦略的関係の重要性を強調するとともに、「米国と西側の各国体制は腐敗しており、中東地域の国民にアイデンティティを押しつけようとしている」と非難した。

一方、アラブ連盟によるイニシアチブに関して、「我々はアラブ連盟との対話に合意しているが、彼らはシリアにおける外国の干渉を拒否せねばならない」と述べた。

諸外国の動き

イラクのヌーリー・マーリキー首相が米国を訪問し、バラク・オバマ大統領と会談した。

両首脳は、米軍のイラク撤退後の両国間の戦略合意の活性化に関して確認した。

だが、シリア情勢に関しては、認識の違いが浮き彫りになった。

すなわち、マーリキー首相は、アサド政権とシリアの反体制勢力の仲介におけるイラクのイニシアチブを強調し、アサド大統領に退任を要求する権利はないとの姿勢を明示したのに対し、オバマ大統領は、アサド政権の正統性が「国民を殺したことで失われた」と述べた。

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ガルフサンズ石油社によると、同社および中国シノケム社が西側諸国の対シリア経済制裁強化を受けるかたちで、シリア国内での操業を停止した。

またこれに先立ち、カナダのサンコール・エナジー社もシリア国内での操業中止を発表した。

Akhbar al-Sharq, December 12, 2011、AFP, December 12, 2011、al-Hayat, December 13, 2011、Kull-na Shuraka, December 12, 2011、Naharnet.com, December
12, 2011, December 13, 2011、al-Quds al-‘Arabi, December 12, 2011、al-Safir, December 13, 2011、SANA, December 12, 2011、Reuters, December 12, 2011などをもとに作成。

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