英国に本社を置くパン・アラブ・メディアのアラビー・ジャディード(4月18日付)は、複数の消息筋の話として、アサド大統領のおじでロシアに在住するムハンマド・マフルーフ氏およびダマスカスで暮らす息子のラーミー・マフルーフ氏と、アスマー・アフラス大統領夫人との間で「決済戦争」が始まったと伝えた。
首都ダマスカスの同消息筋が匿名を条件に明らかにしたところによると、「アスマー夫人のいとこのムハンナド・ダッバーグ氏が所有する「タカームル社」を貶めようとする計画が、マフルーフ氏によって推し進められ、その結果、アーティフ・ナッダーフ国内通商消費者保護大臣が先週、スマート・カードを輸出する「タカームル社」がパン配給事業に参入することを禁じると発表した。
同消息筋によると、マフルーフ氏によるこの「報復」は、アスマー夫人が昨年にガンを克服して以降、シリア経済の「パイ」の分配に介入し、ラーミー氏の投資に口出ししたことに端を発しているという。ラーミー氏は、ブスターン慈善協会を通じて、シリアの二大携帯会社であるシリアテルとMTNに投資を行っているが、アスマー夫人が両社の社長の人選を行い、免税事業を展開しているラーミー氏のラーマーク社から会計帳簿などを持ち出したという。
また、アサド大統領がアスマー夫人のために3,000万ドルもする絵画を購入したことにまつわる「スキャンダル」も、アスマー夫人を「丸裸」にし、シリア経済において果たしている役割を奪おうとする計略の一環として行われたものだという。
「タカームル社」は2016年、燃料、砂糖、米、お茶、パンの配給に使用するためのスマート・カードの開発を政府から受注することで、その名を広く知られるようになった。
同社はカード1枚あたり、400シリア・ポンドを受け取っており、首都ダマスカスの複数の情報筋の試算によると、これまでに約300万枚のカードを配布したという。また、カードが利用される度にその手数料として100シリア・ポンドが同社に支払われているという。
一方、シリア政府のもとで次官を務めたという男性は匿名を条件に、アスマー夫人を封じ込めようとする動きがロシアの「青信号」を得て行われていると指摘している。「アスマー夫人がロシアの取り分にも手を伸ばしている」というのがその理由。
元次官によると、シリア政府は、ロシアへのガスの輸出をめぐって、ドル建てとすることを求めて対立していたが、これに参入したのがアスマー夫人だったという。
高価な絵画をめぐる「スキャンダル」はロシアの『ゴスノヴォスチ』紙が報じたもので、ロシア政府は、貧困や新型コロナウイルス感染対策で外出規制に苦しむシリア人に、大統領夫妻の贅沢ぶりを暴露することで、不満を煽ることを狙っていた。実際、ラタキアでは数日前に抗議デモが発生している。
なお、『ゴスノヴォスチ』紙は、アサド大統領がアスマー夫人へのプレゼントとして、「スプラッシュ」と名づけられた英国人画家(デヴィッド・ハンク氏)の絵画をロンドンの所有者から3,000万ドルで購入したと伝えていた。
AFP, April 19, 2020、ANHA, April 19, 2020、AP, April 19, 2020、al-‘Arabi al-Jadid, April 18, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 19, 2020、Reuters, April 19, 2020、SANA, April 19, 2020、SOHR, April 19, 2020、UPI, April 19, 2020などをもとに作成。
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